こんばんは、紫栞です。
今回は島田荘司さんの【御手洗潔シリーズ】の概要・順番などをご紹介。
御手洗潔シリーズとは
占星術師だったり私立探偵をしていたり脳科学者だったりする変人秀才男・御手洗潔を探偵役とする推理小説のシリーズ。
物語りの語り手は主に御手洗の友人である石岡和己が務めており、「石岡和己が御手洗潔の事件記録を本にして発表している」という形式で描かれています。
御手洗潔がホームズ役を、石岡和己がワトソン役をといった、まさに“和製シャーロック・ホームズ”な代物で、1981年に刊行されたデビュー作『占星術殺人事件』を始めとして、およそ40年経った現在も続いている、日本を代表する本格推理小説シリーズです。
映像化もされています↓
シリーズ特徴
【御手洗潔シリーズ】は魔法としか思えないような魅力的な謎の提示と、大胆な仕掛けが特徴的。機械トリックものが多く、奇抜で派手さがあるので「金田一少年の事件簿」や「名探偵コナン」などの本格推理漫画的な空気感や謎解きを求めて推理小説を読むのなら、まずはこのシリーズをオススメしたい。実際、日本の本格推理漫画は島田作品の影響を少なからず受けているのだろうと思いますが。トリック盗用問題などもありましたしね。
もちろん日本本格推理界にも多大な影響を与えていますよ。
長年続くシリーズものだと描かれる時代が限定されていたり、主要人物が歳をとらない“サザエさん形式”だったりするものも多いですが、
この【御手洗潔シリーズ】は作中時間がリアルタイム進行していて、登場人物もしっかり歳をとっていくのが特徴の一つ。
主要人物は御手洗と石岡くんの他に『暗闇坂の人喰いの木』から登場する御手洗大好き大女優の松崎レオナ、『龍臥亭事件』から登場する石岡くんラブの犬坊里美といますが、40年もやっているもんで、皆さんもう結構なお歳。事件の謎解きだけでなく、各人の立場・交友・生活環境の変化や経過もシリーズを愉しむ上で大事な要因になっています。
シリーズ順番
- 占星術殺人事件(長編)
- 斜め屋敷の犯罪(長編)
- 御手洗潔の挨拶(短編集)
- 異邦の騎士(長編)
- 御手洗潔のダンス(短編集)
- 暗闇坂の人喰いの木(長編)※石岡和己が探偵役
- 水晶のピラミッド(長編)
- 眩暈(長編)
- アトポス(長編)
- 龍臥亭事件(長編)
- 御手洗潔のメロディ(短編集)
- Pの密室(中編集)
- 最後のディナー(短編集)
- ハリウッド・サーティフィケイト(長編)※松崎レオナが主役のスピンオフ
- ロシア幽霊軍艦事件(長編)
- 魔神の遊戯(長編)
- セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴(中編集)
- 上高地の切り裂きジャック(中編集)
- ネジ式ザゼツキー(長編)
- 龍臥亭幻想(長編)
- 摩天楼の怪人(長編)
- 溺れる人魚(短編集)
- UFO大通り(短編集)
- 最後の一球(長編)
- リベルタスの寓話(中編集)
- 犬坊里美の冒険(長編)※犬坊里美が主役のスピンオフ
- 進々堂世界一周 追憶のカシュガル(短編集)※文庫版で「御手洗潔と進々堂珈琲」と改題。
- 星籠の海 Tne Clockwork Current(長編)
- 屋上の道化たち(長編)※文庫版で「屋上」と改題
- 御手洗潔の追憶(短編集)
- 鳥居の密室 世界にただひとりのサンタクロース(長編)
- ローズマリーのあまき香り(長編)
他、『毒を売る女』
という短編集に収録されている「糸ノコとジグザグ」に“演説好きの男”として御手洗が登場。(作中では「御手洗潔」と明記されていないのですが、本の説明文で「御手洗潔シリーズの傑作」と書かれているので“そういうこと”で良いらしい)「糸ノコとジグザグ」は本格推理ものファンや作家さんの間でも名高い短編ですので、シリーズ外の短編集の収録で見落としがちでしょうけど読んでおくべし。
