夜ふかし閑談

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『扉は閉ざされたまま』犯人・伏見と碓氷優佳の頭脳戦!倒叙モノの有名作 あらすじ・感想

こんばんは、紫栞です。

今回は石持浅海さんの『扉は閉ざされたまま』をご紹介。

扉は閉ざされたまま (祥伝社文庫)

 

あらすじ

大学時代、軽音学部内で酒好きのたちが集まっていたサークルでも特に仲の良い集団だった別名『アル中分科会』。この度、メンバーの一人の発案により、ペンションで卒業後初めての同窓会をすることになった。

伏見亮輔はこの機会を利用し、後輩の新山を殺害する計画を立て、実行に移す。

客室で殺害し、事故を装う偽装をして扉を閉ざし、密室殺人を完成させた。

 

室内で新山が死んでいる事を知らない同窓会メンバーたちは、最初のうちは移動でつかれて熟睡してしまっているだけだろうと放っていたが、いつまで経っても部屋から出て来ず、呼び掛けにも応じない様子に不審を抱き始める。

 

伏見の狙いは朝になるまで密室の扉を開けさせないこと。

閉ざされた扉の前で途方に暮れるメンバーたちを巧みに誘導する伏見だったが、『アル中分科会』メンバーの姉と共に同窓会に参加していた碓氷優佳は、わずかな情報から事件性を感じ取り、扉を開けることを強く主張して――。

 

 

 

 

 

 

倒叙モノ

『扉は閉ざされたまま』は2005年に刊行された石持浅海さんの長編小説で【碓氷優佳シリーズ】の第一作目。

上記したあらすじからも解ると思いますが、ミステリではあるものの、最初から犯人が分かっている状態から始まる『刑事コロンボ』『古畑任三郎』形式の、“倒叙ミステリ”ものとなっています。

 

この『扉は閉ざされたまま』は倒叙モノではかなり有名な作品でして、ミステリランキングやオススメサイトにも良く載っていたので他の本と一緒に数年前に購入したのですが、読まないまま数年間ほったらかしていました。この度やっと読んでみた次第です。

 

私が読んだのは文庫版で、この文庫版には「終章」の後に「前夜」が収録されているのですが、この「前夜」は文庫版刊行の際に加筆されたものらしいです。先に刊行されていた単行本には収録されていないので、要注意ですね。今買うならやはり文庫でしょう。

 

 

2008年には碓氷優佳役を黒木メイサさん、伏見亮輔役を中村俊介さんでWOWOWの「ドラマW」で単発ドラマ化されています。

 

 

この時、二夜連続でこの本の続編である『君の望む死に方』

 

 

 

 

 

の単発ドラマも放送されているのですが、こちらでは碓氷優佳役を松下奈緒さんが演じていてキャストが違います。二夜連続放送なのに何でキャスト変えたんですかね?謎・・・。

 

 

 

 

 

二人の頭脳戦

この小説、もの凄いトリックやら驚きは特にないんですよね。密室の仕掛けも、被害者をどのように誘導したのかも最初の段階ですべて明かしてしまっています。

じゃあ読みどころは何処なのかというと、伏見と優佳の頭脳戦。物語の語り手は一貫して伏見ですが、犯人の伏見の視点で恐ろしいほど頭が切れる美女・碓氷優佳が事件に迫る様子がスリリングに描かれる、犯人と探偵役、二人の頭脳戦に重点が置かれた作品。これぞ“倒叙モノ”といったシンプルなド直球の作品になっています。

 

犯行内容が読者にすべて明かされた状態からスタートしていますが、「動機」「伏見が扉を閉ざしたままにしておきたい理由」が分からないままお話が展開されていく。読者はこの二つの謎を追うべく読み進めていくと。ホワイダニットで読者を引っ張っていく訳で、これもまた倒叙モノのド直球ですね。

 

面白いのは、死体が確認されない、事件発生の有無も分からないままに推理小説としてロジックが展開されていくところ。タイトルの通りに“扉は閉ざされたまま”で物語は進み、犯人と探偵役の攻防に決着がつき、最後に密室が開けられたところで終わるという構成になっています。

 

碓氷優佳は完全に推測だけで事件の発生を確信し、殺人であることとその犯人を断定する。

事件そのものが確認されていない状態なのにすべてを完結させるとは、碓氷優佳は恐ろしい女性ですね。

探偵役であるものの、碓氷優佳はある意味冷たい、通常の倫理観から少し外れた人物として描かれていまして、この設定がラストで効いてきています。

 

 

 

 

動機

最後に明かされる“動機”ですが、これがちょっと釈然としないというか・・・もう少し粘って説得して欲しい!

見切りを付けるのが早すぎるというか。だって、絶対あの被害者そこまで“アレ”に対して頑なな信念なんて持っていなかったろうと思う。“遊び”をやめさせることは出来なくとも、“アレ”を捨てさせることは出来たはずですよ。と、いうか、“遊び”に関しても然るべき手段を使えば社会的に貶めることが十分出来たのではって気が・・・。

殺すくせに被害者に妙な情けをかけている(つもりでいる)のも何だか気に食わない。じゃあ何で殺す決断するんだよ。

 

文庫版の加筆部分である「前夜」は伏見の動機について補強するものなのでしょうが、これを読んでも伏見に共感は出来ないですね。勝手な正義感で突っ走っている人物だなーと。被害者ももちろん最低ではあるのですけどね。

 

 

 

 

“その後”が気になる

この物語の終わり方ですが、個人的には好きな終わり方ではない・・・ですけども、非常に続きが気になる終わり方になっています。単発作品だっていうならそれで納得するのですが、続編があるよってなると、その後どうなったのか知りたい・・・。碓氷優佳は一風変わったタイプの探偵役ですので、後に続くシリーズ作品も型にはまらない独特なものになっているのではと思います。

 

何はともあれ、倒叙モノの魅力がたっぷり詰まった作品ですので、気になった方は是非。

 

 

 

ではではまた~