夜ふかし閑談

夜更けの無駄話。おもにミステリー中心に小説、漫画、ドラマ、映画などの紹介・感想をお届けします

『水上都市の冒険』中学生の御手洗潔、仲間と共に5つの謎に挑む!

こんばんは、紫栞です。

今回は、島田荘司さんの『水上都市の冒険』を読んだので感想を少し。

 

水上都市の冒険

 

 

中学生・御手洗潔の冒険

こちら、2026年7月に刊行された【御手洗潔シリーズ】の連作短編集。

 

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時は昭和三十年代、高度成長期。中学生の御手洗潔少年が同級生の友人たちと共に横浜水路で起こる事件の謎に挑む少年探偵団ものです。

 

シリーズの探偵役である御手洗潔は1948年生まれ。このシリーズはリアルタイム進行ですので、2026年現在で御手洗は77歳。

・・・・・・と、改めて歳を数えるとびっくりしてしまいますが(^_^;)。まだまだ現役バリバリの天才で、昨年刊行された『伊根の龍神』でも颯爽と(本当に颯爽と)謎を解いてくれているので大丈夫なんですけれども。

 

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当たり前にシリーズのメインキャラクターたちもだいぶ老成してしまっているので、達観しているといいますか、老境の寂しさみたいなものが付きまとう語り口にはなってしまう。リアルタイム進行ならしょうがないところではありますが。

 

あと、御手洗が終盤にポンッと出てきて答え言ってサッと帰って終わりとかね。ただ答えを言ってくれる人ポジションで終わってしまう場合が多い。御手洗の場合天才すぎて調査過程やシンキングタイムもほぼ無しで解明しちゃうし。

 

今作ではそんな天才すぎる老人・御手洗も中学生ということで、同級生と一緒に調査をしたり、大人たちに反発したり、自転車で忙しく動き回ったりと、少年らしい冒険をしているのが新鮮。昭和三十年代が舞台ですので、ノスタルジックな雰囲気も味わえる一冊となっています。

 

 

収録作品は、

 

●汐汲坂の殺人

●踊る人形

●火事マニア

●マジシャン御手洗くん

●歯磨きチューブの謎

 

の、五作品。

 

雑誌「メフィスト」から会員制読書クラブでの会員限定小説誌になった「メフィスト」で2025年~2026年の間に掲載されていたもので、最後に収録されている「歯磨きチューブの謎」は書き下ろし。

 

今回、新刊情報や「メフィスト」の会員案内のチラシと一緒にメフィスト賞受賞作一覧が書かれた栞が付いてきました。こういったおまけは嬉しいですね。電子書籍が急速に広まっている昨今ですが、紙の書籍ならではの嬉しさってのはやはり廃れない。新刊情報のチラシも見るの楽しいんですよね。

栞には受賞作71作が書かれていて、今まで何作か読んできているのですが、メフィスト賞は規格外のミステリが多くてやっぱ好きな賞だなーとなりました。またメフィスト賞受賞作を読みたいですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

島田荘司の少年探偵団

上記したように今作は少年探偵団もの。

御手洗の他に、同級生の江口くん、鈴木えり子、犬のココアなどが主要メンバーとして出てきます。

主な語り手は江口くんで、御手洗と鈴木えり子との三人で巷で起こる事件の謎に挑んで調査したり刑事相手にやりあったりする。

 

語りての江口くんは水上生活者でして、エンジンがなく自力での移動が出来ない”ダルマ船”で父親と二人で生活をしている男の子。昭和初期にはこういった水上生活者がチラホラといたみたいですね。

 

中学校の皆は江口くんが水上生活者だと知って距離をとる子が大半だったが、御手洗は江口くんの船の家を気に入ってよく遊びに行っているという。

なんか、この頃から御手洗ですね。優秀で我が強いのだけれども、逆境に立たされていたり立場が弱い者に寄り添おうとする。その最たる存在が後に出会う石岡くんなんですけども。

 

中学の時の御手洗は女子大の理事長である叔母の元に居たという設定でして。これは過去作の短編でも書かれているんですけれども。この頃は叔母さんが身体を壊して治療中だったので、通いのお手伝いさんはいるけれども実質一人暮らし状態。なので、船にも気軽に遊びに来るし、中学生ながら自由がきく身なんですね。

 

通常の御手洗シリーズとは違って奇想天外なトリックなどはなく、殺人があるお話はあるものの事件はどれもライト。ミステリというよりは冒険活劇ですね。

 

横浜水路で江口くんのとこの船を拠点(?)としながら少年探偵団的活劇をしているのは古き良き児童文学的でありながら新鮮さがある。仲間とチームで事件調査しているのもまた新鮮で良いですね。ホント、御手洗ってばいっつも事件概要聞いたらすぐわかっちゃって説明して終わりだからさ・・・・・・。

 

登場する警察は徹底的に無能に描かれている。現在設定でこういった刑事を出されると違和感ありまくりですが、昭和三十年代が舞台なのでこの無能描写っぷりもノスタルジックで、もはや「こうでなくっちゃね!」感ある。

島田荘司作品だといつも気になるミソジニー描写もなくって良かったですよ。鈴木えり子も共感できる女の子でしたし。ま、女性は女性でも子供だと嫌な女風に描かないのはいつものことなんですけど。

 

ちょっと気になったのが、学校でのヒエラルキーが成績至上主義なとこですかね。とにかく成績が良ければ何でも許されるし優遇されるみたいな。御手洗くんはもちろん成績トップですので、これまた学校内外で自由がきく身だってことなのですが。

中学ぐらいだと運動神経とか容姿とかもヒエラルキーの要素に入るのではって思うんですけどね。学生の時って足が速い子がモテたりするじゃん?

