夜ふかし閑談

夜更けの無駄話。おもにミステリー中心に小説、漫画、ドラマ、映画などの紹介・感想をお届けします

『金田一37歳の事件簿』7巻 ネタバレ 玲香ちゃん登場!で、色々考察

こんばんは、紫栞です。
今回は金田一37歳の事件簿』7巻の感想・気になる点などをまとめたいと思います。

金田一37歳の事件簿(7) (イブニングコミックス)

この表紙絵のシチュエーションはなんだ!?って感じですが、作中での一コマです。前巻同様、今巻も特装版などはない通常版のみでの販売。

 

7巻は前巻から続いての「函館異人館ホテル新たなる殺人」が5話と新章の「騒霊館殺人事件」を2話収録。みなさんお待ちかねの”あの女性”も登場で必見の巻となっておりますよ~。

 

 

 

 

 


以下ガッツリとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


では先ず箱館異人館ホテル新たなる殺人」から。※詳しいあらすじなどはこちら↓

 

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前巻が解決編の途中までいっていたので、今巻では犯人の指摘と動機面。そして“あの女性”の現状と高遠さんサイドの不穏な動き・・・等々。色々と興味深い代物になっています。

 

事件の犯人なのですが、前にこのブログで予想したのが的中して岡倉さんでしたね。ま、拳銃のすり替えとか衣装の変更の件とか、状況はわかりやすく岡倉さんが犯人だと指し示していたのでこの犯人当てはそう難しいものでもない。
赤座殺害トリックですが、緞帳の裏側から本物の銃で狙い撃ちしたというかなりシンプルなものでしたね。もっと機械仕掛け的なものなのかなぁ~とか深読みしてしまっていた(^_^;)。だってあの距離で心臓を一発で撃ち抜くとか難しいかなって・・・。海外で何度も試射・訓練をしたんだろうってフォローがありましたけどね。計画犯罪への情熱が凄い。いつものことですけど。

今の科学捜査なら袖についた火薬を調べればモデルガンのものか本物の拳銃のものかわかるはずだと作中で言っていますが、科学捜査の云々を持ち出すなら、弾丸の入射角の違いでトリックだと早々にわかるのでは?と、いう気もする。

 

 

 


高遠さん案件
この「函館異人館ホテル新たなる殺人」、実は高遠さんが関わっていた事件だったらしく、今回の犯人・岡倉純は2巻でごちゃごちゃ言っていた

 

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「十二神」の中の一人でアポロンと名付けられていた人物だったことが判明。

 

「歌島リゾート殺人事件」の犯人・麻生早苗“アルテミス”と名付けられている結婚詐欺師で私利私欲のために犯行を繰り返す人物でしたが、岡倉純は婚約者の無念を晴らすための100%怨恨での犯行だったので「十二神」の中の一人だというのは何だか意外。一番の標的たちを殺害させた後に立派な芸術犯罪者にでも育てるつもりだったのかな?

ペラペラ喋ったあげくに毒殺された麻生早苗とは違い、岡倉純は高遠さんのことに関しては一切喋らずに死刑判決をおとなしく待つという選択をしています。長らく昏睡状態だった婚約者も死んでしまったし、救いのない終わり方をしていますね。

 

それに加え、この事件のラストでは事件関係者の一人・刈谷ユダが“ヘラ”と名乗る人物からボックスフラワーに入れられた多額の現金を贈られるシーンがあります。どうやら事件の詳細を教えた礼金らしく、刈谷さんは何のためにそんなことを要求されたのか分かっていない様子。“ヘラ”からは電話で「気になさらない方がよろしいと思います あなた自身のためにも」と忠告されていてヤバい匂いがプンプンする。今後刈谷さんになにもなきゃいいが。

 

“ヘラ”というのはオリンポス十二神の一人でゼウスの妻とされる女神。

高遠さんは自身が立ち上げた犯罪組織(?)「十二神」で“ゼウス”として振る舞っていたらしいので、“ヘラ”と名乗る人物は高遠さんの右腕で組織のナンバーツー的存在なことが予想される。檻の中にいる高遠さんの意を汲んで外で諸々の行動をしているってことでしょうかね。
今巻では電話のみだったのでまだ男性なのか女性なのかも判りませんが、まさか高遠さんの奥さんということもあり得るの、か・・・?なかなか想像出来ませんが、なんせ20年経過しているしそんなこともあるかも知れない。

