夜ふかし閑談

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『Another2001』ネタバレ解説!  ”あれ”から3年。最凶の〈災厄〉が訪れる!

こんばんは、紫栞です。

今回は綾辻行人さんの『Another2001』をご紹介。

 

Another 2001 Another (角川書店単行本)

 

あらすじ

1972年の“ある生徒の死”がきっかけとなり、関係者に死人が続出する〈災厄〉に見舞われるようになってしまった夜見山北中学三年三組。 

なかでも多くの犠牲者が出た1998年の〈災厄〉から3年経った2001年。3年前の夏に見崎鳴と出会った比良塚想は、親類の家に引き取られて夜見山市に転居し、夜見山北中学三年三組の一員となった。 

より強固に〈災厄〉を防ぐため、例年よりも特別な〈対策〉を講じる2001年のクラスメイトと教師たちだったが、ある出来事が引きがねとなり、夜見山北中学三年三組はまたしても〈災厄〉に見舞われる。

次々と理不尽な“死”によって犠牲となっていく関係者たち。万全を期した〈対策〉だったのに、いったい何故…。謎は深まり、クラスを更なる異常現象が襲う。

 

〈夜見山現象〉史上、最凶の年。 

 

後にそう語られることになる2001年の〈災厄〉に、想と鳴が立ち向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

大ボリュームのAnother続編!

『Another2001』はアニメや映画にもなった大人気ホラー・ミステリである【Anotherシリーズ】の三作目の長編。  

 

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シリーズ前二作同様、装画は遠田志帆さん。原稿用紙1200枚の大ボリュームと相まって、今回も大変インパクトのある美しい本になっています。

本の帯には“著者7年ぶりの長編新作”と、ある。思わず、「7年なにしてたん」と言いたくなってしまう感じですが(^_^;)、実は今作の執筆に5年の期間を要しているとのことで、それだけ著者の綾辻さん渾身の長編小説なんですね。 

  

私は京極夏彦ファンなので、これぐらいのレンガはどうということもないですが(かといって読むのが早いわけではない)、一般的には目の当たりにするとちょっとビックリする分厚さですかね。辞書レベル。そのぶんお値段もしますし。

 

 

 

 電子書籍もありますが、是非本屋さんで単行本の実物を見て欲しいです。

 

※文庫版も出ました

 

 

 

綾辻さんの文章は読みやすく、話も読者をグイグイと引っ張ってくれる展開をするのでさほど苦もなく読めてしまいます。私は4日ほどかけて完読しましたが、出来れば時間が許す限りずっとぶっ通しで読んでいたいと思う作品でした。

  

相変わらず人がバカバカ死ぬ物騒なお話であり、現実にも手首を痛める、重さで強打する、などの物理的危険も伴う、色々とスリリングな(?)単行本です。ちゃんとした姿勢で読めば別に危険はないのですけどもね…(^_^;)。

 

シリーズ第一作の『Another』で1998年に起こった〈災厄〉が見崎鳴と榊原恒一の二人を中心に描かれ、※【Anotherシリーズ】における特殊設定、〈災厄〉の詳細はこちらでご確認下さい↓

 

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二作目の『AnotherエピソードS』は1998年の夏、合宿での惨劇の前に比良塚家の別荘を訪れた鳴が遭遇した体験が回想の形で描かれる。スピンオフ的エピソード。

 

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三作目である今作『Another2001』は1998年の〈災厄〉から3年経った2001年の夜見山中学三年三組が舞台の物語り。

主役の語り手は『AnotherエピソードS』に登場した比良塚想で、高校三年生となった見崎鳴も主に想の相談役・〈災厄〉に立ち向かう相棒役として登場しています。一作目の語り手である榊原恒一も只今一時的に海外にいるという設定ですが、要所要所で電話という形で重要な示唆を想にしてくれます。ちなみに、鳴とは今でも定期的に連絡を取り合っているらしい。

長年〈夜見山現象〉を観察し続けてきた千曳さんも勿論登場しています。今作では前例のない〈現象〉が降りかかるので、法則性を頑なに信じていた千曳さんは「おかしい」「そんなはずはない」と狼狽するばかりでしたが。

 

他にも一作目『Another』に負けず劣らずの魅力的で特徴的な三年三組関係者たちが登場しています。その魅力的な人たちがいるのが逆に恐ろしいのですけどね・・・普通にしていてもAnotherだと死んじゃうからさ・・・

今回のお話でも様々なバリエーションの死に方が出て来ます。「そんなばかな!」なものばかりですが、Anotherだからしょうがない

 

 

一応前二作を読まなくても楽しめるようになっていますが、想の心情や1998年の〈夜見山現象〉の詳細、鳴と恒一との関係など、やはり一作目から順に読んでいった方がずっと面白く読めるようになっています。

