夜ふかし閑談

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『22年目の告白』映画の”あの後”を知れる小説版!! ネタバレ・解説

こんばんは、紫栞です。

今回は浜口倫太郎さんの小説『22年目の紅白-私が殺人犯です-』をご紹介。

22年目の告白-私が殺人犯です- (講談社文庫)

 

あらすじ

帝談社の編集者である川北未南子はある日、バーで曾根崎雅人という魅力的な男性に声をかけられ、読んでみて欲しいと原稿の束が入った封筒を渡される。

『私が殺人犯です』とタイトルがつけられたその原稿は、22年前に日本を震撼させた「東京連続絞殺事件」の犯人による手記だった。手記は曾根崎本人が書いたものだという。曾根崎雅人は未解決事件の犯人だったのだ。

 

時効により、罪を償わずに逃げのびた猟奇殺人犯の手記など本として出していいはずがないと葛藤しつつも、編集者としてこの原稿に魅せられてしまった未南子は出版することを決意。曾根崎に言われるままに大々的な記者会見をした結果、『私が殺人犯です』はたちまちベストセラーとなった。

しかしそれに満足せず、曾根崎は「日本中の注目すべてをこの一冊に集めたい」と当時の事件関係者や世間を挑発し続け、未南子を困惑させる。

曾根崎が今になって殺人を告白し、過剰な挑発行為をするのは自己顕示欲を満たすためだけなのか?それとも――?

 

 

 

 

 

 

 

 

小説版『22年目の告白』

こちらは2017年に公開された映画『22年目の告白-私が殺人犯です-』(脚本 平田研也/入江悠)

の小説版として浜口倫太郎さんが書き下ろした作品。

 

原作本ではなく、映画の脚本が先にあっての小説作品ですね。しかし、単純なノベライズ本という訳ではなく、小説独自のアプローチがされている別視点作品ともいうべきものになっています。

 

この間テレビのロードショーで映画が放送されているのを観まして、面白いなぁと思ったものの説明不足というか、観終わってから「アレはどういうことだったんだ?コレは?」と疑問がふつふつと湧いてきたのですよね。小説版が出ていることを知って、これを読めば数々の疑問が解消されるかと期待して手にした次第です。

 

著者の浜口倫太郎さんは小説家だけでなく放送作家としても活躍されている方で、2019年に公開された映画『AI崩壊』も今作と似たような経緯で小説版を手掛けておられるようです。

 

浜口さんの本を読むのは今回が初だったのですが、読みやすい文章で小説として綺麗にまとめられており、既に映画視聴後でネタは知っているにもかかわらず、非常に面白くって一気読みしてしまいました。

 

脚本が先にある為かも知れませんが、個人的に小説版の方が映画より完成度が高いと感じましたし、読後感も良くて好きです。映画を観た人にこそ是非読んで欲しい小説作品ですね。

 

 

 

 

 

 

原作・映画・小説の違い

映画の『22年目の告白-私が殺人犯です-』は、元々2012年に公開された韓国映画『殺人の告白』のリメイク作品。

 

なので、原作はこの韓国映画ということになるのですが、『殺人の告白』は韓国で実際にあった時効により未解決となった「華城連続殺人事件」にインスピレーションを受けて制作されたオリジナル脚本もの。「華城連続殺人事件」は2003年の韓国映画殺人の追憶の題材にも使われている事件ですね。

 

とはいえ、『殺人の告白』は『殺人の追憶』ほど実話に基づいているものではなく、未解決事件の殺人犯が手記を出して云々~という展開は完全に映画のオリジナルです。

 

リメイク作ではありますが、韓国の『殺人の告白』はサスペンス・アクションなのに対して、日本の『22年目の告白-私が殺人犯です-』は社会派サスペンスといった仕上がり。オチも真犯人も異なるので、韓国版を観た人でも充分愉しめるようになっているようです。

 

簡単に言うと、『殺人の告白』ではテレビ番組でネタばらしするまでが仕掛けのオチになっていますが、『22年目の告白』ではそこからさらなるどんでん返しがある展開になっていて、仕掛けが二段構えとなっています。

 

刑事さんのラストの行動も韓国版と日本版では異なるようでして。韓国版の方の結末なんですが、日本でそのままやったら受け入れられないだろうなぁというか、これでハッピーエンドとするのは抵抗があるだろうと思う。

 

日本ってドラマでも映画でも、主役サイドは一線を越えそうで越えないというのが“オキマリ”ですよね。「憎しみを乗り越えるんだ!!」みたいな。宗教観かなにかが関係しているのだろうか。韓国ものはどうか分らないけど、欧米ドラマとかだと主役が復讐殺人してお咎めなしという展開がざらにあって驚く。

 

 

