夜ふかし閑談

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『猿』あらすじ 感想 京極夏彦ノンシリーズ長編!村と恐怖、そして猿の正体とは?

こんばんは、紫栞です。

今回は、京極夏彦さんの『猿』をご紹介。

 

猿 (角川書店単行本)

 

あらすじ

「猿がいる」

妙なことを言うパートナーを一人部屋に残し、祐美は亡くなった曾祖母が暮らしていたという岡山の山奥にある村・祢山村へと再従妹の芽衣と共に弁護士の案内で赴くこととなった。

祐美は曾祖母と一度も会ったことがなかった。曾祖母は百歳で亡くなるまで村にある家で一人暮らしをしていたのだという。芽衣が調べたところによると、祢山村は過疎の村で高齢者ばかりだが、六十歳以上の住民が入村しては死ぬ前に山を下りるため、人口も年齢構成も昭和からほぼ変わっていない謎が多い村らしい。

村に近づくにつれ、祐美は”何か”の気配を感じて不安に陥っていくが——。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノンシリーズ長編!

『猿』は2025年12月に刊行された長編小説。とはいえ、京極夏彦作品の長編は1000ページ越えがデフォでファンは毒されているので、360ページ程の今作は京極世界ではもはや短編感覚。あくまでこの世界線でのことですがね。360ページあれば長編です。普通に。

 

そして、今作はノンシリーズ長編。京極作品はジャンルやシリーズは違えど同一世界上で展開されているってことで、作品間で繋がりがあるのもまたデフォなのですが、この作品はどこともリンクの箇所がない、いわば”完全ノンシリーズ”の長編です。

 

時代小説や昭和が舞台の作品が多い京極さんですが、今回は現代が舞台。ジャンルはホラー。現代が舞台だからこそ描けるホラー小説ですね。

 

雑誌「怪と幽」で連載されていたものに大幅な書き下ろしが加えられたものということで、角川の怪談専門誌で掲載されていた短編集シリーズ【「 」談シリーズ】(現代怪談シリーズ)

 

 

www.yofukasikanndann.pink

 

と同一の作品雰囲気です。【「 」談シリーズ】の長編版って感じですかね。

章による区切りもなく、ずっと主人公の祐美視点で物語が描かれているので、よりそう感じる。

 

 

 

 

 

以下、若干のネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因習”ではない”村

主な登場人物は主人公の祐美と従妹の芽衣、弁護士の山川パラリーガル尾崎の四人。

まず、祐美と芽衣が先に落ち合い、そこで芽衣から祢山について調べた事柄を聞き、その後、山川と尾崎の二人と合流。直接祢山村に関わっている二人から村が”どういう場所”なのかを知って、村に到着してからは村民から今現在村が置かれている状態と”本当の内情”を身をもって体験する。

村に向かう中で、徐々に村の謎が明らかになっていく過程にはミステリ的面白さもあります。

 

物語の概要だけですと昨今のホラーでよくある「因習村」ものかと思われるかも知れないですが、読んでみると全然違う。今作で描かれているのは”因習がない”からこその恐怖。

 

何も起こらないし、理由も原因も意味もない。ただ怖いだけ。

 

これはね、確かに怖いですよ。人間は安心を求めて理由や原因を無理やりつけようとするものですからね。それが、どんなに考えみても何も解らない。ただただ「怖い」という想いだけがある。こんなのもう、どうしようもないですもん。もしこんな状況に陥ったら、確かに耐えられないと。

 

【「 」談シリーズ】は様々な恐怖の形を描いている怪談短編ですが、今作は”怖いから怖い”という恐怖が描かれています。

 

 

 

 

冒頭部分にのみ祐美のパートナーである隆顕が登場していますが、この隆顕、二年前にコロナに罹患した時の病状である極度の倦怠感が消えず、仕事を休職して家に閉じこもっている状態。口を開けば愚痴と不平不満の悪態ばかりで、一緒に暮らしている祐美は息苦しい生活を送りつつも、耐えていればいずれ寛解するかもしれないという希望を捨てられず、パートナーである隆顕の世話を続けている。

 

物語はこの隆顕が「猿がいる」と言ったところから始まり、その時の会話が祐美の中でずっと尾を引き続けるので、登場は最初の数ページだけですが物語の要になっている人物です。

 

形や仕草が人に極めて似ているのに人ではないからこそ猿は怖い

 

と、隆顕は言う。

しかしこの言葉、そっくりそのまま今現在の祐美から見た隆顕の姿と重なる。人なのに、まともなコミュニケーションを取ることが出来ない。祐美にとっては隆顕との生活は猿と生活しているようなものなのです。

 

まるで人のように見えるから人間の常識で量ろうとしてしまうが、人ではないから通じることはない。だから怖い。

人じゃないと最初から解っていれば、これは”違うもの”、”そういうもの”だと受け入れられるが、似ているから人に寄せて考えてしまって恐怖する。通じないことに恐怖を感じるのですね。

 

 

恐怖の根源、人が感じる恐怖とは何なのかを追求している恐怖小説ですね。こういった感情の揺れ動きの描写は京極さんの真骨頂だと思う。読んでいて、やっぱり京極さんの書く文章好きだなぁ~となりましたよ。

 

ノンシリーズですが、京極夏彦作品のファンは絶対に好きだろう作品ですので、普段はシリーズの方しか読まないという方も是非。

京極作品読んだことないよって方でも、ノンシリーズなので手に取りやすいかと。

一般的に想像するホラー小説とは一味も二味も違いますので、ホラーが苦手だという方にもオススメです。

 

 

ではではまた~