夜ふかし閑談

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『濱地健三郎の奇かる事件簿』7編 あらすじ・感想 心霊探偵シリーズ第4弾!

こんばんは、紫栞です。

今回は有栖川有栖さんの『濱地健三郎の奇かる事件簿』を読んだので、感想を少し。

 

濱地健三郎の奇かる事件簿 濱地健三郎シリーズ (角川書店単行本)

 

シリーズ4冊目

こちら、心霊探偵の濱地健三郎が活躍する連作短編小説のシリーズ【心霊探偵シリーズ】の四冊目。

※どんなシリーズか、詳しくはこちら↓

 

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前作の『濱地健三郎の呪える事件簿』

 

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が刊行されたのが2022年だったので、およそ三年ぶりのシリーズ最新刊ですね。

 

一冊目が「霊(くしび)なる」、二冊目が「幽(かくれ)たる」、三冊目が「呪(まじな)える」で、四冊目の今回は「奇(くすし)かる」。毎度毎度読めん・・・( ̄▽ ̄;)。

 

 

今回は七編収録。

 

 

目次

●黒猫と旅する女

旅先で黒猫のぬいぐるみを連れた女性に一目惚れした依頼人。その女性がどうやら幽霊であるらしいと分かり、濱地健三郎事務所を訪ねたというのだが――。

 

タイトルが江戸川乱歩の『押絵と旅する男』のもじり。ただもじっただけでなく、内容にもガッツリ関わっている・・・と、いいますか、このお話は依頼内容よりももし『押絵と旅する男』の続編を書くならという空想話が主ですね。

なかなか興味深い空想話で「えー有栖川さん普通に書いて~」ってなりましたよ。有栖川さんはホントに乱歩好きですねぇ。

 

 

●ある崩壊

友人と一緒に老人宅に金を盗みに入った登久也。住人と鉢合わせし、勢い余って殺害してしまった後、自転車で逃走中に友人が車に轢かれてしまう。友人を見捨てて逃走した登久也だったが、それから”妙なもの”が視えるようになって――。

 

終始、登久也という若い男性の視点で描かれているお話。濱地とユリエは最後にちょろっと出てくるだけですが、こういったシリーズ短編集に犯罪を犯した側の視点で終始語られるお話があるとアクセントになって良い。

登久也は超現実主義者でして、このような人物からすると濱地たちがどのような印象になるかってのも楽しめるポイント。

 

 

●少女たちを送る

濱地と同じように怪異を振り払う能力を身に着けたいと願う助手のユリエ。ホテルに現れるという少女の霊の説得に成功し、これからは濱地と案件を手分けすることができるかもしれないと意気込んでいた矢先に、ちょうど同時に二つの依頼を受けて――。

 

こちらは怪奇憚というよりユリエの成長物語といった感じの短編。前作同様に心霊仕事に前のめりなユリエですが、濱地先生のように心霊案件をさばくのはやはり時期尚早なようです。

ここでユリエははれて濱地の助手から弟子に昇格(?)しています。

 

 

●湯煙に浮かぶ背中

仕事で立ち寄った土地で温泉旅館に泊まった叡二は、その旅館の温泉に幽霊が頻発して現れていると知り、もし良かったらと旅館側に濱地健三郎探偵事務所の電話番号を伝える。後日、依頼を受けて濱地とユリエは旅館を訪れる。どうやら、その幽霊はかつての常連客らしいのだが――。

 

このシリーズは雑誌『怪と幽』で掲載されているのですが、この短編は同誌での〈怪と湯〉という企画特集のために書かれたものだそうで。〈怪と湯〉って・・・ちょっとニッチすぎてアレですね。

有栖川さんも企画を聞いた時に「笑える」と思われたそうで、ちょっとしたほっこり話になっております。濱地先生が温泉に入りながら霊と対話するちょっとシュールな場面も楽しめます。

 

 

●目撃証言

路上での強盗殺人事件が発生。ほどなく有力な被疑者が捜査線上に浮かぶが、ほぼ確実な犯行状況を覆す被害者の目撃証言がもたらされ、刑事の赤波江はその目撃された被害者は幽霊だったのではないかと思い立ち、濱地健三郎事務所を訪れるが――。

 

赤波江さんが登場するとイコールで殺人事件がらみ案件なので、心霊ミステリ感が高まる。とはいえ、「あなたが目撃したのは幽霊ですよ」ってのは怪談のド定番ですね。

これは特にこの世に未練がなさそうだった被害者が何故幽霊になって現世にとどまっているのかが謎として究明するお話。”この時”だからこそのネタですね。

 

 

●観覧席の祖父

祖母が亡くなり、遺品を整理していた叡二は数年前に亡くなった祖父が球場の観覧席にいる写真を発見する。しかし、その写真は状況的に有り得ないもので――。

 

他のお話はだいたい50ページほどですが、こちらは30ページほどで短め。怪異色もミステリ色も薄めのちょっとした小話ですね。

作中でユリエが言及するように、野球の話が長い。ルールについての説明をしているのですが、野球のルール説明って何度聞いても私ピンとこないんですよね・・・(^_^;)。

 

 

●怪奇にして危険な状態

屋敷に亡くなった夫の霊らしきものがでると依頼を受けた霊媒師・蓮舫政江。霊から強い抵抗をされ、自分では手に負えないと判断した蓮舫は濱地に協力を願い出るが――。

 

シリーズ二冊目の『濱地健三郎の幽たる事件簿』収録の「それは叫ぶ」に出てきたベテラン霊媒師の蓮舫さんが再登場。

 

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「それは叫ぶ」が悪意むき出しの怪異ものだったので、この話も凶悪な霊の類かと思ってしまいますが、そんな予想をいい意味で裏切る真相となっています。こういった動機といいますか、心情面の意表を突くのは有栖川有栖作品の真骨頂ですよねぇ。

私は今作の中ではこれが一番好きな短編ですね。本の締めに相応しいお話だと思います。

 

 

以上、七編。

 

 

 

 

 

 

霊的に非日常

帯に「本作から読んでも楽しめる・・・」と書いてあるように、このシリーズで動きがあるのはユリエの霊能力の開花っぷりぐらいで、他は特に音沙汰なしです。「少女たちを送る」でユリエが正式に濱地先生の弟子認定されたことぐらいですね。

 

濱地先生は相変わらず素敵な紳士ですし、ユリエは相変わらず心霊仕事に前向きですし、ユリエと叡二の関係も相変わらず前進も後退もしない友達以上恋人未満関係、赤波江さんも相変わらず刑事で、蓮舫も相変わらず凄腕なんだかそうでないんだか分からない霊媒師です。

 

ユリエと叡二に関しては「いい加減ビシッとしろよビシッと!」と思わなくもないですが、現状維持でファンが思う通りの【心霊探偵シリーズ】が展開されています。いや、ドーンッと急展開してくださっても良いですし、それも読みたいって気がしますけどね。

 

今回の短編集は心霊の怖さも本格ミステリ感もそこまでですかね。犯罪が絡んだものもありますが物騒さは控えめで、非日常短編集といった感じ。心霊を扱っていても上品さが漂っているのが有栖川有栖作品らしいですね。

 

帯に書いてる「読むなら今!」が何で”今”なのかよく分からないですが、ちょっとした合間時間に読むのに適した短編集になっておりますので、気になった方は是非。

 

 

 

ではではまた~