こんばんは、紫栞です。
今回は、内田春菊さんの『南くんの恋人』を読んだので感想を少し。
『南くんの恋人』は1986年~1987年にかけて【月刊漫画ガロ】で掲載された漫画作品。全1巻。
十代二十代の人たちはどうか分かりませんが、三十代以降の人なら誰もが聞いたことがある作品タイトルだろうと思います。それというのも、何度もテレビドラマ化されているからですね。
●1990年に、工藤正貴さん、石田ひかりさんでTBS単発ドラマ
●1994年に、武田真治さん、高橋由美子さんでテレビ朝日連続ドラマ
●2004年に、二宮和也さん、深田恭子さんでテレビ朝日連続ドラマ
●2015年に、中川大志さん、山本舞香さんでフジテレビ連続ドラマ
と、今までに4回ドラマ化されています。
1994年版の連続ドラマが有名で、その後はこのドラマのリメイク版が作られているって感じですね。大体十年刻み。
そして今年、2024年は飯沼愛さん、八木勇征さん出演でテレビ朝日にて『南くんが恋人!?』という、今までとは趣向を変えた男女逆転版が放送されるとのこと。
公式でのドラマの説明文が元の『南くんの恋人』から改変させた設定であるかのような書き方がされていますが、原作者の内田春菊さん自身によって『南くんの恋人』の続編として書かれた男女逆転版の『南くんは恋人』が2013年に刊行されています。
じゃあ今回のドラマはこちらを原作にしているのか?と、思ってしまうところですが、ドラマのタイトルは『南くんが恋人』。「は」と「が」でタイトルが微妙に違うので、これを原作にしているという訳でもなさそう。「の」「は」「が」で、助詞一文字違い・・・ややこしいですね(^_^;)。
私は1994年版の連ドラの再放送を大昔に観たのと、2004年版をリアルタイムで観た記憶がおぼろげにあるぐらいでドラマ版を熱心に観ていた訳ではないのですが、原作の『南くんの恋人』って、漫画関連でネット観覧していると事あるごとに言及されていたりするのですよね。
その度に気になって検索するのを繰り返していたのですが、Kindle unlimitedで読み放題対象になっている事を知り、今更ながら原作漫画を読んでみた次第です。
原作とドラマとの違い
ストーリーは、高校三年生男子・南くんと、ある日突然リカちゃん人形サイズになってしまった恋人・ちよみとの生活を描いたもの。
原作とドラマで共通しているのはこの大前提の設定部分ぐらいで、作品雰囲気も終わり方も原作とドラマとではかなり異なります。ドラマはファンタジー青春ラブコメって感じですが、原作は思春期の恋愛を赤裸々に描いていて、正直、お子様には読ませたくない代物。
なんせ、作者の内田春菊さんは「小美人ポルノ」のつもりで描いていたとのことですから。恋愛の綺麗な部分だけではなく、猥雑な部分も描かれている・・・と、いいますか、もはやメインになってるとも捉えられる作品。
小さくなってしまった恋人相手に、性的欲求をどうするかに結構なページが割かれています。玩具を相手にしているような倒錯感に浸ったり、他の女子への浮気心でしのいだり、自分はやらしいやつだと罪悪感をもったり。
ドラマはいずれもイケメンが演じていますが、原作の南くんは非常にさえない男子なのがまた。素朴な絵柄で淡々と恋愛・性愛が描かれているのがこの作品の持ち味だと思います。
南くんが「ちよみは僕のオモチャみたいだ」と言って、「大きいときからそうじゃない」とちよみがあっけらかんと返すのとかドキリとする。破壊衝動の現われのような怖い夢も。鋭くてエグい描写ですね。
掲載されていた【月刊漫画ガロ】は年齢層高めをターゲットにしたアングラ的な個性派雑誌だったので、そのような趣向で描かれたのですかね。
内田春菊さんは小説家としても有名ですが、
作風からして、ライトなラブコメ作品を描く作家さんではなさそう。
ドラマ版は二人の周辺、家族や友人も登場していますが、原作漫画の方は主な登場人物が南くんとちよみのみ。世間では行方不明扱いになっているちよみですが、一番心配しているはずのちよみの両親なども出てこない。
