夜ふかし閑談

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『推しの殺人』原作小説 ネタバレ・解説 アイドル三人の殺人隠蔽決死行

こんばんは、紫栞です。

今回は、遠藤かたるさんの『推しの殺人』をご紹介。

 

推しの殺人 (宝島社文庫)

 

 

あらすじ

大阪発の三人組アイドルグループ『ベイビー★スターライト』。もうじき結成四年目をむかえる地下アイドルだが、ランクは中の下で集客も売り上げも厳しく、横柄で高慢な事務所社長、人気格差によるメンバーの不仲、彼氏からDVを受けているセンターなど、様々な問題を抱えていた。

そんな最中、メンバーのひとりが事務所社長を殺害してしまう。「三人でアイドルをつづけたい」と、三人は事件を隠蔽することを決意。なんとかして秘密裏に死体を処理しようとするが――・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

犯罪小説~アイドルの場合~

『推しの殺人』は2024年に刊行された長編小説。第22回『このミステリーがすごい!』大賞・文庫グランプリ受賞作品「溺れる星くず」を改題・加筆修正したもので、今作が遠藤かたるさんのデビュー作です。

このミステリーがすごい!』大賞は刊行の際に人の関心を引きやすい分かりやすくてキャッチーなものに改題させることが多い印象ですが、

 

www.yofukasikanndann.pink

 

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巻末の紹介によると、この第22回の受賞作は三作とも改題しての刊行のようで。確かに改題後のタイトルの方が売れそうではありますが、どれも元のタイトルを見ると作者は熟考してつけたんだろうなぁと窺えるものばかりなので何とも言えない気分になる・・・。

 

今作の『推しの殺人』というタイトルですが、”推し”ってのはこの場合、周りにすすめたい・応援したい人物やキャラクターを表すファンが使う造語のことを指しているのでしょうが、この物語は終始アイドルのルイ視点で描かれていてファン視点での描写はないので、”推しの殺人”ってのはちょっと意味合いが異なるのでは?って気がしますが・・・ま、「推し文化」が根付いた現在ではインパクトのあるタイトルですよね。

 

このミス大賞は映像化される印象も強い賞。今作も2025年10月から読売テレビ日本テレビ系で連続ドラマ放送が決定しています。

 

www.ytv.co.jp

 

ドラマの公式ホームページをサラッと見ましたが、原作では聞き覚えのないキャラクターや設定が散見されますので、内容はだいぶ変えるのではないかと思います。原作は300ページちょいですからね、そのままでは連ドラにするのにはボリューム不足でしょうから、色々膨らませるのかと。

 

今作は内容的には殺人を隠蔽しようとする過程を当事者視点で描いたよくある犯罪小説。特徴的なのは殺人を犯したのがアイドルで、グループメンバーの皆で隠蔽工作するところ。

アイドルにはアイドルの苦悩がある。殺人の場合も然りってことで、地下アイドルという芸能業界と殺人の隠蔽に翻弄される女性たちの決死行が描かれます。

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人組女性アイドル

『ベイビー★スターライト』は結成当初は七人グループだったものの、メンバーの脱退と加入を繰り返して現在は三人組アイドルとして活動している。

この物語はおそらく2023年頃の設定で書かれているのだと思いますが、ベイビー★スターライトが結成された当時、事務所社長の羽浦はやり手として業界では一目置かれる存在で、事務所の景気も非常に良かった。しかし、コロナ禍の煽りを受けて一気に業績が悪化。事務所で多数手掛けていたアイドルグループは解散が相次ぎ、今ではベイビー★スターライトが唯一所属しているグループに。

 

 

メンバーは、ルイテルマイズミの三人。

 

主人公のルイはグループ結成当初からいる最古参メンバー。23歳で、すすめられるままオーディションを受け、流されるままにアイドルになり、今はやりがいをすっかり失って惰性で続けている状態。グループ四周年ライブを最後に、アイドルを引退しようと考えていた。

 

テルマはプロ意識の高い熱血で、キッパリとした性格。19歳で、かつてはグループセンターとして誇りを持ち、努力を怠らずにレッスンも人一倍し、パフォーマンスも最も優れていた。しかし、途中で加入したイズミにセンターを奪われ、不満を抱えていた。

 

イズミは大学生でテルマと同じく19歳。良いとこのお嬢さんで容姿端麗。ド素人でパフォーマンスも劣るがセンターに抜擢され、グループでは一番人気。しかし、彼氏からの暴力に悩まされていた。

 

 

テルマはイズミにキツく当たり、イズミがオドオドと受け答えるという不和状態。両者とも比較的良好な関係のルイが日々テルマの愚痴を聞かされながらなだめつつ、DVを受けているイズミの相談役になっているという・・・ま、無害そうなルイの存在で均衡が保たれている三人組という訳です。

