夜ふかし閑談

夜更けの無駄話。おもにミステリー中心に小説、漫画、ドラマ、映画などの紹介・感想をお届けします

『危険なビーナス』原作小説 ネタバレ・感想

こんばんは、紫栞です。

今回は東野圭吾さんの『危険なビーナス』を読みましたので感想を少し。

 

危険なビーナス (講談社文庫)

あらすじ

「始めまして、お義兄様っ」

四十代、独身、獣医である伯郎。ある日、彼のもとに弟・明人の妻だという女性・楓から電話がかかってきた。

楓の話によると、明人とはつい最近結婚したばかりなのだが、意味深な書き置きを残して失踪してしまったという。

伯郎の異父弟である明人は資産家・矢神家の跡取りであり、父親の康治が危篤状態に陥っていることで矢神家は今、遺産相続問題で揺れていた。楓は明人の失踪には矢神家の人間が関わっているのではないか考えているらしく、伯郎に調査の手助けを求めてきた。

失踪の原因は明人が相続するはずの莫大な遺産なのか?明人の安否は?

調査に協力するうち、伯郎は次第に楓に惹かれていくが――。

「最初にいったはずです。彼女には気をつけたほうがいいですよ、と」

 

 

 

 

 

 

“遺産”を巡るライトミステリ

『危険なビーナス』は2016年に刊行された東野圭吾さんの長編小説。

美人に弱い主人公・伯郎と、失踪した弟の妻である楓。この二人で明人の失踪原因を探っていくなかで矢神家の内情、人間関係、十六年前の伯郎の母の死、思わぬ遺産・・・と、様々な謎に直面していくといったミステリであり、ダメだと思いつつも弟の妻に惚れてしまう男の恋心が描かれるラブストーリー(?)でもあります。

 

事柄だけをみると重々しいストーリーなのかという気がするかもですが、東野圭吾作品としてはかなりライトな部類に入る内容になっていて、気楽に読める作品だという印象。文庫で500ページほどあり、人によっては手に取るのに躊躇するボリュームだと感じるでしょうが、読書経験がさほどなくとも難無く読めるお話になっています。

 

一方で、いつもの東野圭吾ミステリを望む人には物足りなさはあるだろうなとも思いますね。なんというか、出始めの作家さんが書いたかのようなストーリーと描写なので、読んでみると東野圭吾作品らしくない“意外さ”があります。

主役の伯郎や楓の人物設定から考えるに、そういった“お気楽さ”を目指して書いた作品なのではないかとは思いますが。

 

 

ドラマ

『危険なビーナス』は連続ドラマ化が決定しています。TBS日曜劇場で2020年10月11日放送開始。

 

キャスト

手島伯郎妻夫木聡

矢神楓吉高由里子

矢神明人染谷将太

矢神禎子斉藤由貴

蔭山元美中村アン

 

矢神康之介栗田芳宏

矢神康治栗原英雄

矢神波恵戸田恵子

矢神牧雄池内万作

矢神佐代麻生祐未

矢神勇磨ディーン・フジオカ

 

君津光結木滉星

永峰杏梨福田麻貴

 

支倉祥子安蘭けい

支倉隆司田口浩正

支倉百合華堀田真由

 

兼岩順子坂井真紀

兼岩憲三小日向文世

 

 

康治の専属看護師・永峰杏梨(福田麻貴)と矢神家使用人・君津光(結木滉星)はドラマオリジナルキャラクターですね。原作ですと矢神家は深刻な経営難に陥っているのですが、専属看護師と使用人を雇っているくらいですからドラマの矢神家は羽振りが良さそうです。遺産も三十億あるらしいし。

 

キャスト一覧でお分かりの通り、登場人物が多い。遺産相続問題でのアレコレが描かれる物語りなので一族の人間が殆どなのですが、名家らしく人間関係が複雑・・・。原作を読んでいるときも人物相関図を表記して欲しいなぁと思ったくらいでした。

伯郎と楓の他に原作で出番が多いのは、伯郎の勤める動物病院の看護師である蔭山元美(中村アン)と康之介の養子である矢神勇磨(ディーン・フジオカ)ですかね。原作を読んでいるぶんには、伯郎や楓よりこの二人の方が何だか好きだったのですが、ドラマだとどうなるのか・・・。

 

どのキャストも原作の内面イメージは比較的そのままだと感じますが、楓は原作ですとチリチリのカーリーヘアが特徴的な肉感的なスタイルの女性なので、容姿の印象は異なる。

あと、伯郎の実の父親で三十年以上前に亡くなった手島一清のキャストが書かれていませんね。原作では重要な人物なのですが・・・顔出し無しでいくのでしょうか。

 

 

このドラマが全何回なのかは分かりませんが、原作のお話はドラマ向きではあるものの、そのままやれば二時間で事足りるだろうという内容で、劇的な盛り上がりなども終盤の真相解明までは殆どない淡々としたものなので、原作に忠実に映像化しても連続ドラマとしてはハッキリ言って到底面白くなるとは思えない。つまらないだろう・・・と、いうのが、原作小説を読んでの私の率直な感想(^_^;)。

 

ドラマならではの工夫やオリジナル要素で、どのようにお話を連続ものとして毎週視聴者を惹きつけるものにするのか、原作を読んだ者としてはそこに期待したいですね。

 

 

 

 

 

 

 

以下、ガッツリとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遺産

明人の失踪には矢神家の遺産相続問題が絡んでいるのでは?と、矢神家に探りを入れる伯郎と楓ですが、調査をするなかで単にお金というだけではない“思わぬ遺産”の存在が浮上する。

それは、かつて伯郎の実父・一清が康治の治療を受けたことで偶発的に発症した後天性サヴァン症候群により描いたある図形が描かれた絵です。後天性サヴァン症候群だけでも天才脳を人的に作り出せるという大変な研究なのですが、一清が描いたその絵には『ウラムの螺旋』という素数螺旋の上をいく、完璧な素数の法則性をもった図形が描かれていました。これは人類にとって大変なことであり、「禁断の絵、人間なんぞが描いてはならん絵」・・・らしい。数学の知識が無いと説明されてもあまりピンとこず、「へ~」と言うしかない感じですが、とにかく大変な代物らしいです。

 

矢神家の遺産ではなく、明人の失踪も十六年前の母・禎子の亡くなった事件も、この一清が描いた絵を犯人が手に入れようとしたために起きたというのが真相だったんですね。

 

で、犯人は禎子の妹・順子の夫で元数学教授の兼岩憲三。これまた矢神家とは直接関係がない人物だったと。

 

なんか、こういったポジションの人物が犯人ですって真相、東野圭吾作品だと多いような気がしますね。

 

一清の絵に本当に憲三が思っていたような価値があったのかどうかは絵が燃えてしまったことで分からずじまいになっています。事が終わった後で、

 

「才能に恵まれず、大きな功績も残せなかった数学者が、一時の気の迷いで幻想を抱いた――そう考えるほうが現実的だと思わないか。どんなに精緻だといっても、絵なんて所詮二次元の情報に過ぎない。素数の謎が、そんなに簡単なものだとは到底思えない。人間が簡単に太刀打ちできるような代物ではないはずだ」

 

と、作中で言われていますが。

 

東野さんはよく作品に学者を出したり理数系の知識をテーマに使ったりしていますが、東野さん自身が素数に対して一種のロマンを抱いているのかなぁ~とか想像しちゃいますね。

 

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楓の正体

明人の妻だと言いつつ謎めいた点が多かった楓。実は、彼女の正体は警察官。

犯人の憲三は、矢神家の遺産相続で明人が一清の絵を相続してしまうのを阻止するべく、ネットで人を雇って明人を康治が死ぬまでの間拉致しておこうと計画しましたが、ネットの書き込みから拉致計画を知った警察は犯人を特定するため明人に協力を要請。警察のもとで失踪を装ってもらいつつ、矢神家を探るべく女性警察官に明人の妻として(実際に明人は独身)潜入捜査させた・・・と、『マスカレード・ホテル』ばりにおよそ現実にはありそうもない捜査方法なのですが、

 

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まぁそういうことらしいです。

 

「危険なビーナス」というタイトルで主人公の伯郎も楓に恋をするのですから、楓がこの物語りの肝になっているのは間違いなく、楓=潜入捜査官というのが犯人特定以上のメインの真相なのでしょうが、腕っ節が強い描写などから途中で何となく分かってしまうのと、捜査方法に現実味がないので真相を明かされても純粋な驚きというのはちょっと湧いてこない。

異例の潜入捜査というのは前提としてはいいですが、真相としてもってこられると安直に感じてしまいがちだなぁと。

 

そもそも、伯郎が真剣に恋しているようには見えないのですよね。

楓に惚れているというより、ただ胸のデカイ美人に弱いだけって感じ。伯郎は女性を見ると顔とスタイルから脳内で浅はかな品定めをするばかり。そのくせ、そんな自分のことは棚に上げて女たらしな勇磨に敵意剥き出しで批判しまくる。愚かで独りよがりな人物だという印象が強くって、とても伯郎の恋を応援しようという気にはなれません。

明人とは血が繋がっていて仲が悪い訳でもないのに、楓への恋心から死んでいるのを望んでしまうのとか、やっぱり酷いし。生きていた明人に対して申し訳ないと思ったり謝ったりしろよとイライラしてしまう。

 

個人的に、最後まで楓に魅力を感じられなかったのが一番残念です。「危険なビーナス」というタイトルで、主人公が罪悪感を抱きながらも惹かれてしまう相手というなら、もっと魅力的に描いて欲しかったですね。

主役二人に好感が持てないぶん、最後のオチも特別嬉しく思えないのが正直なところでした。

 

 

そんな訳で、総括すると「微妙だった」という感想に私はなってしまったのですが、ドラマでどのように化けるかを楽しみにしたいと思います。

 

 

危険なビーナス (講談社文庫)

危険なビーナス (講談社文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 2019/08/09
  • メディア: ペーパーバック
 

 

 

ではではまた~

 

 

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『望み』映画の原作小説をネタバレ紹介! 息子は被害者か、加害者か?

