夜ふかし閑談

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『八つ墓村』小説 ネタバレまとめ 実話がモデル? 映画・ドラマとの違いなど~

こんばんは、紫栞です。
今回は、作品名は日本人の大半が知っている名作、横溝正史八つ墓村をご紹介。

八つ墓村 (角川文庫)


あらすじ
八つ墓村には八つの墓がある。
永禄九年、村に八人の武者が落ちのびてきた。はじめは快く落武者たちを迎えた村人たちであったが、毛利方の提出した褒美の金と、落武者たちが備えていた三千両の黄金に目が眩んだ村人たちは八人の落武者を惨殺。その後、村人たちは武者たちが携えていたはずの三千両の黄金を必死で探すが、探索の間に怪事があいついで、結局ありかはわからずじまいに。祟りを恐れ、村人たちは八人の落武者の死骸を丁寧に埋葬しなおし、八つの墓を立て、「八つ墓明神」とあがめ奉ることにした。そして村は“八つ墓村”と呼ばれるようになったという――。
大正×年、この八つ墓村の名が全国の新聞に喧伝されるような、世界犯罪史上類例がない事件が起こった。落武者襲撃の首謀者・田治見庄左衛門の子孫であり、狂疾で村人から恐れられていた要蔵が、妾の鶴子が子供を連れて村から逃げ出したことで発狂、一晩で三十二人の村人を虐殺して山へ逃げ込み、その後行方知らずとなったのだ。
この事件から二十数年後、鶴子の息子・辰弥は、母も養父も失い天涯孤独の身となっていた。そんな辰弥のもとに田治見家からの使者が訪ねて来る。辰弥に八つ墓村に帰ってきて田治見家を継いで欲しいと使者に告げられるが、直後にその使者は辰弥の目の前で毒殺されてしまう。
戸惑いながらも八つ墓村を訪れた辰弥だったが、辰弥がやって来てからというもの、村ではさらに恐ろしい事件が立て続けに起こり――。

 

 

 

 

 


日本ミステリの代表作
八つ墓村』は金田一耕助シリーズ】の長編4作目。おそらく、横溝正史の作品の中ではダントツに知名度のある作品だと思います。(犬神家の一族も有名ですけど)
「日本独自のミステリの舞台設定といえば?」と聞かれたら、「横溝正史風の、村で殺人が起こるヤツ」とか答える人は多いと思います。
横溝正史風”ってのは、具体的に言うなら『八つ墓村』と『犬神家の一族』のイメージが大半を占めているのだと思いますが。


昭和で、村が舞台で、因習や異常な人間関係、名家の複雑すぎる一族構成、骨肉の争い、「祟りじゃ~!呪いじゃ~!」と事あるごとに叫ぶ気が触れた老人が出て来る・・・・・・などなど。


これらの要素は定番として扱われていて、テレビ番組などでネタみたいに使われていたりしますよね。
とにかく、後世の日本ミステリに多大な影響を与えていることは明らかです。推理小説でありながら現実感が希薄な舞台設定や、怪奇小説的なおどろおどろしい雰囲気が読んでいて癖になるんですね~。

 

 


映画・ドラマ
八つ墓村』は2018年現在で映画が3本、ドラマが6本と合計で9回映像化されています。これは横溝正史作品の中では最多のようです(次が『犬神家の一族』)。これだけ映像化されていれば、たいていの人が一回はテレビで見かけたことがあるだろうって感じですね。(世代によってわかれるだろうとは思いますが)

 

ちなみに映画は
●1951年 東映 金田一役:片岡千恵蔵
●1977年 松竹 金田一役:渥美清(主演は萩原健一
●1996年 東宝 金田一役:豊川悦司

 

ドラマは
●1969年 NET系列 金田一役:金内吉男
●1971年 NHK総合 金田一役:なし
●1978年 TBS系(連続ドラマ版) 金田一役:古谷一行
●1991年 TBS系(2時間ドラマ版) 金田一役:古谷一行
●1995年 フジテレビ系 金田一役:片岡鶴太郎
●2004年 フジテレビ系 金田一役:稲垣吾郎

 

