こんばんは、紫栞です。
今回は東野圭吾さんの『マスカレード・ゲーム』について紹介と感想を少し。
あらすじ
「ホテル・コルテシア東京」での未遂事件から数年。
捜査一課の係長となった新田浩介は、入江悠人という青年が刺殺された事件の捜査をしていた。入江は十七歳のときに暴行によって人を死なせた過去を持っており、その事件で亡くなった被害者の母親・神谷良美が容疑者候補としてあがるが、神谷には完璧なアリバイがあり、捜査は行き詰まる。
そんな最中、都内で起こった別の殺人事件二件が同一犯である可能性が浮上。三つの殺人事件の共通点は、ナイフで正面から刺すという殺害方法。そして、どの被害者も過去に人を死なせる罪を犯していながらいずれも軽罰ですんでいること。
三つの班合同で捜査を進めてみると、各事件の容疑者である犯罪被害者遺族たちがそろいもそろってクリスマスに「ホテル・コルテシア東京」に宿泊予定であることが明らかに。事件を未然に防ぐべく、新田はまたもホテルマンとして潜入捜査をすることになるが――。
シリーズ4作目
『マスカレード・ゲーム』は2022年4月に刊行された長編小説で【マスカレードシリーズ】の4作目。
刑事がホテルマンに扮して潜入捜査するという、高級ホテルを舞台に展開されるミステリシリーズであるこちら。今までに長編が2冊、短編集が1冊出ている訳ですが、
正直、刑事がホテルに潜入捜査という特殊すぎる設定のため、こんなにシリーズとして続くとは思っていなかった。舞台もずっと同じコルテシア東京だし。
今回は三つの殺人事件の共通点から、仇討ち殺人をチームで行なっている、つまり、自分が殺したい相手を他のメンバーに殺してもらって完璧なアリバイを確保し、自分も他の人の標的を代わりに殺すという方法で犯行を重ねているのでは?と、警察が推測した矢先に容疑者たちが皆そろいもそろって同じ日に同じホテルに宿泊予約をしていることが判明。
奴らいったい何をする気なんだ!?会議?それとも新たな犯行?他の宿泊客の中にターゲットがいる?それとも4人目の仲間がいる?これは見張らないと!!
って、ことで、またもやコルテシア東京に捜査本部を設置。潜入捜査することに。
作中では“ローテーション殺人”と言っていますが、新田たちが推測しているのはいわば交換殺人のバリエーション版。
「交換殺人ものは前やったじゃん」とシリーズ読者としては思ってしまうところなので序盤からちょっとテンションが下がってしまいますが、そこは東野圭吾作品で【マスカレードシリーズ】ですから、ちゃんとそれだけではない意外な真相がラストには用意されているので御安心を。
前2作の長編では殺人事件捜査と並行してホテルならではの小事件が描かれていくという短編的要素が盛込まれていましたが、今作はシンプルな構成になっていてホテルの宿泊客が起す日常ミステリなどはなし。そっち方面はネタ切れということなのかもしれない・・・とか思ってしまったり。ま、同じホテルでばかり事件が起きそうになるってのがそもそも無理のある話ではありますからね(^_^;)。
新田の他に山岸、能勢、本宮、稲垣とシリーズお馴染みのメンバーが勢揃いなのがやはり読んでいて嬉しいところ。
本の帯には「シリーズ総決算」とあるのですが・・・“総決算”ってなんともボンヤリした謳い文句だなぁ・・・。
成長
シリーズ4作目となる今作ですが、前作の長編『マスカレード・ナイト』から数年が経った設定になっています。これが何年経っているのかが正確にはわからないままでして。作中で「何年も前のことだ」とか「なつかしい」とか言っているので結構経っているのは確かみたいですが。能勢さんも退職間近になっていますしね。
とにかく、シリーズ1作目では生意気でイキった若手刑事だった新田も四十代となり、警部に出世して捜査一課の係長に。1作目での荒ぶりはどこへやら。すっかり落ち着いた大人の男になっています。
