夜ふかし閑談

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『秘密season0』1巻 ネタバレ・感想 薪さんの出生の秘密と、鈴木との出会いの物語!

こんばんは、紫栞です。

今回は、清水玲子さんの『秘密season0』1巻に収録されている「Genesis 創世記」をご紹介。

 

秘密 season 0 1 (花とゆめコミックススペシャル)

 

 

あらすじ

2045年5月。東京大学に入学したばかりの鈴木克洋のもとに首席入学の秀才・薪剛が訪れる。

薪の両親は10年前に火事で亡くなった。火事の原因は無理心中を計った両親の放火によるものだと断定されたが、両親は誰かに殺されたと信じる薪は独自に調査をしており、事件には東大入学の成績上位者しか入れない秘密結社「プレミアム」が関わっているのではないかと考え、次席入学者の鈴木に接触してきたのだ。

 

薪の思惑通り、数日後に鈴木は「プレミアム」に勧誘された。薪の様子を見て協力する気になった鈴木は「プレミアム」に入会して共に犯人を探ろうとするが――。

 

 

 

 

 

 

 

エピソード0

こちら、SFクライムサスペンスな漫画シリーズ『秘密  THE TOP SECRE』の続編シリーズの一発目の物語。

 

www.yofukasikanndann.pink

 

しかし、描かれるのは前シリーズの時間軸より前、MRI捜査や第九などがまだ出来る前の、薪さんと鈴木との出会いのお話。いわば『秘密』の前日譚、エピソード0ってな物語で、続編というよりはスピンオフってな感じですね。

 

なので、この本が刊行された当初は『秘密season0』は一冊きりなんだろうと思っていたんですよね。前日譚だから”season0”なんだろうと。

このあと前シリーズの後の時間軸で文字通りの”続編”をやっていく訳ですが、「season0」をタイトルにつけたままのシリーズ展開で多少困惑しましたね。正直、今でも「解せぬ」なんですが。何が”0”なんだ・・・?

 

今作の舞台は2045年。この時、薪さんと鈴木は大学に入学したばかりの18歳です。二人の青春時代を読めるってことか!?と、なるところかもしれませんが、そこはスピンオフでも前日譚でも『秘密』ですから、展開されるのは青春キラキラストーリーではなくって、重くてキツい真相が待ちかまえる事件調査。

前シリーズではボンヤリとしか分からなかった二人の友情模様を知れる、ファン必見のスピンオフになっております。

 

鈴木の人となりが具体的に知れるのは勿論ですが、18歳の頃の薪さんを見られるのもポイントですね。と、いいましても、見た目は全然変わらんのですが。

18歳の薪さんは優秀すぎて周りから浮いている不思議ちゃんってな印象で、コミュニケーション能力がまだ備わっていないところが若さを感じるところですかね。いや、別に30過ぎてる本編の方もコミュ力は高くないけども・・・。情緒不安定ですぐ気絶するところは同じ。

 

 

 

 

 

 

 

 

以下、ガッツリとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薪さん、出生の秘密

今作で描かれる事件は「薪俊・薪海死亡放火事件」2035年、薪さんが8歳の時に発生した、両親の死亡事件です。

 

放火されたのは自宅で、その火事で全身に大やけどを負いながらも助けてくれたのが両親の知り合いだった澤村敏。以後は澤村敏が法定後見人となり、薪さんは澤村さんの介護をしつつ共に10年暮らしてきた。

火事に遭った時の記憶で、当日自宅で開催していた会食に三人の大人が出入りしていたこと、その会食は両親が在籍していた秘密結社「プレミアム」のメンバーによるものだったことから、薪さんは「プレミアム」が事件に関わっていると考え、「プレミアム」の総本山である東京大学に入学したのを期に調べようとする。

 

簡単にいうとフリーメイソンのような秘密結社であるこの「プレミアム」は、東大入学の上位成績者から遍歴・家柄・宗教の有無等から鑑みて入会者をスカウトする。

薪さんはトップ入学ではあるものの、”訳あり”なのでスカウトがかからない。本人もそれは見越していて、自席入学の鈴木に「プレミアム」からのスカウトが来るだろうと思い、接触する。

