夜ふかし閑談

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『秘密 season0』11巻・12巻 ネタバレ・感想 すべては「血」のせいなのか?

こんばんは、紫栞です。

今回は、清水玲子さんの『秘密 season0』11巻・12巻をご紹介。

 

秘密 season 0 11 (花とゆめコミックススペシャル)

 

あらすじ

2055年。少女ばかりが殺される「南関東連続少女殺人」が発生。ロープ等で遺体を縛り、儀式のようなポーズを取らせる異常性から「カルトセレモニー」とも呼ばれたこの事件は、第一の犯行から2年が経っても捜査が進展せずに暗礁に乗り上げていたことから、2057年夏に日本ではまた導入して間もないMRI捜査に全指揮権が移されることに。

捜査を担当した「第九」の薪と鈴木はMRI画像から容疑者を特定。犯人として早瀬拓也が逮捕され、死刑判決が下された。

捜査指揮権移動からわずか三日での解決。この事件によりMRI捜査は世間に広く知られることとなった。

12年後の2069年。早瀬拓也の死刑執行がされ、青木は「特捜」で早瀬拓也の脳を捜査するよう命じられ、薪のいる第九研究室へ赴くが、ついて早々に高尾山で「カルトセレモニー」と特徴を同じくする少女二人の遺体が発見された。

12年前の捜査に見落としがあったのか?

MRIで早瀬拓也の脳を視てみると、彼が生前に複数人の女性に精子提供をしていたことが分かり――。

 

 

 

 

 

 

 

久しぶりの新刊!

こちら、2025年2月に発売された『秘密season0』の新刊。11巻・12巻同時発売です。

新刊出るのだいっぶ久しぶりな気がするぞと思って、前巻が発売されたのがいつだったか確認してみたら、2021年の7月でした。

 

www.yofukasikanndann.pink

 

3年半ほど経ってますね。その前までは一年に一冊ペースで「年1の楽しみ!」って感じだったので、3年空くと「どうしたんだ?」ですね。

この3年の間に何回かネットで検索したりはしたんですけど、連載状況ってのはよく分からずじまいだったんですよね。清水さんに何か深刻な御事情でもあるのかと不安になってもいましたので、この度新刊が出てなにやらホッとしました。

 

11巻・12巻に収録されているお話は〈DNA〉。12巻の巻末に短編〈Extra〉も収録されています。どちらの巻も200ページほどで、このシリーズとしてはボリュームはそこまで。〈DNA〉がトータルで340ページ程。〈Extra〉が60ページ程ですね。

 

前作の〈悪戯〉が結構な長編で何巻か跨ぎましたが、今回のお話は確り12巻で完結しています。やはり一つの事件で次の巻発売まで待たされるのはちょっと・・・ですからね(このシリーズは基本が年1ペースですし)。通常スタイルに戻ってくれて良かったといったところ。

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12年前

〈DNA〉は12年前の出来事からスタート。最初に何やら訳ありっぽい出産したばかりの女性が出て来た後、かつての薪さん、鈴木、雪子さんが登場。「南関東連続少女殺人事件」の事件概要と犯人が逮捕されるまでの経緯が描かれる。

 

初っ端に出て来る女性ですが、自身の容姿に対してコンプレックスがあるのだということが数ページでやたら伝わってくる。数コマだけ出て来る嫌みったらしい妹がまた・・・。直接的なセリフがなくとも伝わるこの演出力はやはり感服ものです。ええ、初っ端から苦しい気持ちになりましたよ。

 

で、雪子先生が現場で「南関東連続少女殺人事件」の遺体を検視している場面に切り替わる訳ですが、遺体の描写がまたキッツい。

『秘密-TOPシークレット』の初期の頃を思い出させるような猟奇性のある遺体です(season0になってからは猟奇性が控え目でしたからね・・・)。絵が綺麗だから見ていられる。背徳的な美すら感じさせるのも流石です。

 

12年前ですと、この漫画の世界線ではまだ「第九」であんなことやこんなことが起こる前で平穏。この平穏さ、木っ端微塵になくなるんだな~・・・と、思うと、また苦しくなってくる。作中で青木が「この12年の間にあらゆる事があった」と年表みたい振り返っているシーンがあるのですが、ホントにね・・・。

 

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そんなこんなで、読み始めからキツい・エグい・苦しいで、もうアレなんですけれども。この始まりで予感した通り、今回もゲキ重な事件・物語になっております。ま、『秘密』で重くない事件なんてないんですけどね・・・。

 

若き日の三人の姿が見られたのは良かったです。「鈴木、生きてる!」ってなる。青木の大学生時代もチラッと出ているのがレアで必見かも?

