夜ふかし閑談

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『兇人邸の殺人』「屍人荘の殺人」シリーズ第3弾 感想・解説 今度は〇人に襲われる!?

こんばんは、紫栞です。

今回は今村昌弘さんの『兇人邸の殺人』(きょうじんていのさつじん)をご紹介。

 

兇人邸の殺人 屍人荘の殺人シリーズ

 

あらすじ

神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と剣崎比留子は、斑目機関の研究資料を探し求める医療関連の大企業・成島グループの子会社社長である成島陶次に請われ、廃墟テーマパークにそびえる「兇人邸」に向かうこととなる。

「兇人邸」にはテーマパークを運営する昭島興産会長で、かつて斑目機関の研究者だった不木玄助が棲んでおり、不木は定期的にテーマパーク従業員を「兇人邸」に来させるのだが、指示されてその屋敷に入った者はその後、姿を見ることは二度とないという。

 

成島とその秘書、荒事を想定しての傭兵たち、情報提供者のテーマパーク従業員と共に、深夜に「兇人邸」に侵入した葉村と剣崎だったが、侵入して不木と使用人二人を捕らえ、自分たちと同じタイミングで屋敷に侵入してきたフリーライターと鉢合わせした矢先に、信じがたい“あるモノ”に一行は襲われる。

恐怖の一夜が明けてみると、剣崎の姿は見えなくなっていた。脱出する手立てを封じられ、“あるモノ”と共に屋敷に閉じ込められることとなった一行。さらに、別の殺人者が一行の中にいる可能性が浮上して――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『兇人邸の殺人』は仰天ミステリで評判になり数々の賞を受賞した今村昌弘のデビュー作『屍人荘の殺人』から始まるシリーズの第三弾。

タイトルの「兇人邸」の読み方は“きょうじんてい”。このタイトルの読み方が一見すると分らない感じ、第一作目を思い出しますね(^_^;)。今回も遠田志帆さんによる美麗な表紙絵の本になっております。

青、

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赤、

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ときて、今回は緑ですね。次は黄色になるのかな・・・?

 

このシリーズは他に〈エピソード0〉として前日譚にあたる短編も電子書籍で刊行されています↓

 

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シリーズの名称が何になるのか分からないのですが(今作の帯には“『屍人荘の殺人』シリーズ”と書かれていますけど)、シリーズの構成や特色的にどの事柄を語っても前作や驚き設定のネタバレになってしまうので、以下ネタバレ注意です~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今度は巨人

斑目機関」というかつて奇怪な研究をしていた組織の存在を絡ませることにより、超自然的なものを前提とした特殊設定でバリバリの本格推理が展開されるのを特徴としているこのシリーズ。

第一作目でゾンビ、二作目で“絶対に当たる予言”ときて、三作目の今回は「巨人」です。

二メートルを優に超え、筋肉が異様に発達している巨体。目の位置に穴が空いている頭陀袋を頭にかぶり、片腕で大鉈をブンブン振り回し、意思の疎通は出来ず、拳銃で撃たれても平気な強靱な肉体で、どうやら傷の治癒も早い。日光を極端に嫌って夜の間しか出て来ない・・・と、ホラー映画そのままみたいな怪物が今回は登場。

 

前作『魔眼の匣の殺人』の作中で“サキミ”が予言したことの一つとされていた、およそ40年前の斑目機関のある施設で起きた大量殺人」

 

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 この“ある施設”というのが、超人研究をしていた施設で、不木は当時この施設の研究者で、大量殺人が起こった際の混乱に乗じて被験者の一人と共に姿を消し、「兇人邸」にその被験者を閉じ込めて研究の続きをしていた。成島たちに制圧され、自暴自棄になった不木は巨人となった被験者を解放し、成島たち一行を襲わせたという訳です。

 

傭兵たち6人が登場した時点での「このうち半数はすぐ死んじゃいそうだな・・・」という読者の予感そのままに、傭兵3人と情報提供者のテーマパーク従業員は「兇人邸」に侵入してすぐの段階で巨人に襲われて死んでしまう。巨人は死体の首を必ず切り落とし「首塚」に集めるという恐ろしい習性も持っていて、なかなかグロテクスな惨劇シーンが暗闇の中で展開されます。ここまでの段階では完全にホラー・スリラー小説なパニックもの。「いったい何を読まされているんだ・・・」というこの感じは、第一作目の『屍人荘の殺人』の流れそのままですね。ま、このシリーズは一作目の初っ端がアレでしたから、何を出されてももう驚かないよって感じではあるのですが。一作目と同じく、この後に特殊設定ながらも本格推理が展開される訳です。

前作の『魔眼の匣の殺人』が予言モノってことでスリラー色はなかったのですが、今作は第一作目を踏襲するようなストーリー展開でホラー・スリラー要素が強め。一作目よりも色々とこういった要素の描写力がパワーアップしていて、推理部分以外のところでも読ませる作品となっています。

 

 

 

 

 

安楽椅子探偵

今作はワトソン役(で、あろうとしている)葉村譲と、どうやら「兇人邸」に人を探しにやって来たらしき訳ありのフリーライター剛力京の視点が交互に描かれ、さらに40年前の超人研究の被験者の少女・ケイの《追憶》が合間合間に挿入されるという構成になっています。

 

