夜ふかし閑談

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『ルー=ガルー2』続編!ネタバレ・解説 これは“あの作品“の完結編でもある?

こんばんは、紫栞です。

今回は、京極夏彦さんの『ルー=ガルー2 インクブス×スクブス 相容れぬ夢魔をご紹介。

文庫版 ルー=ガルー2 インクブス×スクブス 相容れぬ夢魔 (講談社文庫)

 

あらすじ

二十一世紀半ば。日本のとある都市で十四五歳の少女ばかりが狙われた禍々しく陰謀めいた連続殺人事件から三ヶ月。

犯人に捕らえられたものの九死に一生を得た二少女・来生律子のもとに、ともに拉致監禁されてあの夜を共に過した少女・作倉雛子が訪ねてきた。雛子は毒が入っているという小瓶を律子に託して姿を消す。

一方、刑事をやめた橡は三ヶ月前の事件で奔走した少女のうちの一人・神埜歩から過去の事件に関しての話を聞き、真相究明のため独自に調べ始める。

 

それと同時に、町では児童たちの突然の凶暴化、未登録住民の暴動など事件が多発。橡と少女たちはまたもおぞましい事件に巻き込まれていく。

一連の騒動は“未知なる毒”がもたらしているものなのか?

 

――呪いを解き放とうとする時にこの毒を使え。

 

 

 

 

 

 

 

 

近未来武侠小説第2弾!

こちらは2001年に刊行された二十一世紀半ばの近未来が舞台の長編小説『ルー=ガルー 忌避すべき狼』の続編。※前作について、詳しくはこちら↓

 

www.yofukasikanndann.pink

 

刊行されたのは2011年で、前作から十年経ってからのまさかの続編でした。続編が出ると聞いたときはファンながら予想外で驚いた記憶が。

 

現実世界では十年経っているものの、作中設定は前作の事件から三ヶ月後が舞台。

前作で拉致監禁されていたところを助け出された被害者で本当にチラッと登場していた少女・来生律子の視点と、前作でカウンセラーである不破静枝と共に行動していた刑事・橡兜次(今作では刑事を辞めている)の視点とで交互に描かれる構成となっています。

 

前作との繋がりはもちろんですが、“とある毒”が物語に密接に関わっているということで他シリーズとの繋がりにも注目の1冊です。

 

前作での語り手だった牧野葉月不破静枝の出番はちょっと少なく感じますが、神埜歩都築美緒麗猫(レイミャオ)は前作同様にドタバタと大活躍。

 

特に、美緒の天才っぷりには今作でも頼りまくり。デジタルによる完全な監視社会なので、それを突破できる天才がいないと活劇も何も始められないんですよね。もちろん、“ルー=ガルー”も終盤めちゃくちゃな強さで貢献。麗猫は今回橡さんとのやり取りが多い。

 

引っ込み思案だった葉月は前作よりも若干行動力が増し、ツンツンしていた静枝は人前で笑顔を見せるようになっています。前作と同じ店で橡と食事するシーンもありますよ。

 

少女たちの大立ち回りだけでなく、ミステリ部分もかなりの読み応えがありますので、前作以上に京極ファンの期待に応えてくれる続編となっています。

 

 

前作は最初の単行本は徳間書店からの刊行だったのですが、今作は講談社からの刊行だったのですが、この本は出版史上初の

単行本

 

ノベルス

 

 

分冊文庫版(上下巻)、

 

 

電子書籍(二分冊)、

 

と、4形態での同時発売でした。

 

正直、「いったい何故・・・」って感じでしたが、当時はまだ今ほど世間に電子書籍が受け入れられていなかったので、出版社側で広めたいという意図があったのですかね。

ノベルス版は1400円、文庫が上下巻で各700円、電子書籍も二分冊で各700円だったので単行本以外の3形態は実質同じ値段ですね。3200円の単行本は記念品的な位置付けなんだろうなと。

 

今は1冊にまとまっている文庫版と電子書籍が出ています↓

 

 

相当なファンじゃないと同時発売なのにわざわざ値段が倍以上の単行本買わないですよね・・・。発売当初も本屋さんに置いてあるのをなかなか見なかった。

私は講談社ノベルスが大好きなのでノベルス版で買いましたよ。

 

 

 

 

 

 

“あの”毒を巡る物語

前作は牧野葉月をはじめとした四人の少女たちと、カウンセラーである不破静枝と刑事の橡兜次の大人コンビとで同時進行で展開されるものでしたが、今作は前作で少し登場していた来生律子と作倉雛子が主で、橡が事件を独自で調べつつ前作の少女たちと関わっていくストーリー展開。

前作は「少女たちと大人コンビ」って感じでしたが、今作は「少女たちと一人の中年男性」って感じですね。

 

来生律子は関西弁のバイクいじりが好きな少女(この時代、バイクは骨董品扱いになっているという設定)で、作倉雛子は占いを嗜む(?)いつもゴスロリちっくな黒ずくめの格好をしている“お葬式娘”。

律子が雛子から毒が入っているという小瓶を託されたところから物語は始まる。

 

 

物語が進むにつれ、この毒は“経口摂取せずとも吸収され人を死に至らしめる”、一滴垂らすだけで殺すことが出来るという、第二次世界大戦時に軍隊が“ある人物”に開発させた毒薬、暗号名『しずく』の製法を元につくられたものだと判明する。

 

これは邪魅の雫で一連の事件の発端となった“あの毒”ですよ。

 

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前作同様、百鬼夜行シリーズ】と密接な繋がりがあるという訳ですね。

 

邪魅の雫』を読んだ人なら「え?あの毒は物語の最後に破棄されていたはず・・・」となるところだと思いますが、あの毒の特殊な浸透性に着目したとかで、製法がまた妙な具合に受け継がれてしまったらしい。この毒が絡んでいるのですから、もちろん“あの”大企業が物語に関与していますよ。

