こんばんは、紫栞です。
今回は、染井為人さんの『悪い夏』を読んだので、感想を少し。
『悪い夏』は2017年に刊行された長編小説。第37回横溝正史ミステリ大賞受賞作で、染井為人さんのデビュー作です。
2025年3月20日にこの小説を原作とした実写映画が公開予定ですね。
映画化されるっていう情報を知り、Kindle Unlimitedで無料対象作品になっていたので読んでみました。
染井為人さんの作品を読むのは初めてなのですが、連ドラ化と映画化されて話題になった『正体』の作者さんなのですね。
『正体』と『悪い夏』と続けざまの映画化なので、今後ドンドンと染井さんの作品が映像化されていくのかも?実写化に使われやすい作家作品ってありますよねぇ・・・。
染井為人さんですが、芸能マネージャー、舞台演劇、ミュージカルプロデューサーを経て作家デビューなんだそうで、経歴を知ってちょっと驚きました。
デビュー作である今作がお役所仕事関連の物語なので、てっきり役所勤め経験があるか、近い職業に就いてた方かと思ったんですよね。それくらい役所仕事の描写にリアリティがありましたし、デビュー作って自身が経験したことや身近な環境を舞台にした物語を書く人が多いですからね。
今作は、生活保護受給者を数人担当しているケースワーカー、不正受給をしている小悪党たち、そこにつけ込むヤクザ・・・といった、生活保護受給を巡って人々が右往左往し、悪いことが連鎖してあれよあれよ転落していく・・・といった物語。
以下、若干のネタバレ~
公式の説明文には、”ノワールサスペンス”と書いてありますね。確かに、生活保護の不正受給という悪事を巡っての物語で、嫌なことしか起こらない、決して明るい気分にはなれない小説なのでそうなのかも。
また、帯には「クズとワルしか出てこない」と書かれているのですが、これが本当にそう。怠け者とろくでなしとイカレタのしか出てこない。ほんのちょっとの端役とかまでそろいもそろって嫌な奴で悪い奴なんですよね。
善人とはいわずとも、せめてまともな人を一人は出して欲しいなという気になりました。比較的まともだと思っていたキャラクターも終盤でイカレタ事言い出して、「お前もか!」ってなりましたよ。
生活保護の不正受給ってのは世間でも度々議論になる話題ですが、こうやって手口をあらためて知らされると不公平感が凄いですね。思わず叱責したくなるんですけど、でも読んでいると、長期間働かないでお金がもらえる環境に置かれたら、程度の差はあれど誰でもこんな風に堕落しちゃうんだろうな~と。
覆水盆に返らずといいますか、真面目に働く気なんてそりゃなくなるでしょうね。
お話が展開する中で、不正受給している人物たちは窮地に追い込まれている”ように”見えるのですが、実はそうでもない。普通に真っ当な仕事をすれば解決することなんですよね。だけど、「働きたくない」との思いが強くて当たり前になってしまっているから、簡単でなんの問題点もないこの方法をとらない。とることなど思いもしない。
本当にどうしようも奴らですね。”人間、働かないとダメになる”を痛感させられる物語でした。
そんな訳で嫌な奴らによる嫌な話が繰り広げられるのですが、作者のあとがきによると、今作は悲喜劇ものとして書いているのだそうで。
確かに、終盤は滑稽さが際立つものになっています。でも、なんだか急すぎましたね。
それまでひたすらドンヨリしていたのに、いきなり妙な具合のスピードコントされて、オチがあやふやなまま終わってしまったな・・・・・・みたいな。
全キャラクター爆発させて「無茶苦茶だー!」はい、終了。
気持ちいいような、気持ち悪いような。スッキリしているようでスッキリしていない。なんとも形容しがたい読後感。あえて率直な感想をいうなら「なんだよこれ・・・」ですかね。
個人的に、登場人物たちの心情の変化が極端にコロコロ変わってついていけなかったです。心情のどんでん返しを常にされている感じ。だからどの心情の時も感情移入出来ないし、信用も出来ない。どうせ数ページ後には気持ち変わってるんでしょ?ってなる。
特に愛美は訳わかんなかったですね。今まで子供にあんな仕打ちをしていたくせに、最後の最後で「私が守らなきゃいけない!」ってなるのは解せない。「母性」を都合良く使いすぎだと思う。
しかし筆力は凄くて、グイグイと飽きずに読ませてくれます。筆力があるからこそ、急な心情変化に戸惑ってしまうのだという気もしますが・・・。
嫌だけども、読んでしまう。クセになる、一気読み確実の作品となっていますので気になった方は是非。
ではではまた~