夜ふかし閑談

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『秘密 THE TOP SECRET』9~12巻 最後の事件!あらすじ・感想

こんばんは、紫栞です。

今回は清水玲子さんの漫画作品『秘密 THE TOP SECRET』9巻~12巻に収録されている「レベル5データ関連事件」をご紹介。

 

秘密 -トップ・シークレット- 12 (ジェッツコミックス)

 

あらすじ

2062年。4月に起こった「小学校3名不審死事件」での捜査中に情報漏洩をしたのは貝沼事件以前に「第九」にいた内部の者ではないかという疑惑が浮上する。

その矢先に薪の車に爆弾が仕掛けられる事件が発生。薪の命が何者かに狙われているという緊張感の中、「第九」に滝沢幹生が復職した。

滝沢は貝沼事件で精神に障害をきたして長期入院し、休職扱いとなっていた。復職した滝沢には不審な点が多く、このタイミングでの復職に薪たちは疑問を抱く。

薪が命を狙われるのは、5年前に薪が一人で捜査させられた完全極秘の事件「カニバリズム事件」の為ではないかと岡部に聞かされた青木は、「カニバリズム事件」に関するデータを改めて洗い出そうと薪に進言する。

すると、青木の周辺の人物たちも何者かに狙われて――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の事件

こちらの事件、『秘密 THE TOP SECRET』のラストケース。シリーズ完結の事件ですね。

とはいえ、完結後にさほど間を開けずに『秘密season0』が実質続編シリーズとして始まって2025年現在も継続中なので、今にして思うと完結作って意識は薄いんですけども。

 

www.yofukasikanndann.pink

 

ま、「第九」が全国展開される前、この「第九」メンバーでの事件捜査は最後だってことで。

 

シリーズ最長の事件にもなっておりまして、9巻~12巻と四冊使われています。このシリーズは基本的に一冊で一つの事件を描くスタイルなので、通常よりかなり長い。1年で1冊ペースの刊行なのでこの事件が終わるまでおよそ3年かかってもいます。(※11巻・12巻は同時発売)

 

最後にふさわしい大事件で、関係ないと思われていた事柄や場面が綺麗にこの物語で繋がり、回収されています。読んでみるとかなり序盤から伏線が張られていたことに気がつき「あれも?え?これも?みんな伏線だったの!?」と驚かされます。

 

事件だけでなく、人間関係の方もかなり・・・ええ、かなりです。続編のシリーズがいまだに続いてはいますが、一旦ここで一つの答えが示される感じですね。

 

最終作らしく、存分に盛り上がる事件・物語となっております。

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

二人の関係

9巻の冒頭から血まみれの部屋や浴室が描写されていまして、不穏な空気が(『秘密』はいつでも不穏ですが、今作は特に)漂いまくっております。この描写と並行して薪さんが命を狙われる爆弾事件、青木と雪子さんの結婚準備・家族との顔合わせなどが描かれてハラハラする。「え?まさか・・・」っていうね、ここに出て来る誰かが惨殺されたってことなのかと。

端的に言うと”誰か”ってのは雪子さんで、これは意図的に、雪子さんが殺されたかのように読者に思わせる演出がされています。

 

しかしこれはミスリードで、実際に殺されたのは青木の姉夫婦。青木等と顔合わせで会っていたその日のうちに自宅で滅多刺しに惨殺され、夫婦もろとも風呂桶に突っ込まれた状態の遺体で発見される。(この漫画を貸した友達みんなに「雪子さんが殺されるんだと期待した」と当時言われたものです。みんな、そんなに雪子さんのことキライかい・・・?)

しかも発見するのは青木。

しかもしかも、姉夫婦の殺され方は前に青木が捜査した事件を模倣したらしきもの。

しかもしかもしかも、姉夫婦の脳を取り出してMRI捜査することとなる。

 

キツすぎ・・・。

 

葬儀のシーンは特にキツくって、作中の薪さん同様に読みながら青ざめたものです。「もう、もうやめてあげて・・・!」の連続。ホントに容赦ないな、この作者は。

 

もう精神崩壊ものの展開ですが、そこは青木ですので、薪さんへの妄信が精神的な拠り所となり、雪子さんとの婚約も破棄して事件捜査にのめり込んで突っ走る事態に。

 

薪さんは薪さんで、青木の姉夫婦が殺害されたのは「カニバリズム事件」を見た自分への警告と当てつけの所為だろうとの確信があるので、青木の妄信に応えようといつになく優しく接したり仕事を褒めたりするのですが、薪さんは自分が嫌いで人の妄信に応えられるような人間ではないとの想いがあるので、追い詰められてしまうんですよね。

 