こんばんは、紫栞です。

今回は雫井脩介さんの『望みをご紹介。 

 

望み (角川文庫)

あらすじ

石川家は建築デザイナーの一登と、在宅で校閲の仕事をしている貴代美夫妻に、高校一年生の息子・規士、中学三年生の娘・雅の四人家族。

とくに大きな問題もなく、平穏に暮らしていた一家だったが、9月のある週末、息子の規士が夜に家を出て行ったきり連絡がとれなくなってしまう。 

最初、友達と夜遊びをして長引いているだけだろうと思っていた一登場と貴代美だったが、丸一日過ぎても帰宅せず連絡もとれない状態に胸騒ぎを覚えていた矢先、道路に乗り上げた車から少年二人が逃げ出し、残された車の中から他殺体が発見される事件が近所で発生。 

発見された遺体は規士の友人だった。  

行方不明の少年は規士を含め三人。逃走した少年は二人。そして、首謀者とみられる少年は知人への電話に「二人殺した」と言ったらしい…。

果たして規士はもう一人の犯人か、被害者か。

父として息子の無実を望む一登と、母として生存を望む貴代美。夫婦は揺れ動き、反発する。それぞれの“望み”の行く先は――。    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

加害者か、被害者か

『望み』は2016年に刊行された雫井脩介さんの長編小説。

上記のあらすじの通り、自分たちの息子が「加害者か、被害者」という状況に立たされた夫妻の苦悩と葛藤の物語りで、一登の視点と貴代美の視点が交互に描かれる構成となっています。 

「家族が何らかの事件の加害者に、被害者になる」というのは、現実にどんな家庭でも起こり得ることであり、家族の一員ならば誰もが少しは想像したことがある地獄なのではないでしょうか。自らが預かり知らぬことで今までの生活が一変してしまう恐怖と、家族への愛情と社会的立場との板挟みの末に生じる残酷な「望み」。夫妻の目を通して容赦なく、執拗に描かれて、誰もが「考えさせられる」、痛烈な作品となっています。 

 

本の紹介文に“サスペンスミステリー”とあるのですが、この物語りは「息子が犯人として生きているか、被害者として死んでいるか」の最悪な二択で揺れ動く家族の様子をひたすら追うもので、ミステリーのような仕掛けやどんでん返しを期待して読むと肩透かしを受けると思いますね。

 

しかしながら、「どっちなの?」という事柄だけで読者にぐいぐい先まで読ませる筆力は流石。他の雫井脩介作品同様に、一気読み間違い無し!な物語りです。

 

 

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映画

『望み』は2020年10月9日に映画公開予定。監督は堤幸彦さん。堤幸彦監督はコンビもののドラマシリーズや小ネタをふんだんに取り入れたコミカルでマニアックな作品が有名ですが、近年では人魚の眠る家『十二人の死にたい子供たち』

 

人魚の眠る家

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  • メディア: Prime Video
 

 

 

十二人の死にたい子どもたち

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  • 発売日: 2019/07/24
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などドシリアスな作品が多いですね。この『望み』も非常に重々しい原作ですので、映画もそうなることと思います。

 

キャスト

石川一登堤真一

石川貴代美石田ゆり子

石川規士岡田健史

石川雅清原果耶

寺沼俊嗣(刑事)-加藤雅也

織田扶美子(貴代美の母)-市毛良枝

内藤重彦(記者)-松田翔太

高山毅(建設会社社長)-竜雷太

 


『望み』特報予告

 

原作では息子の規士は16歳設定なのですが、映画ではもうちょっと上の設定になっていそうですね。・・・と、思ったのですが、公式サイトのストーリー紹介ですとやっぱり高校一年生となっていますね。この間のドラマで刑事さん役やっていたから驚くなぁ・・・(^_^;)。

 あと、この写真、映画『パラサイト』のポスターとちょっと似ていますね。

 

パラサイト 半地下の家族(字幕版)

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  • 発売日: 2020/05/29
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 しかしまぁ、偶然でしょう。多分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以下、ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

父親、母親

今作は息子の無実であることを望む父親の一登と、息子の生存を望む母親の貴代美との想いのすれ違いがお話の主になっています。

 

規士の友人は激しい暴行を受けて死亡していました。「少年同士でのリンチ殺人」という非道極まりない殺人事件と世間では見做され、一登はそんな凶悪事件に息子が加害者として関わっているとは考えられず、“被害者として巻き込まれた”という方が、自分が今まで見てきた規士の人となり的に納得が出来ると、「息子は無実で、被害者だ」という考えに至る。

 

「息子を信じている」と言えば聞こえは良いですが、一登がそう望むのは息子を信じるという純粋な想いからだけではありません。今後の自分の仕事・社会的立場などを考えると、規士が被害者では“困る”という想いがそこにはあります。

仕事仲間やお客、マスコミなどから批判的な態度を取られることで一登は「息子は被害者に違いないのに・・・」とますます望みを強硬なものにさせていき、ついには根拠もないのに皆の前で「息子は被害者だ!」と声高に主張するように。

このような描写があると、一登の「信じる」という言葉はひどく薄っぺらいものに感じられます。

 

こんな夫の態度と意見に反発するのが妻の貴代美。

夫の「規士は被害者だ」という主張は、貴代美にとっては「規士が死んでいた方が良い」と言っているのと同じであり、規士の生存をただただ望む貴代美としては受け入れられるものではなく、「親なのにそんな事を望むなんて・・・」と夫を非難する訳です。

で、貴代美はというと、生きていて欲しいという想いが強いあまり「息子は加害者」という望みを妄信するようになり、息子の無実を訴えてくる規士の友達まで感情的に非難したり、息子が逮捕された後の生活のことを考えて仕事にのめり込んだり、引っ越しのことを早々に考えたり、娘の雅の受験を諦めさせようとしたりと、だいぶ暴走して先走った行動をとるようになる。

 

「生きていて欲しい」というのは分かりますが、だからといって「息子は人殺し!絶対にそうなの!」というのは、それはそれで何か可笑しい。

 

男はこうだ、女はこうだという決めつけは個人的には好きではないですが、この二人の書き分けは社会的立場を重んじる男親と、無償の愛情を注ぐ女親を典型的に表しているように感じられます。

 

 

 

 

良い子、悪い子

作中、一登が

 「もし規士がやってるんだとしたら、あいつはもう、俺らの知っているあいつじゃないってことだぞ。俺はあいつがそんなことをする子だとは思っていないし、思おうとしても、とても思えない。それでもやってるとするなら、それは俺の知らない規士だとしか言いようがない。それをしでかしたのを境にして、ここを出ていったときのあいつとは別人になっているってことだ。それくらいのことなんだ。そんなもう、俺たちの知らない人間を、簡単にやり直せるとか更生させるとか言えるもんじゃないぞ」

 と、いう台詞を貴代美との言い争いのなかで吐く。

 

殺人はもっとも犯してはいけない大罪ですが、殺人事件の大半は衝動的な、もののはずみによるものです。人は案外簡単に死んでしまうし、簡単に人殺しになってしまう。

リンチ殺人は殺人行為のなかでも特に非道で残虐なものと世間でも受け取られるし、被害者家族はとても許せないでしょうが、集団の仲間内での暴力は軽はずみなことがきっかけで発生しやすいことではあるでしょう。思春期の少年たちというならなおさらです。 

貴代美も規士が加害者だと願うばかりに「あの子は実は悪い子なんだ」と無理に思い込もうとしたり、「もともと良い子じゃなかったらこんなに苦しまなかったのに」などと矛盾したことを考えたりするのですが、そもそも良い子だとか悪い子だとか、そういうことじゃない。

 

「規士は規士よ」の言葉通り、罪を犯した瞬間に人の中身が丸々変わる訳ではないし、急に恐ろしい、まったく知らない人になる訳じゃないはずです。 

良い子だとか悪い子だとか、結局その判断は何に基づくものなのか。親の期待にどれだけ応えているかということなら、それは単に自分にとって都合の良い子ということなのではないのか。 