 

それにしても、「十二神」の中の二人が「歌島」「異人館ホテル」と金田一にとって因縁深い場所で殺人事件を起したのは単なる偶然なのでしょうか?自身がプロデュースした犯罪計画に金田一を巻き込もうとするのはかつての高遠さんの癖でしたが、それが今でも健在だとしたら金田一が勤めている音羽ブラックPR社」がかなり怪しいことになるんですけどねぇ・・・。いずれも会社からの命令で出向いていった結果だったし。う~ん。どうなのでしょう?

 

 

 

 

 

 

 

 

速水玲香37歳
事件や高遠さんも気になるところですが、今巻はなんといってもかつてのアイドル・速水玲香の現状が明らかになるというというところが読者の一番気になるところだと思います。玲香ちゃんは“空白の20年”、「金田一が謎を解きたくない理由」に大いに関係しているのではと読者間で噂されていた人物なので大注目なんですね。

 

前巻の巻末で37歳になった玲香ちゃんが登場することが予告されていた通り、今巻では金田一と玲香ちゃんが対面しているシーンがありまして、コミックスの表紙絵は作中で金田一と玲香ちゃんが久し振りの再会に乾杯しているシーンを切り取ったもの。

「函館異人館ホテル新たなる殺人」の最初の方、観劇中に金田一が何かに気が付く描写がありましたが、あれは実は客席にいた玲香ちゃんに気が付いて声をかけようとした様子だったらしいです。直後に事件が起きてそれどころじゃなくなったと。事件とは関係のない描写だったのね・・・。関係あるのかと思ってアレコレ考えてしまった(^_^;)。

 

37歳の玲香ちゃんですが、容姿は多少髪型が大人っぽくなっている・・・かな?玲香ちゃんはシリーズの中で登場するたびに容姿が変化しているというか、造形が定まっていないキャラクターだったので(峰不二子的)さほどピンとこないというのもある。とりあえずお綺麗なままです。

 

判明した事実としては、金田一と玲香ちゃんが会うのは10年以上ぶり。玲香ちゃんは現在芸能界の仕事はしておらず、フラワーショップを経営していて東京在住ではない。もうじき高校を卒業する息子がいる・・・など。

 

37歳で高校を卒業する息子がいるということは十代の時に産んだ子ということになる。この時点でなかなかの驚きですが、やはり玲香ちゃんは「金田一が謎を解きたくない理由」となった事件にガッツリと関わっていることが今巻で決定事項となったことですね。

 

「息子さんのお父さんは・・・まだ・・・?」「ええそうね・・・」「・・・・・・・・・・・・・・・・ごめん」「なんで金田一くんがごめんなの?そんなの変でしょ」

 

と、いったやり取りから、どうやら息子の父親に“何か”があった事件らしい。金田一が謎を解いたことでその人がどうにかなってしまったのかな?「まだ・・・?」というのは罪を犯して刑務所に入ってまだ出て来ないとか、昏睡状態でまだ目が覚めないとか、そんな感じでしょうか。
その事件が起こったのはやっぱり妊娠中とか出産直後とかなのか。だとしたら金田一が謎解きから離れて生きてくのを決めたのも十代の頃で【金田一少年の事件簿】の時点から2・3年後とかか?

う~ん。まだまだ詳細は明らかになっていないので想像するしかないですが・・・。ますます気になりますねぇ。

 

玲香ちゃんですが、金田一に再会する際にボックスフラワーをプレゼントとして渡しています。“ヘラ”が刈谷さんに送った現金もボックスフラワーに入れられたものだったんですが・・・この符合には何かあるのかどうなのか。不穏・・・。

 

いまだに『金田一37歳の事件簿』で姿を現さない七瀬美雪ですが、玲香ちゃんが金田一にあっけらかんとした様子で「七瀬さんは今何してるの?」と聞いていることから、美雪は金田一が謎を解きたくなくなった切っ掛けとなった玲香ちゃん絡みの事件には直接の関係はなさそうですね。

じゃあ何で登場させないんだよ・・・!と、読者としては恨み節を吐きたくなりますが。いつまでこの生殺し状態は続くのだ・・・。

 

 

 

 

「騒霊館殺人事件」
7巻では二話のみ収録されている「騒霊館殺人事件」。

まだ二話だけで事件も起きていないので何とも言えませんが、ポルターガイストがテーマの事件で、まだ橋は落ちてないけど恐らくクローズド・サークルものです。コミックスの帯には“シリーズ最高傑作始動!!”と、書かれているのですが・・・そんなことを謳っちゃって大丈夫なのか(^_^;)?

