夜ふかし閑談

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『星降り山荘の殺人』ネタバレ・解説 フェアで御丁寧、でも騙される!本格推理小説

こんばんは、紫栞です。

今回は、倉知淳さんの『星降り山荘の殺人』をご紹介。

 

新装版 星降り山荘の殺人 (講談社文庫)

 

あらすじ

後輩をかばって上司を殴ってしまったことで部署異動を命じられた広告代理店勤務の杉下和夫は、カルチャークリエイティブ部という芸能専門のまったく馴染みの無い部署に転属させられ、「スターウォッチャー」たる深遠な宇宙の深さと星空の美しさについて語るタレント文化人・星園詩朗のマネージャー見習いをすることになった。

 

和夫は早々に星園と共に埼玉の深い山の奥にある旧オートキャンプ場に出張に出かける。星園がこのキャンプ場を買い取った不動産開発会社社長からイメージキャラクターを依頼されての招待だったが、山荘には他にもUFO研究家、恋愛小説作家とその秘書、女子大生二人が招かれていた。

 

しかし翌朝になり、コテージの中で他殺死体が発見される。積雪に囲まれたコテージと管理事務所棟の間には三筋の足跡、さらにコテージの左横にはまるでミステリー・サークルのような渦巻き状の円形が描かれていて――。

 

 

 

 

 

 

 

懇切丁寧な(?)本格推理小説

『星降り山荘の殺人』は1996年に刊行された長編推理小説。1996年~1999年の間に講談社ノベルス、単行本、文庫と出版されまして、2017年には講談社文庫から新装版が出ています。

新装版とは言っても、活字が大きくなって読みやすくなっているだけで、内容の方は加筆修正はされていないようですので、旧版で読んでも差し支えは無いようです。今手に入れやすいのは新装版の方ですね。私も新装版の方で読みました。

 

私は定期的にクローズド・サークルものの本格推理小説を読みたくなる癖を持っていまして、今回は何を読もうかと思っていたところ、ミステリランキングなどで度々目にするこちらの名作を読んでみることにした次第です。

 

倉知淳さんの作品は大昔に短編集の『日曜の夜は出たくない』を友達に貰って読んだきりで正直文章や作品雰囲気は忘れていたのですが、ミステリとしての出来もさることながら、ユーモアあふれる文章で読んでいて面白く、楽しかったです。新装版の巻末にある倉知さんのあとがきもおかしみがあって良き。

 

倉知淳さんは前にタレントのカズレーザーさんが番組で好きな作家さんだと紹介していたので、それで知った人も多いですかね。私もリアルタイムでその放送を観た記憶がある~・・・と、思って調べてみたら、2016年に「アメトーーク!」の読書芸人企画でのことらしい。そんなに前なの・・・・・・(^_^;)。

 

うろ覚えですが、「凄い面白い作家さんなんだけど作品を滅多に出さないんだ」とか何とか言っていたような。けど当時のテレビの影響は絶大なようで、番組で紹介されて以降は短編などは割とコンスタントに書かれているようです。

 

それを受けてなのか、2017年に刊行された『星降り山荘の殺人』の新装版文庫にはカズレーザーさんによる

「ど真ん中の変化球!!各章冒頭の注釈が丁寧かつ挑戦的に、そしてあくまでフェアに読者を欺く。」

と、紹介文の帯がついていたそうな。

 

”各章冒頭の注釈”とは何ぞや?なのですが、この本は各章の最初に「まず本編の主人公が登場する 主人公は語り手でありいわばワトソン役 つまり全ての情報を読者と共有する立場であり 事件の犯人では有り得ない」

てな具合に、章の内容を御丁寧に説明してくれる注釈がついているのですよね。ここではこれが描かれるよ、ここで事件が起きるよ、この推理は当たりだよ・・・などなど。

 

「そんなに説明してくれるの!?」な注釈でして、これが読んでいると新鮮で驚き。この本最大の特徴ですね。

 