『切り裂きジャック・百年の孤独』という長編では偽名で御手洗が登場しています。
短編集の『進々堂世界一周 追憶のカシュガル』(文庫版で「御手洗潔と進々堂珈琲」と改題)
は御手洗が京大生だった頃のお話たちで、本の紹介に“ミステリ”と書いてありますが、実質ミステリではないらしく(それって詐欺なのでは・・・)、この短編集だけは私は読んでいません。
『龍臥亭事件』は石岡和己が、『ハリウッド・サーティフィケイト』は松崎レオナが主役。御手洗は電話での登場でヒントを与えてくれるものの、謎解きするのはそれぞれの主役たちなので、実質スピンオフ作品となります。
スピンオフ作品は『犬坊里美の冒険』もありますが、こちらは御手洗がまったく登場せず、石岡和己が電話で登場しています。※【御手洗潔シリーズ】のスピンオフについて、詳しくはこちら↓
御手洗が電話のみで登場というのは中編や短編にもあります。1000ページ越えの長編でも御手洗が登場するのは最後の謎解きでチョロッとのみというものも多いので、なんというか、出し惜しみ系名探偵(?)ではある。
あと、長編ですと殺人事件の謎解きとは直接関係のない過去の事柄が当時の当事者視点で長々と描かれていて「本来描きたいのはこっちで、推理小説部分はオマケなのでは」と、いったものも。
そういった推理小説部分以外も面白いし読みごたえがあるのですが、御手洗の登場を目当てに読むとなると結構な忍耐が要求されると思われます。
私のオススメはやっぱり初期の作品ですかね。好きなのは『異邦の騎士』『暗闇坂の人喰いの木』『眩暈』などの長編。
特に『異邦の騎士』
はシリーズを愉しみたいなら絶対、絶対に外せない長編ですので、是非『異邦の騎士』までは、いや、それを経て『御手洗潔のメロディ』収録の「さらば遠い輝き」までは、必ずシリーズの刊行順に読んで欲しい。刊行順に読むのが『異邦の騎士』を、「さらば遠い輝き」を、と、いうかシリーズを、十二分に愉しむためのポイント。
以下多少のネタバレ~
変化・気になるところ
【御手洗潔シリーズ】には大きな転換期があります。石岡くんと横浜の馬車道でルームシェアしていた御手洗ですが、『龍臥亭事件』の前に石岡くんを一人部屋に残し、探偵業を廃業して脳科学者として海外に渡ってしまうのです。
1994年。御手洗潔と石岡和己、二人の別れでありました。
その後、シリーズがどのように続いているのかというと、御手洗がまだ日本にいた頃の事件を思い出して石岡くんが書いているというパターン、御手洗が渡欧し研究者となって以降の助手役・ハインリッヒが語り手を務めるパターン、御手洗が電話のみで登場パターンなどですね。
この転換期のせいかどうかは分かりませんが、シリーズは後半の方になるとセリフの多い簡素な文章が目立ち始め、初期と比べるとかなり読みやすくなっていきます。
【御手洗潔シリーズ】は「そんなバカな」「魔法だ」といった謎の提示が魅力的なシリーズですが、実は最後の謎の解明を聞いても感想は「そんなバカな」「魔法だ」てな作品ばかり。実行するには荒唐無稽で、偶然に頼りすぎだし、辻褄合わせもかなり強引。作品によっては冷静に見るとバカミス寸前・・・いや、もうバカミスなのでは?というものも多い。
それでも目の離せないストーリー展開や濃厚な雰囲気、人物の描写で有無を言わせない面白さがあったのですが、文章が簡素になったことで「バカミスなのでは?」感が際立ってしまっている気が。
最近読んだ『犬坊里美の冒険』や『屋上の道化たち』(※文庫版で『屋上』と改題)はかなり酷いもので、登場人物もバカバカしい者ばかり。刊行前によく編集者からのダメ出しが入らなかったなというような呆れる作品でした。