 

雰囲気が『蝋人形城殺人事件』に似ている。

 

 

蝋燭がひとりでについていって「ポ・・・ポルターガイスト・・・!?」ってなっているところで終わっています。蝋燭を順番にともしてくれるって、なんだかロマンチックなポルターガイストですね。


俳優の松重豊さんにそっくりな人物が事件関係者として登場しています。ヨーロッパ輸入業をしていて、名前は仲根沢児郎。明らかに孤独のグルメ井之頭五郎のパロディですね。

孤独のグルメ Season7 Blu-ray BOX

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  • 発売日: 2018/09/05
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この人が犯人だったら驚くし面白いんですけど。おそらくそれはない。

 

 

 

正直、“空白の20年”や玲香ちゃん登場に気を取られまくって今現在の事件への印象が薄くなってしまった7巻ですが、2巻以来の物語り全体が大きく動く展開でドキドキものでした。今後もますます【金田一37歳の事件簿】から目が離せませんね!

 

 

 

 

 

 

ではではまた~

『犯人たちの事件簿』9巻 感想 本当の完結まで、あと1冊!!

こんばんは、紫栞です。
今回は金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』9巻をご紹介。

金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿(9) (週刊少年マガジンコミックス)

 

今巻はKCコミック『金田一少年の事件簿 吸血鬼伝説殺人事件』のパロディ表紙。

金田一少年の事件簿 吸血鬼伝説殺人事件 (講談社コミックス)

本家のこの頃のはじめちゃんは顔が幼い。これは『探偵学園Q』の連載を経ての絵柄の影響であると思われる。因みに、「吸血鬼伝説殺人事件」は当時『探偵学園Q』との連動企画連載だった。

 

 

前巻でFILEシリーズとCaseシリーズの事件をやりつくし(「異人館村殺人事件」だけは大人の事情でやっていませんが)

 

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グランドフィナーレするかと思わせてしなかったこのスピンオフ漫画。

 

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最終章に突入という訳で、不定期連載期の事件に突入。※事件の順番や連載の変動にについて、詳しくはこちら↓

 

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今巻は「吸血鬼伝説殺人事件」「オペラ座館・第三の殺人」「雪霊伝説殺人事件」の3つの事件と巻末に「お正月だよ犯人集合」と作者・船津紳平さんの実録四コマ漫画2本を収録。

 

 

 

 

 

●「吸血鬼伝説殺人事件」

金田一少年の事件簿 File(27) (講談社漫画文庫)

金田一少年の事件簿 File(27) (講談社漫画文庫)

 

 犯人湊青子
Caseシリーズ完結から期間が空いての久しぶりの作品だった「吸血鬼伝説殺人事件」。非常に珍しい血液型のはずのボンベイタイプが事件関係者のなかにいすぎなので有名な事件なのですが、このスピンオフではこの部分には触れていなくってちょっと意外。

そのぶんと言うかなんと言うか、血を抜いて体重を軽くするメイントリックについてだいぶ触れられていましたね。体重がグラム単位で要になるトリックなんて無理がありすぎるのよ。体重なんて食べたものとかで変化するじゃんね。あと、ロングヘアでも5センチ髪切られたら気づくって。初対面で血を大量に抜かれて髪切られてって、美雪ホント災難(^^;)。


剣持警部と美雪に気をとられていて前半では金田一無視状態でさほど恐怖を感じないまま終わっているのが新鮮。「ジッチャンジッチャン・・・・うるせーんだよ!!」と、言っていますが、青子さんの前でそんなにジッチャン発言はしていない。
バスタオル云々は私たちもそこツッコんじゃうんだと本家読んだとき思った。二時間ドラマ暗黙の了解ルールが通報しない世界なのね・・・。シビア。