今回、現在パートの方でも雪子先生が登場していまして、青木と再会しています。青木との婚約解消後に雪子さんは別の男性と結婚、出産したのですが、結婚式以来の再会なんだそうな。

season0になってから雪子先生はご無沙汰でしたからね・・・。薪さん、青木、雪子先生のスリーショット。懐かしいー!この再会シーンも必見です。

 

 

 

 

 

 

 

「血」と「人」

さて、時は12年経っての現在に。

青木が東京に到着してすぐに12年前と酷似した事件が発生。死刑囚の早瀬拓也の脳を捜査ところ、早瀬が140人ほどの女性にSNSを介して精子提供をしていたことが明らかに。※シリンジ法(注射器で採った精子を女性が自分で膣内に挿入する方法)による提供なのでいずれの女性とも肉体関係は持っていない。

 

なんで早瀬はそんなことをしたのかというと、早瀬は幼少の頃から自らの殺人欲求に悩まされていて、ある日実の父親が殺人犯であることを知り、自分のこの”殺人欲求”は遺伝によるものか否かを確かめようとしたため。「殺人犯」の子供は同じように「殺人犯」になるのかを実験して証明しようとしたのですね。

 

で、今回、その140人の中の一人である早瀬の子供・佐賀星乃が、早瀬と同じような殺人を犯したと。

 

精子提供された人数が人数ですから、公安の人がやって来て「これはテロ行為に等しい」「早瀬の子供達は全員”殺人犯になる”前提で動き、事件を未然に防ぐべきだ」と主張する。(140人とはいえ、受精が成功している率はそんな高くないじゃろって思うんですけどね・・・)

で、佐賀星乃の審判でも「殺人を犯したのが遺伝子のせいとするなら、疾患と見做して量刑を図るべきなのか?」が争点となる。

 

 

殺人を犯すのが「血」のせいならしょうがない。こんなのはとんでもない暴論です。公安の主張に至っては作中で薪さんが言うように、かつての悪しき優生保護法と同じ。「人」としての尊厳を無視した差別的な意見です。

 

昔から、犯罪者の”犯罪性”は因子として遺伝するのではないかとの研究はされてきています。犯罪者に多い人相、顔のパーツの形だのといった欺瞞や偏見に満ちた研究もある。しかし今日に至っても、「殺人遺伝子」などというものは発見されていない。

 

こういう研究がされてきた理由の奥底には、犯罪者との差別化を図りたいという考えがある。犯罪者は生まれながらの怪物で、自分たちとは違う存在なんだと安心したい心持ちですね。

現実には、誰もが等しく犯罪者や殺人者になる可能性があるにもかかわらず、です。殺人を犯した者とそうでない者との明確な違いなどない。同じ「人」です。

 

早瀬拓也にしても、結局は自分の殺人欲求を「血」のせいだということにして楽になりたかっただけ。「遺伝子」を自らの行いの言い逃れにして、自制を放棄したにすぎない。

審判で裁判長は、”人はその「行い」によってのみ裁かれなくてはならない”と言います。”あなたは「遺伝子」ではなく「人」なのだから”と。

それが司法の大原則なのですよね。「人」ならば、犯した罪には自分で向きあわなければならない。

 

しかしながら、頭ではそう分かっていても当事者となったら話は違う訳で、意図せずに殺人犯の子供を産むことになってしまった山中花鈴は、息子の要に恐怖心を抱き、苦悩して、「将来人殺しをする危険性がある子供を野放しにするな!」と裁判所で、皆の前、家族の前、要の前で声高に訴える。

 

自分で産んだ子であることには変わりないのに酷いもんですが。しかし、人は「血」に固執し、怖れ、振り回されるものですからね。この母親のような精神状態になってしまうのも分かる。

 

まだ幼い息子の要は自らの殺人欲求を否定する道を選んだ。母親を、家族を愛しているからですね。今後無事に成長するかどうかは分からないし、不穏な欲求は常につきまとうけれども、寄り添ってくれる人がいるなら大丈夫・・・・・・と、信じているしかない。

やっぱり、大きく事を左右するのは「環境」ってことですかね。

 

しかし、花鈴の夫もですが、要の妹が凄い良い子ですね。普通、兄とこんなに容姿が違ったら拗ねて育ってしまいそうですが。出自を知っても同じ態度でいてくれているし。花鈴、いい旦那と子供に恵まれたな・・・。

 

 

season0になってから、「殺人犯の子供」ネタを常にやっている印象ですね。season0の全体的なテーマなのでしょうか。今作では「遺伝」に集点を絞り、審判シーンも長く丁寧に描いて”今一度大前提の確認”ってことだったのかな?と思います。

 

 

 

 

〈Extra〉

短編の〈Extra〉、巻末収録の短編だから軽いエピソードものかと思いきや、ちゃんとした事件ものでしっかりと重い。続けざまにゲキ重。まったく、メンタルやられるな、『秘密』は・・・。

 

タイトルのExtraは「余分」という意味。これは読んでいる途中で察しがつきましたね。こういう、上の子の肉体のスペア目的に下の子を産むという話、聞いたことがありましたから。

某漫画作品では、溺愛する将来有望な息子に何かあった時の為に”部分を取り替えられるように”クローンを弟として出産するイカれた母親が出てきていましたしね・・・。

 

最後の娘の復讐、怖いですが、個人的にはスカッとしました。やっぱそうこないとね。

だが、ラストシーンは切ない・・・。最後をこのショットで締めるなんて、いっそ作者の性格が悪いと思ってしまうほど。

薪さんが言う「もう夢でしか逢えないから」も切ないですね。どんな悪夢でも逢えるのならいいって・・・・・・切ない。

 

苦しくて、切なくて、非常に重い。だからこそとんでもなく面白い。それが『秘密』。

今回の〈DNA〉〈Extra〉、どちらもまた期待を裏切らない良作ですので是非。

 

 

 

 

 

ではではまた~