夜ふかし閑談

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『岸辺露伴ルーヴルへ行く』映画 感想 賛否が分かれているのは何故?”無敵”も考察

こんばんは、紫栞です。

今回は、映画『岸辺露伴ルーヴルへ行く』を観てきたので感想を少し。

映画ノベライズ 岸辺露伴 ルーヴルへ行く (集英社オレンジ文庫)

 

映画館へ行く!

2020年から年末の短期ドラマとして続いてきましたNHKドラマ『岸辺露伴は動かない』。

 

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この度、このドラマの劇場長編映画として『岸辺露伴ルーヴルへ行く』が公開されました。

 

ドラマからの映画化というのは映画作品として色々言われるところではありますが、好きでずっと観てきたドラマが映画化されるというのはやはり嬉しい。お金はかかりますが、映画館で上映され、それを観るというのはやはり特別なことですからね。

 

ドラマ『岸辺露伴は動かない』は、基本的には『ジョジョの奇妙な冒険』のスピンオフ短編漫画を実写ドラマ化したものですが(※小説版のエピソードや本編4部でのストーリーを元にしているものもあります)、この劇場版は2009年に著者の荒木飛呂彦さんがルーヴル側からの依頼でフルカラー読み切り作品として描き下ろしたもので、ページ数は123ページ。

※原作の『岸辺露伴ルーヴルへ行く』について、詳しくはこちら↓

 

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スペシャルや劇場版でやるならルーヴルのエピソードしかないだろうなとは思っていましたが、他の短編より長めとはいうものの、123ページの読み切りはボリュームとしては実質短編。そのままでは二時間もたないので、原作から脚色というか大分エピソードの付け足しがある。ま、原作ファンもその辺は想定内だろうとは思いますが。

 

ドラマ自体が「原作を活かした上でどのように脚色されるか」が一番の売りになっているところありますからね。劇場長編映画ではどんな脚色をしてくれるのかと楽しみにしておりました。

 

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「回想パート」と「時代劇パート」

原作同様、“この世で最も黒い絵”の謎を追うサスペンス・ホラーではありますが、美術品窃盗の部分は映画の完全オリジナルですね。この部分が追加されているおかげでミステリ要素が強まっています。山村仁左右衛門の絵に至る前にモリス・ルグランという画家の絵を挟んでいるのも原作より自然に段階を踏んでいるし、謎を深めていて良い。

序盤のオークション会場や露伴邸でのシーンも原作にはない映画オリジナルですが、ドラマ版での安定のやり取りが展開されていて、原作を知らないドラマ単独ファンも入り込みやすいかと。

 

 

賛否が分かれるのは前半の「露伴の青年時代(長尾謙杜)回想パート」と、後半の「時代劇パート」ですかね。

この二つの場面が結構長く、全体のテンポを悪くしているとか指摘されているそうな。

 

個人的には映画全体のテンポが悪いとは感じませんでしたが、この二つの場面はドラマ『岸辺露伴は動かない』の雰囲気とは違う演出がされているので、いきなり別作品が展開されるって感じで違和感を覚える人が多いだろうとは思う。

私も、回想パートはともかく時代劇パートは長くて妙に劇的な演出になっていたため、ちょっと「何を観させられているのだ」ってなった。

 

原作ですとこの山村仁左右衛門と奈々瀬(木村文乃)のエピソードは露伴によって文章で説明されるのみだったので、原作ファンとしても驚き。

しかし、パンフレットによるとこれは著者の荒木先生の要望だったそうです。漫画でもっと深く描きたかったのだけど、ページ数の都合で割愛してしまったから映画では是非やってくれっていう。それで何だか気合いが入った演出だったのかなぁ・・・。

 

逆に、回想パートのところの奈々瀬が漫画を切り裂くシーンはもっとビッツビリにして欲しかったですね。ヒステリー起したみたいな感じで。

漫画を切り裂いた理由は原作の方が分りやすいので気になった方は是非原作読んで欲しい。

 

 

 

余談ですが、パンフ、一度は完売したものの再入荷されていて買うことが出来ました。映画のテーマに合わせてか真っ黒なパンフで、売店で見逃しそうになってしまいましたが。観に行った人はパンフ是非手に入れて下さいね。

 

 

山村仁左右衛門は露伴役をしている高橋一生さんの一人二役だったのですが、最後に明かされる真相は「奈々瀬は露伴のご先祖様だった」というものなので、山村仁左右衛門を高橋一生さんが演じるってどういうことかと混乱しました。

「血縁なのは奈々瀬の方であって、山村仁左右衛門と露伴とは血がつながっていないはずなのに・・・子供がいた描写もないし、どういうこと?」みたいな。原作では「子供はなかった」ってはっきり書かれていますしね。

 

イメージってことでしょうか?ああ、混乱するなぁ。

 