 

 

 

 

 

 

 

 

以下がっつりとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤沢泉美

クラスの中に過去に〈夜見山現象〉によって亡くなった〈死者〉が紛れ込むことによって〈災厄〉が始まってしまう夜見山北中学三年三組。

〈災厄〉はある年とない年があり、“ある年”だった場合は(始業式の日に、机と椅子のセットが一組たりないかどうかで分かる)〈死者〉が一人紛れているという“数の違い”を正すため、クラスメイトの中から〈いないもの〉を一人選出。教師と生徒一丸となって、一人の生徒を存在しない者として扱うことが〈対策〉であり、唯一の〈災厄〉開始を防ぐ方法だが、いったん〈災厄〉が始まってしまうとこの〈対策〉は用をなさないものとなり、もはや誰にも止められない――。

 

と、いうのが夜見山北中学で皆が承知していることなのですが、実は〈災厄〉が始まってしまった後も止める方法が一つ存在する。それが、〈死者〉を死に還すこと

 

1998年の〈災厄〉では榊原恒一と見﨑鳴が〈死者〉を突き止め、死に還したことで〈災厄〉を途中で終わらせることが出来た。

 

しかし、この〈死者〉を死に還すという〈対策〉は、〈夜見山現象〉による記憶・記録の改竄によって忘れさせられてしまう。今作でもこの〈対策〉を覚えているのは〈死者〉を死に還した当事者で、卒業後に夜見山を離れた榊原恒一のみです。

 

シリーズ一作目の『Another』は〈死者〉の正体がミステリとしての最大の仕掛けになっていました。

しかし、今作はというと、物語りの序盤から一作目の登場人物で〈災厄〉によって死んだ、アニメではやたらと存在感を放っていた(原作ではさほどの印象はない)赤沢泉美が想の従妹としてドーンと出て来てしまう。

 

これ、もう赤沢泉美が〈死者〉って読者にモロバレじゃん。って、いう。

 

〈死者〉を推理するのがこの物語りの一番の見せ場なんじゃないのか?どういうつもりだ?と、読者は困惑したまま〈死者〉が解っている状態で三分の二読まされ続けることとなり、残り三分の一を残したところで赤沢泉美を死に還すことに成功することで、「残りはどう展開させるのだ?」とますます困惑することに。

実際、毎月必ず死人がでることになるのが〈夜見山現象〉の決まりなのですが、赤沢泉美を死に還した後の月である八月には死者が一人も出ませんでした。この事実をもって今年の〈災厄〉は終わった!と、安心する三年三組関係者一同。

 

が、このまま終わらせてくれるはずもなく。

Another2001の最凶の〈災厄〉はここから始まるのであった・・・。

 

 

 

 

 

 

特別な〈対策〉

2001年の特別な〈対策〉。それは、〈災厄〉が“ある年”だった場合、〈いないもの〉を二人設けようというものでした。

これは始業式前の〈対策会議〉でクラスメイトの江藤留衣子が提案したもので、〈いないもの〉を二人設けておけば、何か不測の事態が発生して〈いないもの〉の一人が機能しなくなったとしても、もう一人いれば対応出来るだろうという。いわば補欠要員的な、もっと簡単にいえば「一人より二人の方がより〈災厄〉を防ぐことが出来るんじゃね?」というノリ(?)で決まったものでした。

効果があるかどうかは分からないが、例年よりもプラスアルファの〈対策〉をすることで少しでも安心感を高めようみたいな試みですね。

 

〈いないもの〉をすることになったのは比良塚想葉住結香

想は立候補して、葉住はくじ引きの結果〈いないもの〉に決まったのですが、実は葉住は前から想のことが気になっていて、「自分も〈いないもの〉になれば想くんとお近づきになれるかも!」という思いつきから態とくじ引きで当りを引いた浅はかな女子でした。ま、思春期だし〈災厄〉とか言われても普通は現実味ないだろうしね・・・。

 

想に〈いないもの〉どうしでも極力会話するのは避けたほうがいいと言われて目論見が外れ、皆に無視されるという〈いないもの〉が負う精神的苦痛にお花畑思考だった葉住は耐えられず、皆の前で〈いないもの〉を放棄してしまう。

 

葉住が放棄しても想が〈いないもの〉を続けている限りは大丈夫なはず。そのための〈いないもの〉二人対策だし!