 

要は、鈴木に入会してもらって「プレミアム」内部のことを調べようという腹積もりで近づいたんですね。

鈴木からするとこんなまったく関係ない、初対面の人間の為に骨を折る必要は皆無なのですが、何というか、薪さんがあまりに姫なので協力することに。そんなだから後々あんなことになる・・・。

 

放火の犯人は澤村敏。19年前、「プレミアム」内での地位で澤村は薪俊に嫉妬し、俊の婚約者だった海を襲って妊娠させた。俊はそのことを知った上で海と結婚して自分の子として育てた。

10年前、澤村敏は薪宅に放火し、自分の子である剛を助け出して法定後見人となり、共に暮らしてきたと。

薪さん自身も澤村のことを疑う気持ちがあったのですが、育ての親である澤村のことを信じたくって、自らの疑念を否定したくって躍起になって調べていたのです。しかし、結局は澤村さんが犯人で・・・辛い結果ですね。

 

『秘密 THE TOP SECRE』では、薪さんの生い立ちや家族などは一切触れられていませんでしたので、こんなバリバリな”出生の秘密”があるってのはちょっと驚きでしたよ。

 

これによると薪さんは殺人犯の息子だということになる訳で。この事実が『秘密season0』シリーズでの重要な要素の一つになっています。

 

 

澤村がひねくれてしまったのは、外国人労働者を手厚く大量に受け入れたことによって生じた外国人差別により、日本人離れした顔をしていた澤村が日々周りからの差別に苦しめられていたから。新都市計画プランの公募で薪俊に負けたのも純日本人ではないのではないかと上に思われたせいだと考えて凶行に走ってしまうのですね。

自身の顔を憎んでいたから火事の際にわざと顔を庇わなかったと。

 

澤村敏の火傷を負う前の顔って、薪さんと瓜二つなんですよ。読者としては、薪さんの顔で悪事を働かれるのは読んでいて違和感凄いしとても嫌でしたね。

 

しかし、じゃあ薪さんの顔ってバタ臭いってこと?お人形みたいな綺麗な顔なんだろうってだけで、西洋人風だとは今まで思ってもいなかったのですが・・・。

 

 

 

 

 

 

 

鈴木

薪さんの出生の秘密が判明することと同じぐらいにこの本での重要なポイントは、鈴木が主役的立ち回りで作品に登場していているところですね。

前シリーズでは鈴木は既に故人で、作中で姿が出て来るのは回想の中でだけ。当然他者から見た鈴木の姿しか描写されないので、どうしても美化されがちといいますか、人間くささが希薄な印象になっていました。

聖人君子めいたいい人で、青木が似てる似てると言われてる人。

 

今作を読むと、鈴木のことをちゃんとキャラクターとして昇華出来ます。前シリーズですと、薪さんや雪子さんも青木を見て鈴木のことを思い出すという描写だらけだったので見た目も人となりもそんなに似てるのかい?ってなっていましたが、鈴木は人に対してハッキリと意見を言うし、煽ったりもするし、計算して動くタイプで色々とたくましい人物。

一見すると、「なんだよ、泣き虫の青木とはそんなに似てないじゃん!」なのですが・・・根の善良さが似てるってことなんですかね。あとお人好しなところ?

 

終盤、澤村に捕まって殺される~って場面で啖呵切るのが良かったですね。スッキリする。

 

こんな話読むと好感度が増してしまうのですが・・・十数年後にあんな形で死んでしまうと読者は知っているので、辛さが増してもしまう。

今作の最後に鈴木が言う「深夜料金」は本当に高くついた。本当に。

 

 

薪剛の出生の秘密と、薪剛と鈴木克洋、二人の友情の始まり。ファンならば絶対に必読の物語となっておりますので是非。

 

 

ではではまた~