探偵役の比留子さんはというと、巨人に襲われた最初の一夜に皆がちりぢりに逃げた際、別館の巨人が居座る側の区画にある一室に逃げ込んだことで取り残されてしまい、一夜が明けても部屋から出られないという状況に追い込まれてしまう。この部屋は本館の離れにある小部屋と窓どうしが隣接しているので、他の生存者と話をしたり、棒を使って物を渡したりは出来るものの、救出する手立ては見つからず。結局、葉村たちが比留子さんと合流出来るのは物語の最後の最後にやっと。なので、今回の比留子さんは室内から出ずに与えられた情報のみで推理を組み立てる「安楽椅子探偵」として能力を発揮しています。

 

危機的状況で最後まで合流出来ないとあって、今作では前作のようなコミカルなやり取りは少なめです。ま、前作のコミカルさは若干余計だったというか、ちょっと寒々しいところがあったので(^^;)、私は今作ぐらいの雰囲気でのやり取りの方がこのシリーズの場合は好みですね。

 

後、どうでもいいことではあるのですが、比留子さんの閉じ込められていた部屋はトイレあるのかなぁと読みながらずっと気になっていた(^_^;)。本に載っている見取り図によると、トイレ・シャワー室として書かれているのは本館の一箇所しかないんですけども。こんな広い屋敷でトイレが一箇所だけってことはないかですかね。図では省略しているだけ?元はホーンテッドマンション的なテーマパークの施設だし、一箇所だけってこともあるのかもですが。

この「兇人邸」の内部がですね、元アトラクションだからなのかなんなのか非常に入り組んだ間取りになっていまして、よくもこんな複雑な設計の建物考えたな!と。見取り図がないととても話を追えないですね。

 

このシリーズはずっとクローズド・サークルものできていますが、今作は屋敷の外にはテーマパークの客が普通にいて、施設内のアナウンス放送やら音楽も聞こえてくるという、屋敷の内と外での温度差が精神的負担となって押し寄せてくる、一風変わった閉鎖空間になっているのも今作の特色ですね。今までにないクローズド・サークルになっていると思います。

 

 

 

 

 

 

困難の分割

「兇人邸」での混乱の最中にさらに混乱させる二件の殺人事件が起きる訳ですが、巨人とは別の「40年前の超人研究被験者の“生き残り”はこの中にいる!」ってな疑惑が勃発し、その“生き残り”が犯人だろうから突き止めようという展開に。

「40年前の生き残りなのだから、年齢で分かるだろ?」と、普通はなるところですが、なんせ超人研究の被験者ですので、実年齢より肉体年齢はめっちゃ若いかもしれないということで、見た目年齢はアテにならないのですね。

 

今作はどのトリックも「困難の分割」で統一されています。工程を何個かに分けることによって、一見不可能に見えることを可能にするという本格推理ものでお馴染みのトリックですね。「困難の分割」という言葉は元々ミステリ用語ではなく、物理学の用語らしいですが。作中で比留子さんも言っています。

 

事件に使われたトリックより、最後の「鍵を手に入れて脱出する方法」のほうがメインで、一番の見せ場になっているかと。このトリックというか、方法を描くために物語を組み立てて設定も作り込んだのであろうと思われます。犯人が探偵の敵ではないという通常とは違う状況も、この結末のためだったのだなと。とてつもない覚悟を見せつけられるトリックには唯々感服させられます。

 

しかし、首なし死体がゴロゴロ出て来る異常な現場であるにもかかわらず、今作の登場人物たちは皆凄く冷静ですね。葉村君もどんどん逞しくなっているというか。葉村君はゾンビに襲われるのも経験しているからアレなのかもしれないが。常人なら気がふれてもおかしくない状況だと思うのですけども。異常事態の連続で感覚が麻痺しているのかな?

 

犯人当てについては、登場人物表が実は大きなヒントになっていて、一人だけフルネームで表示されていない人がいるんですね。読み終わった後になって考えてみると、あまりにもモロにヒントになっているなぁとちょっと驚いてしまうのですが、今作では犯人当てには重点を置いていないということなのでしょうかね。

正直、殺人トリックなどミステリ的な部分に関しては若干物足りなさがあるのですが、物語としては前二作以上に読ませるものになっています。超人研究の被験者たちの顛末はあまりにも惨く、哀しいもので、胸が締め付けられますね。

 

 

 

 

次作

今作は葉村君の「どうしてここに。重元さん」という台詞で終わっています。シリーズ読者でも「重元って誰だったっけ?」ってなる人多いかと思いますが(かくいう私もそうなったのですが^_^;)、第一作目の『屍人荘の殺人』で登場したゾンビ映画マニアの人です。『屍人荘の殺人』の最後で行方知れずになっていたのですよ。

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屋敷から脱出してすぐのところで終わっているため、作中で罪を犯してしまったフリーライターの剛力や、「兇人邸」の使用人で前科持ちぽかった阿波根令実がどのような処置になったのかも分らずじまいになっていて、諸々次の作品に繋がりそうな雰囲気です。

阿波根は作者が進めたいストーリーの都合で左右されているのがミエミエで、行動の不自然さが目立ってよろしくない人物になってしまっていましたね・・・。不自然といえば、終始嫌われ者の嫌な奴だった成島も、最後の行動が唐突すぎましたね。今まで人に任せっきりで自分では危ない行動はしようとしなかったくせに・・・お話として、ここら辺は納得のいかない残念なポイントでした。

 

このシリーズはずっと書き下ろしできているのですが、この感じだと次作もすぐ出そうですかね?どうなのでしょう。

作者の今村昌弘さんは最近は短編も書かれたりしているようですが。

 

 

このシリーズのエピソード0が出ているのを最近知ったので、こちらもチェックしたい↓

 

 

次作もまた楽しみに待ちたいと思います。

 

 

 

 

 

ではではまた~