こんばんは、紫栞です。
今回は東野圭吾さんの『危険なビーナス』を読みましたので感想を少し。
あらすじ
「始めまして、お義兄様っ」
四十代、独身、獣医である伯郎。ある日、彼のもとに弟・明人の妻だという女性・楓から電話がかかってきた。
楓の話によると、明人とはつい最近結婚したばかりなのだが、意味深な書き置きを残して失踪してしまったという。
伯郎の異父弟である明人は資産家・矢神家の跡取りであり、父親の康治が危篤状態に陥っていることで矢神家は今、遺産相続問題で揺れていた。楓は明人の失踪には矢神家の人間が関わっているのではないか考えているらしく、伯郎に調査の手助けを求めてきた。
失踪の原因は明人が相続するはずの莫大な遺産なのか?明人の安否は?
調査に協力するうち、伯郎は次第に楓に惹かれていくが――。
「最初にいったはずです。彼女には気をつけたほうがいいですよ、と」
“遺産”を巡るライトミステリ
『危険なビーナス』は2016年に刊行された東野圭吾さんの長編小説。
美人に弱い主人公・伯郎と、失踪した弟の妻である楓。この二人で明人の失踪原因を探っていくなかで矢神家の内情、人間関係、十六年前の伯郎の母の死、思わぬ遺産・・・と、様々な謎に直面していくといったミステリであり、ダメだと思いつつも弟の妻に惚れてしまう男の恋心が描かれるラブストーリー(?)でもあります。
事柄だけをみると重々しいストーリーなのかという気がするかもですが、東野圭吾作品としてはかなりライトな部類に入る内容になっていて、気楽に読める作品だという印象。文庫で500ページほどあり、人によっては手に取るのに躊躇するボリュームだと感じるでしょうが、読書経験がさほどなくとも難無く読めるお話になっています。
一方で、いつもの東野圭吾ミステリを望む人には物足りなさはあるだろうなとも思いますね。なんというか、出始めの作家さんが書いたかのようなストーリーと描写なので、読んでみると東野圭吾作品らしくない“意外さ”があります。
主役の伯郎や楓の人物設定から考えるに、そういった“お気楽さ”を目指して書いた作品なのではないかとは思いますが。
ドラマ
『危険なビーナス』は連続ドラマ化が決定しています。TBS日曜劇場で2020年10月11日放送開始。
キャスト
●手島伯郎-妻夫木聡
●矢神楓-吉高由里子
●矢神明人-染谷将太
●矢神禎子-斉藤由貴
●蔭山元美-中村アン
●矢神康之介-栗田芳宏
●矢神康治-栗原英雄
●矢神波恵-戸田恵子
●矢神牧雄-池内万作
●矢神佐代-麻生祐未
●矢神勇磨-ディーン・フジオカ
●君津光-結木滉星
●永峰杏梨-福田麻貴
●支倉祥子-安蘭けい
●支倉隆司-田口浩正
●支倉百合華-堀田真由
●兼岩順子-坂井真紀
●兼岩憲三-小日向文世
康治の専属看護師・永峰杏梨(福田麻貴)と矢神家使用人・君津光(結木滉星)はドラマオリジナルキャラクターですね。原作ですと矢神家は深刻な経営難に陥っているのですが、専属看護師と使用人を雇っているくらいですからドラマの矢神家は羽振りが良さそうです。遺産も三十億あるらしいし。
キャスト一覧でお分かりの通り、登場人物が多い。遺産相続問題でのアレコレが描かれる物語りなので一族の人間が殆どなのですが、名家らしく人間関係が複雑・・・。原作を読んでいるときも人物相関図を表記して欲しいなぁと思ったくらいでした。
伯郎と楓の他に原作で出番が多いのは、伯郎の勤める動物病院の看護師である蔭山元美(中村アン)と康之介の養子である矢神勇磨(ディーン・フジオカ)ですかね。原作を読んでいるぶんには、伯郎や楓よりこの二人の方が何だか好きだったのですが、ドラマだとどうなるのか・・・。
どのキャストも原作の内面イメージは比較的そのままだと感じますが、楓は原作ですとチリチリのカーリーヘアが特徴的な肉感的なスタイルの女性なので、容姿の印象は異なる。
あと、伯郎の実の父親で三十年以上前に亡くなった手島一清のキャストが書かれていませんね。原作では重要な人物なのですが・・・顔出し無しでいくのでしょうか。
このドラマが全何回なのかは分かりませんが、原作のお話はドラマ向きではあるものの、そのままやれば二時間で事足りるだろうという内容で、劇的な盛り上がりなども終盤の真相解明までは殆どない淡々としたものなので、原作に忠実に映像化しても連続ドラマとしてはハッキリ言って到底面白くなるとは思えない。つまらないだろう・・・と、いうのが、原作小説を読んでの私の率直な感想(^_^;)。
ドラマならではの工夫やオリジナル要素で、どのようにお話を連続ものとして毎週視聴者を惹きつけるものにするのか、原作を読んだ者としてはそこに期待したいですね。
