夜ふかし閑談

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『medium 霊媒探偵城塚』ネタバレ解説 ”すべてが、伏線”に偽りなし!驚愕小説

こんばんは、紫栞です。

今回は相沢沙呼さんの『medium (メディウム)霊媒探偵城塚翡翠をご紹介。

medium 霊媒探偵城塚翡翠 (講談社文庫)

 

あらすじ

ここ数年、世間を騒がしている連続死体遺棄事件。判明しているだけで女性ばかり八人を殺害しているとみられる事件だか、犯人はいっさいの証拠も痕跡も残さずに狡猾に犯行を繰り返し、いっこうに尻尾を掴ませない。捜査関係者は途方に暮れていた。まるで死神。死をまき散らす、この世ならざる者。

 

推理作家の香月史郎は、被害者遺族の婦人に犯人を見つけ出してほしいと依頼される。香月が霊能力者と一緒にいくつもの殺人事件を解決しているという、週刊誌やネットでの噂を聞きつけてのことだった。

 

夢物語のような噂話。しかし、その噂は正しいものだ。香月は城塚翡翠という霊媒師の娘と共に、霊媒の力を使って数多の事件を解決してきた。

だが、香月は依頼を引き受けることを躊躇する。翡翠は以前から「防ぎようのない死が、すぐそこまでこの身に近づいているのを感じるのです」と言っていた。香月は連続殺人鬼と相対することでその予感している死が訪れるのではないかという思いに駆られる。翡翠の予感は“絶対”なのだ。

しかし、死神のような殺人犯の脅威となり得るのは翡翠霊媒の能力だけなのではないかとも思える・・・。

翡翠の持っている能力で犯人特定は可能なのか。香月は思考を整理するためこれまでの事件を振り返っていく。

だが、そうしている間にも予感された死は少しずつ翡翠に迫っていた――。

 

 

 

 

 

 

2019年ミステリ界の話題作

『medium(メディウム) 霊媒探偵城塚翡翠』は2019年に刊行された長編小説。

作者の相沢沙呼さんはそれまで映画化もされた小説の神様

 

 

などの青春小説が代表作というふうに認識されていたようですが、元々は鮎川哲也賞を受賞してデビューした本格推理小説畑のお方。

相沢さん自身も、青春モノの方が喜ばれるし、自分にはミステリを書く才能がないのではないかと思い悩んでいた時もあったようですが、“作家になって10年目、自分なりの「本格ミステリ」を書こうと決意しました”とのことで、いずれ書いてみたいと眠らせていた作品を発表したとのこと。

 

また、相沢さんはミステリでもそれまでは「日常の謎」もののジャンルを書いてきたため、「殺人」を扱ったミステリ作品はこれが初なのだとか。

 

そんな満を持して書かれた今作。大ヒットしまして、2019年ミステリ界の超話題作となりました。

第20回本格ミステリ大賞受賞、「このミステリーがすごい!」2020年版国内編第1位、「本格ミステリ・ベスト10」2020年版国内ランキング1位、「2019年ベストブック」(Apple Books)2019年ベストミステリー、2019年「SRの会ミステリーベスト10」第1位と、ミステリランキング5冠を獲得。とにかくミステリ界の話題を攫いまくった凄い作品です。

 

私は相沢沙呼さんの作品を読んだことはなかったのですが、「とにかく長編ミステリ読んで驚きたい気分!」ってなりまして、話題作だったこの本の文庫版が発売されているのを見て購入した次第。期待通りというかなんといいますか、大変に驚愕と満足を与えてくれる作品でした。

 

近年のミステリ界話題作で遠田志帆さんの美しい表紙絵とのコンボは、今村昌弘さんの『屍人荘の殺人』

 

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を連想する人も多いと思います。出版社は違いますが、これ、遠田志保さんに描いてもらったのは意図があってのことだと思いますね。装丁からもう心理的な作用があるようにしているのだろうなぁと。表紙絵は作中の一場面を描いたものとなっています。

 

 

 

 