最新作である『鳥居の密室』は良かったので、
笑わせようとしてワザとやっているのかもしれませんが。(まったく笑えませんけどね)
個人的に、登場させる女性がそろいもそろって男に寄生して見栄を張りたがるバカみたいな女ばかりなのが気に障るところ。いかにいい男を捕まえるかという、結婚願望が強い女ばかりで、結婚に興味ないとか、お仕事第一というキャリアウーマンや自立した女性を出してくれないんですよね。(レオナは違いますけど。でもレオナはレオナで読者に嫌われてるね^_^;)
御手洗が女嫌いの設定だからというのもありますが、読んでいるとやっぱり作者自身が女性を嫌悪しているのかなぁと感じてしまう。
なにかというとアメリカを比較に出して日本の制度批判をするのも安直で、諸々視野が狭くなってしまっているのではないかと。こういった部分は初期作品から気になってはいましたが、近年はさらに目立つようになって、読む度イライラさせられてしまうのが私個人の現状です。
これで女性人気が高いというのだから驚き。御手洗と石岡くんのコンビがウケているのでしょうけど。島田さんはファンの二次創作に寛容な作家で有名で、公認のパスティーシュ本なども刊行されているのですが、
ある種、こういったファンにサービスしすぎなところも懸念される点な気もする。
どうするつもりなのか
御手洗は2020年の今日に至るまで日本に一度も帰国せずですので、御手洗潔と石岡和己のコンビが現在の事件に挑むことはなく、二人が一緒に事件に取り組んでいた日々はもはや遠い思い出となりつつある・・・と、いうか、なっています。御手洗が日本を離れたのが1994年。御手洗も石岡くんももはや70代。余生を楽しもうってなお歳です。
あまりに規格外な天才である御手洗と共に過したことで著しく自尊心が低下し、思考停止するようになってしまった石岡くんを慮ってという意図もあって日本を離れた御手洗。(その前に石岡くんに一緒に海外に行かないかと誘っているし、自分が日本を離れても石岡くんが横浜の部屋を出て行かないように指示したりしているので、御手洗の中でも様々な葛藤があるでしょうが)
自分の存在が大事な相手をダメにしてしまうとはなんとも苦々しく、哀しいことですが、石岡くんはそれ以来横浜の部屋で一人、昔を思い出しながら本を書き、その稼ぎで糊口をしのぐ日々です。
『龍臥亭事件』などでの謎解き、里美ちゃんの存在などで自己肯定が多少出来るようになった描写はあるものの、石岡くんのこの状態が本当に良好なものなのかどうかは判別しかねる。結局、過去にすがりついての孤独な日々を20年以上過しているってなことになっているのでは・・・と、いう。別にその生活が悪いってなことではないですけど。
御手洗に石岡くんの元を去らせ、ホームズ役とワトソン役をバラバラにさせてどう展開させるつもりだと読者に思わせてから、長い年月がたちました。このシリーズが輝いていたのはやはり横浜の馬車道の部屋で二人が探偵業をしていた一期間でしょうが、あれはもはや遠い輝きなのでしょうか。
作者はこのシリーズを最終的にどうさせるつもりなのかと思う。御手洗を日本に一時帰国させる予定でいると仰っていますが、こんなに長い時が経って、今さら二人を再会させるってのは、それはシリーズの完結を意味しているのでしょうか。
会わせるなら会わせるで、早くしてあげた方が良いのでは。二人とも余裕がある歳でもないし。縁起でもないですが、生きているうちに再会させて欲しい(^_^;)。
読んでいてムカついてしまうこともありますが、ここまできたらシリーズの最後まで付き合うつもりですので、どう完結させるのか、注目して今後も追っていきたいと思います。
ではではまた~