ま、昭和三十年代の横浜の中学校がどうだったのか私には分かりませんが。

 

昭和三十年代を知っている、島田さんと同年代の人は懐かしさでより楽しめる本なのではないかと思いますね。システマチックで科学的な現在が舞台の小説に疲れた人にもオススメですよ。

この少年探偵団ものは続くのですかね。何だか続きそうな気もするし、それならそれで歓迎ではありますが。

いや、でも本編でさっさと御手洗に日本在住になってもらわんと困るってのもあるんですけど。御手洗も石岡くんも年齢が年齢だし・・・・・・。いい加減頼みますわ島田先生。

 

何はともあれ、今後もどんな御手洗でも追って行こうと思います。

 

 

ではではまた~

 

 

 

 

 

 

 

 

『六人の嘘つきな大学生』映画 原作との違い 低評価の理由を考察

こんばんは、紫栞です。

今回は映画『六人の嘘つきな大学生』について、感想を少し。

 

六人の嘘つきな大学生

 

 

 

こちら、前に原作の小説を読んでこのブログでも感想記事を書きました↓

 

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AmazonPrimeで見放題対象になったのを知っていたものの今まで観ずじまいだったのですが、今更ながら観てみた次第です。

 

何でなかなか観ずにいたのかというと、口コミがあんまりよろしくなかったからなんですけど。

原作が評価が高い作品なので、映像化ってなると原作ファンの期待値が上がってしまうため厳しい意見が多いのかとも思いますが。

でも、原作未読で観ている方も多いしねぇ。そもそも、面白いと言う人が多い原作をそのまま映像化してればエンタメとして一定以上の面白さは保証されてるはず・・・それでいて低評価ってことはつまり・・・・・・?

 

と、ま、うだうだ考えながらもとりあえず観てみたんですけど。

 

観てみたらですね、「ううん。なるほど」と。なんだか妙に納得しましたね。

 

 

以下、若干のネタバレ含みます~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『六人の噓つきな大学生』は簡単に言うと就職活動のお話でして。特徴としては二部構成になっているところですね。

 

超人気IT企業会社の最終選考に残った六人の大学生が、最終課題で「この六人の中から内定者を一人お前達で選べ」と、ありえんムチャブリをされるというお話なのですが。

元々、この六人でチームを作り上げろって課題だったので、「皆で一緒に内定とろうぜ!」って切磋琢磨していたところでのこの変更。しかも、六通の告発文が入った封筒が発見されて密室での議論は戦々恐々としたものに——・・・と、いう”就活デスゲーム”が展開されるのが第一部。

 

第二部は八年後が舞台。最終課題によって内定を獲得したの嶌衣織の視点に切り替わり、とあるきっかけから八年前の最終課題での告発文事件の真相を今一度追及するために独自に調査をしていく。

 

 

第一部で展開されるのは密室での六人の会話劇。映画でもおよそ半分の尺を使ってこの部分をやっていて、比較的原作に忠実な会話劇が繰り広げられているのですが・・・・・・大きく違うのが第二部の終盤、ミステリでいうところの解決編ですね。

 

原作では嶌が八年前の関係者の元へ一人ずつ訪ねて話をしていくことで徐々に伏線が回収されていき、真相が明らかになるのですが、この映画では八年前のメンバーを同じ部屋に集めて皆の前で誰が犯人だったかを指摘するものとなっている。

 

ミステリのド定番である、探偵役が関係者一同を集めてやる推理ショー。「皆さんに集まってもらったのは他でもありません~」の、アレですね。

 

これ、おそらく尺の都合上このような変更をしたのだろうと思うのですが(と、いっても、原作は350ページほどでそこまでのボリュームではないので、やりようはあったのではって気がしてしまいますが・・・)、丁寧に段階を経て解っていく真相や伏線回収がこの原作小説での重大な面白さの一つとなっていたので、皆の前で一気にまとめて明かしてしまうのは原作を読んだ人間からすると急に雑になった感といいますか、やっつけ的な締め方だなという風に思えてしまう。

 

そもそも、原作の『六人の噓つきな大学生』は緻密に考え抜かれた構成で魅せる作品なんですよね。原作の一番の魅力である物語構成を崩してしまっている時点で面白さが半減してしまうのは必至だよなぁと。

物語の根底的なメイントリックは小説ならではの仕掛けで、映像化する際にどうするのだろうと気になっていたのですが(原作読んだ人間からすると一番の注目ポイントだと言ってもいい)結局この仕掛け自体が映画では丸々カットでしたし。

 

小説では、人の印象が二転三転するようになっているのですよ。殺人事件は起こらないけど、そういった部分でミステリ的どんでん返しの仕掛けがなされている訳ですね。

「一面だけを見て人を判断する危うさ」「人間は善人だ悪人だと簡単に二極化出来るものではない」というテーマが就職活動を通して描かれている。

 

色々と端折り、場面展開を簡素にした結果、どうしても原作でのメッセージが伝わりづらくなってしまっているかなぁと。

 

端折っているので人物の心の動きも解りにくくなっているのですよね。特に、犯人の動機面とか。「犯人の動機がしょぼすぎる」と、観た人全員が感じるだろうなと思う。

原作だと色々あったんですよ。飲み会でのくだりとか。それでも犯人が身勝手なのに変わりはないんですけど。映画の方の描写は本当に納得いかない。お酒飲んでいる時に陽気になるくらい許してよ!!

