こんばんは、紫栞です。
今回は森博嗣さんの『馬鹿と嘘の弓』の感想を少し。
※以下、ネタバレ含みますので注意~
こちらは講談社ノベルスから2020年10月に刊行された長編小説。一連のシリーズとは関係ないかと思ってチェックしていなかったのですが、本屋さんで表紙をめくったら登場人物一覧に加部谷恵美、小川令子、の名前が。慌てて購入したという訳です。
※各シリーズについて、詳しくはこちら↓
大まかなあらすじとしては、
小川令子と加部谷恵美、女二人だけのこの探偵事務所に、ホームレスの青年・柚原典之を調査してくれという匿名の依頼がくる。で、対象について調査をする訳ですが、自ら望んでホームレス生活をしている柚原を調べさせ続ける依頼人の目的がわからない。そんなこんなしていたら、柚原と面識があった老人のホームレスが路上で死亡。この老人、1年半前まで大学教授をしていた乃木純也という男で、家もお金もあるのに路上生活をしていた。遺品から柚原が写った写真が出てくるのですが、この写真は匿名の依頼人から送られたのと同じもので――。
と、いったお話。
時系列としては【Xシリーズ】の最終作『ダマシ×ダマシ』から約半年後。
小川さんが探偵事務所の社長となり、恵美ちゃんがそこの社員となって、仕事に慣れだしたころですね。
あそこからの続きを書いてくれるとは思ってもみなかったので嬉しいかぎり。しかも、後日談の単発作品ではなくシリーズものらしいです。シリーズ名はまだ何なのか分からないですね。
女性二人が主のシリーズは今までになく新鮮ですが、二人のほのぼのしたやり取りが楽しいです。【Xシリーズ】の小川さんと真鍋くんのやり取りに似たところはありますけど。
恵美ちゃんはもともと【Gシリーズ】の主要人物ですが、【Gシリーズ】は9作目の『キウイγは時計仕掛け』と10作目の『χの悲劇』の間で時間軸がぶっ飛ぶので、この『馬鹿と嘘の弓』はその空白期間での出来事でもある訳ですね。ところで、【Gシリーズ】の最終作はいつ出るんだ・・・。
小川さんと恵美ちゃんだ~仲良く探偵事務所やってんね~(^_^)
なんて、ぼ~っと読んでいると、最後に突き落とされるのが今作。この作品は一言で表すなら「一人の馬鹿が最低の愚行をするまでのお話」。
タイトルの『馬鹿と嘘の弓』は“Foot Lio Bow”で風来坊と読める。なるほど。
いやはや、まさか今になってこんな馬鹿で愚かな人物を出してくるとは驚き。天才ばかり書いてきた森さんだからこその衝撃ですね。
お話はホームレスの青年・柚原、加部谷恵美、小川令子の視点で描かれていて、たんたんと進んでいく(森博嗣作品ではいつものことですけど)。
柚原のパートでは社会学的なことがつらつらと書かれる訳で、基本的人権だの、国が悪いだの、周りは気が付かない家畜のような馬鹿ばかりだのなんだのといった意見だか不満だかが続く。社会の在り方のここがおかしいあそこがおかしいといった指摘はうなずけるところもありますが、目の前で働こうとしない健康な青年にこんなこと言われたら「いや、怠けたいだけでしょ?」と返答してしまうと思うし、最後にやらかす“アレ”といったら・・・なんともはや。
あれですね、「バカって言うヤツがバカなんだよ~!」ってな、子供の喧嘩のセリフそのままというか。こんな馬鹿に馬鹿呼ばわりされる筋合いはないんだよ、たとえ家畜のような私達でも。
恵美ちゃんは柚原には“小さな幸せ”が必要だと言っていて、それは本当にそうだなと思うのですが、結局、何事にも感動しようとせず、世間や人と繋がることを拒否する柚原にはこちらが何をどうしてあげても無駄なのだろうと思う。
恵美ちゃんは海月くんにふられてから男を見る目がなくなってしまったのかな?『ダマシ×ダマシ』での出来事の後にこれはあまりにも辛い。小川さんがいてくれて本当に良かった。最後の最後で読者も救われましたわ。
この本の背表紙には「予測不能 森ミステリィ」と書かれていますが、予測不能ではあるものの、今作はミステリとして成立しているとは言い難い(いつものことですけど)。謎解きはありませんし、やりっ放しで保留にされている疑問もあるし、ドーンとぶちかまされて終わったってな感じ。
この一気に突き放される結末、どうしろというのだ!って感じなので、シリーズのようだというか、シリーズじゃないと困る。
【Xシリーズ】と同じく、こちらもスピンオフ的シリーズになるのでしょうか?そこまで何冊も続く感じではなさそう。【Gシリーズ】と【WWシリーズ】もありますしね。
何はともあれ、この衝撃作からどのように続いていくのか気になるところ。他シリーズと同様に読み続けていこうと思います。
ではではまた~
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