 

私は独身で子持ちではありませんが、子供の立場としては「そんなことするような子じゃない。信じている」という言葉より、間違いを犯した自分でも、期待に応えられる良い子になれなくっても、見捨てずに寄り添ってくれる親を求めるだろうと思う。

 

 

この物語りの最後で判明するのは、規士は被害者で、一登や貴代美があれこれ言い合っていた時にはすでに死んでいたという事実でした。 

 

お金のことで揉めている最中、もう一人の被害者の子が護身用でナイフを取り出したため、相手の二人が恐慌状態に陥って暴行の末に殺してしまったという顛末で、規士には殆んど非がなく、友人を思いやって巻き込まれただけ。

規士の死体を前に、石川家の面々は自身の身勝手な望みを恥じて罪悪感にさいなまれ、「規士に救われた」といって物語りは終わるのですが、規士は聖人のようにひたすら良い子でしたという結末は読んでいて「なんだかなぁ」と思いました。

 

酷なことですが、被害者は被害者でバッシングを受けるもので、加害者じゃなかったからといって全部が全部すんなり解決!救われた!なんて簡単なことじゃないですよね。

規士ももう一人の被害者の子も、大金を巡るトラブルが起きた時点で然るべき大人に相談するべきだったろうし、親たちは子供に相談されなかった事実を悔やむべきなのではと思う。

 

このお話は、事件が発生してから四日間ほどの、事件の詳細が何も分かってない状態での親の右往左往が描かれているものなのですが、個人的には事件発生二三日で何も分かっていない状態なら、諸々の面倒事については思考停止して、ただ安否を心配して探し回ったりしてれば良いのではと。16歳の子がいけるところなんてたかが知れてるだろうし、被害者だとしても瀕死の状態で生きているかもしれないし。

 

少なくとも息子の無実を確信して被害者の子の葬儀に乱入して「あいつもこの子と同じ被害者なんだ!」と喚いたり、「息子は加害者だ。これから世を忍んで懺悔の日々をおくるための準備をしなくては」と意気込んで仕事に没頭するのは的外れに感じる。

 

もっと言うなら、「加害者だの被害者だの、そんな話は後にしろ!息子が見つかってからにしてよ!」ですかね。

読んでいて何度もそう言いたくなった。 

個人的に妹の雅には一番感情移入出来ましたかね。あれぐらいの戸惑いやヤケクソ感が一番自然だと思う。  

 

 

 

そんな色々と思うところも含めて、とにかく家族というものを考えさせられる作品です。気になった方は是非。

 

 

 

望み (角川文庫)

望み (角川文庫)

 

 

 

 

 

ではではまた~

『秘密season0』9巻〈悪戯〉感想 須田光の過去とは?

こんばんは、紫栞です。

今回は清水玲子さんの『秘密season0』9巻〈悪戯〉をご紹介。

 

秘密 season 0 9 (花とゆめコミックススペシャル)

 

前作から一年二ヶ月ぶりの新刊。8巻からスタートした「悪戯(ゲーム)」

 

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の続きと読み切り作品の〈目撃〉が収録されています。表紙絵はこれまた美しいですが、また誤解されそうな・・・サブタイトル“悪戯”だし・・・(^_^;)。耽美な見た目ですが、今作も中身は近未来警察ミステリですので悪しからず。

 

『秘密』のシリーズは年一刊行が通常なので待たされた期間の長さはいつもとさほど変わらないのですが、いつもはお話が一冊完結型なのに対して〈悪戯〉は続きもので細部を忘れてしまっていたので、前巻の読み返しをしてから挑みました。読んでいたらさらに5・6巻の〈増殖〉も気になり読み返した・・・。

 

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前巻ではカルト教団の本拠地であった保育園跡地から四人の子供の遺体が新たに発見され、事件への関係が疑われる須田光を監視対象として青木家で里子として迎え入れるところで終わっていました。

今巻では光君を迎え入れた青木家の様子と、薪さん・岡部さんらの「第九」での捜査が並行して描かれています。

 

 

 

 

 

 

 

 

以下、がっつりとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光の過去

「悪戯(ゲーム)」編の2集である今巻は、前巻の段階では唯々得体の知れない「怪物」だった須田光少年の凄絶な過去が明らかになり、本人の内面なども描写されています。

 

大量殺戮を起したカルト教団の教祖の息子である須田光。やはりまともな環境で育っているはずもなく、今巻で明らかになるのは教団内での儀式の際、彼は無理やり薬物を摂取させられ、指示されるままに幼児を異様な遣り方で殺害し、その儀式の後には集団での淫行(このハーレムシーンですが、教団にこんな綺麗な女の人たちいたっけ?と疑問だった)に参加して実の父親である教祖の児玉に凌辱されていました。

 

世にもおぞましい儀式ですが、恐ろしいことにカルト教団では教祖を中心としてこのような行為がなされるのは珍しいことではなく、一種の定番なので光君がこのような目に遭っていただろうことは割と想像出来たなぁというのが正直なところ。

個人的にそれよりも驚いたのは、前巻で光君に殺されていた神父さんが性的暴行をしていたことですね。善良ぶってあの神父・・・!!

しかし、神父が子供相手にそのようなことをするというのも創作物では“オキマリ”ではある・・・。ホント、海外ドラマやミステリだとほぼほぼそうで、「神父出て来たらまず疑え」みたくなってる・・・。けども、この神父さんは違うだろうと思っていたのに・・・(-_-)

 

前巻で薪さんは「彼が一体なにをした・・・神父は君に親切にしただけだろう?なのに何故」と光君に訊いて「動機がないといけませんか?」と子供離れした論説でかわしていましたが、結局「動機」たりえることがあったということなのですね。

ま、青木のところに里子にいくためという方が理由としてはデカイのではないかという気はしますが。

光君が青木のことをゲイだと勘違いしていたのには笑ってしまった(^_^;)。確かに、薪さんとのあの距離感じゃあ誤解してもしょうがないとは思う…。

 

青木や舞ちゃんに対しての態度も、執着の仕方は空恐ろしいものの“愛に飢えている子供”という部分も垣間見ることが出来ますし、これらの事実が分かってみると前巻でのただ悪戯に害悪をもたらす「怪物」という印象からだいぶ変わってくる訳です。

やっぱりというかなんというか、やはり環境と周りの大人たちが彼に害ばかり与えたための結果なのだなぁと。

 

 

 

 

 

 

思い上がり 

心配する薪さんと里親として光君を迎え入れたい青木とで一悶着あったものの、光君に対して客観性を失っていたと気づかされた薪さんは、“監視対象という事でなら”と、青木家にカメラなどを設置することなどを条件に里子として迎え入れることを上司として容認したのが前巻でのラストでした。

里子として青木家にやってきた光は、青木の母や姪っ子の舞、クラスメイトにも優しく素直に、社交的に振る舞い、容姿のこともあってすぐに周りに受け入れられます。「赤ん坊からババアまでイチコロだな!」「あれくらいのあざとさ行ちゃんも見習うべきなんだよ」という舞ちゃんの台詞には青木同様に「舞ちゃん!?」と驚いてしまった・・・。

 

疑惑の渦中にある少年だと聞かされていたものの、このような様子と過酷な過去を知ってますます光君に「自分がこの子を信じて手を差し伸べなければ」という想いを強くする青木。

 

前巻で青木の意思を尊重した薪さんですが、MRI画像で幼児の目に棒を突っ込んでいる光の姿を目の当たりにして平静でいられる訳もなく、青木は青木で監視カメラオフにしやがるし、心配のあまり情緒不安定気味に(いつものことかもしれませんが)、そんな薪さんの横で心労が絶えない岡部さん(これもいつものことかもしれませんが)。

状況的に、やはり光を里子として一般家庭にいさせるのは危険すぎると判断し、薪さんと岡部さん二人で青木に須田光を引き渡すように言うのですが・・・善良さマックスな青木を前にまた一悶着(^_^;)。

 

「光のような特殊な環境下にいた子供は専門の知識をもつ医師のもとで治療し 洗脳・影響がとけるまで隔離して育てるべきだ」と、岡部さんがド正論をいって青木を説得するのですが、青木は「舞を傷つけない限り家族として家に迎え入れると約束した」「彼は約束を守ってくれている」「俺まで彼を裏切る――傷つける大人になりたくないんです」と、毎度お馴染みの涙を流しながら訴える。

 

で、薪さんはというと「お前の善良さには時々反吐が出る」「なんで「愚者」でさえ「子供」でさえ経験に学ぶというのにこの男は学ばないんだろう」と先ずは静かに罵倒。 

「舞の死体まで転がさないとその目はさめないのか」と激昂して、「不満なら今ここで「第九」を辞めろ」「辞めて僕の目の前から消えろ」とまで言ってしまう。後になって「あいつ馬鹿だから本当に辞めるかもしれない」と後悔していましたが・・・(^_^;)。

 

 