奈々瀬に関しては、原作で混乱させる離婚予定だとか電話しているところだとか、「藤倉」って偽名を名乗っただのという設定がはぶかれて完全に怪異として扱っていて分りやすくなっていたのですが・・・。

 

演出の渡辺一貴さんと高橋一生さんの組み合わせで時代劇が展開されるので、大河ドラマおんな城主 直虎が好きだった人には嬉しい場面になっているかも知れません。

 

 

回想パートと時代劇パートで賛否が分かれるのは、ドラマ版『岸辺露伴は動かない』でコンビもの意識が強くなっているのも要因の一つかなと思います。『相棒』TRICKで主要二人の登場シーンが全くない場面が長いと不満に思うのと同じといいますか。

何だかんだ岸辺露伴という強烈なキャラクターが支えている作品ですし、露伴先生とくん(飯豊まりえ)のコンビ化はドラマ版最大の功績で魅力ともなっていますからね。

 

 

私としても主要二人のコンビが観られた方が嬉しくはありますが、映画版だからと気負いはせず、ドラマ版そのままのスタイルで長編化してくれていたし、原作の魅力を損なうようなところもない脚色だったのでドラマ・原作のファンとしては大満足です。

映画作品としてのみ評価するなら、「映画向きのエピソードじゃあない」となるのかもですが。ドラマが『世にも奇妙な物語』的なものなので、作品自体が映画向きじゃあないかなというのは観る前から分ることだと思いますけど。

 

ま、ファンとしてはもう露伴先生と泉くんがルーヴル行ってくれるだけで嬉しいのですよね。折角なので、ルーヴルのシーンはもっと長くやって欲しかったとも思いますが。でもモナ・リザと先生が並んでいるのを見られて十分満足ではある。

 

ルーヴル以外の、オークション会場や旅館のロケーション、衣装や美術も良かったです。地下倉庫は暗すぎて「あれじゃ絵なんて描けないだろう」とツッコミたくなりましたが。

「黒」がテーマってことで、いつも以上に画面が暗かったですかね。私は大丈夫でしたが、一緒に観に行った視力悪めの先輩は「何が起こっているのかよく見えない場面もあった」と言っていました。

あと、蜘蛛がいっぱい出て来るので、苦手な人はちょっと注意かも。

 

 

問題の山村仁左右衛門の“黒い絵”は想像以上に怖い絵でちょっとビックリしました。原作とは違い、見たら本当に呪われちゃいそうな絵だ。綺麗ですけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

泉くんが無敵

ドラマ第二期の「六壁坂」から漂っていた、“泉くん最強”が映画でまたお目見え。あの絵を見て記憶に襲われることもなく平気だったと。

 

本人に罪の記憶はなくとも、血のつながりから逃れられる者はこの世にいない。「黒い絵」は本人には覚えのない先祖の罪をも利用して攻撃してくるという理不尽極まりない“これぞホラー”ってな代物ですが、泉くんは何故かノーダメージ。

絵に関しても「綺麗な人でしたね」とのんきな感想を口にしている。露伴先生も脱帽ですな。

 

これは単純に鈍感力というか耐性というものなのかも知れないですが、泉自身が「記憶」による「攻撃」を「攻撃」だと受け止めていないから効かないよってことなのかと思います。

これは本映画最後の露伴のセリフ「あの夏も僕にとって必要な過去の一つだ」や、『ジョジョの奇妙な冒険』第1部でシェペリさんが言う「恐怖を我が物とする」に繋がっているのかと。「黒い絵」の姿は虫の形で表現されていましたが、シェペリさんがあの名台詞の中で”虫けらのノミ”を引き合いに出して説明してたのとも繋がる気も。そう考えると面白いですね。

 

泉くんにとって、亡くなったお父さんを始めとした「記憶」は自身の一部として昇華していて、「罪」や「悔い」といった意識が入り込む隙もないってことでしょうか。泉くん、恐るべし。

 

実は、泉くんの父親に関しての伏線はドラマ第一話の「富豪村」の時から張られていたのだとか。「ジャンケン小僧」の最後で取り出している写真も伏線ですね。映画もですが、ドラマもまた繰り返し観たくなる仕掛け。

 

 

おばあさん(白石加代子)の形見の小さい丸いサングラスを露伴先生がかけている場面や、エンディングでドラマメインテーマのフルバージョンが聴けたのも嬉しかったです。

ドラマでは毎度泉くんが次に繋がる“匂わせ”をしてくれるのがオキマリになっていたので、今回もやってくれるかなと期待したのですが、ありませんでした。ま、今回は映画ですしね・・・。

 

ドラマ、年末のお楽しみとして私の中ではもう定番化してしまっているのですが、今年は劇場版やったのでないのかなぁ・・・どうなんでしょう。まだまだドラマでやってほしいエピソードあるのですけどねぇ。

 

 

映画のさらなるヒットも願いつつ、また新たなドラマシリーズも期待したいなと思います。

ではではまた~

 

 

 

 

 

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