三つの事件、殺人鬼との対決

今作は霊媒師の美少女・城塚翡翠(じょうづかひすい)と推理作家・香月史郎(こうげつしろう)が織りなす物語となっています。

上記のあらすじの通り、香月が連続死体遺棄事件の犯人特定を依頼されて、翡翠の超常の能力を道筋に香月が論理を構築して解決してきた三つの事件、「泣き女の殺人」「水鏡荘の殺人」「女子高生連続絞殺事件」と順に回想していき、その合間合間に連続死体遺棄事件の犯人・鶴丘文樹(つるおかふみき)の視点が挿入されていて、最終話 「VSエリミネーターで鶴丘と対決するという四話構成。エリミネーターってのは「排除する者」って意味ですね。

 

霊媒の能力という超常現象が前提となっているものの、その能力を元にあくまでロジックで謎を解くという、特殊設定ものの本格ミステリとして物語は展開していきます。

 

しかしながら、特殊設定ものでは重要なはずの超常現象(この本の場合は翡翠霊媒能力)のルール規定があやふやでご都合主義だったり、謎が解かれた後もなんだか所々提示されていた手掛かりが回収しきられてなかったりと、最終話前に語られている三つの事件はいずれも推理小説好き的には釈然としないものが残る読後感となっています。

 

「う~ん・・・ま、連続死体遺棄事件の犯人の正体で驚かしてくれるのかな?」と、不安を感じつつ最終話を読むと度肝を抜かれることになる。三つの事件で感じた“釈然としなさ”は最終話で最高の形で綺麗に回収されるのです。まさに「すべてが、伏線。」本の帯の文句に偽りなしです。

 

個人的に長編ミステリが読みたくってこの本を買ったので、「長編といいつつ連作短編風味か~」と、当てが外れたかもという気にも最初なったのですが、これは決して独立した話の連なりではなく、すべてが計算された上で組み合わされたもの。連作短編などではなく、完全に長編小説としての構成となっています。

 

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~(未読の方は絶対にこの先は読まないで下さい!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香月史郎

この物語は、エピローグ以外はすべて推理作家の香月史郎が語り手となっています。この香月史郎ですが、翡翠に会う前から懇意にしている刑事さんがいたり、事件解決のために捜査協力していたりと、“いかにも推理小説に出て来るキャラクター”といった人物像をしている。

 

霊媒師の翡翠と共に事件を解決していくなかで、二人の関係も“良い感じ”になっていって――な、オキマリだが読者が嬉しくなる展開もしてくれます。

 

意外なのが、この手の人物なら真っ向から否定しそうな霊媒能力を割と簡単に受け入れてしまうところ。

確かに、翡翠が示してみせる能力は「本物なんだ」と信じるに値するものではあるのでしょうが、それにしてもスンナリしたもんです。出会って間もない霊媒師の言葉を前提に推理を組み立てるのですからね。男心をくすぐる美女とはいえ、“霊媒師”なんて、普通胡散臭さが拭えませんよ。ま、美女だとなんでも受け入れてしまうものなのかもしれませんが・・・。

 

読んでいると、香月は推理作家で論理的思考を重んじているが、一方で“死後の世界があって欲しい”という願望を持っている人物なのだと分かってくる。過去の経験からそのような願望を持っていて、死者が視えると謳う霊媒師のことも信じたいのだと。翡翠の言葉を前提に推理し、事件が解決されることで確信を強めていく訳ですね。

 

あと、語り手にもかかわらず何を考えているのかわかりにくい人物でもある。物語の冒頭で依頼を受けるかどうか悩むのもハッキリ言って「なんで?」って感じ。翡翠が危険にさらされるかもと考えるなら単純に断れば良いし、そもそも翡翠に相談もせず依頼を受けるかどうするか決めようとするのも解せない。

 

しかし、これらの香月史郎に対してのモヤモヤ感は最終話の序盤で解消される。連続死体遺棄事件の犯人・鶴丘文樹は香月史郎のことなのだと判明するからです。「香月史郎」はペンネームで、鶴丘文樹が本名なのですね。

 

依頼を受けるかどうか悩んでいるようにみえたのは、実は翡翠を殺すかどうするかを悩んでいる描写で、翡翠とこのままの関係を続けたいという願望と、殺人鬼としての抗いがたい欲求とで悩み苦しんでいた訳です。シリアルキラーですが、香月が翡翠のことを愛おしく想っている気持ちは本当なんですね。

 

けれども結局、殺人鬼の香月は運命が後押ししている気になって翡翠を殺すことを決意してしまう。拉致して縛り上げ、ナイフを振り翳しながら最後に“ある人の霊を降ろしてくれ”と翡翠を脅す。

