夜ふかし閑談

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『秋の牢獄』3編 あらすじ・感想 秋のオススメ本

こんばんは、紫栞です。

今回は、恒川光太郎さんの『秋の牢獄』をご紹介。

 

秋の牢獄 (角川ホラー文庫)

 

こちらは3編収録された短編集。第29回吉川英治文学新人賞候補作。

恒川光太郎さんの本は前に『夜市』を読んだら滅茶苦茶良かったので

 

www.yofukasikanndann.pink

 

他作も読みたいと思っていたのですが中々読めずじまいで。この度やっと読めたのですが。恒川光太郎さんは主にホラーを書いている作家さんなのですが、どうも短編が多いみたいですね。どの本を読もうか迷いまして、恒川光太郎作品のオススメでよく紹介されていた今作を選んで読んでみました。

本当はタイトルに合わせて季節が秋のうちに紹介したかったのですが・・・ずれ込んで冬になってしまいました・・・(^_^;)。秋のオススメ本です。

 

収録されているのは表題作の「秋の牢獄」と、「神家没落」「幻は夜に成長する」

 

 

 

 

「秋の牢獄」は、女子大生が十一月七日の水曜日を延々繰り返すことになるお話。どんな行動をしても、どこに行っても、朝になればすべて元通りになって十一月七日の水曜日になる。

途方に暮れていたところ、自分と同じく十一月七日の水曜日を繰り返している「リプライヤー」という人達が多数いることを知り、彼らと交流を持つが・・・・・・ってな具合に展開されていく。

SF小説で類似した作品は多数あって設定自体に目新しさはないのですが、同じ日を繰り返すことで諦念していく心情が段階を踏んで描かれていて、ジワジワと苦しく、恐ろしい。

最後の一文がとても良く、これのために書かれたのではと思うほどですね。

 

 

「神家没落」は、民家に迷い込んだ男性がその敷地から出られなくなってしまうお話。元々はとある村で神域として代々守ってきた敷地なのだが、後継者がいなくなったことで偶々迷い込んでしまった男性が役目を押し付けられてしまう。家を出るには別の迷い人が訪れるのを待ち、役目を引き継がせるしかない。

このお話は単に家から出られないというだけでなく、家が定期的に日本各地を移動していくのが面白いところ。乗り物から出られない旅行をしている感覚。不自由はありますが、甘美な環境だともいえる。

中盤で驚きの展開をしています。ガラリと変わる主人公の心情が怖いですね。取り憑かれてしまった人というのは本当に始末におけない。

 

 

「幻は夜に成長する」は、幽閉されている女性が過去を振り返りつつ脱出の時を待っているお話。幼少期に誘拐されて数ヶ月祖母だと信じ込まされて過したことで「幻を視せる」能力を得た女性の半生と、幽閉されるまでの顛末が描かれる。

主人公は団体に拉致され、幽閉されて、薬を盛られて、無理やりに「神」をやらされていて・・・と、とても過酷な状況に置かれています。それはこれまでの半生も然りなのですが、主人公自体には悲壮感はない。やることは恐ろしいですが、この本の中では一番前向きな主人公となっています。

特異な力を持っている者に対する”人間の醜さ”が不快ではありますが、主人公の報復主義がどこか爽快で読後感は悪くないです。

 

 

 

 

 

 

 

 

この短編三つは同一テーマで「牢獄」が描かれています。いずれのお話も囚われるところから始まり、脱するところで終了となっている。

 

「秋の牢獄」は延々と歳をとらずに自由になんでも出来るが、”翌日”という未来へは進むことが出来ない。何をやっても大丈夫という保障された(しかし囚われた)環境を延々と繰り返すことで老成していき、諦念する。

「神家没落」は世俗から切り離されて囚われることに安らぎを感じ、牢の中に居続けることを願う。

「幻は夜に成長する」ではそれら牢の中での諦念と安らぎをすべて打ち捨て、破壊して新たな世界へと進む。

 

この3編のような特殊な事態には陥っておらずとも、私達生き物は「生」という牢獄に囚われている。

巻末に収録されている坂木司さんの解説に書かれているように、この本は生き物の終末を段階的に描き、輪廻を切り取った物語集なのではないかと。

 

あとやはり、美しいのですよね。だからこそ恐ろしい。読んだのはまだたった二冊ですが、これが恒川光太郎作品ならではの「ホラー」なのだと思います。実に良いですねぇ。他の作品も読みたいです。

 

気になった方は是非。

 

 

ではではまた~