で、日本版の映画を小説化した今作も、また違う趣となっている。ストーリーは概ね映画と同じですが、小説版は曾根崎の担当編集者・川北未南子からの視点が主となって話が展開していきます。

 

韓国映画、日本映画、小説と、新しく発表される度に新たな変化が加えられている訳で、多少こんがらがってきますね。ま、三つとも独自に愉しめる作品になっているのだということで。

 

 

 

 

 

 

穴埋めをしてくれる小説版

この編集者・川北未南子、映画では松本まりかさんが演じていたのですが、印象に残っているところといったら藤原竜也さん演じる曾根崎に首を触られるところぐらいで、ハッキリ言ってほぼ空気的存在でしかない人物でした。

 

小説版では、未南子を主役的ポジションにすることで担当編集者から見た曾根崎像や、原稿の魅力が描かれることで出版に至る経緯に説得力が増しています。本を出版したことで職場の後輩や親友に軽蔑される様なども描かれているので、事件や仕掛けとは別で未南子の編集者としての葛藤も読み応えのある箇所となっている。

 

映画では単にピリピリした人物として描かれていたので、小説版を先に読んだ人は映画の未南子に残念な感情を抱いてしまうかもしれません。なので、個人的には映画を前に観るのがオススメ。

 

 

映画では不在であったラストの決着シーンにも未南子は居合わせ、重要な役割をしています。個人的に、映画の方は曾根崎が最後思いとどまった理由が分りにくいと感じていたので、散々に欺された立場である未南子の説得だからこそ曾根崎の心に響いたという小説版オリジナルの状況には凄く納得出来ました。

 

 

映画が公開された2017年当初、主演の藤原竜也さんはまだ三十代前半。22年前の事件の犯人だと名乗り出て来るには若すぎるだろってのは皆が感じた疑問だと思うのですが、小説版を読むとその謎も分ります。単純に、めっちゃ若く見えると、そういうことらしいです(^^;)。※因みに、設定では曾根崎の実年齢は四十四歳。

 

他にも、曾根崎は名乗り出て来るまでどんな生活をしていのかなど、諸々映画ではあやふやだった部分も小説版では明かされています。

 

 

 

 

 

 

以下、映画に関して盛大にネタバレしているので注意~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小説版のみのエピローグ

曾根崎の正体は牧村刑事の妹である里香の恋人だった小野寺拓巳。手記は牧村が警察の捜査情報を元に書いたもの。敵対しているようにみせていましたが実は二人はグルで、自己顕示欲が強いであろう犯人を誘き出すためにこのような大がかりな計画を立てたと。

何やかんやあって、犯人は人気キャスターである仙道だったことが判明。かつて戦地の取材先でうけたトラウマから解放されるために行なった歪んだ犯罪でした。

 

映画では拓巳が空港で牧村達に見送られるシーンの後、精神科病棟にいる仙道が刺されるところでジャーン!って感じで唐突に終了。

曾根崎はどこに行ったのか、仙道は刺されてどうなったのか、牧村は刑事続けられたのかなど、分らずじまいに終わっていました。

 

小説ですと、これらの疑問もすんなりと明らかに。

 

仙道は刺された結果死亡。(※映画だとちょっと分りにくかったですが、刺したのは早乙女太一さんが演じていた戸田)

拓巳は日本では有名になりすぎてしまったということもあり、「海外で今後のことをゆっくり考えてみます」「里香の命日にまた戻ってきます」と、(海外のどこか分らんが)旅立っていった。

牧村は刑事を退職。手記での巧みな文章を見込まれ、未南子に口説き落とされて小説家として本を書くことに。(映画では特に触れられていませんが、牧村は読書家で文才があったらしい。未南子があんなに原稿に魅入られたのも、牧村の文才あってのことだったのだとここでも説得力が)

 

しかしながら、時効とはいっても里香が行方不明状態だったなら捜査続けられたんじゃないかとか、腹を立てたとはいえ仙道が独自ルールを破って里香を殺した理由とか、二人の計画は詐欺罪になるんじゃないかとか、拓巳は仙道への殺人未遂で捕まらなかったのかなど、これらの諸々は小説版でもぼかされたままですね・・・。ま、こんなことをいうと身も蓋もないのですが、「細かいことは気にしない」ということで・・・(^_^;)。

 

 

小説版オリジナルのエピローグでは騒動の1年後が描かれているのですが、このエピローグがなんとも感動的です。エピローグだけでもこの本は買う価値があると思う。

映画は社会派サスペンスに重きが置かれていて全体的に殺伐とした雰囲気でしたが、小説版は人間的な血が通った物語になっていて、暖かな気分になるエンドとなっています。

 

個人的には映画を観た後に小説版を読むのがオススメ。映画と、小説、それぞれに『22年目の告白』という作品を愉しんで欲しいと思いますので是非。

 

 

ではではまた~