夜ふかし閑談

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『濱地健三郎の呪える事件簿』シリーズ第3弾!コロナ禍での怪異6編 あらすじ・感想

こんばんは、紫栞です。

今回は有栖川有栖さんの『濱地健三郎の呪(まじな)える事件簿』をご紹介。

濱地健三郎の呪える事件簿 濱地健三郎シリーズ (角川書店単行本)

 

シリーズ第3弾

こちらは心霊探偵・濱地健三郎と助手の志摩ユリエが様々な怪異と対峙していくシリーズ【濱地健三郎シリーズ】

 

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の第3弾。2022年9月に刊行されました。

 

前作『濱地健三郎の幽(かくれ)たる事件簿』から約2年ぶりの刊行。

 

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前の2冊同様、お化け好きの為のエンタメマガジン「怪と幽」にて掲載された短編をまとめたもので、今作は2020年8月~2022年4月に執筆された6編が収録されています。

前の2冊ではそれぞれ7編収録されていましたが、1話ごとのページ数が少し増えたため今作は6編の収録になったのだそうな。とはいえ、各話40ページほどなので読みやすさは相変わらず。

 

今作は執筆された時期が強く反映されている短編集になっていますので、前の2冊とはまた違った雰囲気の1冊にもなっています。そのおかげか濱地先生の意外な部分なども垣間見せてくれる本になっていますので、ファンは必見ですよ。

 

 

 

 

 

 

 

目次

 

●「リモート怪談」

ユリエが濱地先生の事務所に来る前に勤めていた興信所でお世話になった先輩とのリモート飲み会で、先輩が体験した怪談話をユリエに語るというもので、タイトルそのままのお話。

 

コロナで最初の緊急事態宣言が出たばかりの頃が舞台。この時期は通常の撮影もままならないということで、リモート通話設定ものの実験的なドラマなどが多数制作されていたなぁ~とこの話を読んでいて思い出した。

怪談の内容はこの手のものだとありふれた部類のものですが、ユリエの対応の仕方が心霊探偵助手としての成長を感じさせるお話。ユリエが濱地先生の事務所に勤める事となった細かい経緯も作中で語られています。

作中で「怪談話は誰も傷つけない」と出て来ますが、「・・・そうか?」ってなる。人によっては聞かされることでダメージを受けることもありますよねぇ。

 

 

 

●「戸口で招くもの」

東京都心から五十キロほど離れたとある村。所有している小屋に数日前から誰かが勝手に住み着いているようだと隣人から聞いた岩辻老人。確認しに小屋に行ってみると、戸口でおいでおいでの挙動をする頭と両手首のない幽霊が。岩辻老人は心霊探偵・濱地健三郎にどうにかしてくれと依頼する。

 

今回収録されているものの中では一番本格推理もの要素が強いお話。コロナ禍という特殊な状況下がフルに活用されたネタで、この嫌な状況も本格ミステリで作品として昇華させることが出来るのねと感服。

幽霊なので見落としてしまうところですが、“首なし死体”は推理モノ界隈での十八番ですしね。怪談と本格ミステリが見事に融合したお話だと思います。

最後の場面が次のお話の前フリになっていてこのシリーズだと新鮮。

 

 

 

●「囚われて」

岩辻老人からの依頼を解決させた後、ユリエと濱地が事務所の留守電を確認するとおぞましい声で「タ、ス、ケ、テ」というメッセージが残されていた。果たしてこれは何処の誰からのSOSなのか、何故心霊探偵の事務所にかかってきたのか。事は一刻を争うと二人は必死に考えを巡らす。

 

ユリエの恋人・進藤君も活躍するお話。進藤君はこういった緊急を要する状況下で非常に頼りになる存在として毎度登場しているなという印象。

コロナ禍のせいかどうかは分かりませんが、恋人といいつつ二人の仲はさほど進展しない。読者がびっくりするぐらいスローペースですけれども、二人とも今の緩やかな感じで満足しているようです。

前編から続いての展開だったので本全体で連作的流れになるのかとワクワクしたのですが、普通に終わったので少し拍子抜け。

無自覚に“引き寄せちゃう人”話ってよく聞きますけど、本当にいるんですかねぇ・・・。

 

 

 

●「伝達」

緊急事態宣言解除後、おでん屋で食事をした帰りにパトカーのサイレンを聞きつけた赤波江刑事。現場に行ってみると、悪戯によって道路に張られたロープで自転車に乗った被害者が重傷を負ったという事件だった。

赤波江が運ばれていく被害者のポケットから落ちた財布の中身を確認してみると、箸袋に八桁の数字が。それは濱地探偵事務所の電話番号だった。気になった赤波江は被害者のことを調べ始めるが――てなお話。

 