事務所の経営不振による社長の転落っぷりも、グループの関係性も”ありがち”ですが、その分リアリティがある。

 

そんなお先真っ暗な三人組アイドル・ベイビー★スターライトですが、さらなる大問題が発生。イズミが社長を殺害してしまうのですね。

実は、イズミのDV彼氏ってのは社長のことで、別れ話を切り出したら逆上されて殴られ、過剰防衛で殺害してしまったと。

 

恋愛禁止とか言っといて所属アイドルと交際して挙げ句に暴力振るってるとか・・・もう最低じゃん!なんですけども。殺してしまった以上、罪に問われるのはイズミ。

イズミに呼び出され、最悪な事態に直面したルイとテルマはしかし、通報をせずに死体を一緒に処分して共犯者になる決意をする。

三人でアイドルをつづけるため。

 

テルマはイズミを嫌っていたし、ルイはアイドルを引退するつもりだったのに。仲間が犯した罪を前に一致団結するのですね。

 

 

 

 

 

女たちの呪縛と闘い

巻末でのコラムニスト・香山二三郎さんの解説によると、ルイとテルマという名前は映画『テルマ&ルイーズ』からとっているのではないかとのこと。

 

俺たちに明日はない』(ボニー&クライド)の女性版といわれる90年代アメリカン・ニューシネマの名作ですね。犯罪を犯した女性二人の逃走劇が描かれる犯罪映画ですので、意識してつけたのは間違いないかと。

 

桐野夏生『OUT』の地下アイドル版”というのも正にで、今作を読むとパート主婦仲間が一致団結して遺体を解体・証拠隠滅を図る、色々と生々しいストーリーが話題となった『OUT』を想起する人が多いと思います。こちらも今作を書く上ではぼ確実に影響を受けているでしょうね。

 

 

この二作と今作とで共通している点は、女たちが共謀して男を殺害し、罪を逃れようとするところ。殺害されるのはいずれも酷い男、女からさまざまなものを奪おうとする男です。

 

女は女というだけで理不尽に男から尊厳を奪われ、虐げられている。個人差はあれど、女性は潜在的に男性に対して不平と憤りを抱いている。

だから、男を殺害したと聞いた時に女は一致団結できるんですね。”奪おうとする男”は女にとって共通の敵。奪ったのは向こうで、取り返しただけで何故罪人として裁かれなくてはいけない!ってことです。

ラスボス的ポジションの河都が「女の敵」の象徴のような男として描かれているのも、男から受けている呪縛に抗う女たちの物語だと強調してるなと。

 

私も、人に暴力を振るう奴は殺されたって文句言えないと常々思っていまして。やっぱ女ですし、この手のお話ですと被疑者側を応援してしまいますね。

 

 

 

気づくまでの物語

終始ハラハラな展開が続きますが、三人の絆は深まって良好になり、アイドルとしてのパフォーマンスも向上、ファンからの評判も上がって・・・と、ベイビー★スターライトの活動は好転していく。

 

共犯者になったことでの結束がそうさせるのもあるのでしょうが、今作の場合は事件をきっかけに元々持っていたものに気がつく物語となっています。

 

”私たちは泥沼を這いずってきた。追い求めるものはもっと上に、高みにあるのだと思っていた。でも、本当は泥沼の中にもあった。泥沼でもがくなかで私たちはすでに手にしていた。ただ気づいていなかっただけだ。"

 

メンバーへの親愛も、応援してくれるファンも、アイドルとしての喜びも。元々持っていたのに取りこぼして見逃していた。殺人という大問題発生後に気がついたところで遅すぎるだろうではあるのでしょうし、さらなる罪を犯して事が露見するのは明らかだし、状況は絶望的なんですけども、「人殺しをする前に戻れれば・・・」といったたぐいの悔いがまったくない、悲壮感のない清々しい終わり方をしています。

良くないはずなんだけど「良かったね」ってなる読後感ですね。

 

 

帯には”待ち受けるどんでん返し!”と書かれていますが、良い人風だった河都が実は極悪人でしたってとこくらいでミステリ的な驚きはさほどないです。河都が悪い人なんだろうな~というのは読んでいて予想がつきましたしね。ここまでヤバイ奴だとは思わなかったですけど・・・(^_^;)。

 

アイドルを題材にしてはいますが、決定的な結末を描かない終わり方含め、王道の犯罪小説って感じですね。

 

このミス大賞受賞でのデビュー作って私が今まで読んできた中だとストーリー展開や描写など拙さが目立つものが多かったのですが、今作はデビュー作だとは思えない、全体的に完成度の高い作品です。

 

気になった方は是非。

 

 

 

ではではまた~