 

 


●「オペラ座館・第三の殺人」

金田一少年の事件簿 File(28) (講談社漫画文庫)

金田一少年の事件簿 File(28) (講談社漫画文庫)

 

 犯人湖月レオナ
オペラ座ふたたび(※ノベルス版の事件があいだにあるのでホントはみたびですけど)

 

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 ということで、地縛霊みたいになった有森が友情(?)出演。数々の演技派犯人たちが登場してきたこの『犯人たちの事件簿』。レオナさんはモノホンの女優さんということで犯人の役作りが徹底されている。臨機応変さも役作りの賜物ですかね。しかし、演じることに夢中で金田一にさほど注意を払っていなかったら足をすくわれる結果に。やはりアドリブには限界がある…。
「仮面をつける必要があるのか」は確かに本家で解決編を読んでいたときに違和感があった記憶が。誰も見ていないのに何故かぶる。役作りでやっているということでカバーされていてなんだか感心した(笑)。


有森の亡霊とシンクロして「いるのかよ!!刑事いるのかよ!!」「やることが・・やることが多い・・・・」「やったあポンコツだぁ~っ!」などの懐かしのフレーズがまたみられてうれしかったです。本家を読んだときもチラッと思いましたが、この事件の犯人は本当にやることも多いし、計画も常に皆の行動をみて決めてと頭も使い続けなくっちゃいけなくって忙しそう・・・。

 

 

 

 

●「雪霊伝説殺人事件」

金田一少年の事件簿 File(30) (講談社漫画文庫)

金田一少年の事件簿 File(30) (講談社漫画文庫)

 

 犯人黒沼繁樹
スケキヨのような仮面をかぶっている人物が犯人の「雪夜叉伝説殺人事件」。

資産家の氷垣氏が「金はいくらでもだすから復讐したまえ」と言うのも驚きだが(どう考えても止めるべきところ)、激しい憎悪を隠すために薄笑いの仮面をつけて弁護士をしていた黒沼さんにはもっと驚き。「仮面を付けたまま平然とファミレスにも入れる・・これが心が死んでいるってことなのか・・?今の私なら・・殺れる!!」といったように、心が凍っていないと到底出来ないようなグロいメイントリックが印象深いこの事件。「はっきり言って放送事故・・!モザイクかけなきゃやっていられないレベル・・!」ということでモザイクかかっています。


他、特徴は「一人二役」と「二人一役」が絡み合っている複雑構造ですね。黒沼さんのターゲットである堂崎一志がドアの前で一生懸命二人に見せかけるためにお芝居しているのが可笑しい。絶対練習しなきゃ出来ない。黒沼さんも金のためにここまでやるかと関心していましたね。
殺人現場名物「〇〇の仕業だおじさん」は確かに『金田一少年の事件簿』でよく見るヤツ。横溝正史作品だと老婆が多いイメージですが、金田一少年だとおじさんがこの役割をやらされている率が高いな言われてみれば。

 

 

 

 

 

 

最後に収録されている「お正月だよ犯人集合」ですが、二ページ漫画で集合しているのは有森とかほるさんと的場先生。このスピンオフ漫画1巻で出て来た犯人たちですね。

 

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 最初の頃だからというのもありますが、何だかんだでこの三人が『犯人たちの事件簿』の代表(?)犯人っぽい。
一ページ余ったからという四コマ漫画ですが、マガジン編集長のお話が興味深かったです。周マガで「金田一少年の殺人」をやった時は人気のある事件だからかな~と思っていたのですが、編集長の希望だったんですねぇ。編集長は本家の「煩悩シアター」にも登場しているとのことで探してしまった・・・(^_^;)。

 

 

 

次!
さて、このスピンオフ漫画も次の10巻で本当の完結。2020年7月17日発売予定で、収録事件は「黒魔術殺人事件」「血溜之間殺人事件」「不動高校学園祭殺人事件」「獄門塾殺人事件」の四つ。「最終刊は内容盛り沢山の予定です!」と作者の船津さんも予告されているので、楽しみに待ちたいと思います!

