こんばんは、紫栞です。
今回は桜庭一樹さんの『紅だ!』を読んだので感想を少し。
あらすじ
東京の新大久保駅近くに構える百人町第百ビル一階、元チキン屋の探偵事務所「道明寺探偵屋」。
社員は女子テコンドーの元オリンピック選手・真田紅(さなだくれない)と、元警視庁勤務の黒川橡(くろかわつるばみ)の二名のみのこの探偵社に、一人の謎の少女が飛び込んできた。
チキン屋と勘違いして飛び込んできたらしきその少女は、自らをハイタカだと名乗り、妙な流れから紅にボディーガードを依頼する。大金を所持しており、何者かに追われている“如何にも訳あり”な様子のハイタカを訝りつつも、紅は依頼を受けることに。
同じ頃、「道明寺探偵社」のもう一人の社員である橡は警視庁勤務時代の先輩である藤原から偽札事件の調査を依頼されていた。
大規模な偽札事件と命を狙われる少女・ハイタカ。やがて、二つの事件は繋がり始めるのだが――。
バディものエンタメ小説
『紅だ!』は2022年7月に刊行された長編小説。
長編とはいっても、200ページもないので実質は中編小説ぐらいのボリューム。ライトノベルから一般文芸まで書く桜庭さんですが、今作は書き下ろしであるもののだいぶライトノベル寄りの作品となっているのでより読みやすいです。
男女バディものでミステリエンタメ、ライトノベル寄りということで、桜庭さんのライトノベルの代表作【GOSICKシリーズ】を彷彿とさせる作品ですかね。
【GOTHICシリーズ】はメルヘンチックな世界観で展開されるミステリ小説でしたが、こちらは現在の日本(※作中で描かれているのは2019年11月の数日間)が舞台で、30歳の女性と28歳の男性とのコンビものなので、ファンタジックさのない現実的な物語となっています。
この本を見て誰もが(年代にもよるかもしれないですが・・・)気になるのはこのタイトルだと思いますが、実は皆が思う通りでして、主人公の名前が紅(くれない)なので、XJAPANのあの有名な雄叫びを真似していつも橡を驚かせており、死んでしまった「道明寺探偵社」のオーナー・道明寺葉との思い出の曲が「紅」だということで、作中で歌っている場面もあります。
序章?
読後感はかなり軽いのですが、執筆時期が『少女を埋める』とかぶっていて、作者が問題にも直面していたためか、かなりその影響を受けているように思える。
登場人物の謎の少女・ハイタカの設定はモロで、田舎で少女、「女で頭が良いのも考えもの」という台詞は『少女を埋める』にもあったので、“閉塞的世界での女性差別”について、読者に向けて更にダメ押しでメッセージを送っているのかなぁと。ラストの展開もしかり。
紅と橡の人物設定にしても、女性の紅の方が年上で戦闘能力が高いなど、ジェンダーを意識している感じ。他関係者も、能力が秀でている人は女性だし。
別に悪くはないのですけど、自叙伝・私小説を読んだ後に普通の小説で同じテーマを描かれると、書き手の思想・主張ばかり透けて見えてしまう気がしてちょっと何だかなぁ・・・と、なってしまう。
作品に作者の思いが投影されるのは当たり前のことなんですけどね。
少し童話的な描き方をするのは桜庭さんのいつもの作風ではありますが、30歳と28歳のコンビにしては人物の描き方が幼稚な気がする。ま、現実的には30前後でもこれくらいの子供っぽさがあるものなのかも知れませんが。
偽札事件にしても、そんなに簡単に上手くいくとは思えないのでリアリティはないですかね。
成人コンビで刑事事件を扱う物語なら、もっと一般文芸よりの雰囲気と文章で書いて欲しいなぁと個人的には思うところ。
この物語、「道明寺探偵社」のオーナーだった道明寺葉の死についても謎のままで、紅と橡も葉さんの死でのわだかまりを今回の事件で払拭し、晴れてバディとして再出発ってところで終わっていますので、今作はまだ序章ってな感じなのですが続くのでしょうか?シリーズ化させるつもりなのですかね?
※シリーズといえば、GOSICK の続編シリーズ途中で止まっているけどどうなってんだ・・・。
序章感が強く、まだなんとも言えないのですが、今後があるなら読んでいきたいと思います。
ライトなエンタメで読みやすいので、気になった方は是非。
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ではではまた~