今回はホテルでの潜入捜査をかき回す役回りとして、頭は切れるが強引で違法捜査も辞さない女警部・梓が新キャラクターとして登場しているのですが、ホテルに迷惑が掛かりかねない梓の遣り方に反発する新田の言動もうホテルマンのソレ。ホテルマンに扮することを甘く見ている梓警部はまるで1作目での新田の姿を見ているようであり、ホテルマンとしての(ホテルマンではないのだけれども)新田の成長を強く感じることが出来る。それにしても、ホテル内で制服着てソファでふんぞり返ったり仁王立ちしたりする梓警部はどうかしすぎだろうと思いますが。客商売なめてるでしょ。
しかし、梓警部がいるおかげでサブの謎解きがなくっても退屈せずに読み進められる。最終的には梓警部には梓警部なりの矜持があるのだとわかるのですが。でもちょっと人物設定が漫画っぽいというか、定型的過ぎる気がしましたかね。
【ガリレオシリーズ】とかもそうですけど、
作者は最近シリーズものの時間をリアルと差が無いように進めようとしているのですかね。私は東野圭吾作品をすべて読んでいる訳ではないのでわからないんですけども。時代と連動したストーリーを書きたいということなのか。主人公の成長を書きたいということなのか。
私個人としては、シリーズものの主人公がどんどん年取って丸くなっちゃうのってちょっと淋しいなぁと思ってしまうのですが。新田は部下にも捜査協力してくれているホテル側にもちゃんと気配りが出来る大人になっていて好ましいですけどね。1作目のときは「若いから許せる」みたいな人物像だった・・・。
前作のラストで栄転してロサンゼルスへと旅立っていった山岸尚美ですが、三度の潜入捜査で慣れている人間がいた方が良いだろうと一時的に東京に呼び戻されて登場。
正直、この登場のさせかたは結構無理がありましたかね。何年も経っているということなら少し前に異動で戻ってきていたってことで良かったんじゃって気がしますが・・・満を持して登場!感を出したかったのだろうか。
山岸さんは相変わらず真面目で有能なフロントクラークですが、ホテル従業員としてのお客様至上主義と事件を防ぐための警察の捜査との間で板挟みに。怒ったかと思ったらすぐに態度を軟化させてみせるなど、割とブレブレなところが気になる。ま、でも、山岸さんって毎度そうだったかも(^_^;)。
新田と山岸さんの関係性ですが、やはり仕事上の付き合い以上に発展させる気はなさそうですね。二人とも独身のままではあるみたいですが。
じゃあ何で1作目のラストに期待させる描写入れたんだって感じですけど。シリーズとして続けるにはくっつけると支障があるのですかね、やはり。
シリーズ完結?
事件の真相ですが、意外は意外なんですけど、東野圭吾作品だとその“意外性”がもはや想像通りなのでファンには驚きはないかなと思います。
前作もそうでしたが、詳細を犯人の独白で済ませるのは手抜き感がどうしても漂う。
「罪」「罰」「償い」といったものを事件のテーマにしているのなら、もっと踏み込んだ描写が欲しいところですね。
上記したように、単行本の帯に「シリーズ総決算」とある訳ですが、今作のラストはシリーズ完結を匂わせるようなものになっています。
能勢さんも退職だというし、登場人物達も皆結構な歳になったし、これで終わりなのかな~?なのですが、あくまで“匂わせ”に留まっているので、続けようと思えば続けられるように余地があるようにしている?
映像化もされているシリーズだしなぁ。大人の事情が出たらまた出来るようにしているのかと勘ぐってしまう。
今作のラストで新田の立場が変わっているので、続くとしたら今度は今までの警察の潜入捜査というのとはまた違うものになるでしょうから、それはそれで愉しそうですけどね。
今作も映画化されるかもですし、今後の動きに注目したいと思います。
シリーズファンや映画で好きになった人は是非。
ではではまた~