他に登場らしい登場をするのは大人っぽいクラスメイトである野村さんぐらいですけど、本当にチラッとの登場です。(この野村さんですけど、そんなことしてるといつか怖い目にあうよ・・・って、読んでいてなった^_^;)
原作で描かれているのは”二人だけの閉じた世界”なのですよね。なので、あえて省かれていると。ちよみが小さくなってしまった原因なども全く描かれずじまいですしね。
ちよみが小さくなったことがバレてしまうと見世物や研究対象にされてしまうのではと懸念し、南くんは周囲に知られないように小さくなってしまった恋人を守りながら生活する。
南くんは実家住みで、家の中でも気は抜けない。人形遊びの家や家具や食器を揃え、小さい服を縫い、ミニサイズの食事を用意し、お風呂とトイレの面倒もみる。
ちよみは南くんに世話をしてもらわなくては何も出来ない訳で。南くんは最初、一緒に暮らしていて夫婦みたいとなっていたものの、徐々に倦怠期のオヤジ気分、犬猫を飼っている感覚、子育てしているような疑似感情などに陥っていく。
しかし、ちよみはペットや子供ではなくって、小さくなっても生理がきて身体が変化する「女」で、南くんに子供のように扱われるのには抵抗がある。”南くんの恋人”なのですからね。
共に学生で対等だった二人の関係性が、ちよみが小さくなったことで大きく崩れる。対等な関係でない状態で恋愛感情を育めるものなのか。
この突飛な設定により、そういった関係性の難しさが浮き彫りになっているのかと。
以下ネタバレ~
結末
恋人が小さくなっちゃったよ~!というこの物語。この設定を聞き、「最後には元に戻るんでしょ?」と、思う人が多いことでしょうが、この物語は無常でして、最後まで元の身体には戻らないし、小さくなった理由や原因も解らないままに突然終了します。
最終回のストーリーは、温泉旅行に来た帰り道で事故に遭い崖から転落。南くんは軽傷ですんだものの、衝撃で放り出されてしまったちよみは死んでしまうといったもの。
最後のページは、普通の日常に戻った南くんが、公園でひよこを埋めている親子の会話「ママ ピーコはどうして死んだの?」「小さいからよ」を耳にして、涙を流すところで終わっています。
このあっけない終了の仕方が何ともこの世の無常を感じさせて、劇的な演出をされるよりも悲しさと残酷さをより一層に感じさせる。
小さいもの・非力なものが生きていく厳しさ、守ることの難しさなどは子育てを連想させますね。内田春菊さんも描いた当時は親と絶縁したばかりで、子供を産むことを諦めようとした心境が作品に反映されたのではとあとがきで回顧しています。
この結末はドラマファンを嘆かせたらしく、批判の手紙などが殺到して困ったそうです。まあ、ドラマでラブコメを楽しんでいた視聴者としてはそりゃショックですよね。
しかし、読めば読むほどこの漫画にはこの結末しかなかったのかなと思います。伏線も何もなしにいきなりこんな終わり方するなんてとの声もあるようですが、この作品に関しては伏線張って云々とかかえって無粋なんじゃないかと。
内田さんは、ちよみに生理があるだとか描いている時に、この話を終わらせようと決心したらしい。確かに、私も生理の部分を読んでいる時にどうしようもないチグハグさを感じましたね。”二人の閉じた世界”でいつまでも続けるのには限界があったのかも。
2013年に刊行された『南くんは恋人』は続編とはいうものの、『南くんの恋人』での出来事はちよみの夢でしたという設定になっていて、実質続編というよりもパラレルといった感じ。
序盤だけ読んだのですが、25年を経てのものですので、絵柄が大分変わっているしキャラクター設定も何やら違うので全くの別作品感覚です。
重めの主題だけでなく、小人ものお馴染みの道具や生活の工夫、ちよみの可愛らしさも見所です。
気になった方は是非。
ではではまた~