大人たちがこのようなやり取りをしている最中、舞ちゃんが元教団にいた男児淳一に襲われる事件が発生。友人を殺されたことで光を恨んでおり、一緒に行動している舞に危害を加えようとしたのですね。

あの教団に居て、洗脳下にあって、友人の死を悼むような子供がいたのには驚きですが。駆け付けた光は頭に血が上って淳一に過剰な暴行をしてしまう。舞ちゃんが止めたので死にはしなかったですが、「殺し損ねてごめんなさい。次こそは仕留める」と当然のように口にする光を目の当たりにした青木は「思い上がっていた。自分ではとても力不足だ」と痛感して里親は諦めることに。

 

 

 個人的に、今回の里子云々話は青木のエゴがすぎると思う。 

あそこまでの異常な環境で育った光には専門医の治療を受けさせるべきで、素人が軽はずみにでしゃばるのはナンセンス。光に様々な犯罪的疑惑があるのは事実で、何かあった際には自分だけでなく周りも危険にさらされることになるのだから、青木一人の想いだけで光を家に迎え入れるのはあまりに勝手なことでしょう。

 

青木は「舞を傷つけないこと。それだけです」と条件をだして約束させる訳ですが、“それだけ”ではたりない。約束させるなら「誰にも危害をくわえないこと」とするべきだったろうし、いずれにせよ青木一人の自己犠牲でどうなることではないはずです。 

「ほんの少しの事で彼は変わるかもしれない」「どんな人間にも可能性はある筈です」とはご立派で善良な意見なのでしょうが、“救ってあげよう”なんて独りよがりの思い上がり。傲慢で浅はかな考え。私が青木の母親の立場で光の詳細を知らされたなら「あんたのエゴに孫を巻き込むな」と言うでしょう。

 

挙げ句、悪戯に光に希望をもたせて家から放り出す結果になる訳で。これはもう最悪ですよ。半端なことをするのがね、一番罪深いですから。

   

しかし、あのカウンセラーの先生はどういうつもりなのでしょう?淳一が光に暴行されているのを見て、スマホのカメラをまわしつつも止めようとしませんでした。口をおさえて怖がっているだけ。大人でしょ?止めなさいよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次のゲームは?  

そんなこんなで須田光は青木家を去ることとなるのですが、今度は暴行を受けた淳一が病院から連れ去られ、どこかの汚ないトイレに閉じ込められている描写が。

前巻で舞ちゃんらしき少女が同じような目に遭わされている場面が“先に起こること”というようにちらほら作中に挿入されていましたが、どういうことなのでしょう。

また、この〈悪戯〉編は薪さんが青木・舞・ミドリが写っている写真を握りしめて泣き崩れているところから始まっているし…。

 

今巻は事件の物語りとしては大きな展開はあまりなく、起承転結の“承”のところとでもいう様相でした。しかし、事は確実に何らかの悲劇に向かって進んでいる不穏感がひしひしと。 

続きが気になるところですが、コミックで読めるのはまた一年後か…。と、いうか、この〈悪戯〉編、あと何冊続けるつもりなんだろう…。

 

 

 

 

 

〈目撃〉

本編の続きが大変気になるところで、読者の期待を裏切るように待ち受けているのが読み切り編の〈目撃〉です。 

思わず「ちょっとぉ!読み切りより本編の続き読ませてよ!」となってしまいましたが、この読み切りは読み切りで確り面白いです。

強盗をした男が、記憶喪失になった目撃者の女を見張るために近付くが――てなストーリー。

世にも奇妙な物語ちっくな話ですね。女をあまく見ると痛い目にあう。

 

「第九」とはまったく関係ない話なのかと思いきや、後半で登場します。独立した話ぽいですが、前シリーズの時は関係なさそうな読み切りにも実は伏線がはられていたので、

 

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ひょっとしたら後々関係してくる…かも……?

 

 

 

色々気になりますが、一年後のお楽しみとして気長に待とうと思います。  

 

 

 

ではではまた~

 

 

 

【御手洗潔シリーズ】スピンオフ三作品、まとめて紹介!

こんばんは、紫栞です。

今回は島田荘司さんの御手洗潔シリーズ】のスピンオフをまとめてご紹介。

 

御手洗潔シリーズ】御手洗潔を探偵役に、主に石岡和己がワトソン役として語り手を務めるシリーズ。

 

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スピンオフとはいうものの、【御手洗潔シリーズ】の場合は探偵役である御手洗がシリーズ途中で北欧に渡ってしまうため、物語りによっては御手洗の出番が電話のみだったりと極端に少ないものだらけだったりしますし、視点がほとんど事件関係者のもので構成されているものも多いので、御手洗が主役だとハッキリ言えるもの自体が実は少ないのですが、ここでは御手洗潔が事件解決に直接関与していない長編をスピンオフとして三つまとめたいと思います。

 

 

 ●「龍臥亭事件」

 

 あらすじ

作家の石岡和己は、突如訪ねてきた二宮佳世という女性の心霊じみた相談事にのって共に岡山まで悪霊払いに行くこととなる。二人は霊に導かれるように山中に深く分け入り、「龍臥亭」という旅館に辿り着くが、そこで次々と恐ろしい殺人事件が発生。村人は、これは「村の業」「因縁」「30人殺しの男の亡霊」の仕業だと言うのだが――。

 

こちらは平成7年(1995年)の出来事という設定で、御手洗が日本を去ってから1年半が経過した頃のお話。主役は御手洗の助手的存在で友人である石岡和己

この時の石岡君は御手洗との共同生活ですっかり劣等感の塊になっていたところに、とうの依存していた御手洗に去られたとあって、すっかり意気消沈して卑屈となり、鬱々とした毎日を過しておりました。つまり、石岡君の“一番ダメだった時期”ですね。

 

自分がそばにいると石岡君を駄目にしてしまうと悟って馬車道のアパートから去った御手洗。事件に遭遇し、「自分なんかの力ではどうしようもない」と御手洗に頼る石岡君に、御手洗は手紙で「君なら出来るはずだ。自身を持って頑張れ」と突き放しつつもエールを送る。戸惑いつつも石岡君は事件を止めるべく向き合い始め、事件の真相に迫る・・・と、いう訳で、「龍臥亭事件」は“石岡君のリハビリ話”と捉えられるものになっています。

 

文庫だと上下巻で、二冊合わせると1000ページ以上。お話は史実の「津山30人殺し」を大胆に取り入れたものになっていて、

 

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この史実を語るのにかなりのページ数を使い、詳細に描かれています。大量殺人の詳細とあって、読んでいると気分が悪くなるほどですね。

推理小説をというよりは、「津山30人殺し」を描きたいのだなという感じですね。作者としては犯人の都井睦雄に対し、世間で思われているようなただの好色殺人鬼ではないという風に示したいのでしょうが、島田さんの文章を読んでも結局都井の好色なところが目立ってしまって、個人的には同情するような気にはとてもなれない。大量殺人はどう考えてもやっぱり身勝手ですしね。

 

謎解き部分はいつもの島田節が炸裂していますので、御手洗が不在とはいえ島田作品ファンとしては満足できるお話だと思います。

 

御手洗が日本から去った後の石岡君にとっての心の清涼剤・犬坊里美はこの事件が初登場。

続編として、「龍臥亭事件」から8年後に起こった事件を描いた「龍臥亭幻想」があり、

 

 

こちらは島田さんの別シリーズ【吉敷竹史シリーズ】とのクロスオーバーになっていて、御手洗と吉敷さんで事件を解決させるというスペシャルな代物になっています。(御手洗は電話での登場ですけどね・・・)

私は【吉敷竹史シリーズ】は未読なのでよく分からなかったのですが、吉敷さんの奥さんについても重要なことが書かれていたようなのでファン必見な作品ですね。

 

 

 

 

 

 

 

 ●「ハリウッド・サーティフィケイト」

 

 あらすじ

ハリウッドの有名女優であるパトリシア・クローガーが惨殺され、その様子が映されたフィルムがロス市警に送られてくるという事件が発生。発見された彼女の死体からは子宮と背骨が奪われていた。

次の犯人の標的はパトリシアの親友で女優の松崎レオナではないかと噂されるなか、レオナは亡き親友の無念を晴らすため独自に犯人捜索を開始するが、そんなレオナのもとに女優志望のジョアンが訪れる。ジョアンの身体には手術痕があり、子宮を何者かによって摘出されたらしいのだが、記憶喪失のため自分が一体何をされたのかまったく分からないという。

パトリシア・クローガー事件との奇妙な符合を覚えたレオナは、女優志望のジョアンの面倒をみることを決めるが――。

 

 

こちらの主役は暗闇坂の人喰いの木」「水晶のピラミッド」「アトポス」(※この三作品はレオナ三部作などとも呼ばれる)などの作品に登場する女優の松崎レオナ

レオナは頭脳明晰・容姿端麗で身体能力も高い、と、設定が盛りに盛られた人物。レオナを前にすれば誰もがひれ伏すのが当たり前。しかし、レオナが想いを寄せる御手洗にはてんで相手にされない・・・てな、ヒロイン。