 

あとやはり、善人悪人の見せ方ですね。色々端折っている分、驚きも何も感じないなぁと。

各人物の善良さと愚かさを表すエピソードや仕掛けを尺の都合上排しているので、変更したなりに別シーンやセリフを入れることで補おうとしている脚本の奮闘ぶりは見受けられるのですが、やっぱりあんまり上手くいっていないかなぁと。

投票についての考察の余地とか、全部消してしまってましたしね。

 

 

キャストは割と原作からのイメージ通りで悪くないと思います。

しかし、キャスティングで内定もらう人と犯人が丸わかりなのはアレですけれども・・・(^_^;)。そこら辺の”当てる楽しみ”がほぼ無しなのも残念ですかね。

 

 

とはいえ、そんなに凄く悪い出来だとも言い難い映画かなと個人的には思います。私が原作読んだ人間だから必要以上にダメだと感じてしまうだけで、何も知らずに観れば普通に楽しめるのかも。

映画を観て腑に落ちない部分が多々あると思った人には是非原作を読んで欲しいですね。映画を観た後でも十分に楽しめ、感心出来る小説だと思います。

 

気になった方は是非。

 

 

 

 

 

 

 

ではではまた~

 

 

 

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『秘密 season0』13巻 ネタバレ 感想 ”黒い雨”の真実とは?

こんばんは、紫栞です。

今回は、清水玲子さんの『秘密 season0』13巻〈BLACK RAIN〉を読んだので感想を少し。

 

秘密 season 0 13 (花とゆめコミックススペシャル)

 

あらすじ

2062年2月。福岡市春日駅のホームにて、有名ファッション誌の専属モデルをしていた女子高校生・鳥山杏花が快速電車と接触して死亡した。遺族はストーカー被害による事件性を訴えたが、反対側ホームにいた唯一の目撃者の男子高校生・川端陽向の証言により、事件性なしの自殺として結論づけられた。

 

七年後、川端陽向は警察官となり、MRI捜査員として青木が室長を務める福岡の「第九」『第八管区』に配属される。副総監の次男だということで同僚にやっかまれ、腹違いで幼い頃から競争させられていた捜査一課に所属する兄・傑との折り合いが悪い陽向は全国が注目する大事件、三人が連続して刺殺された「博多連続ストーカー事件」の捜査に没頭していく。

捜査する中で、陽向は同一の人物が全ての現場に居たことを特定する。その人物の姿は七年前に鳥山杏花が死亡する前にホームで口論していた人物とまったく同じだった。

 

同じころ、『第八管区』に視察で訪れた薪は7年前の自殺が実は殺人で、「博多連続ストーカー事件」と同一犯によるものではないかと青木に示唆するが——。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒い雨

こちら、2026年7月に刊行された近未来サスペンス漫画『秘密 season0』の13巻目。

 

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前作はかなり期間が空いて11巻・12巻同時発売だったのですが、

 

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今回は一冊での刊行。前作から一年ちょっとでの刊行で通常ペースに戻った感がありますね。

 

今巻の表紙もまあ綺麗なんですが・・・相変わらず誤解を招きそうといいますか、「何事だっ!?」って感じですね。別に”そっち方面”は何事も起こらんのですが・・・中身は通常通り、血なまぐさくって重い近未来サスペンスミステリが展開されております。

 

 

今回は美少女が電車に轢かれて四肢胴体が飛散する衝撃的なシーンから始まる。いつも思いますが、このシリーズは物語の導入部分が凄く良い。印象的で、「え?どういうこと?」ってなる描写で、気になって最後まで一気に読んじゃうんですよね。

 

で、この轢かれる瞬間を目撃した少年・川端陽向がその光景を「黒い雨が降っているようだった」と証言したことがタイトルの〈BLACK RAIN〉に繋がっているという訳なのですが。

四肢胴体が飛散した時の血が降りかかってきた様、血が降りかかってきたのを「黒い雨」と言っている。このことが既に物語の根底部分の”ある事実”を示すものとなっている。

 

 

数冊使った〈悪戯〉、二冊使った前作の〈DNA〉と、長めの物語が続いていましたが今作は全四話で比較的短め。だからこそ構成が光るといいますか、綺麗にまとまった物語となっています。

 

7年前の事件の目撃者で現在「第九」の捜査員である川端陽向の視点描写が多めなので、川端陽向が主役と言ってもいいような物語ですね。

 

 

とはいえ、薪さんと青木もちゃんと登場して活躍していますので心配御無用。

 

例によって例のごとく、いきなり福岡に視察に来て青木を慌てさせる薪さん。(気軽に福岡来るなぁ・・・薪さん・・・)

それというのも、とある疑惑を確かめるためなんですが、最初に青木に対しておきまりの嫌味攻撃をしています。青木には「俺に会う度まずいたぶるルーティンやめて下さいよ・・・っ」って言われてる。確かに、何年経っても同じことしてるな・・・。

 

巻末には薪さんが鈴木のお墓参りに行く特別編〈Extra〉も収録されています。こちらはこちらでファン必見の特別編となっておりますよ~。

 

 

 

 

 

 

 

以下、ネタバレを含む感想となりますので注意!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘」だけど「本当」

今回の物語の主軸的人物・川端陽向は色覚異常者。色弱で、赤・緑・黒の区別がつかない。

7年前、女子高生の鳥山杏花は電車に轢かれる前に刺されていた。血だらけの状態だったにもかかわらず、色弱の陽向は夜10時すぎの薄暗い視界の中で血の色を判別出来なかった。そのため、彼女が刺された事実に気づかず、ただ口論して相手が立ち去った後に彼女が自ら線路に向かって電車と接触したのだと証言した。

陽向としては見たままの事実を言ったので嘘をついた訳ではない。しかし、その所為で刺殺事件は自殺として結論づけられることとなり、数年後に同一犯による連続殺人で三人の被害者を出す事態となってしまった。

 

ここで問題となるのが、陽向が警視監の父親の期待に応えるために色弱のことを誰にも言わずに隠して生活していたこと。証言を求められた時に色弱のことを言えていれば、周りも当然知っている状態だったら、刺殺事件が自殺とされるような事態は回避できた可能性が高い。これ以上の犠牲者が増えることもなかった。

 

見えないのに、見えるふりをした。これが陽向の罪なんですね。

 