今までに7人の役者さんが金田一耕助を演じていることに。

ドラマの1969年版だと金田一耕助は登場しない作りになっているんだそうな。「なんて大きな改変だ」と、思われるかも知れないですが、実は『八つ墓村』は終始辰弥の一視点でお話が語られていて金田一耕助の出番は少ないので、端折っても作れるだろうなとは思います。


私個人は金田一耕助といえば古谷一行さんってイメージが強いです。

 

八つ墓村 上巻 [DVD]

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TBS系の金田一耕助シリーズドラマが再放送盛んにしていたのでそのせいですね。特に2時間ドラマ版の『八つ墓村』は何回も再放送していた記憶があります。

 

金田一耕助シリーズ】の映画でお馴染みなのは市川崑監督と石坂浩二さん主演のシリーズですが、

 

 『八つ墓村』に関しては70年代に映画化の話があったものの、製作間でのゴタゴタがあって石坂浩二さん主演では撮られずじまいになったようです。その後、96年に豊川悦司さんを主演にして市川監督が映画化しています。

 

八つ墓村 [DVD]

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実話・モデル
横溝正史は戦時下に岡山で疎開生活をしていた経験から、岡山が舞台の作品を何作か書いています。『八つ墓村』はその“岡山もの”の代表作で、この作品より以前に刊行されている長編『本陣殺人事件』『獄門島』『夜歩く』の三つは、いずれも岡山が舞台となっています。特に『八つ墓村』の直前の事件である『夜歩く』は作中でも言及されている箇所が何回かあるので『八つ墓村』を読む前に読んでおくと良いかも知れません。

 

夜歩く (角川文庫)

夜歩く (角川文庫)

 

 (お話的には知らなくっても支障はありませんけどね)

 

八つ墓村』は冒頭で語られている要蔵の村人三十二人の惨殺シーンがなんとも強烈な印象を与える作品なのですが、ここの部分は昭和13年に岡山で実際にあった「津山事件」がモデルになっています。
一人の男が一晩で同村の村民を三十人殺害したという世界犯罪史に残る信じがたい事件ですが、日本が戦争に向かっていた時代だった事や、関係者がほとんど死んでおり、詳細は分からずじまいな点が多い事などから、これ程の大惨事にしてはさほど事件自体の知名度は高くないです。
で、知っている人も何で知ったかっていうと、『八つ墓村』のモデルに使われた事件だって事で知ったって人がほとんどだと思います。事件後、戦争も終わって随分経ってから『八つ墓村』という小説・映像化作品によって「津山事件」が有名になったって感じですかね。

 

モデルにしていると言っても、原作では第一章の前“発端”で語られているだけで、「津山事件」との共通点は

一人の男が一晩で同村の村民を三十人あまり殺害したところ、一番の標的を取り逃がしているところ、その凶行の際のいでたち

その男は詰襟の洋服を着て、脚に脚絆をまき草鞋をはいて、白鉢巻きをしていた。そしてその鉢巻きには点けっぱなしにした棒形の懐中電灯二本、角のように結びつけ、胸にはこれまた点けっぱなしにしたナショナル懐中電灯を、まるで丑の刻参りの鏡のようにぶらさげ、洋服のうえから締めた兵児帯には、日本刀をぶちこみ、片手に猟銃をかかえていた。

が、酷似しているところぐらいで、他は小説としての創作ですね。


ドラマや映画などではこの格好で殺戮をするシーンが強烈で恐ろしくって、『八つ墓村』といったらこのイメージが強くなっていると思うのですけども。
小説の方は狂疾の暴君がある日発狂して村人を見境なく殺してまわったといったものですが、実際の「津山事件」の動機は怨恨によるもので、かなり計画的な犯行だったようです。

 

「津山事件」を小説という形で詳しく知りたいのなら、島田荘司さんの『龍臥亭事件』を読むのがオススメ。かなり“モロ”に、ページ数もだいぶ使って、詳細に「津山事件」について書かれています↓

 

龍臥亭事件〈上〉 (光文社文庫)

龍臥亭事件〈上〉 (光文社文庫)

 

 

 

 

 

 

 

 

以下がっつりとネタバレ~(犯人の名前も明かしているのでご注意)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怪奇小説
この『八つ墓村』、日本ミステリ界に一つのジャンルを確立させた作品といっても過言ではない小説ですが、小説自体は当事者の辰弥視点でずっと描かれているために捜査過程や探偵の出番も少ないので、実際読んでみるとミステリ色はさほど強くありません。