 


ではではまた~

 

 

 

 

 

 

『生ける屍の死』あらすじ・ネタバレ感想 特殊設定ものの名作~

こんばんは、紫栞です。
今回は山口雅也さんの『生ける屍の死』をご紹介。

生ける屍の死 (創元推理文庫)

 

あらすじ 
1990年代末、アメリカ各地では不可解な死者の蘇り事件が頻発していた。
ニューイングランドの片田舎・トゥームズヴィルでバーリイコーン一族が経営している大規模な霊園「スマイル霊園」。三ヶ月ほど前、ボストンでカレッジに入学する準備を進めていたグリン(フランシス)は、長患いが悪化した祖父スマイリーに財産分与の為にこの「スマイル霊園」に呼び寄せられる。


祖父スマイリーが死にかけているなか、「スマイル霊園」でパンク青年のグリンは一族に馴染めず、スマイリーの息子ジョンの愛人イザベラの連れ子であるチェシャ(サーガ)とパンク同士ということもあって意気投合し、二人で遊び歩く毎日を過していた。
ある日、一族のお茶会で毒を口にしてしまったらしきグリンは自室でひっそりと死んでしまうが、甦り現象によって“生ける屍”となって目覚める。
グリンは自分が毒を飲むことになってしまったのはスマイリーの遺産相続を巡っての殺人計画の煽りを食ったのではと考え、周囲に死者であることを隠して自分の死の真相を突き止めることを決意。身体にエンバーミングを施し、独自に調査を開始する。


しかし、その後も「スマイル霊園」では事件が発生して人が死に、そして甦った。死者が次々に蘇る状況下で、なぜ犯人は殺人を犯すのか?
肉体が崩壊するまでに謎を解くべく、グリンは“生ける屍”として「生ける屍の死」の謎を追う――。

 

 

 

 

 

 

 

 

ランキング常連の名作
『生ける屍の死』は1989年に東京創元社の日本人作家書き下ろし長編探偵小説シリーズ鮎川哲也と十三の謎》の十一巻目として刊行されたもので、山口雅也さんのデビュー作。いまだに数々の推理小説ランキングで上位に食い込み続ける日本推理小説界の超有名作です。
単行本の後に1996年に創元社から文庫版が刊行。 

生ける屍の死 (創元推理文庫)

生ける屍の死 (創元推理文庫)

  • 作者:山口 雅也
  • 発売日: 1996/02/25
  • メディア: 文庫
 

 2018年には全面改稿されて光文社文庫から上下巻で刊行されています。

 

生ける屍の死(上) (光文社文庫)

生ける屍の死(上) (光文社文庫)

 

 

生ける屍の死(下) (光文社文庫)

生ける屍の死(下) (光文社文庫)

 

 

創元推理文庫も単行本から全面改稿されているのですけども。

私は創元推理文庫で読んだのですが、二度も改稿されているとなると新たな改稿版も改稿前の単行本版もどう違うのか気になってきますね。


ことある毎にミステリのオススメページで紹介されているので読んでおこうと買ったものの、創元推理文庫版で650ページほどと結構な厚さがあったことと(創元だと字も小さいしね・・・)アメリカが舞台なので登場人物はほぼ西洋人ということで、登場人物のカタカナで覚えにくい名前が一覧に30以上並んでいる、家系図・見取り図がある等々・・・色々と威圧感があり読み始めることが出来ず、ずっと放置していました(^_^;)。

 

この度やっと読み終わる事が出来たので、こうやって紹介している訳ですが、ビビっていた割にはというか、思っていたよりも読みやすかったです。登場人物はやはり途中名前と人物が分からなくなって一覧を何度も見返したりしましたが、揶揄や皮肉が効いたいかにもアメリカ的な会話(アメリカ人がどんな会話しているのかリアルに接したことはないですが・・・)は軽快だし、死や葬儀に関しての逸話やウンチクが随所に散りばめられていて興味深く読みすすめることが出来ました。

 

 

 

 

特殊設定もの・ゾンビ探偵
上記のあらすじからも判る通り、今作は“死者の甦り現象”が前提となった世界で推理が展開される「特殊状況設定もの」。

既存の枠組みから逸脱しているこの手のミステリは、界隈が飽和状態になっている昨今ではさほど珍しいものではなくなっていますが、

 