捜査をしている最中で陽向は自分が7年前に殺人を見逃した事実に気がつくが、陽向は色覚異常者なことを隠したまま警察官となり、現在は画像を見て捜査をする「第九」の捜査員をしている。とてもじゃないが、7年前の目撃証言を「間違いでした」と言うことなど出来ない。

 

そんな苦悩の中で、陽向は鳥山杏花そっくりに成長した妹の菜乃花と遭遇。菜乃花も今までの被害者と同じようにストーカー被害にあっていると知り、今度こそ守ってみせると決意する。

 

父親の重圧、腹違いの兄との確執、同僚からのやっかみ、杏花とそっくりな妹との遭遇。居場所がなくなる恐怖と責任感と罪悪感。

真面目で純粋な陽向は自分をどんどん追いつめていき・・・・・・物語は悲劇的な結末を迎えることとなる。

 

ここら辺の追いつめられていく描写はやはり巧みですね。陽向にどっぷり感情移入してしまうからこそ、結末がやるせない。

 

 

 

 

 

「愛せない」けど「大切」

物語終盤で明らかになるのが、陽向の腹違いの兄・傑の心境。ただの陰湿な兄さんかと思いきや、意外で複雑な心情が明かされる。

 

正妻の子である傑と愛人の子である陽向は、父親によっていつも競争させられてきた。傑にとって、陽向は途中で家に勝手に住み着いたよそ者。優秀で純粋な陽向に傑は苛立ち、辛く当たってきた。

父親や傑の顔色をうかがって失敗しないように、気に入られるように振る舞う陽向の姿は自分を見ているようで、傑は陽向を愛することが出来なかった。傑は自分の事が大嫌いだから。

しかし、傑は陽向を気にかけていて、色弱のことも前々から気がつき、7年前の事で悩んでいる陽向を心配してわざわざ福岡から東京まで行くような行動までとっていた。

 

愛せないけれど、自分の身体の一部のように大切。

 

ここら辺の相反する気持ちもまた、事件の驚きの顛末と相まってやるせなく、哀しい。

 

 

脳映像を見るという設定ですので、視覚異常を題材にしたものはこのシリーズで幾度となくやってきていますが、今作もまた良し。似た題材でも毎度違う驚きと感動、痛みがあるのには感服です。

 

特に、season0の4巻〈可視光線〉と通ずる部分が多いですかね。

 

 

 

私は〈可視光線〉がシリーズの中で一番好きなお話ですので、今作は個人的に凄く好みでした。

 

 

 

〈Extra〉

特別編の〈Extra〉は上記したように薪さんが鈴木のお墓参りに行く話なのですが、鈴木の妹である美波が夫と子供と共に墓参りに来ている場面に遭遇する。

薪さんとしては長年鈴木の親族と鉢合わせしないように時間をずらして墓参りしていたんだけど、今回はかち合っちまったと。

 

鈴木の親族といえば、回想で出てくる葬式のシーン。読んでいてもう辛くて辛くて・・・な、アレですね。今回もお父さんが花を踏み散らかしているシーンがキッツい・・・。

 

しかし、美波さんは薪さんを憎んではいないようで、一安心。妹、そういやいたなぁ・・・と思ったのが正直なところですが、ここにきてこういう出し方をしてくるとは。

 

この特別編を読んだらですね、「長い年月が経ったのだな」と思いましたよ。読者としてシリーズを読んできた歴とシンクロするような、感慨深い気持ちになりました。

 

知らない人ばかりになっても、思い出す人が誰もいなくなっても、ずっとあなただけは覚えていて。

 

最後の初期「第九」メンバー集結には長年読んできた読者だからこそグッとくるものがありましたね。岡部さんはやはりファンの期待を裏切らない。

〈BLACK RAIN〉の方も青木の成長を感じる部分が多々ありましたし。「青木、立派になったね・・・!」と、これまた感慨深い。

 

 

 

はて、『秘密 TOP・SECRET』の続編として始まったこの『秘密 season0』も元のシリーズの巻数を超えて13冊目。今後はどうなんでしょうかね。何か大きく動くことあるのでしょうか。

今回、薪さんが青木に「そろそろ都が恋しくないか」と言っているので、東京に呼び戻すのかも・・・?

 

これからもずっとずっと、私はシリーズを追って行きたいと思っております。

 

 

 

 

 

ではではまた~

 

 

 

『そうだ、君を憎めばいいんだ』桜庭一樹 斜線堂有紀 競作小説集!少女たちの愛憎物語8編

こんばんは、紫栞です。

今回は、桜庭一樹さんと斜線堂有紀さん、二人の作家による短編小説集『そうだ、君を憎めばいいんだ 愛と殺意と七つの条件』をご紹介。

 

そうだ、君を憎めばいいんだ 愛と殺意と七つの条件

 

 

〈マッチング競作〉ってなんぞ?

こちら、二〇二四年夏号文藝での特集テーマ「マッチング」にかけて、選ばれた二人の作家が競作と対談をするという企画ものから始まった小説短編集。

この時の企画で選ばれたのが桜庭一樹さんと斜線堂有紀さんで、好評だったので競作で単行本化しようってことになってこの〈マッチング競作〉企画が続いたらしい。

 

〈マッチング競作〉って何?なんですけれども。

共通する七つの条件にもとづいて桜庭さんと、斜線堂さん、それぞれに小説を執筆するというもの。

 

なので、競作とはいっても二人で一つの物語を創作するというものではなく、それぞれ独立して読める単発の短編となっています。

”共通する七つの条件”は桜庭さんと斜線堂さんが話し合って決めたもので、日時・場所・キーワード四つ・セリフで構成されています。

 

この四回の〈マッチング競作〉により、それじれ四編、計八篇の作品が誕生し、単行本化されたと。

この本では「七つの条件」は各回終了後に読者に明かされるようになっています。それぞれの作品を読みながら「条件」は何かと考えて、最後に答え合わせしてみてね!ってことですね。

 

私は元々桜庭一樹さんのファンでして、小説の著作ならほぼ読んでいて新刊出る度に買っているんですよね。で、斜線堂有紀さんの方はというと、ちょうど最近『恋に至る病』『病に至る恋』の二冊を読んだところ。

 

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いつもは好きな作家が参加していても競作ものの本って買わないのですが、「こりゃタイミングが良いわ。買えってお導きだわ」ってなりまして。購入いたしました。

 

 

桜庭一樹さんは1999年デビュー。斜線堂有紀さんは2016年デビュー。なので、キャリアは結構な差がありますね。

帯に「少女たちのカリスマ二人」と書いてあるのですが・・・そうなのか?