以下、ガッツリとネタバレ~
遺産
明人の失踪には矢神家の遺産相続問題が絡んでいるのでは?と、矢神家に探りを入れる伯郎と楓ですが、調査をするなかで単にお金というだけではない“思わぬ遺産”の存在が浮上する。
それは、かつて伯郎の実父・一清が康治の治療を受けたことで偶発的に発症した後天性サヴァン症候群により描いたある図形が描かれた絵です。後天性サヴァン症候群だけでも天才脳を人的に作り出せるという大変な研究なのですが、一清が描いたその絵には『ウラムの螺旋』という素数螺旋の上をいく、完璧な素数の法則性をもった図形が描かれていました。これは人類にとって大変なことであり、「禁断の絵、人間なんぞが描いてはならん絵」・・・らしい。数学の知識が無いと説明されてもあまりピンとこず、「へ~」と言うしかない感じですが、とにかく大変な代物らしいです。
矢神家の遺産ではなく、明人の失踪も十六年前の母・禎子の亡くなった事件も、この一清が描いた絵を犯人が手に入れようとしたために起きたというのが真相だったんですね。
で、犯人は禎子の妹・順子の夫で元数学教授の兼岩憲三。これまた矢神家とは直接関係がない人物だったと。
なんか、こういったポジションの人物が犯人ですって真相、東野圭吾作品だと多いような気がしますね。
一清の絵に本当に憲三が思っていたような価値があったのかどうかは絵が燃えてしまったことで分からずじまいになっています。事が終わった後で、
「才能に恵まれず、大きな功績も残せなかった数学者が、一時の気の迷いで幻想を抱いた――そう考えるほうが現実的だと思わないか。どんなに精緻だといっても、絵なんて所詮二次元の情報に過ぎない。素数の謎が、そんなに簡単なものだとは到底思えない。人間が簡単に太刀打ちできるような代物ではないはずだ」
と、作中で言われていますが。
東野さんはよく作品に学者を出したり理数系の知識をテーマに使ったりしていますが、東野さん自身が素数に対して一種のロマンを抱いているのかなぁ~とか想像しちゃいますね。
楓の正体
明人の妻だと言いつつ謎めいた点が多かった楓。実は、彼女の正体は警察官。
犯人の憲三は、矢神家の遺産相続で明人が一清の絵を相続してしまうのを阻止するべく、ネットで人を雇って明人を康治が死ぬまでの間拉致しておこうと計画しましたが、ネットの書き込みから拉致計画を知った警察は犯人を特定するため明人に協力を要請。警察のもとで失踪を装ってもらいつつ、矢神家を探るべく女性警察官に明人の妻として(実際に明人は独身)潜入捜査させた・・・と、『マスカレード・ホテル』ばりにおよそ現実にはありそうもない捜査方法なのですが、
まぁそういうことらしいです。
「危険なビーナス」というタイトルで主人公の伯郎も楓に恋をするのですから、楓がこの物語りの肝になっているのは間違いなく、楓=潜入捜査官というのが犯人特定以上のメインの真相なのでしょうが、腕っ節が強い描写などから途中で何となく分かってしまうのと、捜査方法に現実味がないので真相を明かされても純粋な驚きというのはちょっと湧いてこない。
異例の潜入捜査というのは前提としてはいいですが、真相としてもってこられると安直に感じてしまいがちだなぁと。
そもそも、伯郎が真剣に恋しているようには見えないのですよね。
楓に惚れているというより、ただ胸のデカイ美人に弱いだけって感じ。伯郎は女性を見ると顔とスタイルから脳内で浅はかな品定めをするばかり。そのくせ、そんな自分のことは棚に上げて女たらしな勇磨に敵意剥き出しで批判しまくる。愚かで独りよがりな人物だという印象が強くって、とても伯郎の恋を応援しようという気にはなれません。
明人とは血が繋がっていて仲が悪い訳でもないのに、楓への恋心から死んでいるのを望んでしまうのとか、やっぱり酷いし。生きていた明人に対して申し訳ないと思ったり謝ったりしろよとイライラしてしまう。
個人的に、最後まで楓に魅力を感じられなかったのが一番残念です。「危険なビーナス」というタイトルで、主人公が罪悪感を抱きながらも惹かれてしまう相手というなら、もっと魅力的に描いて欲しかったですね。
主役二人に好感が持てないぶん、最後のオチも特別嬉しく思えないのが正直なところでした。
そんな訳で、総括すると「微妙だった」という感想に私はなってしまったのですが、ドラマでどのように化けるかを楽しみにしたいと思います。
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ではではまた~