こんばんは、紫栞です。
今回は中山七里さんの『復讐の協奏曲(コンチェルト)』をご紹介。
あらすじ
三十年前、十四歳のときに5歳の少女を惨殺し、〈死体配達人〉と呼ばれて少年院に入った過去を持つ弁護士・御子柴礼司。〈この国のジャスティス〉と名乗るブログ主に煽動され、御子柴礼司に対しての懲戒請求書が弁護士会と事務所に八百通以上届く事態となり、事務所の唯一の事務員である日下部洋子は処理に忙殺されることに。
そんななか、洋子は息抜きがてらに外資系コンサルタントの知原徹矢と夕飯をともにする。知原と夜九時に別れて自宅に帰宅した洋子だったが、翌朝になって知原の他殺遺体が発見されたと訪ねてきた刑事に知らされ、凶器に残った指紋から洋子は殺人容疑で逮捕されてしまう。
洋子に弁護を依頼された御子柴は独自に事件の調査を開始するが、洋子の身辺を調べるうち、三十年前の洋子の出身地域がかつて自分が殺害した少女・佐原みどりと同じであることを知り・・・・・・。
今度は洋子さん
『復讐の協奏曲(コンチェルト)』はドラマ化もされた【御子柴礼司シリーズ】の五作目。
中山七里さんの12ヶ月連続刊行企画の第11弾として、2020年11月に刊行されました。12ヶ月連続刊行って凄まじいですね・・・普段追っている作家さんが年に一・二冊ぐらいの方ばかりなので驚愕する(^_^;)。
【御子柴礼司シリーズ】は、猟奇殺人を犯した過去がある弁護士・御子柴礼司の贖罪がテーマの前提としてあるシリーズ。前4作で御子柴が弁護した依頼人は、三十年前の事件の被害者遺族、少年院時代の恩師、自身の母親・・・と、御子柴の過去の罪にまつわる人々が相次いでいました。
いや、もう流石に周りの人ネタはないだろうと思っていましたが、今回は現在の御子柴にとって一番身近な人間、御子柴法律事務所ただ一人の事務員である日下部洋子が殺人犯として逮捕されてしまい、御子柴の依頼人に。「今度は洋子さんかい!」って感じですが、話を聞いてすぐに弁護を引き受け、「君が殺人を犯していようがいまいが、必ずそこから出してやる」と言い、いつもなら相手に請求する多額の成功報酬も社員割引してくれる御子柴にはなんだかニヤニヤする(^_^)。
2019年のドラマは洋子さん視点で物語りが描かれていて内面描写もかなりあったのですが、原作の洋子さんは有能な事務員でありながら、御子柴がかつての〈死体配達人〉だと知ったあとも何故か頑なに事務所を辞めようとしないし、怖がる素振りもないという謎の人物で、人の内面を見抜くことには自信のある御子柴にとっても、全く何を考えているのか分からない、どこかミステリアスな女性として登場していました。ドラマの洋子さんは完全にドラマオリジナルのもので、原作とは別物ですね。
このまま明かされないままなのかとも思っていましたが、今作で洋子さんに関しての謎が一挙に明らかに。シリーズファン必見の物語りとなっております。
以下、若干のネタバレ~(犯人や事件の真相については書いていません)
登場人物
今作で登場する主要人物は、毎度お馴染みの法曹界の大物である谷崎と、過払い金請求案件で業務の規模を拡大し、荒稼ぎしていた弁護士・宝来兼人。
洋子が不在のため、懲戒請求書の事務処理をする事務員を見繕って派遣してくれと御子柴に頼まれた谷崎さん、なんと宝来さんを御子柴の事務所に送り込んでくるのでした。
弁護士法人の代表者でありながら事務仕事に駆り出されるとは、どう考えても谷崎さんから宝来さんへの嫌がらせですが、過払い金請求案件が頭打ちとなり、困窮していた宝来さんはなんとか前向きに捉えて事務仕事に没頭してくれる。
宝来さんは今まであまり良い印象がない人物として描かれていたのですが、商魂が逞しいものの、それなりの良識はあってそんなに悪い人という訳ではないのだということが今作を読むとよく分かる。しかし、この登場のさせ方は意外でしたね。
他、主に古手川・渡瀬コンビ活躍の別シリーズで登場する埼玉日報の記者・尾上がゲスト出演しています。さほど嬉しいゲストでもないですけど・・・(^_^;)。
中盤でオアシス要員(?)の倫子ちゃんももちろん登場しています。成長して11歳となり、知恵も働くようになって、ますます御子柴にとっては扱いに困る存在となっています。相変わらず御子柴に懐き、洋子と愉快に結託している。
そして最後に、意外な人物が再登場しています。
日下部洋子
