夜ふかし閑談

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『秘密season0』10巻 ネタバレ・感想 〈悪戯〉編、完!“イタズラ”の結末は?

こんばんは、紫栞です。

今回は清水玲子さんの『秘密season0』10巻をご紹介。

 

秘密 season 0 10 (花とゆめコミックススペシャル)

 

『秘密-THE TOP SECRET』

 

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「スピンオフシリーズ」と銘打たれて始まった『秘密season0』も、今作で10冊目。もはや何が「スピンオフ」で、何が「season0」なんだか分からない感じとなっておりますが、年に1回のお楽しみコミックスである近未来サスペンス漫画、今年も無事に刊行です。

 

表紙がまた美しいです。7巻の表紙を思い出すようなどことなくギムナジウム的(?)表紙ですね。書かれている人物は高校生じゃなくて中年男性ですけどね。お耽美で爽やかな表紙ですが、内容はやっぱり血生臭いクライムサスペンスですよ。

 

 

 

 

〈悪戯(ゲーム)〉編、完結!

10巻の収録内容は〈悪戯(ゲーム)〉編の9~13話。8巻から続いてきた〈悪戯〉編も今作で完結です。

前巻が割とゆったりとしたストーリー展開だったので、よもや次の巻では終わらずにもっと長くなるかもなぁとか危惧したりもしていたのですが、今巻でこの事件はキッチリと終わっています。三冊使っての、およそ3年間使っての長編ってことで、前シリーズの最終事件レベルの長さでしたね。

 

カルト教団の教祖の息子・光。かつての「つばき園」の子供達を煽動し、取り返しの付かない“悪戯”をさせたりした後、色々と画策して、殺人も犯して、青木家に里子にやってくることに。青木家の人々との生活の中で徐々に普通の子供らしい感情を表すようになり、更生の兆しを見せていた光だったが、舞が襲われる事件がきっかけとなり、異常な凶暴性を露わにしてしまう。自分では力が及ばないことを痛感した青木は、光を専門機関に預けることを決めるが、その矢先に舞を襲ったことで光に痛めつけられて重傷を負っていた元「つばき園」出身の子供・淳一が突如病院から姿を消す。「一体福岡で何が起こっている・・・」ってところで前巻は終わっていました。

※8巻・9巻の内容について、詳しくはこちら↓

 

 

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前巻までは疑惑の危険人物である光の動向を追うというものでしたが、今巻で思わぬ人物が思いがけぬほどの行動力を発揮して事態が一気に動くことに。

 

 

 

 

 

以下、がっつりとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イタズラ

淳一が連れ去られた後、光も姿を消し、帰宅途中だった舞と元「つばき園」園児・ミミも連れ去られて、24時間のうちに同じ小学校の児童4名が行方不明となる異常事態が発生。

 

舞ちゃんに命の危機が迫るという、もっとも恐れていた事態となる訳ですが、作中に出てくるいや~な刑事さんが指摘するように、夜の7時過ぎに小学校5年生と1年生の女の子を二人だけで帰すというのはあまりに無用心で「おい!青木!」って思った。案の定、連れ去られているし。

舞、ミミ、淳一を連れ去ったのは臨床心理士スクールカウンセラー神原翔子。子供時代に陰湿ないじめにより妹を殺されたことから“邪悪な子供達”への嫌悪を募らせていた神原は、光に教え子を殺され、「化物」を排除しようと光を誘き出すために三人を攫い、妹が死んだ場所である廃校舎のトイレに監禁し、光を誘き出して決着をつけようとする。

 

〈悪戯〉編開始当初から舞ちゃんらしき女の子がトイレに閉じ込められている様子が度々作中に挿入されていましたが、あれは実は舞ちゃんではなく、神原の妹がいじめを受けて死亡する間際の過去の様子だったんですね。神原の妹は拘束され、目と口をふさがれてトイレに閉じ込められたて喘息の発作で死に至ったという惨いものでした。

 

前巻で、淳一が光に襲われているのを目撃しながら助けようともせずに動画を撮っていたのには疑問と憤りを感じたものの、このカウンセラーの先生は単なる端役だと思っていたので、今巻の最初の方で「光に刺された」と狂言をしだす姿には驚きましたね。それだけでなく、子供を拉致監禁までするとは。いきなりのあさっての方向への行動力に脱帽です。いやぁ、この展開は予想出来ませんでしたねぇ。

 

しかし、行動力でいうなら光も負けておらず、廃校舎に放火したり、避難スライダーにワイヤートラップ仕掛けたりと、こっちも「何してくれてんの?お前?」という方法で応戦。神原と光の対決に、舞ちゃんと薪さんが居合わせるという形での最終局面となる。

 

舞ちゃんを助けるためと言いつつ、神原を殺す気満々な光君。放火もワイヤートラップも舞ちゃんを危険にさらす可能性があるし、助けるだけなら絶対もっと穏やかな方法があるはず。なのに、態々こんな方法をとるってことは、神原を確実に殺害しようというのが第一にあるから。

光の悪意を改めて目の当たりにし、神原は「治らない」「どれだけ時間をかけて更生させても」「命を削って愛情を注いで教育しても治らない」「こういう子は」と言った後、火災による爆発の揺れで避難スライダーを滑り出してしまった舞ちゃんを助けようとした際に光の仕掛けたワイヤートラップにかかり、命を落す。

 

ワイヤートラップが仕掛けられていることも、そのワイヤーが張られているだろう位置も薪さんが看破して神原に教えていたのですが、薪さんの「上体を寝かせろ」という忠告を無視して、神原はワイヤートラップに自ら突っ込んで“消極的な自殺”をしてしまう。

