夜ふかし閑談

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『犬神家の一族』NHK2023年ドラマ 新解釈?なラストについて

こんばんは、紫栞です。

今回は、2023年4月22日、29日にNHKで放送されたドラマ犬神家の一族について感想を少し。

 

犬神家の一族 前編

 

横溝正史の代表的シリーズである金田一耕助シリーズ】

 

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おそらく日本でもっとも映像化されている探偵小説シリーズであろうこちら、各テレビ局、様々な俳優でドラマ化されてきている訳ですが、NHK版は2016年の『獄門島からドラマスペシャルでの単発放送の形式で続いてきており、2018年の悪魔が来たりて笛を吹く、2019年の八つ墓村ときまして、今回満を持して(?)の犬神家の一族です。

 

主演は吉岡秀隆さん。NHK版は、第一弾の『獄門島』は長谷川博己さんでしたが、第二弾の『悪魔が来たりて手笛を吹く』以降は吉岡秀隆さんが金田一耕助役をされています。吉岡秀隆金田一としては三作目ってことですね。

 

なんと、吉岡秀隆さんは映画・ドラマを合わせると27代目の金田一耕助となるのだとか。どんだけ映像化されてきているんだって感じですね。

NHK版のこのシリーズは映画テイストの重めな映像と演出が特徴。金田一耕助像は石坂浩二版や古谷一行版で作られてきたイメージが割とそのまま。吉岡秀隆さんだと“人が良さそうな感じ”が強くなっていますかね。

 

 

犬神家の一族』は原作ですとシリーズ六作目の長編ですが、文庫本の著者紹介文によると“爆発的横溝ブーム”が起こったきっかけが1976年の市川崑監督による映画

 

 

だったので、シリーズの中で一番の代表作的扱いになっていて、映像化の回数ももっとも多い。

 

やり尽くされている名作なのですが、今回は数々の有名アニメ作品やドラマ岸辺露伴は動かない

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などで有名な小林靖子さんが脚本を手掛けるとのとこで、どのように料理されるのかと楽しみにしておりました。

 

 

 

以下ネタバレ~(※原作の内容についても触れております)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず、驚きだったのは放送時間。前篇後編と二週にわたっての放送で、それぞれ1時間半ずつ、合わせて三時間使ってのドラマになっていたことですね。

 

観る直前まで、てっきり二時間一本の放送だと思っていました。今までの『犬神家の一族』の映像化作品は基本二時間でしたからね。三時間だとちょっと単調になるのではと危惧したのですが、よくよく考えてみると死亡者数が多い事件なので、丁寧にやるのならこの長さになるのかも知れない。

基本的に原作に沿ってはいるのですが、愛憎部分に主軸を置いて作り替えられたものとなっているので、空間や演技の“間”を大事にした結果ってことですかね。

 

 

原作や他映像作品と大きく違うのは、すべて佐清の策略によるものだったという真相。財産をすべて手に入れるため、母親の松子と戦友だった青沼静馬の愛を利用したという。

 

これは完全にこのドラマオリジナルのラストですね。原作の青沼静馬はかつて母を酷い目に遭わせた犬神家への憎悪と顔に負った傷で歪んでしまった人物として描かれていて、例の入れ替わりトリックも佐清を脅して静馬が扇動して行なっていたものでしたが、このドラマでは静馬は母の愛を欲している純粋な人物として描かれていました。佐清は母の犯罪を目撃して動転している風を装いながら実は都合良く操っていたと。

 

原作のラストって、犯人の松子が自白の末に自殺、昔から想い合っていた佐清珠世が結ばれ、大団円!ってなものなのですが、自分は死んでしまうものの、結局息子に財産を相続させたかった松子の思い通りの顛末となっているし、人殺しによるお膳立てで二人は幸せを手にしました!めでたしめでたし~!って、なにやら釈然としない。

 

なので、この最後に思わぬ悪意が垣間見えるドラマオリジナルのラストの方が、この陰惨で重いストーリーには合致しているし自然だという気もする。

 

財産を自分の息子に相続させたいという松子の犯行動機は、息子を想ってというより、息子を自己実現の道具にしている印象が強く、「佐清としてはこのような強烈な母親に長年辟易していたのではないか?」と考察することも出来るし、原作の解釈の一つとして示されているのかも。

 

とにかくやり尽くされている作品なので、これぐらいの“別エンド”があってもいい気がしますね。「原作と違う!」と腹が立つ気は起きませんでした。

大胆なアレンジだけでなく、戸籍関係や原作の不自然な部分など、細かい部分も修正して上手いことまとめているなぁと。

 

 

三時間と丁寧に描いているにも関わらず、犯行の詳細などはあえてそこまで説明しないのも面白いなと思いました。

犬神家の一族』といえば!な、“湖から突き出した逆さの足”は原作とは順序を変えて謎解き後に発見されることでインパクトを強めていましたが、何でそんなヘンテコな状態になったのかは語られずじまいだし、琴の稽古を抜け出しての犯行もタイミングの説明とかがほぼなかった。

原作だと、犯行で指を怪我して、琴の先生に指を庇って演奏していることに気づかれて・・・~なんですけどね。琴の先生は盲目なので気づかれまいと侮っていたら、バッチリ気がつかれていたっていうの、原作の好きな部分だったので言及もなにもないのは少し残念でした。

 

実は、原作だと琴の先生が青沼静馬の母である菊乃なのですが、今までの映画やドラマ同様に、この部分も元から無い設定にされていましたね。

 

琴の先生が菊乃だっていうの、原作では驚かされるところではあるのですが、気がつかない松子の目が節穴過ぎるし、松子の先生になったのはまったくの偶然だっていうのも無理があって不自然ですからね。

元々『犬神家の一族』で描かれる事件内容はかなり偶然で片付けている部分が多いのですが(それもまた因縁のなせる業ってことでしょうが)、菊乃さんに関してはいくらなんでも“やりすぎ”ってことですかね。

 

でも今回のドラマは三時間もあったし、お琴の先生を意味ありげに映す場面もあったので「やってくれるのかな?」と期待してしまった。あれは何だったんだ・・・。

 

ホラーテイストですが、過去の出来事である三姉妹で菊乃を追い出すところは他の映像化作品よりマイルドな表現になっていましたね。

他の映画やドラマですと、菊乃の三姉妹への憎しみが事件を引き起こしているのでは?という印象を引き立たせるため、嬲られて着物引っぺがされてと屈辱的に生々しく描かれているのが多い。ま、赤ん坊に火傷を負わせている時点で十分酷いんですけど・・・。

 

作品雰囲気を壊さないためか、スケキヨを逆さにして“ヨキ”、つまり“斧”の見立てだよ~っていう「なんじゃそら」な部分も変えられ、普通に斧が遺体と共に見つかったということになっていた。だいぶ滑稽感漂いますから、このドラマ雰囲気では変更させるのは納得。ズボンもはいていましたね。

 

 

 

今までにない大ボリュームでありながら、要素の多い部分は省き、説明もしすぎないことで視聴者に委ねる愛憎物語になっていたかと思います。

謎解きの説明が少ないぶん、原作をまったく知らない人にとっては「ん?」となるところもあるかもですが、原作以上に「愛」と「憎しみ」がネットリと描かれた別解釈ものとして愉しむことが出来て良かったです。

 

 

再放送もあるようですので、気になった方は是非。原作を読んでから視聴するのもオススメです。

 

 

 

 

ではではまた~