 

前作は結構マニアックな繋がり方でしたが、今作は「毒」と出て来た時点で京極作品ファンなら序盤から(なんなら本の裏表紙の説明や帯で)すぐにピンとくるかと。

 

 

橡さんの方は前作で自身の過去のトラウマ話(?)として静枝に語っていた、「仲が良かった同級生が、女児を殺害後に自分の家族を皆殺しにした」という話の、その友だち・霧島タクヤが、前作で神埜歩が“行き遭ってしまった”男だったという事実を知り、三十年前の事件に疑問を抱いて調べ始める。

 

律子と雛子が主となるのもそうですが、橡さんの過去話がこんな風に繋がるのも読者としては盲点。前作から十年空いているとは思えない計算された繋がり方で感服ものです。

 

正直、今作発売当初は「前作の内容忘れちゃったよ~」って人も多かったと思いますけど、既に読んでいて忘れてしまった人は再読して、これから読むよって人は一作目完読後になるべく期間を空けずに今作を読んで欲しいですね。

なんせ、作中設定では前の事件から三ヶ月後なので。

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ含みます~(※『邪魅の雫』のネタバレも含みますのでご注意)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢魔

タイトルにインクブス×スクブス 相容れぬ夢魔と付いていますので、今作もまた近未来設定ではあるものの京極的妖怪小説です。

 

インクブスとスクブスは古代ローマ神話とキリスト教で語られる悪魔の一つで、人に姿を変えて人と交わる淫魔のこと。男性の淫魔をインクブス、女性の淫魔をスクブスと言う。眠っているところを犯すことから「夢魔」とも呼ばれる。

 

淫魔と言われるとどうしても性的なイメージが強くなりますが、そういった要素もあるものの、この物語で着目されているのは「夢魔」という呼称の方ですね。

 

今作でインクブス、スクブスはそれぞれ毒の名前として出て来ます。このインクブス、スクブスの存在によって、荒唐無稽な「夢」をみた人々が陰謀やら狂気やら妄執やらを炸裂させて事件を引き起こす。

 

人を犯す「夢」。魔、邪に魅入られし夢。その発端はあの『しずく』。

 

ただ繋がっているというだけでなく、今作は邪魅の雫』を踏まえた上での物語となっていると。

 

 

邪魅の雫』で出て来た「神崎家」。困ったことに、百年経ったこの世界でも忌まわしい事件を起してくれちゃっている訳でして。本当に人間の業は深いといいますか。

 

神崎家の人間である雛子の祖父は、DNAを強化して体内時間が十倍に変化する「インクブス」と、その還元剤としてDNA情報を凡て書き換える作用を持つ「スクブス」、相反する薬(毒)をつくり、死に際にそれぞれを二人の孫に託した。

 

相反するものをそれぞれ別の人間に託して結果を委ねるという行為は、『邪魅の雫』での神崎宏美の行為と似通っている。

 

行動実験ともいえるものですが、その実は「どっちつかずで、直接的な行動も判断も自分では出来ないから、他の人間に丸投げしてしまおう」ってな具合の、中途半端で無責任なものです。

 

そのせいで「夢」に取り憑かれることとなった人々が方々で画策して前代未聞の大事となったのですが、雛子の祖父の本来の望みは「神崎家の血を絶やすこと」

雛子の祖父が置かれた状況としては、その望みは一人息子が子供を作る前に殺せば容易く達成されるものでしたが、さすがに実子を殺害するなどということはしたくなかった。

それで遺伝子情報を書き換る研究に没頭してしまったと。

 

 

 

 

 

「雫」の呪いを解き放つ

「なんだ、そのあさっての方角の考え方は」って感じですが、なまじ『しずく』があったせいでそんな方向にいってしまったのですね。

研究のために未登録住民を使って違法な人体実験をしているし、結局は投薬実験で息子を殺すことになってしまうのですが。

 

忌まわしいものだと分っていながら毒の完成を目指してしまう――これを先祖がした行為と結び付け、雛子の祖父は「邪なモノにどうしようもなく誘惑されてしまうのは神崎の血のせいだ」と考えて、血統をどうしても残したくないと思ったのでしょうか。

 

「ケットウなあ」

くだらねーと美緒は草を蹴った。

「そんなもんで人間が決まると考えること自体が犯罪的に頭悪いよ。そんなもん関係ねーよ。そんなもんに拘るからアホなことが起きるんじゃないか」

 

まったく、「そのとウりだ!」ですけれど。

 

 

そんな訳で、今作は『ルー=ガルー 忌避すべき狼』の続編であると同時に、邪魅の雫』の続編であり完結編でもある。今作で神崎家の呪いは完全に解かれるのですからね。

 

 

 

 

『ルー=ガルー3』はあるのか?

物語の中盤で公安のヒゲオヤジ・小山田さんという“如何にも”な人物が登場し、終盤では「皆今後は私の監視下に入り働いてもらう」などと言っていることから、さらなるシリーズ化を期待させる終わり方をしているのですが、この本が刊行されたのは2011年。そして今は2022年。

 

十年以上経ちましたが音沙汰なしです。

 

ファンとしては『ルー=ガルー』のシリーズ続編より、ずっと予告されている【百鬼夜行シリーズ】の新作を出してくれ!ではありますが、『ルー=ガルー』は特に【百鬼夜行シリーズ】との繋がりが強いもののようなので、新作が出れば連動して『ルー=ガルー3』も出るかもやもしれないですよ。なので、新作!お願いします!ですね。

 

 

京極作品ファンとして、めげずに色々新作を楽しみに待ちたいと思います!

 

 

 

ではではまた~