それというのも、「本当にワイヤーで首がとぶんだろうか」というのを“ためしたく”なったから。魔が差しての、悪戯心からの行動でした。

 

ま、実際にはワイヤーでスッパリ首が飛ぶなんてことはそうそうないようで、神原の首も完全な切断には至っていない。自分の頭上で知り合いの首が半分もげたのに、メンタルに影響が無さそうな舞ちゃんには逞しさを感じた。青木も見たら気が触れて死んでしまうっていう猟奇殺人犯の脳映像見て平気だったし、青木家の人間は逞しい家系なんですかね。

 

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子供の悪戯から始まったこの事件。悪フザケが延長し、「悪意」と「好奇心」は際限なくふくれあがり、人の命を奪うまでに至った。そんな子供の悪戯心が許せなかったはずの神原も、最後には自身の悪戯心によって死ぬことに。

悪戯に始まり、悪戯に終わる、なんともやり切れない事件でした。やり切れないのはこの漫画ではいつものことかもですが・・・(^_^;)。

 

神原の一連の犯罪行為は「テロリストが主義主張のために空港爆破するみたい」に、すごく滅茶苦茶なことをしているくせに「正義」を行っているつもりでいるという、利己主義的なもので、もちろん批難させるべき行いですが、「罪を犯したのに、子供だからというだけで放免されてしまうのが許せない」という気持ちはまぁ分かる。

悪フザケの延長で面白半分に身内や教え子を殺されて、加害者はまったく贖罪の気持ちを持っていない。だけど子供だからどんなに酷いことをしても実刑にはならないってんじゃ、そりゃ憤るだろうし、なんとかして相応の報いを受けさせたいと考えるのが当然でしょう。加害者が過酷な環境で育ったとか、被害者側からすると関係ないし。だから、神原が死んでしまったのはやっぱり哀しくて残念ですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天使の真似

光は子供ながらに自分が「悪」の側だとハッキリ認識している人間で、薪さんのことを自分と同種類の人間とみなして「皆人間の中に邪悪さがないって認めたくないんだ。そう“思いたい”だけなんだ。本当はあんたも僕とそんなに変わらないくせに!」と、まぁ喚くのですが、そんな光に薪さんは「お前が好きな人の好きなところを真似してみろ。そしたらまわりの人が変わってくる。そして、動物を殺したりいたぶったりして遊ぶ“面白さ”よりずっと毎日が面白くなる」「毎日毎日、天使の真似をしていればいつか、きっと“偽物”と“本物”の区別がつかなくなる」と、アドバイスする。

 

光が言うように、皆の中に邪悪さはあるけれど、光の場合は自分の中の「邪悪」を見つめすぎているのじゃないかと思う。人間って、そんな大差があるもんじゃないのに、自分の「邪悪」を強く意識するあまり、自分はまわりとは全然違う悪の塊なんだと思い込んで、その思い込みにしたがって行動してしまう。本当は確固たる「自分」っていうものはハッキリ主張できない曖昧なもので、言いきれるもんじゃないだろうし、若いときの自分語りってのは大抵滑稽なもんです。ましてや光はまだ10歳。自分自身を決めつけるのはまだ早すぎる。ま、10歳の時点で償いきれないような罪を犯している訳ですけども・・・。

 

心中の曖昧な想いより、人は実際の行動に引っ張られるもの。だから薪さんのいう「真似ごと」も有効だし、真似していたことが自然に身につけば、それはもう真似じゃなくなり、嘘だとか本当だとかはどうでも良くなる・・・と、いうか、そういった煩わしいことは考えなくなる。

 

ま、人を好きになれるって時点で、光は「怪物」ではないってことなのかも知れない。薪さんのアドバイスに素直に従ったものか、光は1年後に心臓病でこの世を去るまで「天使の真似」をして穏やかに過し、本物の天使となった――で、この本は終わっています。

 

 

しかして、光のしでかしてきた諸々を考えると、やっぱり何のお咎め無しというのはモヤモヤしてしまうところ。被害者に申し訳ないって気持ちは抱けないみたいだし、最終的に病気で死なせたのは話をまとめるにはこうするしかないのかなって気がする。

あと、「つばき園」の元園児の洗脳状態とか、どうなっているんだ・・・そこらへんも疑問が残る(^^;)。

 

 

 

 

次作は?

10巻は福岡での緊迫したやり取りが主ということで、岡部さんを始め、他のメンバーの出番が少なめでした。出番が少ないながらも岡部さんは迫力満点の壁ドンを披露してますけど。そして怒られてますけど。次作に期待ですね。

青木の部下の白石という女性なのですが・・・どうも“アレ”なことになりそうな予感がヒシヒシとするんだが・・・どうなのでしょう。

 

不穏な始まり方をしての長丁場の事件だったので、主要メンバーが死んじゃったりだとかがあるのか!?ビクビクしていましたが、そういったことはなしで終わってとりあえず安心した。前シリーズでのお姉さん夫婦殺害という前科がこの漫画にはありますからね・・・気が気じゃない。

 

前シリーズの『秘密-THE TOP SECRET』は全12巻でしたが、このseason0は何巻までやるのでしょうか。前シリーズを踏襲するなら、そろっと大きな展開が待っているのではって思うところですが。三冊使って綺麗に終わらせたこの事件の後、どんな物語を持ってくるのか気になりますね。

 

 

また来年、楽しみに待ちたいと思います。

 

 

 

 

ではではまた~