夜ふかし閑談

夜更けの無駄話。おもにミステリー中心に小説、漫画、ドラマ、映画などの紹介・感想をお届けします

『ミッドナイト』最終話があまりの衝撃で未収録!?ブラックジャックのスピンオフ作品!

こんばんは、紫栞です。

今回は手塚治虫の漫画作品『ミッドナイト』のアレコレについて少し。

ミッドナイト(1) (手塚治虫文庫全集)

ブラックジャックのスピンオフ的作品

『ミッドナイト』は1986年5月~1987年9月まで「少年チャンピオン」で連載された作品で、手塚治虫最後の週刊漫画雑誌での連載作品。(※この作品以降のものは、いずれも短編か未完の長編)

 

“夜はいろいろな顔を持っている その顔をひとつひとつのぞいていく男がいる その名をミッドナイト”

と、毎度この言葉から始まるこちらの作品、タクシー営業のライセンスを持っていないモグリの深夜タクシードライバーであるミッドナイト(本名・三戸真也)が、タクシーを走らせる中で訳ありの乗客たちと関わっていくという一話完結型の連作短編もの。基本的には乗客にまつわる話がメインとなっていますが、断続的にミッドナイト自身の物語も描かれる。

 

手塚治虫で「少年チャンピオン」というと、『ブラックジャック』を思い浮かべる人が大半だと思いますが、一話が20ページほどの連作短編で、主人公がモグリのアウトローで、ある目的のために金を集めている、通常は客の物語が描かれるが、時偶主人公自身にスポットが当てられたストーリーも描かれる・・・――などなど、この作品は設定も構成も、タイトルも主人公の名前のつけ方も(黒男=ブラックジャック、三戸真也“みとしんや”=ミッドナイト)、『ブラックジャック』を踏襲するようなものになっています。

 

それどころか、ブラックジャック自身も途中から物語に関わることとなり、数話に登場。最終回では非常に重要な役割を担っていて、見方によってはブラックジャックの存在ありきで書かれているとも言える、ブラックジャック』のスピンオフ的作品となっています。

 

ミッドナイトの性格もしゃべり口調も、ハッキリ言ってほとんどブラックジャックと同じ。作中でもブラックジャック「お前さんと私とはなんか似たところがあるようだ これも作者が同じせいかもしれないな」とメタ発言をしている始末です。ま、根本的なところは違って、ブラックジャックとはまた別の魅力もあるのですが。男性作家というのは勘違いモテ男を書きがちですけど、手塚治虫は本当に女にモテるキャラクターを描くのが上手い。

 

スターシステム”として、既存のキャラクターを多様に作品に登場させ、俳優のように使う手法が有名な手塚治虫ですが、このように元の作品そのままの設定で登場させる外伝的物語は珍しい。(私は全作品を読破はしていないので、キチンと断言は出来ないのですが)

 

タクシーといえば怪談ってことで、奇譚話ももちろんありますが、主としては人情話のヒューマンもので読後はじんわりと心が温まるものが多い。ミッドナイトが乗っている車はAI 搭載の改造車で、“いかにも漫画”的なSF要素もあって楽しいです。

手塚治虫作品の中では比較的マイナーで知らない人も多いかと思いますが、一話一話確りと起承転結があって読みやすく、主人公のミッドナイトも中身ともにイケメンで魅力的ですので(なんせブラックジャックに似てるし)、『ブラックジャック』ファンはもちろんですが、そうでない人も充分に手塚漫画を堪能できる作品でオススメです。

 

 

 

 

 

未収録

『ミッドナイト』は一話完結型の連作短編ですがサブタイトルはなく、すべて「ACT.○」と表記されています。手塚治虫はサブタイトルのセンスが抜群に良い作家だった(と、私は思っている)ので、サブタイがないのはチト残念なポイントですね。

私が幼少から読んでいたのは秋田文庫版で53話収録されているのですが、今回この記事を書くにあたり調べたところ、『ミッドナイト』が連載誌で掲載されたのは全67話。つまり、本に未収録のお話が14話あるのだそうです。

 

それどころか、秋田文庫版よりも先に刊行されている「チャンピオンコミックス 全6巻」講談社手塚治虫漫画全集 全6巻」だと52話収録で、肝心要であるはずの最終話が収録されていないとのこと。

 

手塚治虫の本ですと、未収録や雑誌連載時と本で内容が変更になったり、加筆されたりが当たり前ではありますが、10話以上の未収録は多い。最終話はともかく、他は『ブラックジャック』での未収録作品みたいに倫理的な問題があった訳でもなさそうなので、とにかく謎ですね。アドルフに告ぐとかみたいにコミックスのページ数調節のためとかなんだろうか。

www.yofukasikanndann.pink

 

