夜ふかし閑談

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『invert 城塚翡翠倒叙集』“あの”メディウム続編!3編あらすじ・感想

こんばんは、紫栞です。

今回は相沢沙呼さんの『invert(インヴァート)城塚翡翠倒叙集』をご紹介。

invert 城塚翡翠倒叙集

 

まさかの続編

こちら、ミステリランキング5冠を獲得し、2020年のミステリ界で話題を攫いまくった長編小説で2022年10月から連続ドラマ化も決定した『medium霊媒探偵城塚翡翠

 

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の続編で、霊媒師の城塚翡翠が探偵役として活躍するミステリ中編集。前作の仕掛けが仕掛けなので、ネタ的に続編は難しいだろうと読者の誰もが思ったことでしょうが、まさかの続編です。

 

タイトルの「invert」(インヴァート)は逆さ・裏返し・反対・逆転という意味で、倒叙推理小説は英語で「invert detective story」と書く。今作は3編収録の中編集ですが、すべて犯人視点で物語が進行する倒叙モノに特化した本になっています。

 

この本を読むとやはりどうしても前作のネタバレはくらってしまうので、絶対に先に『medium霊媒探偵城塚翡翠』を読まなければダメ。もう、絶対、絶対に読む順番は間違えないようにして下さい!一作目の驚きが台無しになります。

今作の最初にも

*この作品は『medium霊媒探偵城塚翡翠』の結末に触れています。未読の方はご注意ください。

と注意書きもありますので。とにかく厳守で。

 

 

 

 

 

 

 

各話・あらすじ

 

上記の理由で、前作を読んでいない人はこれから紹介するあらすじにも注意ですので悪しからず。

 

 

●雲上の晴れ間

ITエンジニアの狛木茂人は、幼馴染みで会社社長である吉田直政を自宅風呂場での事故に見せかけ殺害する。念のために死亡推定時刻に“社内にいなければ絶対に出来ない作業をしていた”という鉄壁のアリバイを用意し、無事事故で処理されそうだと安心していた狛木だったが、隣の部屋に越してきた美女・城塚翡翠が「私には霊感がある。あなたの部屋を訪ねたときに男の人の霊が視えた」と言い出して――。

 

わざわざ隣人のふりして近づく翡翠。恋愛慣れしていない若い男性という、非常に翡翠が手のひらで転がしやすそうな犯人で、実際モロに思いのままになっている。まったく、こんな都合良く男性の妄想みたいな女子が好いてくれる訳ないだろうに。気が付きなさいよ。

最後、「女性というのは、恐ろしいですね」と言う狛木に対し、翡翠が「女性が恐ろしいのではありません。わたしからすれば、男性が愚かなのです」と返答しているのが正にって感じ。

アリバイトリックはプログラミングに関するものですが、専門知識がなくても容易に解けるものになっていますかね。なので、物証当てがメインの物語となっています。

 

 

 

●泡沫の審判

小学校教諭である末崎絵里は、元校務員で卑劣な犯罪行為を繰り返している田草明夫を夜の学校で殺害する。窃盗目的で学校に侵入し、逃げる際に転落死したのだろうと警察が判断しようとしたところに城塚翡翠が現われ、「これは、殺人事件です」と断言。翡翠は事件を探るためスクールカウンセラーとして小学校に潜入し、末崎を苛つかせて揺さぶりをかけるが――。

 

わざわざスクールカウンセラーになって犯人に近づく翡翠。事件解決後も契約期間終了までは勤めるというのだから、ようやる。

頭の硬い女性教諭が相手ということで、いつものぶりっ子キャラとは変えるのかとも思いましたが、いつも通りのキャラクター設定で犯人をイライラさせることで揺さぶりをかける戦略。女性視点だと翡翠のあざと女子の振る舞いは本当にイラッとくる。男性視点だと「バカだなぁ、男って」なんですけど。

卑劣なことをしている田草から子供たちを守りたかったという犯行理由なのですが、殺さなくっても何とでもやりようがあっただろうとどうしても思ってしまう。末崎は自分が盗撮された写真が警察に見られるのも承知の上での犯行をしているので、田草の脅迫が恐ろしかったという訳でもないだろうし、余計に。

 

 

 

●信用ならない目撃者

元捜査一課の刑事で、今は表向き探偵社の社長をしながら裏で脅迫によって荒稼ぎをし、“犯罪会のナポレオン”とも喩えられる雲野泰典は、裏家業の事実を知った部下の曽根本を殺害する。

捜査一課時代の知識と経験を駆使し、自殺に見せかけた完璧な殺害計画を実行した雲野だったが、向かいのマンションの住人に犯行を一瞬目撃されたかも知れないという懸念が残った。すると数日後に、会社に刑事と共に訪ねてきた捜査協力者で殺人事件ではないかと疑う城塚翡翠から「男が拳銃を手にしていたという目撃証言がある」と聞かされる。しかし、目撃者は決定的な場面は目撃しておらず、酒で酔ってもいたため証言は曖昧らしい。

現場には証拠はなにひとつ残されていない。事件を左右するのは目撃証言のみ。

雲野と翡翠はそれぞれに目撃者の女性に接触。目撃証言を巡る闘いが始まるが――。

 

