こんばんは、紫栞です。
今回は、芦花公園さんの『悪魔の微睡』について、感想を少し。
あらすじ
心霊関係の相談を専門に請け負う「佐々木事務所」。所長の佐々木るみが大学時代の後輩である青山幸喜と共に経営してきた事務所だが、少し前から青山は事務所にあまり来なくなった。
実家の教会の手伝いだと欠勤することが増え、話し方が厳しく容赦のないものになり、正しいけれど優しさがない。人を遠ざけるような態度をとるようになった。聖書の教えを布教する動画配信も始めたようで、そのチャンネルは奇妙に数字が伸びているらしい。
青山がおかしくなってしまったのは何故なのか?
るみは雇い入れたばかりの事務員・長尾アカリと共に調査に乗り出すが——。
続いた!
『悪魔の微睡』は2026年3月に刊行された長編小説。民俗学ホラーシリーズ【佐々木事務所シリーズ】の第五作目です。
この【佐々木事務所シリーズ】。前巻の『無限の回廊』でシリーズもの、ホラーものとしては変化球的な展開をしまして、
シリーズ終了ともとれるような結末でしたので、「続くかな?どうかな?」と思っていたのですが、続いてくれましたね。
さて、前回の晴れ晴れとした結末からどのようになるのじゃいと本を買ってみたらば、帯に”佐々木事務所の良心・青山幸喜に異変!”って書いてあるじゃないですか。
青山くんはですね、本当にこの帯に書いてある通り、このシリーズの、佐々木るみにとっての良心なんですよ。
ひねくれすぎていて特殊な主要人物ばかりのこのシリーズで、青山くんは決して裏切らない「光」といいますか・・・・・・。前巻の『無限の回廊』はるみが青山くんの存在と向き合って救われているのを実感する物語でしたし。
それが今回は青山くんがおかしくなってしまう話とは。シリーズファン的には「青山くんがダメになったら佐々木事務所もるみもマジでお終いだぞっ!」って感じで、読む前から「大丈夫なんかい・・・」でした(^_^;)。
以下、ネタバレ含む感想となります~
変化
青山くんが通常通りに機能していない事務所はやっぱり大丈夫ではない訳で。部屋は散らかるし、色々と立ち行かない。
元々、心霊関係専門の依頼を受ける事務所を始めたのは、るみの”願ったことを実現できる”という能力ありきだったのですが、前巻での体験からるみはその能力を失ったので、依頼を受けても能力のある誰かにお願いしなければいけない状況に。※霊を視ることはできる。
それにくわえて、ビルのオーナー・泉に紹介されて雇った事務員の長尾アカリもいる。
この長尾アカリ、実は前巻での終盤で名前だけちょろっと出ていたのですが。
これが可愛らしい見た目で無邪気で素直なのですが、思ったことをそのまま口にせずにはいられないという、業務上致命的な特性を持っている子なんですね。おそらく、病院で診断を受けたら何らかの病名が障害の名称がつくのでしょうが。
青山くんが変になり、能力が失われたなかでお荷物社員まで抱えて・・・るみのキャパじゃ対応しきれんじゃろって思うところですが、これが意外にも困ってはいるが対応出来ている。
少なくとも、アカリには適切な対応が出来ているのですよね。そして、るみ自身もアカリに対して嫌悪感は抱いていない。自分の過去も赤裸々に告白するくらいです。
前のるみなら他人に対して(特に容姿の良い人物に対して)卑屈さや悪感情を抱いていたもんですが。『無限の回廊』での事を経て、本当に成長したのだなと読んでいて実感しましたね。
シリーズ五作目のこのタイミングで何故新キャラ?って最初は思いましたが、アカリを通してるみの成長や、客観的視点を描くのが狙いなのかも。
「善」だけの世界
今作は370ページ位とシリーズの中では最長のボリュームとなっているのですが、そのうちの150ページ程は青山くんの亡くなった祖父、プロテスタント教会の牧師でありながら悪魔祓いも請け負っていたというパトリック・青山の手記となっています。
パトリックさんが若い時に出雲にある集落に行った際に遭遇した恐怖体験が記されています。
現在パートとは雰囲気がガラッと変わり、この手記パートは村ものホラーって感じですね。青山くんの祖父は何やら色々と設定がありそうだなと匂わせつつも深くは語られてこなかったのですが、ここにきてクローズアップされるとは。
この手記で描かれるのは「眼」が強く関わっている怪異。「見てはダメ」というもので、「うん?何だか聞き覚えのある怪異のような・・・」と既視感があったのですが、シリーズ三作目の『聖者の落角』での怪異に似ているんですね。
同様のものだと思ったからこそ、青山くんはこの手記を読んで無茶な決断をする訳ですが。
今作で描かれる怪異は「善なる者のみの世界」。悪を完全に排除し、善良な者のみにする。その方法というのが、自己をなくして”同じ”になるというもの。
自己があれば必ず悪心が芽生えるもの。悪を完全に排除するというのなら、個を捨て去って全になるしかない。
「悪」がないというのは表面的には良いことと捉えられるもの。しかし、本当に「善」のみしかない世界というのは得体のしれない、気味の悪い、気持ちの悪いものだと私たちは感じる。
悪心が全くないというのは、人間性の否定にほかならない。皆が”同じ”世界など、たとえ平和でも人として生きているとは言えない。
今回描かれているのは人間性のない世界の恐ろしさと気持ち悪さですね。
続きそう?
『聖者の落角』での体験、るみが能力を失ったのを知り、想いが突っ走って「たとえ世界が気持ち悪くなってもかまわない」と無茶をした青山くん。
結局、どこまでもるみの為だった訳で。蓋を開ければ通常運転の青山くんだったのですが、前巻でるみも素直になっておりますからね、これまでになく二人の間には甘ったるい空気が流れることに。
アカリは「良かった」「いい人たちだ」と思いつつも、何やら微妙な気分になっているところでこの物語は終わります。
うーん、そうですね。私も何だか「ハッピーエンドだ。良かった良かった」とはなれないと言いますか、若干の気持ち悪さを感じてしまいましたね。
今回は依頼人とかで気持ち悪い人出てこなくって、主要人物もマイルド(?)になったし、読みやすいなと思っていたのですが・・・・・・。このシリーズはやはり気持ち悪さが拭えないもののようです。
あと、毎度のことではありますが、このシリーズは片山敏彦と物部斉清が強すぎる!そこもまたお約束の面白さですね。
今作を読んで、このシリーズはだいぶ緻密に作り込みがされているものなのかなと思いました。このタイミングでのアカリの登場や、祖父の存在、怪異の繋がり方、二人の関係性の変化など、先々までしっかり考えられているのかと。
なので、まだまだ続くのかもしれないですね。読者の想像よりもずっと長期的なシリーズとして描く気なのかも。
予測のつかない展開をする、他のシリーズものとは一風違うホラーシリーズ小説ですので、気になった方はシリーズ第一作から是非。
これからの夏にどうでしょう。
ではではまた~
