夜ふかし閑談

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『黒い家』原作小説 ネタバレ・紹介 恐すぎる!!狂人ホラー 夏のオススメ本~⑱

こんばんは、紫栞です。

今回は、貴志祐介さんの『黒い家』をご紹介。

 

黒い家 (角川ホラー文庫)

 

あらすじ

大手生命保険会社の京都支店で死亡保険金の査定に日々忙しく追われていた若槻慎二はある日、保険加入者の菰田重徳に家に来るように要求された。

面識が無い顧客から名指しされたことを訝りながらも菰田家を訪れた若槻は、そこで菰田重徳の息子・和也の首吊り死体を発見する。発見時に一緒に居た重徳の不審な態度から若槻は保険金目当ての犯行だと確信するが、警察の捜査は進捗せず、そのため本社の方でも菰田家からの保険金請求を受けても調査中として保留の状態が続いた。

すると、重徳は「和也の保険金は下りたか」と毎日支社に来て若槻に催促するように。辟易し、業を煮やした若槻は独自調査に乗り出す。

すると、若槻の周りで次々と恐ろしい出来事が起こり―・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最狂ホラー本

『黒い家』は1997年に刊行された長編ホラー小説。第4回日本ホラー小説大賞受賞作。

貴志祐介さんのデビューから二作目の長編で、『青い炎』『新世界より』『悪の教典』『鍵のかかった部屋など多数の有名作がある貴志祐介さんの作品の中でもかなり初期の代表作ですね。

 

保険金殺人がテーマの作品で超常現象や幽霊は一切無しの物語なのですが、「恐すぎる!」と、ホラー小説では必ず話題に上る作品。私自身も今まで読んだ本の中でどれが一番恐かったかと聞かれたら『黒い家』だと答えますね。ホント、とにかく恐いんですよ。

 

作者の貴志祐介さんは専業作家になる前に生命保険会社に勤めていたとのことで、保険会社の業務内容や保険金犯罪についてかなり詳細に描かれています。それによって物語に圧倒的なリアリティが生じている為、読んでいるととんでもなく恐ろしい訳です。

 

30年ほど前の作品ですので、今読むと時代は感じますけどね。保険制度や保険金犯罪などの在り方はこの数十年の間にかなり変わっているのではないかと。ま、「保険」を利用して金をせしめようっていう最終目的は変わらないのでしょうが。

 

1999年に実写映画化されていまして、この映画もまたかなりの有名作です。

 

 

私は観られていないのですが、原作とは内容が違うのだとか。でも映画は映画でメッチャ恐いらしい。2007年には韓国でリメイク版映画も制作されています。

 

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生命保険

 

生命保険とは、統計的思考を父に相互扶助の思想を母として生まれた、人生のリスクを減殺するためのシステムである。

断じて、人間の首にかけられた懸賞金などではないのだ。

 

と、あるように、生命保険というのは本来は人々に安心を与えるためのもの。しかし、”命を金に出来るシステム”だと捉える者たちがいる。

 

主人公の若槻は児童の首吊り死体の第一発見者にさせられて、重徳が生命保険欲しさに妻の連れ子を殺害したのだと確信。早く金をくれと毎日重徳にプレッシャーをかけられ、自宅にまで嫌がらせをされるようになりながらも警察に再三訴えたり独自調査をする。

それというのも、息子の和也の次は重徳の妻である幸子が命を狙われるのではないかと案じているからで。若槻は幼少期に兄が自殺をしていて、兄がいじめられているのを知っていたのに見殺しにしてしまったという罪悪感がいまだに若槻の中に根強くあるためなのですけれども。

 

実は、保険金をせしめるのに躍起になっているのは妻の幸子の方で、心配して警告の手紙などを出した若槻の行動はすべて裏目に出ることとなる。

 

そもそも、第一発見者として若槻が選ばれたのも「自殺で保険金は下りるか」と匿名で電話してきた幸子に若槻が自身の体験談を絡めて自殺を止めようとしたため。実際は、幸子は自分が自殺するってんではなく、息子を自殺に見せかけて殺したら保険金が下りるか聞きたかった訳ですが。

 

金のために実子を殺そうとしている幸子としては、残された遺族の気持ちが云々と説得しようとする若槻は滑稽で興味深く、利用できると目を付けたんですね。

 

 

 

 

 

 

人間として

若槻の健闘も虚しく、和也の保険金請求が正式に受理されると幸子の行動はエスカレート。夫の重徳の両腕を工場の裁断機で切断して保険金を請求。上手いこと受理されないとわかるとサイコパスの研究対象として接触してきた心理学者助手の金石、データ・サービスの交渉屋である三善を殺害。若槻を邪魔者と見做してターゲットにし、部屋に潜入、若槻の恋人・恵を攫い・・・・・・と、もはや保険金どうこうではない暴走殺人鬼っぷり。

 

この幸子のエスカレートしていく過程が本当に恐ろしいのですよね。終盤にかけてはモンスターとのバトルってな具合で、ホラーアクションものとしての読み応えもあります。

 

初読の時は、重徳の両腕切断でドン引きした記憶。その後は「狂人ってこういうことなんだ・・・」と、最終決着がつくまで戦慄し続けたものです。

 

 

まったくのとばっちりで恐ろしい目に遭った若槻の恋人である恵ですが、逞しいもので、菰田幸子をサイコパスの怪物扱いするようなことはあってはならないと若槻に主張する。

人格障害は育ちや環境によってなるもので、根っからの悪人はいない。本当に危険で邪悪なのは、自我を守るためにサイコパスなどと言って特定の人物を人間のカテゴリーから外そうとする人達だと。

 

ここまで人間離れした凄まじい描写しておいて、「菰田幸子は怪物」じゃないと主張されると読者としては若干、いや、だいぶ、戸惑ってしまいますが。もう本当に行動も倫理観も恐ろしいのですもの・・・(^_^;)。

 

この本では主人公の若槻が恵のこの信念を自分も信じようと決意して終わっていますが、作者の貴志祐介さんは他の作品でも度々サイコパスについて触れていまして、後の代表作である『悪の教典』では今作での恵の信念を全否定するような、生まれながらに他者への共感・良心が欠如したサイコパスが主人公です。

 

 

 

悪の教典』だと「サイコパスとは如何なるものか」が非常に丹念に描かれていまして、貴志祐介さんが長年取り組んできた題材なのだろうなと。

 

私個人としては恵の意見には概ね賛同ですし、環境要因による人格障害が殆どだろうとは思っています。サイコパスという言葉が濫用されるのも軽率で危険なことだと。

しかし、”生まれながらの悪人”というのも居るのだろうと思います。「そんなことない!根っから悪い人なんていない!」というのもまた、自身の理解が及ぶ範疇だけで物事を捉えようとする傲慢な姿勢だよなぁって。

 

ま、今作の菰田幸子が”人間として”狂っているのは間違いありません。『黒い家』は「人間」の恐怖が極限まで描かれている最狂ホラー小説ですので、まだまだ暑い日が続くこの最中に是非。

 

 

ではではまた~