・・・だったのだが、何故だか〈災厄〉は始まってしまう。

 

その後、鳴の“死の色がみえる眼”で〈死者〉が赤沢泉美であることが判明。赤沢泉美を死に還して「今度こそ大丈夫!八月は誰も死ななかったし!」

・・・なのだが、これまた何故か九月から爆発的に死人が相次ぐこととなり、最終的に病院を巻き込んでの大惨事に。2001年は〈夜見山現象〉史上、最凶の年となる。

 

 

何故こんなことになってしまったのか。

原因は、〈いないもの〉を二人設けるという今年の特別な対策のせいでした。

 

もともとクラスに紛れていた〈死者〉は一人だったところに、〈いないもの〉を二人設けたことで生じた不均衡を正そうと、“現象側”が新たな〈死者〉をもう一人発生させたのです。赤沢泉美を死に還した後も〈死者〉がまだ一人クラスに残っていたため、〈災厄〉は終わることなく暴走し続けた。良かれと思ってやったことが完全に裏目に出た結果でありました。

 

〈夜見山現象〉の対応力の高さには恐れ入りますが、そもそも、クラスに〈死者〉が紛れることで生じる“人数の違い”を正すための、「バランスを保つ」対策なのに、〈いないもの〉を二人にするのは普通に考えて駄目だろとは思いますよね。

〈いないもの〉対策の本来の意図が失われているじゃないかと。鳴や千曳さんも“二人対策”には否定的だったし。読者としては「そ~ら、いわんこっちゃない」って感じではある。

 

 

 

 

未咲

さて、ではその“もう一人”は誰なのかというと、1998年の〈災厄〉で最初に亡くなった犠牲者で見崎鳴の双子の妹である藤岡未咲。母親の再婚によって「牧瀬」と名字が変わり、鳴の三つ年下の妹としてクラスに紛れていました。

 

双子であるものの、鳴は赤ん坊の時に見崎家の養女になっていて何やかんやと人間関係が複雑なことになっている。その複雑な双子設定のおかげで1998年の〈災厄〉ではこの未咲の存在が混乱の原因になっていた訳ですが、今作でもこの未咲が1998年の時とは別の形で混乱を招いてくれちゃっているのでした。

 

病院に入院しているクラスメイト「牧瀬」が〈死者〉であり、鳴の双子の妹である「未咲」だということ。

「牧瀬」の正体が今作の最大の仕掛けであり、綾辻行人作品ではお馴染みの叙述トリックによって巧妙にぼかされています。

 

 

しかして、匂わせてくれているところが結構あるのと、鳴の実母が再婚によって“藤岡”ではなくなっているという事実が示されていること、病気で長期入院といいつつ具体的な病名などについては何も語られない怪しさなど、“この手の小説”を読み慣れている人は割と簡単に気付くのではないかと思います。

 

が、この謎がなんとなく解ってしまっていても、Anotherならではのスリリングな展開と伏線が綺麗に回収される解決編は安定の面白さで大満足することができます。解っていても面白いのですよね。「待った甲斐があったな」と思わせてくれる続編小説です。

 

 

 

 

 

次は完結編

この『Another』シリーズは次回作となる『Another2009』で完結させるつもりだと作者の綾辻さんは明言しています。

今作のタイトルにある“2001”というのが西暦を表していたことから、次作の完結編は2009年の〈夜見山現象〉が描かれることになりそうですね。今作から八年後・・・鳴も恒一も想も二十代になっていることでしょうが(ちゃんと生きていればね・・・)、どんなお話になるのか見当も付きませんね。Anotherなので死人が出ることは間違いなんだろうけど・・・。

 

今作での憎まれ役であるものの〈災厄〉で死ぬことはなかった葉住や、家族を救おうと思いつめて自殺未遂をしたがなんとか一命を取り留めることができた矢木沢(助かって本当に良かった)、想のカウンセリングを担当している精神科医の娘で予知能力を持っているらしき碓氷希羽は次作にも登場するかもしれません。

特に希羽ちゃんは絶対に登場するのではないかと。

千曳さんが今作で少し具合が悪そうな描写があったので不安・・・。

今作では八月に〈災厄〉が一時止まった理由が解らずじまいでモヤモヤポイントだったのですが、その謎は解明されるのか?完結編と謳うなら〈夜見山現象〉自体を完全になくすことに成功してほしいものですが・・・どうでしょう?

 

こんな風に期待に胸膨らむ完結編ですが、綾辻さんは心身ともに少しくたびれている状態であり、いまのところいつ次作にとりくむかはまったくの未定とのことです。

今作だって7年ぶりの長編ですし、館シリーズも次作が最終作になるはずですが何年も出ていませんしね・・・。

 

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気長に待つしかなさそうです。しかし、作者にあとがきで「体力が・・・」とか言われるとお元気なうちに書いてもらえるのかどうか不安になってくるなぁ・・・(^_^;)。

 

 

綾辻行人さんの御健康を祈りつつ、私自身も身体には気をつけて待ち続けたいと思います。

 

 

ではではまた~

 

 

 

 

 

 

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