男性の犯人であるものの、犯罪慣れしていて(※殺人を犯すのはこの事件が初)、年齢高めで人生経験豊富、霊能力もまったく信じていないしで、翡翠の今までのキャラクター設定で懐柔するのは困難な相手。読んでいて「そうだよね、チョロい男性ばっか出してる訳にいかないよ」ってなった(^_^;)。

目撃者は涼見梓という30代の女性なのですが、目撃したものを思い出してもらおうとする翡翠と、勘違いだったと思わせようとする雲野とで目撃者へのアプローチ合戦をするのが主となっています。

普通は目撃者にわざわざ近づくのは犯人の立場からするとリスキーだろうところですが、雲野は“犯罪会のナポレオン“とかいわれて犯罪者として(?)自信に満ちあふれるので(目撃されている時点でどうなの?ですが)、大胆にも目撃者に恋愛的アプローチをしちゃう。やめときゃいいのに・・・。

 

収録されている作品の中では一番ページ数があり、先の2編のほぼ倍の長さ。この中編集のメインともいえるお話で、仕掛けの驚きもふくめてもっとも“城塚翡翠らしい”ものとなっていて読みごたえもあります。

 

 

 

 

 

 

以下、若干のネタバレ~※事件の真相には触れていません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カマトト探偵

今回の中編集は倒叙に特化しているからなのか、日本人の間では倒叙モノで一番馴染みがあるだろうミステリドラマ古畑任三郎へのオマージュが多々あります。

 

3編ともパターン化されていまして、犯人が殺人を犯すところからスタートし、主に犯人の視点で物語が展開されるなかで、翡翠と世話係兼助手である千和崎真の二人の会話がちょこちょこ入る。最後の解決編で犯人と翡翠で1対1の対決。エピローグで翡翠と真の会話で終了という流れ。

 

解決編の前には翡翠から読者への挑戦状のような芝居がかった口上があるのですが、古畑任三郎を意識したというか、翡翠がわざとらしく真似していまして、部屋の明かりも一々消したりする。

独特のキャラで犯人を苛つかせつつ揺さぶりをかけるのも古畑的ですかね。

 

 

翡翠と真、女性二人のコンビ色が強い作品にもなっています。

 

今作は前作の『medium霊媒探偵城塚翡翠』の続編ということで、読む前から読者の期待のハードルがむやみに高くなってしまっています。

前作が驚愕の仕掛けで読者をアッと言わせているぶん、どうしても前作と同等レベルの驚きを続編の今作に期待してしまうのですね。

 

正直、前作ほどの衝撃はないのですが、今作は3編目の「信用ならない目撃者」に前作と同種の驚きを与える仕掛けが施されています。

「信用ならない目撃者」でのミステリ要素が突出しているのはもちろんですけど、先の2編「雲上の晴れ間」「泡沫の審判」倒叙モノとしては正統派、言うなれば“普通の推理小説”なのがこの本の最大の引っ掛けとして作用している。

二つ続けて正統派を読んだ後なので、3編目も同じようなミステリなのだろうと思ってしまうのですね。

 

先の2編も推理小説として充分に完成されたものなんですけど、3編目を読んで“城塚翡翠”で読者が期待するミステリが得られて「やっぱり最後にやってくれましたか」となる。

 

個人的に、翡翠の“霊媒探偵”としての特色が薄いのが少し残念でしたね。奇術のシーンや怪異に見せかける演出なども今作ではさほど披露していないので、霊媒探偵”というより、抜群の容姿を駆使してぶりっ子を演じることで相手に取り入る、もしくは苛立たせて油断させる“カマトト探偵”といった感じ。

作中でも真ちゃんに

「殺人鬼と恋愛ごっこをすることでスリルと快感を得るドS探偵」

とか言われちゃっていますが、なんか、本当にそうだなと。

 

それもあってか、前作以上に翡翠の口調とかに本気でイライラしてしまった。相手を煽りまくる態度は前作では状況が状況だったので爽快さがあったのですが、今回は最初からネタが割れている状態ですからねぇ・・・。人によってだいぶ好みが分かれる人物像になっていると思います。

苛立たせるために効果的だとして「はわわ」「あれれ」などと言うのですが、現実でそんな口調をやられたら、男女問わずにおかしい人だと距離を置かれると思う。(私はコ○ン君が「あれれ~」と言うのも毎度少し苛ついてしまう)

いくら美人に言い寄られて浮かれ頭の男性でも一気に冷めるでしょうに。

それともこれがリアルで、愚かな男性はわざとらしすぎるあざと女子も見抜けないものなのでしょうか。そうなら、とても嫌な現実ですけども・・・どうなのでしょう?

 

 

翡翠と真のやり取りも漫画的というか、わざとらしさがあって私としてはちょっと「うーん」だったのですが、真が翡翠の世話係兼助手になった経緯がそれなりに何かありそうなのにまだいっさい明かされていないので、シリーズはまだ続けるつもりなのかもしれません

・・・・・・・と、思っていたら、2022年9月18日にこのシリーズの第三弾が発売予定だそうです。

 

タイトルが「invert」なので、また倒叙もののようですね。

 

この手の仕掛けの推理小説は冊数を重ねるごとにハードルが上がって作者的に苦しくなりそうですが、相沢沙呼さんの手腕に期待したいですね。ドラマも放送されることですし。

 

 

前作『medium霊媒探偵城塚翡翠』を読んだ方はこちらの続編も是非。

 

 

ではではまた~

 

 

 

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