桜庭さんは確かに少女小説のイメージがあるちゃありますが(でも近年の作品は違うんじゃって思いますけど)、斜線堂さんもそうなのでしょうか。なんせ、二冊しか読んでいないので分からないんですけど。

 

それと私、斜線堂さんっててっきり男性だと思っていたんですよね。女性のようなペンネームで活動している作家さんって多いので。桜庭さんは逆に男性だと思わせるようなペンネームですけど。でも、桜庭さんは最初に読んだ一冊目から男性だとは毛ほども思わなかった・・・。

 

 

巻末にそれぞれのあとがきが収録されているのですが、斜線堂さんは幼い頃から桜庭さんのファンで憧れの小説家だとのこと。

『彼女が言わなかったすべてのこと』では推薦文も書かれている。

 

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最初に競作の話がきた時はもっと自分自身の実力をつけて何かを成してから・・・と思ったものの、断ったら別の作家が桜庭さんと競作するのでは・・・という恐怖から依頼を受けたとのこと。ファンだからこその葛藤ですね。私も桜庭一樹ファンですので、斜線堂さんの桜庭作品への愛に溢れたあとがきは読んでいて「うんうん。だよね!だよね!」となりました。

でも、斜線堂さんの文章からは特に桜庭さんの影響を受けている感じはないんですけど。作品へのアプローチとかも全然違うなと思いますし。

 

ですが今作を読んでみましたら、この”マッチング”を企画した人、グッジョブ!ってなりました。

この女性作家二人によるマッチングが見事な競作小説集となっております。

 

 

 

 

目次

 

桜が咲いた日、七つの条件

●かわいそうに、魂が小さいね 桜庭一樹

●その春に用がある 斜線堂有紀

 

「ゲームオーバー」からはじまる七つの条件

●場外戦 斜線堂有紀

●怪物のまま生きてゆく 桜庭一樹

 

「自称犯人」からはじまる七つの条件

●私は呪い、君は愛。 斜線堂有紀

●アンチの恋 桜庭一樹

 

斜光のさす場所、七つの条件

●譲:クリスマスツリー 桜庭一樹

●譲:門松 求:クリスマスツリー 斜線堂有紀

 

 

 

以上、八篇。

最後の二篇は書き下ろしで、それぞれ15ページ位のエピローグ的な短篇となっています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異形の愛

個人的に、収録されている八篇全て良かったです。どれも好きな雰囲気の短篇で、一冊の本としても纏まっていて。軽率に手に取ったんですけども「買って良かったなぁ!」と。いい買い物したな、私。

 

 

共通の場所と日時、キーワードでの作品がこういった感じに並べられているとそれぞれの作家性が際立ってくるといいますか、より”どういう作家なのか”が改めて解る感じがしました。

桜庭さんの文章は独特で結構人を選ぶ作風なんですけど、だからこそ唯一無二なんですよね。言葉の選び方や印象的な文章がやはり良い。あとがきでも書かれているように桜庭さんは長編作品が多い作家なのですが、短編も良いなぁというか、かなり向いているのではないかと。今後どんどん書いて欲しいですね。

 

桜庭さんの四作品はどれも上手く形容しがたい人間関係を描いているものになっています。桜庭さんは「残酷」を描くのがお手のものな作家なのですが、今回収録されているものはどれも答えのない「残酷」を描きつつも、最後には光の気配が見え隠れする短篇になっていたかと。

あと、何故かどの作品にも中国の歌が出てきていたのですがこれはいったい・・・?キーワードに関係してんのかと思ったらどれも違うし。桜庭さん自身が最近中国文化にハマっているのですかね?こんなにことごとく出されるとちょっと・・・・・・(^_^;)。

 

 

斜線堂さんはそこまで著作を読んでいないの詳しい作品傾向などは分からないのですが、刺激的な題材で惹きつけられつつ、計算された構成であるべきところに綺麗に収まる。短篇小説の醍醐味が味わえますね。

斜線堂さんの四作品は視点が「別世界」「カード」「呪い」「幽霊」と、どれもかなりの変化球もの。

あとがきによると、

「私の提出した小説が全て誰かへの二人称小説で揃っているのは、この競作企画自体が私の恐怖と焦燥の悲鳴であり、桜庭先生への必死の語りかけだからだ」

とのこと。これもまた複雑なファン心理か・・・・・・。

 

 

最初のうちは条件が同じでも全く別物の作品が仕上がるもんだな~と思っていたのですが、回を重ねるごとに”近づいて”くる。これには本人たちも驚いたらしいのですが。競作しているとこういう事が起きるのですかねぇ。素敵な化学反応。

なので、書き下ろしである最後のエピローグ的な二編で繋がって終わるのは非常に良い締め方だなと。

 

 

今作のタイトルの『そうだ、君を憎めばいいんだ』は七つの条件の中で出てくるキーワードの一つなのですが、この本全体を表すに相応しいタイトルだと思います。

八篇で描かれているのはどれも一般的な方向・形とは違う理解しがたい「想い」。愛は憎しみ。憎しみは愛。良くも悪くも、誰かに向けた強い想いってのは「憎しみ」であり「愛」なのだと。

 

二人の作家による少女たちの愛憎の物語八篇。気になった方は是非。

 

 

ではではまた~

 

 

 

 

 

 

 

『金田一パパの事件簿』4巻 ネタバレ 感想 ミイラ歌姫による復讐劇の結末はいかに?