いつも濱地先生に便宜を図ってくれる赤波江刑事ですが、今回は赤波江さん初の心霊探偵への依頼話。

信じがたい偶然の連なりによって濱地先生のところに依頼がくるまでを描いているもので、なるほど、毎度の依頼人たちもこういった経路で濱地先生に行着いているのかと知らされる感じ。ホームページもないし、宣伝している訳でもないが、濱地健三郎の力を必要とする人は導かれるように事務所の電話番号を入手出来るという“アレ”です。

あまりにも何か図られたような偶然ってのは確かに恐いかもしれない。

 

 

 

●「呪わしい波」

妻に先立たれ、一人で古物商を営む苑田亘輝。昔から金縛りに遭いやすく、只の現象だと慣れっこになっていた苑田だったが、店の土地を売れと不動産屋にしつこく迫られるようになってから、これまでとは違った金縛りに毎晩遭うようになった。久しぶりに訪ねてきた娘の未紀は病人のように窶れている父に驚き、金縛りが関係しているのではないかと心霊探偵・濱地健三郎に依頼をする。

 

金縛りの方に引っかかってしまうところですが、小道具屋ってことで道具絡みの怪異もの。

「世の中には奇妙な犯罪の手助けをする奇妙な仕事がある」んだそうで、新手の犯罪が描かれている。

この話で出て来たカンナギ開発やアドバイザー、設定的には濱地先生と敵対する立場なので、また登場することがあったらシリーズとして面白いかもとか思うのですが・・・どうなのでしょう。再登場にチト期待。

 

 

 

●「どこから」

看護師の野沢季久子は霊的なものを視ることは出来ないものの、その存在を皮膚感覚で知る能力を持つ。

原因不明の高熱にうなされる患者を見て霊的なものを感じた野沢は心霊探偵・濱地健三郎に相談。濱地はユリエと共に患者が一人で住んでいるという屋敷を訪れる。

 

お屋敷での展開前にキャンプ場での怪異譚もあるこちらのお話、「どこから」というタイトルのように、はっきりした原因が判らずじまいの何やらつかみ所がないエピソードとなっています。

理由がわからないままに終わるのもまた怪談の定番ですね。わからないからこその恐さ。ミステリ要素は少なく、完全な怪談。

珍しく濱地先生が怪異相手に苦戦しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コロナ禍での心霊探偵

年齢不詳のダンディな紳士であり、霊能力と推理力を兼ね備えた名探偵・濱地先生が活躍する怪異譚も今作で20編以上に。※『幻坂』での濱地健三郎登場回を入れると22編。

 

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結構な本数となり、怪談と本格ミステリの狭間を揺れ動くシリーズの独特スタイルにも読者として慣れてきたなといった感じ。

 

それは助手で物語の主な語り手である志摩ユリエも同様なのか、前作まではまだ濱地先生と共に怪異にふれることで霊能力が徐々に開花している自身に戸惑っていたものですが、今作ではもう“慣れたもの”となっていまして、もはや完全に濱地先生と同じ“視える側の人間”として板に付いてきています。心霊探偵の助手として着実に成長しているなと。

 

上記したように、今作で収録されているのは2020年8月~2022年4月に執筆されたもの。この間に現実世界で何があったかというとズバリ、コロナウィルス感染拡大によるパンデミック(ま、今も終わってはいないんですけどね・・・)

作中時間はリアルタイムで進むが、メイン二人は永遠の34歳である“サザエさん方式”が採用されている【作家アリスシリーズ】でも『捜査線上の夕映え』でコロナ禍を描いていましたが、

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今作で濱地先生もコロナ禍で起こる心霊事件と対峙していると。

 

【学生アリスシリーズ】で過去、

 

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【ソラシリーズ】で〈もう一つの日本〉というパラレルワールド的舞台なども描いてきた有栖川さんですが、

 

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コロナ禍が真っ向から描かれていることで【作家アリスシリーズ】のアリスと火村先生同様、【濱地健三郎シリーズ】も現代が舞台で、濱地先生とユリエは読者の私達と同じ「今」を生きる人物なのだと強く印象づけられます。

 

商売柄、コロナ禍で濱地探偵事務所が経営難になるなんて心配はご無用なのですが、人間界での緊急事態宣言やステイホームはお化けの世界にも妙な具合に影響している模様。今までにない大変な状況を逆手にとったような怪異と謎解きを愉しむことが出来ます。

 

コロナ禍が心理的に影響を及ぼしたのか、いつも超然としている濱地先生が焦って苛つく、恐れの感情をユリエに吐露するなど、人間的な部分をみせてくれるのも今作の見所の一つ。

 

便利で都合の良い設定だなとか思っていましたが(ごめんなさい)、不可思議な作用によって依頼人がどんどん送り込まれてくるって普通に恐いですよね。

使命感的なやりがいもあるでしょうが、超然的なものに支配されているかのようで恐怖ですよ。いつか解放してもらえるあてもありませんし。

 

 

シリーズとしての成長と“今だからこそ”の面白さも兼ね備えている1冊ですので、ファンはもちろん、少し気になった方も是非。

 

 

 

ではではまた~