今作の冒頭でそうそうに、洋子さんが実は三十年前に御子柴が惨殺した少女・佐原みどりの友人であったことが判明します。
二作目の『追憶の夜想曲(ノクターン)』での事件の顛末で初めて御子柴がかつての〈死体配達人〉だと知ったフリをしていましたが、実は御子柴の事務所に来る前からその事実を洋子さんは知っていました。知っていて、三年前に態々それまで勤めていた事務機器メーカーを辞め、御子柴の法律事務所の求人面接を受けに来たのです。
三十年前のこととはいえ、好き好んで友人の仇の元で働くとはどういうことだ。まさか復讐すべくよからぬことを企んでいるのか?でも、それならこの三年の間にいくらでも寝首をかけただろうし、今まで洋子は御子柴にとってマイナスになることもしていない。むしろ事務員として遺憾なく才能を発揮してサポートしてくれていた・・・・・・と、御子柴も読者も今まで以上に洋子さんのことが分からなくなる。
それとは別に、あらすじを読むとシリーズファンなら微妙に気になるのが、洋子さんが男性とデートしていたというくだり。洋子さんは今まで誰かと交際している描写はなかったので、「彼氏いたのか!」とちょっと驚く。
しかし、デートとはいうものの、洋子さんは被害者の知原徹矢のことは食事友達としかみていませんでした。この知原徹矢、実は相当なクズ男であることが事件発覚後に判明するのですが、洋子さんは知原の底が浅い人間性を見抜いており、たまに高級レストランで御馳走してくれる人として、アプローチされても適当にあしらっていたというのが実情。
今作では洋子さん視点での語りもあるのですが、洋子さんは心中で知原は結婚相手としての条件は申し分ないけど、物足りないと感じていました。
何とつまらない人間なのだろう。
だが、次の瞬間、慌てて打ち消した。今の評価は知原にあまりに酷だ。異性とすれば魅力があり、結婚相手としてもハイレベルであるのは間違いない。
大体、比較対照する基準が異質過ぎるのだ。一日で一番長く身近にいる男だから、どうしても御子柴と比べてしまう。元触法少年、優秀だが悪辣で名を馳せる弁護士。皮肉屋で計算高く、機械のように冷静な男――そんな人間と比較されれば、大抵の男は物足りなく見える。当たり前だ。凡庸は平和の別名だ。今更危険に惹かれるような迂闊さは持ち合わせていないものの、御子柴が放つ悪徳の魅力は否定できない。
と、いった具合に、あろうことか御子柴を引き合いにだして知原を「つまらない」といってしまう始末。
友人の仇なのに、御子柴のことを好意的に見ていることに嘘はない。自分の容疑を晴らすことより、宝来さんに自分の事務仕事をとられてしまったことの方を強く気にしたりと、御子柴も呆れるほど思考が読めない。「わたし、きっと退屈が苦手なんですよ」と洋子さんは仰っていますが・・・。
事件以上に、洋子さんが一体どういう思考回路をしているのかが気になって一気読みしてしまいますね。
今後はどうくる?
事件の犯人についてですが、洋子さんの指紋つきのナイフを手に入れられる人物というと限られますので当てるのは難しくないし意外性もないと思います。凶器の出所については捜査段階で普通警察が気付くのでは、と、いうか、気付いて欲しい(^_^;)。特徴的なナイフなんだし。
しかし、やはり中山七里作品なのでそれだけでは終わりません。懲戒請求書の煽動をした〈この国のジャスティス〉(この名前ダサい・・・)と、とある人物が意外な繋がり方をしていて、毎度のどんでん返しで愉しませてくれます。
とはいえ、やっぱり今作のメインは洋子さんでしたかね。洋子さんの過去が明らかになり、どうなることやらと読んでいて気を揉んだりもしましたが、ホッコリとした終わり方をしてくれて良かったです。
これでもう三十年前の事件にまつわる人ネタはやり尽くした感がありますが、次はどのような事件が御子柴を待っているのでしょうか。
今作の黒幕もまだまだ御子柴を恨み足りないようですし、その線でまだ何かありますかね?それとも宝来さんが捕まっちゃうとか?でも宝来さんが捕まっても御子柴は弁護してくれなさそうだなぁ・・・(-_-)。とりあえず、倫子ちゃんにこれ以上の不幸が訪れないで欲しいと切に願う。
前作の『悪徳の輪舞曲(ロンド)』で実母の弁護をして以降、また御子柴の様子も変わってきているようなので(洋子さん談)、そこら辺の変化もまた楽しみですね。
今後もシリーズを追っていきたいと思います。
ではではまた~