こんばんは、紫栞です。
今回は、横山秀夫さんの『臨場』を読んでみたら大変面白かったので、オススメするべく少し。
こちら、2009年に第一章で10話、2010年に続章で11話放送され、2012年には劇場版も公開された内野聖陽さん主演の大人気刑事ドラマ『臨場』の原作本です。
警察組織では、事件現場に臨んで初動捜査に当たることを「臨場」という。死体が発見され、変死の疑いがあると、臨場要請を受けて検視官が事件現場に向かう訳ですが、この本では「終身検視官」と渾名される凄腕の検視官・倉石義男が関わる事件が短編形式で描かれています。
ドラマは第一章と続章あわせて21話と結構な話数ありますので、原作もシリーズものとして何冊か出ているのではと考える人も多いかと思いますが、小説本として刊行されているのは短編小説集として八編収録のものが1冊のみ。第一章の放送後に、『臨場 スペシャルブック』というドラマのオフィシャル・ガイドが刊行されているのですが、この本に出演者のインタビューやドラマ各話解説に混じって文庫未収録作品四編が掲載されています。
収録作品は以下の通り↓
- 赤い名刺
- 眼前の密室
- 鉢植えの女
- 餞(はなむけ)
- 声
- 真夜中の調書
- 黒星
- 十七年蟬
『臨場 スペシャルブック』
- 罪つくり
- 墓標
- 未来の花
- カウントダウン
原作のお話はほぼドラマ化されていますが、原作は各編40ページほどの短編なので、ドラマでは内容がだいぶ膨らまされています。原作では一編の中に事件が二件三件と余談的に出て来るものがあるのですが、ドラマですとその余談を一話に膨らましたものもあります。劇場版は完全なオリジナルストーリーですね。
ドラマでは倉石班の検視官補助官の小坂留美(松下由樹)、検視官心得の一ノ瀬和之(渡辺大)などの面々と、管理官の立原真澄(高嶋政伸)などがレギュラーとして常に登場していましたが、原作では一貫して名前が出て来るのは倉石のみで、他メンバーが登場するのは一~二編ほど。それに伴い、年齢などの設定もだいぶ変更され、キャラクター像も深堀りされています。
主役の倉石にしても、ドラマでは17年前にある事件によって妻と死別したという設定でしたが、原作ですと、若い頃に離婚して以降は店の女などと浮き名を流しているといった人物で、針金のような細長い体型をしているなど、容姿イメージなどもドラマとは異なるのですが、職人気質でやくざな物言い、組織に与しない堅物という、要となる大事な部分はキチンと押さえられています。
臨場要請がきて、倉石たちが現場に臨むというパターンでドラマは描かれていましたが、原作は警察関係者、事件関係者、記者、被害者などなど、各編それぞれに視点が変わってまったく異なる描きかたをされていて、ドラマとはまた違った面白さがあるので、ドラマをコンプリートして、ストーリーやトリックを完璧に把握している人にもオススメ。
実際、私もドラマはリアルタイムで観ていたし、再放送でも繰り返し観ているのですが、この小説は凄く愉しめました。一編が40ページほどと短いながら、各編確りとした“オチ”のある、ミステリとしても人間ドラマとしても充分な読み応えがある短編集なので、あまり小説を読み慣れていない人にもオススメです。
劇場版まで観た人は、倉石の病気、死んだのか否かが、原作ではどうなっているのか気になることと思いますが、原作では小説本の後半からチラチラと具合が悪そうな描写があり、『臨場 スペシャルブック』に収録されている「罪つくり」の作中で、胃ガンで倒れて病院に入院していますが、入院後ちゃんと完治したのかどうかは最後の「カウントダウン」を読んでも分らずじまいです。
原作自体が倉石の生死について曖昧にしているため、劇場版があんな感じのラストになったのだと思われ。読者、視聴者の判断に委ねるってことでしょうから、私は勝手に、倉石はまだ頑固に検視官続けて「俺のとは違うな」と周りを翻弄していると妄想しとこうと思います。続編を出してくれたら嬉しいんですけどね~・・・無理でしょうか。
ドラマだけでなく、原作も気になった方は是非
ではではまた~