こんばんは、紫栞です。

今回は、『金田一パパの事件簿』4巻について感想を少し。

 

金田一パパの事件簿(4) (コミックDAYSコミックス)

 

 

 

【復讐のミイラ歌姫】完結

何だか多幸感が溢れてる表紙ですね。両親が童顔だな・・・。中身はやっぱり殺人事件なんですけれども。

 

4巻は、前巻から始まった【復讐のミイラ歌姫】の解決までが収録されています。

※事件のあらすじや前巻について、詳しくはこちら↓

 

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以下がっつりとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前巻は紅島久美彦が殺され、依頼人である紅島夏月に現在植物状態の双子の姉・秋葉がいるという事実が明かされたところで終わっていました。

これから久美彦の妻である彩芽が殺されるんだろうな~ってのはシリーズファンなら分かりきったことでありまして、もちろん、期待を裏切ることなく彩芽が殺されて調査、解決の流れであります。

 

彩芽殺害もアリバイトリックもの。今回の事件は二件ともアリバイ崩しがメイントリックですね。

 

前巻で結婚した事実が判明していたフミ。今巻の序盤で旦那さんがちゃんと登場してきました。もっと引き延ばすかもと思っていた。

週刊誌編集者・銀杏田登(いちようだ のぼる)38歳。職業柄野次馬っぽいですが、良い人そうではある。

大丈夫なんだろうな今度は!?殺人事件に巻き込まれて殺されたり犯人になったりしないだろうな!?

この漫画シリーズは高校生時代から身内にも容赦ないから不安・・・・・・。

 

 

で、ま、事件の方は前回の記事で予想した通り、夏月さんが犯人なんですけれども。

 

 

ううん。今回はちょっと夏月さん以外の容疑者の印象が薄すぎましたね。出番もほとんど無くって、後半はほぼほぼ金田一親子と夏月さんとのやり取りでしたので、そりゃ夏月さんが犯人だよね~と。

トリックも偽装工作も、夏月さんじゃないと出来るタイミングがないものでしたしね。

 

一件目の久美彦殺しのトリックはやはり予想した通り植物状態の姉を使ってのトリックでしたね。やはり、双子が出てきたなら入れ替わりトリック。これ基本。

 

左耳のホクロの描写は気付けなかったですね。解決編を読んだ後で3巻を見直してみると、確かに巧妙に黒い点が・・・・・・位置的にペンが当たったのの消し忘れぽくって判断がつかんのよ。漫画ならではの仕掛けって感じですね。

 

病院に運んで他の医者の診断も受けてなので、病院内に共犯者いるのかなとも思ったのですが、全部一人でやったみたいです。植物状態の人間と入れ替えて、医者は分らないもんなんですかね。

 

二件目の彩芽殺しは睡眠薬を点滴で投与してというトリックなのですが、これも注射痕などですぐに気が付かれるんじゃって気が・・・・・・。

 

 

ま、そんな疑問はさておき。今回のトリックは二つともそんな凝ったものではなく、割とシンプルなものですね。

動機の方も予想通り、二年前の火事が久美彦と彩芽が遺産目当てに火をつけたという事実を知り、復讐することにしたと。

 

朝江先生は秋葉さんと何か関係があったかのかな~と思いましたが、特に触れられず。今回は解決編も容疑者全員集めてのものじゃなかったですしね。

ホント、他容疑者達は匂わせるだけ匂わせただけって感じ。特に、勘違いクレーマーの巴星羅はいったい何だったんだ状態。謎に笑顔がアップで使われてましたけど。謎のまま終わってしまった。

 

2冊でまとめないといけないので、連続殺人だと個々の掘り下げはちょっときついのですかね。ラストで植物状態だった秋葉が目覚めるのはチトご都合主義すぎるって思っちゃう。

 

 

そういや、この4巻の方では「ミイラ歌姫」が歌っている部分が無かったのでバズリ動画きっかけの事件だってことを忘れそうになりましたよ。

 

「ミイラ歌姫」の動画は結局、病院関係者に嫌がらせしようとする奴がいるから警護を頼むという経緯で目撃者をつくろうってのが狙いだったってことなのか。

よくよく考えてみると、別に脅迫状だけで良かったんでないか・・・・・・?動画がバズる確証もないし。犯行計画にかこつけて歌動画撮ってみたかっただけなんでは?歌上手いらしいし。

夏月さんが「ゴーツゥーヘルー♪ルージュアイランド~~~♪」とか歌ってたのかと思うと改めて可笑しいですね。

 

 

最後は金田一と美雪と九十九ですき焼きを食べているところで終わっています。平和だぜ。今回は九十九を事件調査に連れまわしてたことに関して美雪からのお小言はなかったのだろうか。

 

 

 

巻末の次巻予告によると、5巻は【死の使いスペードのÅ(エース)】編が開演するとのこと。怪人名、ホント厳しくなってきた感あるな・・・・・・。

次は館ものみたいですね。

 

第5巻は2026年10月頃発売予定とのこと。九十九の同級生も出てくるらしく、気になるところです。

 

 

ではではまた~

 

 

 

 

 

 

 

『病に至る恋』4編 あらすじ・感想 「恋に至る病」の補足的短編集

こんばんは、紫栞です。

今回は、斜線堂有紀さんの『病に至る恋』をご紹介。

 

病に至る恋 恋に至る病 (メディアワークス文庫)

 

補足的短編集

こちら、2020年に刊行されて2025年に映画化もされた長編小説『恋に至る病』に纏わるエピソードが描かれている短編集。

 

※詳しくはこちら↓

 

www.yofukasikanndann.pink

 