コミックスに最終話が収録されなかったのは、あまりにも衝撃的で意外な結末だったためらしいです。

私はこの最終話あってこその作品だと思っていたので、本によっては収録されていないと知って驚きました。最終話がないとちょこちょこ張られていた伏線とか投げっぱなしになって意味が分らないだろうに・・・。しかも、14話も未収録があるとは・・・知った時はかなりショックでしたね(-_-)。

 

マイナーな作品なので、復刻版の刊行も望み薄ではないかとのこと。未収録回を読むには当時の「少年チャンピオン」手に入れるしかないので、今では入手困難となっており、値段も高騰しています。

 

そんな訳で、今最大話数読めて最終話も収録されているのは秋田文庫版全4巻と、

 

 

講談社手塚治虫文庫全集全6巻

 

 

 

のみとなります。

 

買うなら、単行本ではなく絶対に文庫版!間違って買わないように要注意です!

 

 

 

 

 

 

以下、最終回について若干のネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衝撃の?最終話

主人公のミッドナイトはかつて、暴走族のボスだったときにマリという高校生の女の子を塾まで車に乗せて送っている途中で事故を起こし、マリを植物状態にしてしまいました。なんとか心臓だけ動いているマリを生きながらえさせるため、深夜タクシーのドライバーをしながら金を集めているという訳で、その関係でブラックジャックにマリをなんとかしてもらおうと度々訪ねる。「金でなんでもやってくれる先生ってあんたですか」って言って、「金さえ積みゃなんでもなおしてくれると思い込んでいるバカはお前さんかい」と返されていますけど(^_^;)。

 

植物状態であるマリは何度か心臓がとまっては持ち直したり、脳波がみとめられたりで辛抱強く生き続け、ミッドナイトはそんなマリを生きがいにして命の尊さを噛み締めながら日々を過していたのですが、終わりは唐突に訪れる。

 

最終回は、ミッドナイトはタクシーを走行中に誤射で飛んできた弾道ミサイルによって車ごと瓦礫の下に閉じ込められ、全身に重度の熱傷を負って危篤状態となってしまう。ミッドナイトが死にかけていると聞いたブラックジャックは、ミッドナイトとマリの身体を前にして驚愕の手術を施す--と、いった内容。

 

 

誤射で弾道ミサイルがいきなり落ちてくるのも、ブラックジャックの手術内容も確かに驚きではありますが、手塚作品ではそれ程の事ではないとも思う。『ブラックジャック』でも馬の脳を人間に移植するとかやってたし、これでダメなら他にもダメなもの過去にいっぱいあったろって気が。

う~ん、でも、週刊連載ですっと見てきた主人公が最終回でいきなりこんなことになるのは、リアルタイムで読んでいた読者には受け入れがたいのかな。

 

しかし、最初からこの結末を想定してストーリーが構成されているのは明らかで、やっぱり未収録で読めないってことじゃダメだろうと思う。ミッドナイトの事を思うとやるせなくなりますから、知らない方が良かったってなる気持ちも分りますけれども・・・。

 

この最終回は色々な意味合いがあるなぁというか、考えさせられるものになっています。

世の中には車のことを恋人だと宣う人がいるものですが、『ミッドナイト』はそんな人と愛車との関係をエスカレートさせたものだとも取れるし、この手術は男女の恋愛の究極形態として描いているのかなとか、脳が人のすべてではなく、全身全部で統合されて生物は成り立っているのを示しているのかとか・・・いろいろ要素が詰め込まれているなぁと。

そして、マリを助けるためにミッドナイトが身を捧げたとも、ミッドナイトを助けるためにマリが身を捧げたともとれるこの結末・・・。

 

なんやかやと言いつつも、マリを生きながらえさせるのに関わってきたブラックジャックですが、最終回でマリを前にして冷酷な決定だと自覚しつつも「この患者はもうとっくに死んでいる」と言い切る。

この決断を見ると、ブラックジャック先生は患者のためというより、マリを生きがいにしていたミッドナイトのことを慮って今まで付き合ってあげていたのかと思う。

生きているものにしか興味がないブラックジャックと、植物状態であるマリや車に執着するミッドナイトとで対比的に描かれていて、この『ミッドナイト』の最終回はまるで『ブラックジャック』のなかの一編のよう。ただのゲストというより、『ブラックジャック』のスピンオフ的側面が強いのではと感じる所以ですね。

 

 

そんな訳で、繰り返しになりますが『ミッドナイト』を読むなら最終回が収録されている文庫版が絶対にオススメです。作者の手塚治虫自身は漫画の文庫化には反対だったといいますが、『ミッドナイト』に限っては背に腹はかえられません。文庫版一択です。

 

 

ブラックジャック』ファンも、そうでない人も文庫版で是非。

 

 

ではではまた~