 

 

 

 

霊媒探偵 城塚翡翠

しかし、絶体絶命のこの状況で翡翠は突如可笑しくてしょうがないという風に笑いだす。そして、香月にとってだけでなく読者にとっても衝撃の告白をするのです。

 

「わたしが、ほんものの霊媒だって、ずっと信じていらしたんですか――?」

 

と。

そう、城塚翡翠はインチキ霊媒。今まで香月に見せてきた超常の力は嘘っぱちで、奇術師として“不可能の演出”をしていたすぎないと言う。香月が何かよからぬことをしているのではないかと初対面でピンときて、探るために近づいた。このような社会の敵を排除するのが霊媒探偵・城塚翡翠の仕事なのです。

 

「わたしは霊媒ですよ。ただの詐欺師であり、その本質は、ただの奇術師でもある・・・・・・。現代の日本では、メンタリストという言葉も認知されていますね。コインマンがコインを弄ぶように、カーディシャンがカードを弄ぶように、わたしは人間の心理を弄ぶ・・・・・・」

 

これまでの事件も、翡翠霊媒の力なんかではなく、推理で誰よりも先に真相を見抜いていて、霊視と称して答えにたどり着くように香月を誘導していた。

 

しかして、翡翠が本物の霊媒師だと信じて滑稽にも脅してまで降霊術をさせようとした香月は翡翠のこの告白を簡単に信じようとはしない。

で、何を始めるかというと、一度解明された三つの事件を、霊媒の力なしで翡翠がどう推理を組み立てたかの説明をしだす。

 

すでに解決している事件を別の視点から解明しなおす。これがこのミステリ小説の最大の特色で秀逸なところとなっています。

“人間は自ら謎を解いたり、秘密を見つけたりすると、愚かにもそこにそれ以上の謎や秘密があるとは考えない”

香月史郎と同様に、読者も提示された謎を解くことで踊らされることになる。疑り深く読んでいるミステリファンは、語り手の香月史郎が連続死体遺棄事件の犯人なのではないかという考えには比較的簡単に至るでしょう。この手の驚き展開は近年のミステリファンは慣れっこになっていますからね。

この大きな謎を「解いてやったぜ!」の後で翡翠のこの告白ですから、ミステリ慣れしている読者も驚愕してしまう。

作者の術中にまんまとはまってしまっている訳ですね。近年流行の特殊設定ものの裏をかく仕掛け。いやはや、おみごとです。

 

タイトルの「medium」は霊媒という意味。霊媒というのは、奇術から生まれました。そして奇術は、霊媒から生まれた」と作中で翡翠が言うように、オカルトの語源は“隠されたもの”

途中のプロセスを隠すことで奇跡を演出する。まさにこの本を表すのにピッタリのタイトルですね。作者の相沢沙呼さんはアマチュア・マジシャンでもあるのだそうで、奇術の本質が描かれた物語なのかとも思います。

 

 

命に危機にさらされているにもかかわらず、殺人鬼の香月相手に煽りまくって嘲笑する翡翠の姿はとにかく痛快で面白いです。愛を育んでいるとみせかけて、その実盛大に騙し合いをしていた二人ですが、自分本位な男性が甘く見ていた小娘に言い負かされ圧倒されるというのは愉快でしょうがないですね。

 

最初、読みながら「あざとすぎる!こんな男性の妄想みたいな女がいるか!」と思っていたので、「なんてあざとい演技だろうと自分で呆れてしまっていました。女性の目から見れば、明らかに芝居だと見抜けるでしょうけれど、ほとんどの男性は信じ込んでしまうんですから、不思議なものです」という翡翠の台詞がとても可笑しかった。「そうそう!そうだよ!」ですね。

 

 

二転三転して読者を驚かしてくれる今作ですが、エピローグでさらにどんでん返しをしてきます。このエピローグを読むと、霊媒探偵・城塚翡翠がさらに魅力的に感じること請け合いです。

これだけの話題作ですから、いずれ映像化されるんじゃないかなぁ~とも思いますが・・・今後に期待ですね。

 

物語の構成上、続編は難しいだろうところですが、すでに『invent 城塚翡翠倒叙集』

 

 

という中編集の続編が発売されているようですので、こちらもまた読んでみたいと思います。

※読みました!詳しくはこちら↓

 

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ではではまた~