『恋に至る病』は、150人以上を死に追いやった自殺教唆ゲーム「ブルーモルフォ」の主催者である高校生・寄河景と、同級生である宮嶺との恋愛青春ミステリ小説。

この小説、化物である景の視点が全く描かれない構成になっているため、色々と考察の余地が残る描かれ方をしているのですよね。

読者の方でそれぞれに解釈してねってことか~と、ま、受け入れていたのですけども。

まさかこんな補足的な短編集を書き下ろしで出してくれるとは。似たタイトルだけど何だろうと最初に見つけた時は困惑しましたよ。

 

映画化されたことでの刊行かなとは思いますが。

 

恋に至る病

恋に至る病

  • 長尾謙杜
Amazon

 

映画、それこそ原作での疑問点を解消するような描写とかあるかな?と期待して観てみたんですけど。

全然ダメですね!圧倒的に説明不足でこれじゃあどういうことなのか分からないし、原作の意図も全く伝わらないしで、何だかふんわりと表面をなぞっただけの映画って感じ。

 

しかしまぁ、映画化のおかげでこの作品集が書かれて、読むことが出来たのは良かった。

今作は完全に『恋に至る病』を読んだ人でないと分からない短編集となっていますので、本編より先にこちらを読まないようにご注意下さい。

 

タイトルが似ているので、本編の『恋に至る病』を読もうとしてこちらを間違えて手に取ってしまう人もいるかもしれない・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目次

●病巣の繭

景が五歳の頃の様子が母親の累の視点で描かれる。五歳の時から既に化物の片鱗があったようで。こんな五歳児恐ろしすぎるのですけども。

母親の累はいたって普通の人間。内気で控えめで、だからこそ景の完璧な”愛くるしい子供”のふるまい、大人達を自然と操る様に言いようのない不安と恐怖を抱く。

この話ではっきりするのは、景が化物になったのは決して家庭環境などの所為ではなく、生まれつきのものだということですね。母親でさえも「止めれる人間」ではない事実が物悲しい。

 

 

●病に至る恋

景が作ったゲーム「ブルーモルフォ」のプレイヤーになってしまった男女の高校生二人が描かれる。

表題作で、収録作の中では一番読み応えのある短編です。本編の『恋に至る病』を読んだ人が皆抱くであろう「こんなゲームで本当に自殺に追い込めるの?」という疑問を解消といいますか、本編では描かれなかったゲームによってプレイヤーが追い込まれていく様子が丁寧に描かれています。

出てくる高校生男女二人が、ゲームによって奇妙な絆が生まれて仲良くなっていくのが読んでいて面白い。だからこそ辛い。

「ブルーモルフォ」は自殺教唆ゲームですからね・・・・・・。

 

 

●どこにでもある一日の話

景と宮嶺。二人のデートの様子が描かれる。

時系列としては景が宮嶺に自分が「ブルーモルフォ」の主催者だと告白した後で、”あの結末”に至る割と直前(?)です。

和やかなデートですが、景が人間としての自分を完全に脱ぎ捨てて怪物になる覚悟を決めている描写が所々に。だからこそ、「人間の自分を宮嶺に覚えていてもらう」為のデートという訳です。残酷なことをしなさる・・・・・・。

 

 

●バタフライエフェクト・シンドローム

こちらは”景がもし登校拒否をしていたら”というif話。小学校五年生の時という設定で、宮嶺が教師に頼まれて開校記念品を届けに景の家を訪れるというもの。

20ページほどの小話で、「自分は危険な人間だから自分自身を閉じ込めているんだ」との考えで学校に行かずに引きこもっている。

小学五年生がこんなこと言っているのは普通ならお笑いだが寄河景なんでね・・・・・・いや、でもやっぱりこんなこという小学生なんて、何かにかぶれちまったのか?って引いてしまうかな(^_^;)。

 

 

 

以上、四編。

 

 

 

本編の『恋に至る病』での最大の謎は、「景は宮嶺のことも駒の一つとしか思っていなかったのか、それともちゃんと愛していたのか」。これが本編を最後まで読んでもあやふやなまま終わる。

今回の短編集を読んでみて感じたことですが、景はやっぱり宮嶺のことは好きだったんだろうなと。と、いいますか・・・・・・化物の自分を受けいれて、見守って、止めてくれる人が欲しかったのかなぁと思いましたね。

そうだとすると、宮嶺は真の意味で景の期待に応えたとは言い難いのかな・・・うーん。

 

完全な答えは得られないですけど、寄河景という化物を知る一助となっている短編集ですので、『恋に至る病』を読んだ方は今作も是非。

 

 

ではではまた~

『倫敦スコーンの謎』4編 あらすじ・感想 小市民シリーズの作品集第二弾!

こんばんは、紫栞です。

今回は、米澤穂信さんの『倫敦スコーンの謎』を読んだので感想を少し。

 

倫敦スコーンの謎 〈小市民〉シリーズ (創元推理文庫)

 

【小市民シリーズ】第2作品集!