 

この事件は平成8年(1996年)に起こったという設定で、レオナはこの時およそ33歳。渡米して成功を収め、ハリウッドで五本の指に入る有名女優になってから少しの年月が経ったころですね。

盛りに盛られた設定と能力が高いが故の傲慢さが目立つせいか、作者も認める“嫌われヒロイン”のレオナ。(私は個人的に【御手洗潔シリーズ】に登場する女性のなかではまだ好きな方なのですが・・・)

今作では主役となって大活躍する訳ですが、「アクション映画でもそんな無謀な行動しないだろ」という無茶苦茶な捜索方法ばかりをとります。その結果、男に襲われて殺されそうになることの繰り返し。「いい加減にしろよ」って感じで、私生活も色々とこじらせまくってアブノーマルなことになっているので、やっぱり共感出来ないヒロインではある。

 

事件内容はエログロで差別的・冒瀆的な事柄や描写が多く出てくるので人によっては気分が悪くなるかもしれず注意が必要。

文庫で800ページ越えのなかなかのボリュームではありますが読ませる面白さがあり、明かされる真相も「な、なんだって!?」という島田ミステリならではの驚きがあるものです。ちょっと疑問な点や半端なところがあるのではってな気がしないでもないですが。

 

御手洗は電話で登場。レオナに請われて専門知識を教えてくれています。御手洗はこのとき学者としてスウェーデンの大学にいる時ですね。歳を経て、御手洗のレオナへの対応もマイルドになっているように感じる。ま、日本にいた時とは違い、北欧に渡って石岡くんと離れてからの御手洗はだいぶ真人間ぽいんですけど。

 

本の最後に「これは二年後の大事件への序章だった」と、続編を匂わせる文章があるのですが、2020年今日に至るまで続編は刊行されてはいません。この本が刊行されたのは2001年なのですけども・・・。読み終わった時、続編あるのかと思って探してしまった(^_^;)。島田先生はお忘れでいらっしゃるのであろうか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●「犬坊里美の冒険」

 あらすじ

祭りのさなか、総社神道宮の境内に突如現われ消失した腐乱死体。警察は現場に残された毛髪から、存在したと思われる死体の身元を特定。現場に居合わせたホームレスが逮捕・起訴される。

司法修習生として弁護士事務所で研修を始めた犬坊里美は、志願してこの死体消失事件を担当することとなるが――。

 

 

今作の主役はタイトルの通り犬坊里美。平成15年(2003年)頃の事件で里美ちゃんはこの時27歳。

上記した「龍臥亭事件」で初登場後、上京してきてからは石岡くんと度々会ったり助手的役割などをしたりと、御手洗が日本を去って以降のシリーズ主要人物でヒロイン。石岡君に好意を寄せていますが、その好意が“どの種のものか”は判然としない。石岡君も然り。ま、歳がだいぶ離れていますからね。

石岡君は電話で登場。落ち込んでいる里美ちゃんを励ましてくれます。このお話には御手洗はまったく出てきませんね。

 

御手洗が日本を去った後の、石岡君の唯一といっていいほどの貴重な交流者なので、シリーズに登場する女性のなかでは割と好感を持っていたのですが(基本的に、私は島田さんの描く女性が好きじゃない)、この本を読んだら里美ちゃんが大っ嫌いになってしまった。  

 

とにかく話し方が受け付けない。語尾に小文字を付けて伸ばす口調が徹底されていて、まるで酔った女性が適当に受け答えしている調子。

志願して事件を担当したくせに、被疑者への質問や弁護方針は他の人に任せっきり。法律の基本・常識的なことも分からず周りに質問。無知を恥じて猛省して勉強し直すこともせず、怒鳴られれば泣くばかり・・・。

 

とにかくイライラして読み進めるのが非常に苦痛でした。

 

ダメダメな女の子の成長を描きたくって極端に表現しているのでしょうが、いくらなんでもダメに設定しすぎで、これでは司法試験をパス出来るとは到底思えない。

 

司法試験もそうですが、日本の司法の世界もバカにしすぎだと感じました。色々突っ込みたいやり取りばかりなのですが、そもそも死体を見つけられてない状態で事件化させるのか?と、前提から疑問です。通常は「見間違えだろう」って言って終わりだと思う。

何か大きな出来事を隠蔽するために冤罪を無理やり作り出そうとしているとかならまだ分かりますがそんな事もなく、態々ホームレスを逮捕・起訴という面倒なことをする理由が解らない。しかも、検察側、無理やりストーリーを作って起訴状を作成するものの、結局死体消失については「見間違い」で押し通そうとするし・・・。もう訳がわからない。

これも司法の問題点や「冤罪」が生み出されるメカニズムなどを描きたいってことなのでしょうけど、大前提の部分で違和感があるからモヤモヤするばかりです。

 

 

メインの死体消失のトリックについては、ヒントとなるエピソードの挿入が雑すぎて「ああ、“それ”を使ったトリックなのね」とすぐに見当が付いてしまう。謎の解明も里美ちゃんのあの口調でまどろっこしくされるものだから爽快感がない。極めつけは「ようやった」「ようやった」と皆に拍手されるあの終わり方・・・。

「なにこれ?」と読後にポカンとしてしまいました。

 

本には“犬坊里美が活躍する新シリーズ第一弾”と銘打たれていて、続編として「痴漢をゆるさない!犬坊里美の冒険 検察修習編」という中編が雑誌に掲載されたようです。正直、個人的には書籍化されても読む気にはなれないですね。

 

 

 

 

 

 

 

以上、三冊紹介した訳ですが、スピンオフでもやっぱり執筆時期が前のものの方が良い感じが否めないですね。ライトで読みやすいのは近年のものの方ではあるのですが。

「犬坊里美の冒険」については感想をグチグチ書いてしまいましたが、美里ちゃんのような女性をかわいく思う人もいるのだろうと思いますので、そういう人にとっては存分に楽しめるスピンオフになっていると思います。

 

 

「御手洗がいないから」と、読むのをためらったりすることもあるでしょうが、シリーズファンはやっぱり読んでおくべき物語りですので是非。

 

 

 

 

 

 

 

 

ではではまた~

 

 

 

 

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『ウォーターゲーム』感想 ”太陽は動かない”の【鷹野一彦シリーズ】完結!?

こんばんは、紫栞です。

今回は吉田修一さんの『ウォーターゲーム』をご紹介。

 

ウォーターゲーム (幻冬舎文庫)

 

あらすじ

福岡の相楽ダムが突如決壊。濁流が町を呑み込み、数百人の死者をだす大惨事となった。

このダム決壊は水道事業自由化の利権を勝ち取るために計画された爆破テロなのか?

産業スパイ組織「AN 通信」の鷹野一彦と田岡亮一は次のダム爆破を阻止するために奔走するが、事態は思わぬ事に・・・。

水道民営化の利権に群がる政治家や企業。金の匂いに敏感な人間たち。敵が味方に、味方が敵に。裏切りと騙しあいの果てに、この情報戦を制するのは誰か。

 

 

 

 

 

 

 

三部作完結

『ウォーターゲーム』は【鷹野一彦シリーズ】の三作目。

 

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2020年8月に文庫版と電子書籍が発売されました。

  

ウォーターゲーム (幻冬舎文庫)

ウォーターゲーム (幻冬舎文庫)

 

 

私は6月ぐらいに待ちきれなくって単行本を買ったのですが、

 

ウォーターゲーム

ウォーターゲーム

  • 作者:吉田 修一
  • 発売日: 2018/05/24
  • メディア: 単行本
 

 

二ヶ月後に文庫が発売されるとは。ま、よくあることですけども(^_^;)。

 

 

まったく知らないまま読んだのですが、スパイ大作戦なストーリーでエンタメ全開な【鷹野一彦シリーズ】、三部作だったようです

著者の吉田さんもインタビューで「一作目を書いている途中から三部作構想があった」と言っていますし、文庫版の説明書きにも「シリーズ三部作完結!」と、書いてある。

単行本の方では帯にも出版社の本紹介にもそんな文言はなかったんですけどねぇ・・・。読み終わってから知り、個人的には衝撃の事実でした。いやだ!終わらないで!