スパイの滝沢がこれまたねちっこく煽ってきて、10巻の終盤で双方パンクしてビンタ事件が発生してしまうことに。(後で山本にも言われてたけど、上司を殴るんじゃあない・・・)

 

そのまま事態は加速。薪さんが囮捜査で「カニバリズム事件」のデータを持ち出して逃亡するという危険な賭をすることに。

 

「第九」の情報漏洩事件から始まり、薪さんの私用車爆破事件、青木の姉夫婦惨殺事件、「カニバリズム事件」データ流出によって大国による反政府活動家一族の惨殺事件が発覚。

発展・拡大した一連の事件により国を揺るがす大事となる訳ですが、この加速っぷりが薪さんと青木、二人の関係性と比例するように描かれています。

「こうなったらもう全部事件ぶちまけるしかねぇ!」ってのと、「こんなのもう抱きしめるしかねぇ!」ってのとね。

 

二人とも別方向なんですけれども、あまりに想いが強すぎてですね。読んでいるとちょっと気恥ずかしい。二人ともボロボロ泣きますし。職場で何してんだですが。

「合法的に殺されたい」とか、もう究極だと思うよ。ある意味究極のラブストーリー展開してる。

 

 

 

 

 

秘密

この一連の事件の真相ですが、ウイグル自治区というだいぶセンシティブな事柄を扱っているのは漫画としてだいぶ攻めているなという印象。よくやったもんだ。漫画内の事とはいえ、そりゃしつこく薪さんも狙われる訳だわ~ですね。

 

カニバリズム事件」は薪さんがおよそ5年間抱え続けた「秘密」であり、それによる犠牲は凄まじいものだった。鈴木の死も、元をたどればこの「秘密」のせいだったようですし。この真相、初読の時は驚きましたね~。

この大きすぎる「秘密」を吐き出したことにより、結果的に色々と吹っ切れてすがすがしい顔をしてくれています。ま、そこに至るには大変で、苦しくて、哀しい想いがあったのですけども。

 

ヤマ場で、青木は”「秘密」なんてどうでもいい”と、言う。これって凄く赦しの言葉だと思うんですよね。特に薪さんにとっては。

で、エピローグの「一期一会」では、薪さんが”「何かを守りたい」と思える人はそれだけでとても倖せだと思います”と言っている。

 

「秘密」を持つってことは、「何かを守りたい」ってことで。それは生きている限り、何度失っても生まれてくるもの。だから私達は「秘密」と共に生きていくしかない。

 

 

当時、この最終巻を読む前、私はビクビクしておりました。それというのも、作者の清水玲子さんは悲劇的に物語を終わらせるので有名な方だったからです。昔読んだインタビューで「決定的な悲劇が起きないと物語が終わらないから」みたいなことを仰っていて(だいぶうろ覚えですが・・・)。ま、そりゃそうかなんですけど。

 

ですので、この『秘密』も悲劇的な終わり方をしてしまうのではないかととても不安だったのですよ。

しかし、いざ読んでみたら愛に溢れた終わり方をしてくれていて大変安心しました。キツいこと色々あったけど、とりあえず良かったぞ!と。

 

本編が綺麗に終わっているのでエピローグの「一期一会」が少し蛇足に感じてしまうかもですが、読者サービス的と本編のより丁寧な説明って感じでやっぱりあって良かったと思います。

本編の最後が青木の視覚映像で締められているので、「え?これ、青木が死んじゃって、誰かが捜査でMRI画像見てるってこと?」と、不穏な深読みをチラッとしてしまいましたが、ま、ま、大丈夫でしょう。今後どうなるか分からんが・・・。

 

雪子さんとよりを戻して結婚しろと言われた青木でしたが、雪子さんは青木との婚約解消後、黒田洋たる男性と結婚したらしく、薪さんの願いは虚しく散っております。読者的には、青木と雪子さんの仲ってやっぱり応援出来ない感じだったので、不憫ではありますが良かった。

薪さんも青木も独り身で生きていくのが決定づけられた最終巻だったという気もしますね。ま、青木は舞ちゃんもいるし。

 

事件内容も結末も申し分ないですし、薪さんと青木の唯一無二の関係性もある種の解答が示されて納得ですが、個人的に、この長い事件でも株を上げまくったのは岡部さんですね。岡部さんはいつでもMVPさ。season0が継続中の今現在もね。

 

『秘密 THE TOP SECRET』は事件ごとに区切られている漫画で単体でも愉しめるものとなっていますが、やはり通しで読み進めないと得られない感動がありますので、1巻を読んだなら是非最終12巻までは読み切って欲しいものです。

途中で切ると損ですから。ホントに。

そして、この12巻までを読み切った後は是非、続編のseason0へと進んで頂きたく。

 

 

 

ではではまた~