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今作が刊行された30年前はかなり斬新に受け取られて「ナンセンスだ」と感じる人もまだまだいたのではないかと。

 


しかし、ただ奇をてらっているだけではないことは今作を読めばすぐに分かります。謎を解き明かしていくプロセスは間違いなく王道のそれで、きっちりと伝統的な推理小説を踏襲しつつ、この特殊設定だからこその仕掛けは大きな驚きと納得を読者にもたらしてくれます。

 

「特殊状況設定もの」は特殊設定の厳密なルールがしっかりと読者に提示されることが大前提で重要なところ。今作の特殊設定は“死人が甦る”という現象。
死人が甦るとはいえ、ゾンビ映画などから連想されるような意思を持たずに人に襲いかかるようなゾンビではなく、意思や思考能力は生前と変わらないまま屍の肉体が動いている状態。所謂、「魂」というものが遺体から出ずに留まり続けている状態ですかね。
腐敗も止まる訳ではなく肉体は通常通りに崩壊していくので、結局甦った「死者」にも“身体が保てるまで”という期限があります。

 

主人公のグリンは物語の途中で「死者」となり、ゾンビとなって事件の謎を追うというゾンビ探偵。
途中で死んでしまうのも驚きですが、ゾンビが探偵するのも驚きですね。被害者の幽霊がイタコ体質刑事と共に事件を追うようなものはありますが、

 

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BORDER Blu-ray BOX

BORDER Blu-ray BOX

  • 発売日: 2014/09/26
  • メディア: Blu-ray
 

 

被害者自身がゾンビとなって探偵役をするのは前代未聞かと。
グリンは腐敗を遅らせるため身体にエンバーミングを施し、血の通っていない青ざめた顔をパンクメイクで、混濁した目をサングラスで隠しつつ、冷たい身体を悟られぬように人との直接接触を避け、体内で腐敗する恐れがあるので食事もとらない・・・等々、生者として振る舞うために偽装し、行動に気を付けながらという大変さ。加えて、「もう死んでいるのだ」という絶望は常にあり、意識がしっかりしたまま身体が朽ちるのを体感させられる。私が知る限り、今まで読んできたなかで一番過酷な身の上の探偵役ですね。 


特に、想いを寄せているチェシャがグリンとの先の未来を無邪気に言ってくるのがなんとも辛い。グリンとチェシャがお互いに好意をもちつつもまだ恋人未満な関係だったのがかえって切なさに拍車をかける感じ。  
スマイル霊園顧問で死学者のハース博士だけがグリンが死者であることを知っている存在で相談にのってくれたり一緒に推理したりしてくれます。ハース博士がいないとこのお話は酷しいところがあると思いますね。こんな辛い状況におかれているグリンですが、相談相手になってくれるハース博士がいてくれて本当に良かった(^_^;)。

 

 

 

 

 

以下、ガッツリとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トリック
今作のミステリとしての仕掛けの要は「死者」が死んだタイミングと誰が「死者」か。
そして、死者が甦る状況の中で殺人が行われる理由、ホワイダニット(なぜ犯行に至ったのか)ですね。

 

グリンが毒で死んだ後に、スマイリーが死亡。スマイリーの息子であるジョンが殺され、甦って逃走するというのが物語の一連の流れ。※実際はもっと複雑に生者と死者が入り乱れてカオスな状態になっていますが。

 

真相を簡単に説明すると、実はジョンはスマイリーよりも先に犯人に殺されており、スマイリーからの遺産を自分の子を宿しているイザベラに残そうと考えた。遺産相続権を得るには自分がスマイリーよりも後に死んだと皆に思わせねばならないので、死亡推定時刻を誤認させるために自分の他殺事件を自作自演した後に姿を消した。

 

ジョンを殺したのはスマイリーの後妻であるモニカ。モニカは誰よりも先に突然死しており、「死者」となった後で甦ってジョンを殺害。甦ったジョンはモニカがしでかしたことを盾にスマイリーに自分に遺産を相続させるように詰め寄り、遺言状の書き換えを辞めさせ、モニカのことを説得させて「生者」を装わせた。その後死期が近づいているはずだが中々死ねないスマイリーは自分の死は自分で決定しようと決意して自殺(が、人知れず甦って隠れていましたが)。ジョンは自分の他殺事件を偽装する。