 

 

 

 

大集合 

シリーズ一作目『太陽は動かない』太陽光エネルギーの利権争いで鷹野31歳の死闘が、

 

太陽は動かない

太陽は動かない

 

 

二作目『森は知っている』では時間を遡り鷹野17歳のスパイ訓練と青春が描かれた訳ですが、

 

森は知っている (幻冬舎文庫)

森は知っている (幻冬舎文庫)

 

 

三作目の『ウォーターゲーム』では水事業自由化の利権争いで鷹野35歳の奮闘が描かれています。

35歳は鷹野が所属する組織「AN 通信」の定年の歳。定年間際でのこの事件、鷹野は一体どうなるのか!?な、お話。

三部作最後とあって、一作目に登場した田岡、デイビット・キム、アヤコ、風間、中尊寺とオールスター勢揃いで、鷹野の青春時代を描いた二作目とも密接な繋がりがあり、“あの人物”も登場していますので、前二作を読んでからこの『ウォーターゲーム』を読むことがオススメです。

 

あと、映画との連動企画で放送されたWOWOWオリジナルドラマ『太陽は動かない-THE ECLIPSE


連続ドラマW「太陽は動かない -THE ECLIPSE-」特報

ですが、『ウォーターゲーム』の一部ストーリーというか設定が使われていますね。小説とは違い、こちらのドラマは映画の前日譚として描かれているのでまったく別物ではありますが。

 

 

 

新聞連載との違い

そんなシリーズ完結作・『ウォーターゲーム』は北海道新聞東京新聞中日新聞西日本新聞で2015年12月~2016年11月まで連載されたもので、本にする際に加筆・修正されています。

それ自体は別に珍しいことでもないのですが、今作では修正で連載時に掲載された文章を大幅に削除しているようです。私の住んでいる地域の新聞では連載されていなかったので確り確認することは困難なのですが、どうやら『AN 通信』の諜報員が心臓に埋め込まれている爆弾のことやら登場人物の内面がじっくり書かれていた部分、それにまつわるエピソードなどが削除され大幅改稿されているのだとか。

この大幅改稿について、吉田さんは「(略)いつものスタイルのように、登場人物の内面をじっくりと書き込んでいった。けれど連載が終了したあと、すべてを読み返し、確信したのは、その書き方はこのシリーズにそぐわないものであるということでした」と、仰っています。

 

確かに、謎の組織の謎の諜報員というのはスパイもののエンターテイメント作品では“過去を持たない人物”として謎のベールに包まれていた方が楽しめるのかな?とは思いますし(このシリーズならアヤコとかデイビット・キムとか特にね)、改稿後のこの本は大変に面白く「これぞスパイもの!」といった感じですが、やっぱり残念というかもったいないというか、「改稿前のものも読みたいな~」と思ってしまいますね。吉田修一さんは人物の内面描写が抜群に上手い作家さんで有名ですし、鷹野の内面などがじっくり書かれているのならやっぱり知りたい・・・。

 

 

 

 

 

 

以下、若干のネタバレ~

 

 

 

 

 

 

完結しないで!

大幅改稿したせいかもしれませんが、今作は読後「あ~面白かった!」と、なるものの、思い返してみると「あれ?そういえばアレやコレやは結局どうなった?」と、いう部分が多々あることに気づく。

 

鷹野はちゃんと「AN 通信」を定年したのか、爆弾は取ってもらえたのか、定年時の“お願い”は何を望んだのか、そもそも“お願い”って本当にかなえてもらえるのか。具合が悪そうだった風間さんの容態は今後も安心していいものなのか。新聞によって明るみにされた「AN 通信」の組織形態はどうなったのか・・・などなど。

 

新聞記事の北条は途中からまったく出て来ないし、虐待されていた女の子と真司のやり取りも、女の子を施設に預けて突如終わる。「なんの為にこのエピソードはあったのか?」、前半と後半で結構な違いがあり、前半で期待したような流れがブツ切りになっているのも気になるところ。(ま、これは本当に大幅改稿のせいかな・・・)

デイビット・キムは半ば隠居生活していますしね。最後は期待通りのところで来てくれてニヤリとしましたけど。期待を裏切らない男。

 

 

シリーズとして続きがあるからあまり結論づけていないのかと思ったのですが、「完結編だ」と知って、これじゃあちょっと完結編としては消化不良だなぁと。

 

『ウォーターゲーム』は主役の「これ、鷹野よりもアヤコの方が活躍しているのでは?」な印象(作者が峰不二子なアヤコが気にいちゃったからか?)。個人的にアヤコ好きなので嬉しかったですが、完結作ならもうちょっと鷹野メインなお話が良いのでは・・・とも思ってしまう。

 

“あの人物”再登場は胸熱な展開でしたが、ダム爆破で何百人も亡くなる大惨事を起こしているんだよなぁと思うと素直に「良かった」とならないし・・・。

 

う~ん。

 

ま、言い出すとグチグチした感じになってしまうのですが、一番強い気持ちとしては「鷹野や田岡の活躍をもっと読みたい!」と、いうことです。

3冊とも面白いし、登場人物に強い愛着が湧いてきたこの段階で完結してしまうのはどうしても惜しい。

続きじゃなくっても、スピンオフや何らかの形でもいいからまた鷹野たちに会いたいです!お願いします!終わらないで!

 

 

またこのシリーズの新作を読める日が来ることを祈っております。

 

 

 

ウォーターゲーム (幻冬舎文庫)

ウォーターゲーム (幻冬舎文庫)

 

 

 

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ではではまた~

『沈黙のパレード』ネタバレ・感想 ガリレオシリーズ、再始動の長編!

こんばんは、紫栞です。

今回は東野圭吾さんの『沈黙のパレード』をご紹介。

 

沈黙のパレード

 

あらすじ

町の人々から愛された定食屋「なみきや」の看板娘・並木沙織。彼女は十九歳の時に突如行方不明となった。

三年後、彼女の遺体は縁もゆかりもないはずのゴミ屋敷から老女の遺体と共に発見される。

容疑者として浮上したのは、二十年前に草薙が担当した幼女殺害事件「橋本優奈殺害事件」で逮捕された男・蓮沼寛一。

二十年前、十分な状況証拠があったにもかかわらず蓮沼は黙秘を貫き裁判で無罪となった。今度こそはと意気込む草薙であったが、蓮沼はまたしても事情聴取で沈黙を押し通し、証拠不十分で釈放されてしまう。

容疑者が釈放されたことに納得がいかず憤怒に駆られていた遺族たちの前に蓮沼が現われる。蓮沼は営業中の「なみきや」に訪れ、あろうことか店主で沙織の父・祐太郎に賠償金を支払えと要求してきたのだ。

あまりに図々しく不貞不貞しい蓮沼の態度に遺族だけでなく「なみきや」の常連客・町の人々は増悪を募らせていく。そして、年に一度の秋祭りパレードで事件は起きた。

容疑者は遺族と彼女を愛した町の人々。

復讐劇はいかにして遂げられたのか?殺害方法、アリバイは?

草薙と内海、アメリカ帰りの湯川が事件の謎に挑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガリレオの帰還

『沈黙のパレード』は【ガリレオシリーズ】の9作目。

 

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前作『禁断の魔術』から約6年ぶりのシリーズ新作長編です。『禁断の魔術』で湯川は教え子が関わる事件に遭遇。最後は唐突に研究のためにアメリカに飛び立ってしまったところで終わっていたので、このまま自然消滅するのかと危ぶまれていたシリーズですが、見事に帰還してくださいました。感謝。

最初本屋で見かけたときは「ドラマ化の為の大人の事情か?」なんて捻くれたことを考えてしまいましたが・・・2020年現在ドラマ化の話は聞こえてこないので思い過ごしだったようです。失礼な読者ですね、私(^_^;)。と、言いつつ、いずれはドラマ化されるのではないかと思いますが・・・どうなのでしょう?

 

作中では前作から4年経ったことになっていて、アメリカから帰ってきた湯川は准教授から教授に、草薙は係長に出世しています。二人ともシリーズ当初は30代半ばでしたが今作では四十代に。草薙は巡査部長から警部補、警部、係長ですから、順調に出世していっている感じ。仕事に精を出しすぎているせいかどうか、湯川も草薙もいまだに独り身でそこは変わらないですけどね。

 

アメリカに行ったきりで音信不通だった湯川。四年ぶりに日本に帰ってきたのに草薙には連絡せず内海に報告メール。「係長のところにも届いていると思っていたんですけど」と内海から聞かされ、「届いてない。何だ、あいつ。失礼な奴だ」と憤慨する草薙。

四年音信不通で、友人の自分は帰国報告を受けていないのに、部下のところにはメールがきているとか、確かに草薙にとっては面白くない現実ですよね。内海から伝わるだろうから必要ないと思ったとのことですが、合理主義もほどほどにしないとダメだろうと思う(^_^;)。

 

ま、憤慨しつつも湯川に連絡を取って再会する草薙。再会早々に湯川は草薙の因縁めいた事件に関わり、遭遇して事件関係者の一人となる。

 

 

複数の犯人 

菊野市というのは架空の市で東京の郊外という設定。この菊野市で行われる年に一度のチーム戦のコスプレパレード開催の日に、町中から恨まれていたグズ男・蓮沼が密室で遺体となって発見される事件が発生する訳ですが、この事件を画策していると思われる町の人々の様子を、事が起こる前から不穏に、視点が代わる代わるして描かれています。

 

良からぬ事をしでかそうとしているのは、沙織の父・並木祐太郎、祐太郎の親友で食品加工会社社長の戸島修作、沙織に歌の才能を見出してプロの歌手にするべくレッスンしていた新倉直紀、失踪当時沙織の交際相手だった高垣智也

 

