こんばんは、紫栞です。
今回は、清水玲子さんの漫画作品『秘密-TOP・SECRET』8巻に収録されている
「小学校3名不審死事件」をご紹介。
あらすじ
2026年4月。神奈川県田木津市で震度5強の地震が発生。死者が3人でたが、三人の死者は総て同じ小学校の中で発見された。
一人目は揺れがおさまってから約10分後に屋上から生徒が転落。
二人目は地震発生から約15分後に車道に生徒が飛び出しての交通事故。
三人目は地震発生から約20分後に体育館倉庫で倒壊した棚や器具の下から教員の遺体が。
震災によるものとして考えるには不可解な点が多く、三人の死因が「事故」や「事件」なのか、3件の事例に何か関連性はあるのか、「第九」で捜査して検証することに。
検死の結果、体育館倉庫で発見された教員は震災前に刃物で背中を刺されていたことが判明。
他殺の可能性が浮上する中で、関連性を探るために死亡した他二人の児童の脳をMRIスキャナーで調査したところ、そこには意外な画が映し出されて――。
嵐の前の8巻
前に当ブログでこの漫画シリーズの7巻を紹介してからだいぶ時間が経ってしまいましたね・・・。
すべての事件を紹介しようと思っていたのにこんなに何年も放置していたとは自分に呆れてしまいますが(^_^;)。
今月の20日に久しぶりにseason0の新作が出るみたいですし、ドラマも今やっていますのでね、改めて全事件紹介を目指して書いていこうと思います。
8巻は上記した「小学校3名不審死事件」の前に特別編の「一期一会」が収録されています。事件捜査とは違い、「第九」での飲み会話で骨休め感ありますが(いや、飲み会前に三好先生と薪さんとの重すぎる会話があるし、後半で青木は泣くし、全然骨休めになっていない気もしますが)、今後の展開が示唆されており、主要キャラクターの心情も露わになるので、見過ごせない特別編となっております。薪さんのプライベートラフスタイルも見られるしね。
【秘密-TOP・SECRET】は、次の9巻からシリーズ最終の大事件に突入します。
※シリーズについて、詳しくはこちら↓
「小学校3名不審死事件」はその大事件が描かれる前、”嵐の前の事件”って感じで猟奇性がなく、事件性も今までのものの中では薄めなので、シリーズ全体でみるとちょっと印象に残らないかもですが・・・侮れないといいますか、人の痛いところを突いてくるというか、”えぐって”くるお話となっております。
ま、人の頭の中身を見ての捜査なんですから、重いのが当たり前なんですかね。
以下ネタバレ~
見ている「世界」の違い
この事件、「第九」に山本賢司という新人が配属されてくるところから捜査が始まります。山本は元副検事で国家公務員試験をうけ直してやってきたという”変わり種”。
「第九」が全国展開していくに伴い、検察官の指導が必ず入ることになるだろうから(※プライバシー侵害などの問題のため)、それを踏まえて薪さんが人事に希望して配属してもらったと。
36歳、老け顔で堅物。薪さんの希望されて配属されてきたということで、最初はどこか偉そうにしていて第九メンバーから反感を買いますが、MRI捜査が始まり、被害児童の脳画像を目にして様子がおかしくなっていく。
この児童の脳画像というのが景色は問題ないのに「人」がボンヤリとした影でしか見えていないという視覚異常でして。人に対する恐怖やストレスからくる心因性視力障害のようなのですが、学生時代ずっと虐められ続けていた山本は自分もこの児童と同じような視力障害に陥っていた過去があり、MRI画像を見て動揺してしまうのですね。
ボーっとしていると薪さんに怒られ、青木に庇われて励まされて、結局新人らしく右往左往することに。やはり誰に対しても薪さんは怖い。最初は山本に優しかったのに・・・。
犯人の目星はついているのに捜査の成果が得られず、終いには「ふがいなくて薪さんに見放された」と青木も落ち込みだして、あたふたする山本ですが、被害児童と似た視力障害に陥っていた経験から事件解決のヒントを得る。
新人の山本の存在がこのお話の要の一つとなっております。
もう一人の被害児童の方はというと、過去に別の大震災で経験したトラウマ体験が今回の震災でぶり返し、幻覚を見て不幸にも走っている車の前に飛び出して死亡してしまった。
”あるもの”が見えていない少年と、”ないもの”が見えていた少年。
今回は特殊な例ではありますが、この事件を通して山本は、私達人間の見ている「世界」は皆違うのだと実感し、”過去の異常だった自分”から開放される。
同じものを見ていても人によって見え方は違い、「世界」も違うというのは、この漫画シリーズで一貫して描かれているテーマですね。
素晴らしい教師
結果としては、この三つの不審死事件は男性教員の死因だけが他殺で、他の二件は事故。交通事故で死亡した少年は上記した通りで、屋上から転落した視覚異常のある有田少年は慕っていた女性教員を庇おうとして行動したら転落死することとなってしまった。
この女性教員・生島は被害者の男性教員・出崎と不倫関係にあり、地震が起こる前にナイフで刺殺。偶々事件現場近くに居合わせた有田少年は、生島を庇うために凶器のナイフを植木鉢に隠すが、地震の発生でパニック状態になりナイフを持って屋上へ。タンクにのぼっていたところで下にいる生島を見てしまい、”迎え入れられているような”幻覚を見て飛び降りてしまう。
殺人を犯した生島は皆に慕われている教員ですが、作中で描かれる生島はかなり自分本位で、生徒想いの”良い先生”ではない。有田少年に表面上優しい顔を見せつつも、彼がクラスから孤立していることも、自分の事を慕っていることも知っていたうえで放置し、心中では嫌っていた。有田少年の携帯電話に犯行の瞬間が映っているかもと知ると、悩んでいた生徒を利用して破棄させようとした。
保身のために生徒の心を弄ぶ、罪深い教師なんですよね。なのに、事が露見した後も利用された生徒は彼女を庇い続ける。
作中で薪さんが言う「失礼ですが 僕にはあなたがそれ程子供達に慕われるいい教師には見えないんです」というのが、正に読者の気持ちを代弁していて、ホント、何でこの先生がそんなに生徒に想われてるの?なんですが。
しかしながら、この生島は非常に人間臭い人物でして。携帯電話を奪おうと必死になるのも、そこに有田少年が見た”醜い自分の姿”が映し出されているのではないかと恐怖したためなのですよ。
その恐怖は”有田少年を嫌っていた本心”からくるものですが、携帯に残っていたのは有田少年が”純粋に慕っていた先生の姿”だけで、生島は打ちのめされる。
なので、最後の薪さんの言葉にも素直に従っているのかなと。弱くて醜い部分もあるけど、生徒が見出している”素晴らしい教師”の部分もあるのでしょうね、たぶん。
私としてはこの生島、最後までムカついたままなんですけど・・・。
しかしながら、有田少年の事を想うと唯々やり切れない事件ですね。あの写真も本当に哀しい。
いやあ、やっぱり重いです、『秘密』は。こんな風に描き出せるのは感服するばかりで、お話としては滅茶苦茶面白いんですけどね。
重いだけでなく、コミカルな部分はちゃんと笑えますし。青木の携帯がオシャカになったのは不憫でしたね~。とんでもねぇ上司だ。あ、薪さんの制服警官コスプレ(?)も必見ですよ~。是非是非。
ではではまた~