 

グリンが毒死してしまったのは単なる事故で、砂糖壺に誤って砒素が混入してしまったため。

お茶会で砂糖を使ったのはグリンとジョンとモニカの三人なのに、自分は死んで他の二人は何ともない事実からグリンはジョンとモニカはお茶会よりも前に死んでいて、自分と同じように生者のふりをしていたのではないかと推理を巡らし解明に至る。
生ける屍になったからこそ辿り着けた真相という訳ですね。


で、ホワイダニット“何故モニカは犯行に至ったのか”ですが、モニカはスマイリーを元妻から略奪した罪悪感と、息子を亡くし、その遺体が火葬されてしまったことによって気が触れてしまい、高齢で認知症の病状もあってと正常な行動や思想が出来る状態ではありませんでした。
熱心なカトリック信者であったモニカはキリスト教「終末に神は再臨したキリストと共に最後の審判を行なう。その時、生者のみならず死者たちも甦り、裁きを受ける。甦った死者たちのうち、罪なき者は永遠の生命を得、最後まで神に反逆する者は再びの死、第二の死・魂の死をむかえる」という復活信仰にしがみつくように。


そんな中、アメリカ各地で死者の甦り現象が発生。自身も“生ける屍”として甦ったモニカは、今こそ審判の時なのだと霊園で火葬を推進しようとするジョンを殺害。

 

「(略)彼女はいったんジョンを死者の状態に置いて、彼の罪の深さがどれくらいのものか、神の裁きに委ねようとしたんだ。つまり、火葬を唱えたジョンの罪が赦されるなら、彼は復活して永遠の生命を得、生者と変わらぬ振る舞いをするだろう。逆に、彼の罪が赦されなければ、彼は再び聖書でいう第二の死――魂の死の屈辱にまみれることになる・・・・・・」

 

と、モニカなりのこのような理論で犯行に至ったと。これが、死者が次々に蘇るおかしな状況の中でわざわざ殺人を犯す理由なのです。

 

「火葬を唱えることがそんなに罪深いのか?」と、日本人の感覚では思ってしまいますが、復活信仰を妄信しているモニカにとっては遺体を火葬することは復活を妨げる許しがたい行為だということらしい。アメリカの片田舎が舞台というのもこういった宗教観がお話の重要な要素になっているからなのですね。だから、登場人物名でつまずいてもめげずに読みましょう。

 

 

 

 

メメント・モリ(死を想え)
「死者の甦り」に意味を見出し、このようなことをしでかしたモニカ。「この気まぐれな甦り物語に意味はあったのか?」と、謎解きを終えて、やりきれぬ想いでスマイル霊園を飛び出したグリンは考えます。そしてグリンは、「死者の甦り」はただの現象だと結論づける。通常の生や死にだって完璧な意味やら誰かの意思やらを見出すことはできないからと。
結局、世の中で起こることは現象でしかなく、個々が捉えたいように捉えているに過ぎない。「死」がまとわりついた生い立ちから常に「死」を想ってきたグリンは、“生ける屍”となって事件を追った数日間を経て自身のメメント・モリに結論をつけ、一緒に車で飛び出したチェシャにそれを告げる。

 

読者としてもわかっていたことではあるけれど、物語の最後は切なくて哀しいものとなっています。しかしそれだけではなく、感慨深いハッピーなエンドでもある。

南を目指していたはずのピンクの霊柩車が、最後の一行で”北を目指して”となっているところは物語の冒頭に戻る“繰り返し”を暗示しているようでもあり、作り込まれたストーリーに感服します。
名作だと言われ続けているのも納得の作品でした。気になった方は是非。

 


ではではまた~

 

 

 

秘密-トップ・シークレット6巻「コンビニ店員惨殺事件」ネタバレ・あらすじ

こんばんは、紫栞です。
今回は清水玲子さんの『秘密-トップ・シークレット』

 

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6巻収録の「コンビニ店員惨殺事件」をご紹介。あと「特別編」も。

 

秘密 -トップ・シークレット- 6 (ジェッツコミックス)