 

 

 

 

 

 

以下ガッツリとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

フェアですよ

推理小説でこんな注釈が入るなんて、十中八九何かしらの仕掛けが施してあるのだろうと警戒してしまうところです。叙述トリックものを読み慣れている人ほど特に。

私も注釈には「うわ、絶対に読者騙そうとしてるわ」って最初っから注意を払って読んでいたのですが、どうも突き詰められず。見抜けないままに解決部分を読んで驚かされました。「やっぱりそういう”ダマシ”仕込んであるよねぇ」と、期待通りに気持ちよく騙されたなと。

 

今作での最大の仕掛けは、各章冒頭の注釈による探偵役の誤認です。

 

和夫は早速新しい仕事に出かける

そこで本編の探偵役が登場する

探偵役が事件に介入するのは無論偶然であり

事件の犯人では有り得ない

 

との注釈が二章目の冒頭で書かれているので、この章で登場する星園詩朗が探偵役で、事件の犯人でないのは確定だと読者は思ってしまう

その後、事件が発生して星園が読者が想像するところの探偵役的立ち回りで和夫を助手に犯人追求をし、終盤でこれまた推理物のお約束通りに皆の前で推理を披露しはじめるのですっかり信じてしまうのですが、推理披露の途中でどんでん返しが起こる。

 

恋愛小説作家・草吹あかねの秘書である早沢麻子が星園の推理を否定し、星園こそが犯人であると指摘・糾弾するのです。

実は探偵役は星園ではなく、早沢麻子の方なのですね。

 

おいおい、注釈で星園が探偵役で犯人じゃないって書いてあるのに!作者からの注釈で嘘をつくなんて推理小説でいうところのアンフェアってやつじゃないのか!

 

と、早合点して怒ってしまいそうなところですが、この注釈があった章を読み直してみるとちゃんと麻子が登場しているし、上記した注釈にも”星園が”探偵役だとは明記していないので、ちゃんと本当のことが書かれているんですよね。もちろん、他にも読み返すと様々なところに伏線が確り張られています。

 

懇切丁寧な注釈であるのに変りはない。むしろ、どこまでも読者に対してフェアな推理小説なのです。

 

さらに巧みなのが、星園が(偽の)推理披露の途中で語り手のワトソン役である和夫のことを犯人だと言い出すところですね。この手の叙述トリックものですと「語り手を疑え」ってのが定石なので、注釈もそのための仕掛けだったのか?と、読者も一瞬「え?まさか本当に和夫が犯人なの?」と誤解しそうになる。

これは叙述トリックものを読み慣れている人ほどそうで、かくいう私も注釈を出された段階から「”信用のならない語り手”じゃなかろうな?」と警戒していたので、信じちゃいそうになった。

それが語り手に対してのダマシではなく、探偵役の誤認ですよとこられてね。「うわ~やられたな~!」ですよ。まったく、お見事です。

 

そもそも、スターウォッチャーだとかふざけたこと言ってる奴が犯人だとは思わんじゃん?

 

 

 

 

 

絶妙なさじ加減

途中で星園が語っていた過去に故郷の村で起こった事件ってのがよくわからずじまいですが、全体的に非常に良くまとまった、絶妙なさじ加減の作品になっていると思います。

 

奇をてらいすぎていない叙述トリックと、適度などんでん返し、雪に囲まれた山荘での足跡とミステリー・サークルの謎や、ロジックでの犯人追求など、確り伝統的な本格推理ものとしての謎解きもあり、個性豊かな登場人物達とコミカルな語り口で楽しませてくれて。

推理物としてのトリックだけでなく、物語として細部まで色々なバランスが計算された作品ですね。

 

1996年の作品なので所々時代は感じますがそこもまた味わい深く。読みやすくてミステリ初心者にも玄人にもオススメの本格推理小説ですので是非。

 

 

 

ではではまた~