蓮沼に外道極まる振る舞いをされ、憎悪を膨らませていた祐太朗を見かねて、戸島が高垣と新倉に声をかけパレードの日に計画を実行する。

 

 

この設定、テレビ朝日の連続ドラマシリーズ『相棒Ⅴ』第三話の「犯人はスズキ」に少し似ている・・・と、いうか、個人的に連想してしまいましたね。

 

相棒 season 5 DVD-BOX 2(6枚組)

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  • 発売日: 2008/03/07
  • メディア: DVD
 

 

読む前に書籍紹介を見たときに「『相棒』の、あんな感じのお話なのかな~」と先入観がある状態で最初読んだのですが、読み終わったときは良い意味で予想を裏切られたなぁと。『相棒Ⅴ』の「犯人はスズキ」も名作ですけどね。

 

 

計画は戸島が仕切っている状態で、祐太朗・新倉・高垣の視点が所々で入ってくるストーリー展開。犯人たちは分かっているものの、計画の中心人物の戸島の視点が描かれず計画の全容が解らないので、彼らが実行した殺害方法やアリバイトリックを推理して読む“倒叙モノ”の形態の長編。

 

 

 

 

 

以下、ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・だけじゃない。

「今回は倒叙モノか~」となるところですが、東野圭吾作品だし、【ガリレオシリーズ】だし、やっぱりそれだけでは終わらない。殺害方法やアリバイトリックとはまた別の、“らしさ”満載の二転三転する真相が待ち構えています。

 

 

 

 

 

増村

蓮沼は増村英治という男性の住居に居候していて、そこで殺害される。閉めきられた部屋で殺害方法不明の状態で死んでいるのが発見される訳で、その殺害方法の謎を解き明かすのが主軸に進んでいきますが、このトリックに関しては割とヒントも多くって読者としても早い段階でどんなトリックが使われたのかというのは見当が付く。

ミステリとしてはこの後に明かされていく人間関係の方がむしろこの物語りのメインとなっています。

 

祐太朗たちが蓮沼に危害を加えるべくやろうとした仕掛けというのは、蓮沼を先に部屋で眠らせる必要があるため、一緒に住んでいた増村の協力なくしては出来ないもの。

当初、警察では増村のことを事件とは無関係の、蓮沼と唯一親交がある人間としか捉えておらず、草薙も「蓮沼のような奴と仲良くできる人間もいるのか」などと思っていた訳ですが、実は増村は二十年前の「橋本優奈殺害事件」の後に自殺した優奈の母親・橋本由美子の兄。

 

姪を殺し、妹を死に追いやった蓮沼のことを恨み、いつか復讐してやろうと何年にもわたってずっと狙っていたのです。そんな中、新たに蓮沼が犯人だと思われる「並木沙織殺害事件」が発生。「自分がさっさと蓮沼に復讐していれば・・・」と悔やみ、蓮沼への怒りも益々抑えられなくなった増村は、並木沙織の親族も自分と同じ想いのハズだと祐太朗に「一緒に蓮沼に復讐しよう」と持ち掛ける。

元々は増村が祐太朗に話を持ち掛けたのが発端で、その後に「捕まっても構わない」と言う祐太朗を牽制し、捕まらないように細かな計画を立てたのが戸島。

 

不運な傷害致死で前科者となってしまったために、ずっと面倒を見続けてきた腹違いの妹・由美子に「兄」の存在を秘匿させ、影の存在となって由美子の家庭と姪御の成長を見守り生きる糧にしていた増村。増村にとっては自分の人生の希望そのものである由美子の幸せを理不尽に奪っておきながら罪を逃れた蓮沼は到底許せる存在ではありませんでした。

何年もかけて蓮沼を追い続ける増村の執念は読み応えがあり、この本の魅力の一つになっています。

 

しかし、こんなに憎い相手と四年も親交を持ち続け、一緒に住み、談笑しながら酒を飲んだりするというのは普通に考えて精神的に無理があるのではないかという気はしてしまいます。

絶対途中で耐えられなくなって殴りかかっちゃったりするよなぁ・・・と。ここまで執念深く蓮沼を狙い続けていたのに計画の立案や最終的なところは人任せというのもどうかなぁ。

私が増村なら、ここまで憎み続けてきた蓮沼が懺悔する姿は自分で絶対に見届けないと納得いかないと思う。蓮沼としても今まで仲良くしてきた人間が、かつて自分が殺害した女の子の親族だと知らされるのはかなりの衝撃だろうし、その事実を突き付けることも復讐のうちになるのになぁ・・・と。

こんな風に言うとアレですが、ちょっと“もったいない”のでは。

 

 

 

 

 本当の真相 

戸島たちが立てた計画というのは、まず増村が蓮沼の飲み物に睡眠薬を入れて部屋で眠り込ませて外側から施錠、パレードに乗じて液体窒素の缶を運び、蓮沼に声をかけて起こして、部屋の隙間から液体窒素を流しこむ。息が出来ずに苦しむだろうから、「やめて欲しかったら事件の真相を話せ」と迫って吐かせようというもの。聞き出した後に殺すかどうかは祐太郎が蓮沼の態度を見て決めると(※祐太郎がとどめをささないなら、祐太郎が帰った後に自分が殺すと増村は宣言していましたが)。

 

しかし、パレード当日になって祐太郎の店で客が腹痛を訴えるトラブルが発生。祐太郎が病院まで付き添わなくってはいけなくなったため、計画は中止しようと戸島が他協力者に連絡をするも、新倉は運ばれてきた液体窒素と蓮沼を前に憎しみをおさえることが出来ず、一人で計画を実行。蓮沼を殺害してしまう。 

 

祐太郎に完全なアリバイがあったのは新倉が単独で実行してしまったためだったのか~。で、一件落着しそうになりますが、実はさらに隠された真相があり、湯川はある人物に真相を問いただす。

 

その人物とは、新倉の妻・新倉留美

留美は蓮沼に脅されていました。何で脅されていたのかというと、並木佐織殺害の犯人として。

 

三年前のあの日、佐織は留美「妊娠したから彼氏と結婚する。歌手になる夢はもういい」と言い放った。佐織に才能を見いだし、一流の歌手にするべく新倉夫婦は心血を注ぎ、やっとデビュー出来るという状況下での佐織のこの発言に留美は逆上し、佐織と揉み合いになり、佐織は頭を打って倒れてしまう。 

動かなくなった佐織を見てパニックを起こした留美はその場から立ち去るが、その一部始終を蓮沼は目撃していた。これは脅しの材料に使えると考えた蓮沼は佐織の身体を持ち去り、病死した母の遺体のある実家に隠し、死体遺棄罪の公訴時効が成立する三年を待って遺体が見つかり態と自分が疑われるように実家を放火した。

誤認逮捕で刑事補償金をせしめ、その後は留美を脅迫してずっと金づるにするのが蓮沼の目算でした。 

 

蓮沼に脅迫され、数回要求に応じたものの、どうしようもなくなった留美は夫に真実を打ち明け相談する。そんな時、新倉は戸島からパレードの日の計画を持ちかけられ、この計画を利用して事実を伏せまま蓮沼の口を封じようと考えた。当日、祐太郎の店でトラブルが起きるように仕向け、妻を守るために蓮沼を殺害した――。  

 

 湯川の指摘により、三年前に留美と揉み合った際、佐織は気絶していただけでまだ生きており、その後に殺害したのは蓮沼だと発覚。新倉は捕まったものの、祐太郎・戸島・高垣はさほどの罪に問われずに皆日常を取り戻していくのでした。完。

 

 

 

 

 

イラッとくる

二十年前の成功体験があったからこその蓮沼の大胆不敵な計画だというのは分かりますが、もっとスムーズに脅す方法があるような気がするし、やっぱりあまりにもリスキーなのでは。本当のところ、殺してるの自分なんだし。

 

あと、佐織はあまりに勝手すぎますよね。新倉夫婦に無償でレッスンを受け、散々お世話になっておきながら夫婦の歌手育成への気持ちが「重い」と言ってのこの仕打ち。

彼氏の高垣も彼女が歌手デビューする瀬戸際なのに「結婚したい」って言ってみたり不用意に妊娠させたり、相手の置かれている状況をまったく考慮していなくって不誠実だと思う。これが若さか…って感じですが、それまで佐織は非の打ち所のない良い子という印象で描かれていたこともあって意外な事実に腹が立つ。高垣も同様に。

 

ラストで高垣が「なみきや」に訪れ、並木夫婦はあたたかく迎え入れていますが、私が並木夫婦の立場なら十代の娘を孕ませて殺害されるきっかけを作った高垣とまったくわだかまりなく接するなんて、頭では分かっていても無理だろうなぁと思う。

と、いうか、並木夫婦は新倉夫婦に謝罪すべきなのでは・・・。妊婦に手をあげるのは許せることではないけども・・・貴方方の娘さん、失礼で勝手ですよ。留美が怒るのは当たり前。結果的に新倉は沙織の仇討ちをしたようなもんだし。

 