こちら、2026年4月【小市民シリーズ】の短編集第二弾。

 

www.yofukasikanndann.pink

 

このシリーズは”小市民”を志す高校生、小鳩くんと小佐内さん二人が遭遇する日常ミステリが描かれるシリーズ。本のタイトルにそれぞれ四季が入っている4作品からなるもので2024年に『冬季限定ボンボンショコラ事件』が刊行されたことで四部作としては終了したのですが↓

 

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この大きな事件四つが起こっている合間にも二人は日常のささやかな謎に遭遇しているようで。それが描かれるのがこの短編集。

四部作最終作の『冬季限定ボンボンショコラ事件』の刊行前である2020年に第一弾短編集の『巴里マカロンの謎』が刊行されていまして↓

 

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今作は『巴里マカロンの謎』に次ぐ第二弾という訳です。

 

正直、『冬季限定ボンボンショコラ事件』を読んで【小市民シリーズ】は完結したっ!って意識が強くなっていたので(15年ぼど待っての完結作でしたからね・・・)、今になって短編集の第二弾が出るのは豆鉄砲を食らったような気分。

とはいえ、短編集は一冊か二冊出す予定だと数年前に米澤さんが仰っていたのでファンとしては驚くものでもないのか。私は四部作の最後である冬季限定を出す前に短編集は出し切るんだろうって思っていたのですよね・・・・・・(^_^;)。

 

 

 

 

 

 

 

目次

四編収録。ミステリ小説ファンならすぐわかることでしょうけど、この短編集では各タイトルがエラリー・クイーンの国名シリーズをなぞって国名とスイーツが冠されたものとなっています。

『巴里マカロンの謎』は高校一年の二学期から年明けまでの出来事が描かれていました。今作では高校二年生の夏までに遭遇した謎が描かれています。

 

 

●桑港(サンフランシスコ)クッキーの謎

船戸高校の卒業生で現在四十七歳の美術家・縞大我が国際的な賞を受賞した。新聞部である堂島健吾は地元のテレビ局に頼まれて学内を捜索中に縞大我の在学中に描かれたであろう絵を発見するが、展覧会に出品されたらしいこの絵が有名作品の模写であることに気が付いてしまう。

縞大我は高校時代に盗作をしたのか?健吾は小佐内の知恵をまた借りたいと小鳩に仲介を頼んでくるが——。

 

こちらの話は時系列的には高校一年の二月(多分・・・)。健吾が小佐内さんを頼ろうと思ったのは『春季限定いちごタルト事件』に収録されている「for your eyes only」での一件をうけてのものですね。

このお話はお菓子に因んだ謎ではなく絵の謎。フォーチュンクッキーについて触れられていますが、概念としてって感じですね。

 

 

 

●羅馬(ローマ)ジェラートの謎

三月。前のお話での一件で小佐内さんに借りを作ってしまった小鳩くんは、お詫びとしてショッピングモール内に入っている評判店のジェラートをおごることに。フードコートでジェラートを味わっている最中、二人は別席に居る女性客がジェラートを放置したまま座り続けている様子に疑問を抱き、推理を始める。

 

またまた細かいことを気にして・・・ではありますが、日常ミステリとはそういうものです。

しかしまぁ、ジェラートを頼んでおいていつまでも口をつけようとしない人を見たら疑問に思うのは当然かと思う。アイス類は溶けちゃうから「早く食べないと!」ってなりますもんね。ジェラートは通常のアイスよりも溶けるのが早いイメージがあるので特に。

こちらの真相は最後まで解らなかったですね。他にちりばめられていた伏線も見事で、良くできたミステリ短編だと思いました。

 

 

 

●倫敦(ロンドン)スコーンの謎

高校二年生になって間もなく。調理実習の授業があり、小佐内さんのクラスでは六つの班にわかれて課題の三つの料理を作った。しかし、分量も手順も正確に調理したはずなのに課題の一つのスコーンが生焼けで不味くなってしまったという。

小佐内さんと小鳩くんはスコーンが不味くなった原因を推理する。

 

調理実習で作った料理が不味かった・・・・・・そんなの、どっかでとちっただけだろっ!と、言いたいところではありますが。

お菓子作りなのでね、普通の料理と違ってレシピ通りにやれば不味くないはずだという理屈なんですけども。しかしねえ。お菓子の焼き加減って実際やると全然レシピ通りにいかんことあるしさぁ・・・・・・。

しかし、これは日常ミステリなのでそこら辺は条件として飲み込もうではないか。

真相を知った時の感想は「お菓子作りってやっぱ難しいわ」でした。

 

 

 

●維納(ウィーン)ザッハトルテの謎

六月。船戸高校では卒業生を招いての講演会を毎年行っていて、今年は美術家の縞大我を招くこととなった。学校内では「縞大我は盗作者だから講演会に相応しくない。中止しろ」といった内容の脅迫状が届いたと噂が流れていた。

講演会の二週間前、小鳩は日直の雑務で講演会に先立って縞大我から送られてきたオブジェを教員一人、生徒他三人と共に美術準備室へと運んだ。講演会前日に再び運び出そうとしたところ、オブジェが壊れているのを発見。地震が起きたことによる事故だとその場では結論付けられたが、小鳩は誰かが故意にやったことだと推理する。

しかし、翌日の講演会でオブジェは全く無傷の状態に戻っていて——。

 

こちらは書き下ろし。「桑港クッキーの謎」で怪しげだった美術教師の甲村先生、「倫敦スコーンの謎」で小佐内さんと班が同じだったメンバーのうちの二人、沢海さんと青田川くんが再登場しています。実は前の話二つで伏線が張られていたのですね。こういった構成での短編集はいかにも米澤穂信作品といった感じ。

仕掛けはなんとなく予想出来るものですが、伏線回収と繋げ方が見事ですね。

 

 

 

 

 

 

 

今後

思いがけず【小市民シリーズ】の良質な作品集をまた読むことが出来て非常に満足ですが。地の文で展開される小鳩くんのスイーツ食レポも絶好調ですし。

 

今後はどうなのですかね?今作が高校二年の夏までの出来事。この後の夏休みで起こる『夏季限定トロピカルパフェ事件』で小鳩くんと小佐内さんの互恵関係がゴタゴタしますので、合間での出来事を描くのは難しいのではないかと思うのですが。

ファン的には、四部作最終作『冬季限定ボンボンショコラ事件』のその後とか書いてくれるの期待しちゃいますが。

 

個人的には、【古典部シリーズ】も流石にそろっと何か動きがあって欲しいな~~ですけど。

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何はともあれ、今後も米澤穂信作品を追って行きたいと思います。

 

 

ではではまた~