トリックも“動機を誤魔化す”といったアガサクリスティのABC殺人事件

 

ABC殺人事件 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

ABC殺人事件 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

 

 

坂口安吾『不連続殺人事件』

 

不連続殺人事件 (新潮文庫)

不連続殺人事件 (新潮文庫)

 

 

などから着想を得たもので(まぁ巧妙は巧妙なんですが)、アリバイ工作や物理トリックも出て来ませんし、お話としては主人公・辰弥の怪奇冒険譚って感じですね。鍾乳洞の中で色々な事が起こるというのもソレっぽい。
私が読んだ角川文庫の裏表紙の説明でも“現代ホラー小説の原点”と書かれています。“ホラー小説”と書かれると、ソレもまたちょっと違うかな?と思いますが(^^;)まぁ全体的に怖いっちゃぁ怖いですけど。

 

大衆娯楽雑誌での連載ということでこのような冒険譚な小説になったのだと思いますが、そのお陰というか、そのせいでと言うか、探偵小説では一番の見せ場になるであろう犯人と探偵との対決も、語り手の辰弥が知らぬうちに犯人・森美也子は死んでしまうので、実質ありません(ほんの少し触れられてはいますが)。事が全部終わってから金田一耕助がサササと事件のあらましを解説して終わり。美也子の事については

 

「恐ろしい女でしたな。昼は美貌と才気であらゆる男を魅了しながら、夜はうば玉の闇の衣を身にまとい、殺人鬼となって、洞窟の奥から奥へと彷徨する。天才的毒殺魔であると同時に、天才的殺人鬼でもあったわけです。ああいうのを女妖というのでしょうか」

と、言い表して、もう死にましたって言って終了。


まるで化け物扱いですが(^_^;)

この小説では犯人は“怪奇冒険譚における化け物”といった役割なんでしょうね。掘り下げて描く必要はないというか。
映画やドラマだとお話自体が金田一耕助視点に変えられていたりするので、美也子と直接対決しているものも多いのですけどね。

 

 

映像化作品との違い
得体の知れない犯人の影におびえ、暴徒と化した村人から逃げ惑いつつ、宝探しをしたりする、スリリングな娯楽要素が多めのお話なので、娯楽小説では欠かせない「里村典子」という一途で可愛く、たくましいヒロインも出て来ます。


辰弥を取り巻く環境自体がかなり殺伐としているので、この典子と辰弥が段々と打ち解けていき、「典ちゃん」とか連呼するようになる過程は作中での唯一のオアシス的部分なのですが、残念ながらこの「典ちゃん」、映像化作品ですと1951年と1996年の映画以外の作品では人物ごとカットされてしまっています。ヒロインなのに・・・。


原作は登場人物が多くって人物相関が一読ではよくわからない程入り組んでいるので、事件自体に関係ない人物は時間の制限がある映画やドラマなどでは省いてしまうんですね~。しょうがないことなのかもですが残念です。ドラマなどでしか『八つ墓村』を知らない人は是非、原作読んで「典ちゃん」を知って欲しいですね。


このように、映像化作品ではヒロインの存在を省いていたり、金田一耕助の視点で過去の出来事が明かされていく過程が描かれていたりするので、落武者を村人たちが惨殺する非道さ、要蔵の狂人ぶりや、その要蔵に軟禁されて無理矢理妾にさせられてしまう「鶴子」の悲惨過ぎる境遇などが全面に押し出されて描かれているものが多いので、必要以上にホラーで淫靡な作品だと勘違いしている人も多いかな?と、思います。
小説ですと辰弥と典子で思いのほかハッピーなエンドなんですが・・・。

 

“超”がつくほど有名な『八つ墓村』ですが、ドラマや映画で完全に理解した気にならず、原作小説も読んで映像化作品との違いを実感して欲しいですね。「典ちゃん」も可愛いですし、オススメです(^^)

 

 

八つ墓村 (角川文庫)

八つ墓村 (角川文庫)

 

 漫画もある↓

 

八つ墓村 (講談社漫画文庫)

八つ墓村 (講談社漫画文庫)

 

 

 

 

※JET さん作画のものですと所々改変ありでやっぱり「典子」はカットになっているようです↓

 

 

 


ではではまた~