計画のことに関しても、祐太郎は殺すかどうかはその時判断するつもりだったと言いますが、どのみち蓮沼に拷問めいたことをした後に生かしておけばまた訴えられるってことになって面倒なことになっていただろうし、自分が殺らなくても増村が殺るって言われていたし、結局蓮沼を生かしとくつもりなんてなかっただろうに…と、ただの逃げ口上に思えて仕方ない。 

 

最終的に佐織を殺害したのはやっぱり蓮沼だったというのもそうですが、もろもろ良い風にまとめようとするあまり登場人物にイライラする結果になっちゃっている気がしますね。 

 

 

 

湯川の変化

アメリカ帰りで丸くなったと草薙に称された湯川。

確かに「なみきや」の常連になったり、他の客と親しく談笑したり、女の子にパレードを案内してもらったりと“らしくなく”社交的な湯川が今作では拝めるのですが、「なみきや」の常連になったのは草薙の無念を晴らすために少しでも協力出来ないかと思っての行動だったと最終ページで発覚。

それまでのイライラを忘れられるほどホッコリとした気分にさせてくれて、これのおかげで読後感が改善されて良かった(^_^;)。

 

 

容疑者Xの献身

 

容疑者Xの献身 (文春文庫)

容疑者Xの献身 (文春文庫)

 

 での石神の一件以来、湯川は真実を悪戯に追求することに躊躇するようになっていて、場合によっては真相に気づいても秘匿したりすることも。個人的に犯人が裁かれない結末は釈然としなくって、湯川の“やさしさ”がもどかしく感じることもあるのですが、今作は全てが詳らかに明かされる結末で安堵しました。

 

回を増すごとに湯川の真相究明への配慮は際立ってきていると思います。それに加え、今回は親友への思いやりも知ることが出来て、湯川の成長や変化を楽しめるファン必見の作品です。

登場人物の心境に多少無理がある気がするものの、「橋本優奈殺害事件」と佐織殺害事件の質の違いへの違和感(被害者の年齢の違いとか)や事件発覚のきっかけである放火などの繋がりかたは見事ですし、二転三転するストーリー展開は流石。シリーズファンならやっぱり読むっきゃない!てな本なので是非。

 

 

 

ではではまた~

 

 

沈黙のパレード

沈黙のパレード

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 2018/10/11
  • メディア: 単行本
 

 

 

 

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『犯人たちの事件簿』10巻 感想 今度この本当の完結!ありがとう犯人たち~

こんばんは、紫栞です。今回は金田一37歳の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』10巻の感想をば。 

金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿(10) (週刊少年マガジンコミックス)

ついにホントの最終巻です!

こちらの表紙はKCコミック『金田一少年の事件簿 獄門塾殺人事件(上)』のパロディ。 

 

金田一少年の事件簿 獄門塾殺人事件(上) (講談社コミックス)

本家よりバックの人数が多いですが。本編を読み終わったらカバー裏を見ることもお忘れなく。

 

最終巻に収録されている事件は「黒魔術殺人事件」「不動高校学園祭殺人事件」「血溜之間殺人事件」「誰が女神を殺したか」「獄門塾殺人事件」の五つの事件性と途中に「1億部突破少年の事件簿」、巻末に作者・船津さん実録漫画。と、盛りだくさんな内容になっています。

 

 

 

 

「黒魔術殺人事件」

 犯人:井沢研太郞

「黒魔術殺人事件」は本家で作画崩壊がピークだった頃。特に高遠さんが「だれ!?」レベルの顔になっているし、実行犯の伊沢も酷いもんでした。二人ともやたら顎が長かった・・・他の人も長かったりしましたけど(^_^;)。このスピンオフ漫画ではこの作画崩壊っぷりまで忠実に再現していて流石だなと。当時本家を読んだときの唖然とした気分が甦った・・・。

 そんな訳で、高遠さんプロデュースの事件なのですが金田一一を呼んでください」「それでは美しくない」だの相変わらず実行犯にとっては迷惑でしかないことを言っていて、井沢に論理的に指摘されても全く話が通じない。そのくせ自分が金田一を態々呼ばせたことをすっかり忘れているのだからもうぶん殴りたい感じ。「犯罪は芸術じゃねーんだよ」と井沢が金田一と同じことを心の中で叫んでいるのが可笑しい。井沢には本当に同情する。

作中で検証されているように、これはもう完全に本家のミスでしょうね。絵も話も雑・・・このときは本家どうかしていたのよ。

 

 

 

 

「不動高校学園祭殺人事件」 

 犯人:津雲成人

こちらは短編でして、短編なだけあってスピーディーに解決されちゃう。被害者の男子生徒がなぜかメイド服姿で死んでいるという“絵面が酷い”奇抜な事件。トリックの都合上、素足なのをごまかすためとなっているのですけども、メイド服だろうとなんだろうと素足なのは違和感がある。

あまりにも科学実験ぽすぎるトリックなので科学教師が犯人なのは納得。短編だからか、次の「血溜之間殺人事件」の犯人とセットで紹介されているのが今までにない形式で面白いです。

 

 

「血溜之間殺人事件」

 犯人:海峰学

高校入試絡みのことが動機の事件で、本当はもっと偏差値の高い高校に入学出来たはずが不動高校なんかに入学するはめになってしまった~と、不動高校をこき下ろしまくっている犯人の海峰。別に不動高校はバカ校って訳でもないんだけど、殺人事件がおきまくりで治安が最悪なので・・・。あらためて羅列されると確かに酷い。教師も生徒も殺し殺されだからなぁ。まともに考えて入学したい人いないよね。「全校集会に次ぐ全校集会・・そして保護者説明会」だよなぁ。

津雲(元)先生が海峰に「私の勤め先を悪く言うな!!」と言っているのが妙に可笑しい。

 

 

 

「誰が女神を殺したか」

 犯人:汐見初音

こちらは読み切りで一話のみ。「誰が女神を殺したか」は1997年に掲載されたFILEシリーズの頃の短編なので、この本のなかでは絵柄が浮いている。本家のこの頃の絵は丁寧で髪の艶とか瞳とかキラキラしていたなぁ。このときの絵が恋しい・・・。

本家では被害者の先生が死ななかったことで良い感じに終わっているものの、教師の立場で生徒妊娠させてハッキリしたことも言わずに数日放置ってかなりのクズでしょう。当時読んだときも「指輪選んでた」じゃ、ねーよ。って感じだった。あと、視力が悪いのにいいフリするのも無理がありすぎる・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「1億部突破少年の事件簿」

金田一少年の事件簿】シリーズ1億部突破を記念しての読み切り。

今までの犯人たちが次々登場して“犯人の地位向上”のために主義主張をしていく。結論として1億部のうち5000部は自分たちの働きのおかげだということで落ち着いています。うん。ま、それはそうですよね。

 

 

 

 

「獄門塾殺人事件」

 犯人:濱秋子・氏家貴之

最後の事件は「獄門塾殺人事件」。最後はやっぱり高遠さんプロデュース事件ですが、高遠さんの存在は割と薄めで、このスピンオフ漫画最終ケースということで歴代の犯人たちが応援したり実況したり注意を促したりするという集大成な作品になっています。みんな、本当によく頑張ったよ・・・!と、言ってあげたくなる(^_^;)。

判りきっているように、最終回でも金田一少年には勝てない。「勝つまで続けるって手もあるんじゃないか?」と氏家さんが言いますが、有森が「知っているか?ミステリにおいて犯人ってネタバレなんだぜ?」という当たり前で今更なことを言い返される。

 【金田一37歳の事件簿】はイブニングで好評連載中。金田一がいる限り犯人は生まれ続ける”ってことで、希望(?)を残すように宣伝して・・・最後にちょっと読者を「お?」と思わせるような形で終了しています。

 

 

 

 

 

殺人エンタメとして

「1億部突破少年の事件簿」の読み切りですが、笑えるようでいて実は“推理もの作品”の核心を突く深いことを言っている(ような気がする)。

“推理もの作品”は所詮、殺人事件をエンターテイメントに昇華させたもの。遺体を山に埋めるなり海に投げこむなりして後は知らぬ存ぜぬを決め込んだほうが確実に捕まるリスクは回避出来るにもかかわらず、態々七面倒くさい仕掛けを考えて実行して小道具を作ったり妙な扮装をしたり・・・端から見ればバカバカしいことこの上ない。でも、そのバカバカしさを前提にしてああだこうだと考えて楽しむ遊戯なのですよ。

 

謎をつくりだす者がいて、それを解く者がいる。犯人なくして名探偵なし。トリックなくして推理なし。

『犯人たちの事件簿』はエンターテイメントのため、“バカバカしいこと”を頑張って実行する犯人たちに”ネタバレ”というタブーをおかしつつスポットを当てた、さらなるエンターテイメントだったという訳(なんじゃないかと思う)。

 

金田一少年の事件簿】ファンのみならず、ミステリファンも楽しませ、笑わせてくれた『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』に感謝いたします。ありがとうございました!

 

 

 

 

 

ではではまた~

 

 

 

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