あらすじ
2059年8月。コンビニエンスストア店員の小島郁子が同僚である山崎正、神内忍に突如包丁で襲いかかり殺害。さらに逃げ出した同じくコンビニエンスストア店員の佐藤佳代子を路上まで追いかけて公衆の面前で刺殺し、その際に巻き添えとなって重傷を負った通行人一人も病院で二日後に死亡するという事件が発生。
小島郁子は犯行後に自宅で自殺。郁子の同居人である父親は認知症のため証言をすることは困難を極めた。通行人を含む4人を惨殺するという女性犯罪では稀な事件であり、動機と原因を究明するべく小島郁子と被害者たちの脳は科学捜査研究所「第九」研究室で『MRI』にかけられることとなり、室長の薪と新たに「第九」に配属された岡部・曽我・小池らは捜査に当たる。
被害者の山崎正は大学で介護や医療に関心があり、何度か好意で小島郁子の父親の介護を手伝っていた。山崎と交際していた佐藤佳代子はそのことが面白くなく、幾度も小島郁子を詰問していた様子が確認されたこと、郁子には虚言癖があったなどの事実から、当初事件は郁子の山崎への横恋慕が叶わぬゆえの犯行だと推測された。だが、『MRI捜査』を進めるうちに犯人・小島郁子の意外な事実が明らかとなり――。

 

 

 

 

 

 

 


薄いけど重い
この「コンビニ店員殺害事件」は青木が「第九」に配属される少し前の事件。時系列としては「貝沼事件」捜査中に薪さんが正当防衛で鈴木を撃ち殺してしまってから数日後、壊滅状態になった「第九」に岡部さん、曽我、小池の3人が配属されたばかりの頃の事件。

青木は登場せず、視点は主に岡部さんで描かれているのでスプンオフというか、ちょっとした過去編てな感じのお話ですね。そのためページ数は他の巻に比べると少なく、本の厚さもシリーズのなかでもっとも薄いです。が、厚さは薄くとも中身は激重いので侮っちゃダメ。私は貸した友達皆に「重すぎて辛い」と言われた苦笑ものの思い出があります(^_^;)。

 

お話は岡部さんが「第九」に配属されて、薪さんと初対面するところから始まるのですが、この時の岡部さんは『MRI捜査』なんて「のぞき見と同じじゃないか」と否定的な意見を持っていて、初対面の薪さんにも嫌悪感剥き出し。青木が知る“薪さんの一番の側近”的姿からは想像も出来ないものでした。

この2人にもそれなりのドラマがあったということで、薪さんと岡部さんの馴れ初め話が描かれているのはファン必見ですね。岡部さん回に外れなしです。

 

 

 

 

動機の解明
今作の事件は小島郁子という女性が包丁で4人を惨殺したのは疑いようのない事実であり、犯人も被害者もみんな死んでしまっているので一見するとわざわざMRIで脳見る必要があるのか?と、いう気がするのですけども。
しかし、みんな死んでしまっているからこそ「虚言癖のある中年女が若い男に入れあげて恋人もろとも惨殺した」という“検察側”にあたる一方的な見解だけでなく、“弁護側”にあたる犯人側“郁子の脳”を見ないと事件の「客観性」が得られないってな訳で。つまり、動機を解明することに絞られたお話になっています。

 

 

 

 

 

 


以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 


幻覚
犯人の小島郁子は40歳で化粧っ気のない顔にシミ・シワが目立ち、体型は小太り。それでいて恰好は年齢に似合わぬ少女趣味。作中の文面では“少女趣味な服”となっていますが絵をみるとこれは明らかにピンク〇ウスですね。どんな恰好をしようと個人の自由だし、現に高齢でも肥満体型でもピン〇ハウスが好きで着ている人は訳で他人がとやかく言う筋合いはないのですが、妄想のようなことも口にする郁子は端から見ると“イタイタしい人”と捉えられていた。


MRIで郁子の脳を見てわかったのは、郁子が「自分が美女に見える幻覚」をみていたこと。

郁子は数年前に母が他界、その後父親が認知症となり介護のため地元に戻ることになった郁子は東京での服飾メーカーでの勤めを辞め、結婚間近だったものの破談に。頑張ってきた仕事と家庭を持つことが一度に奪われ、認知症の父親に文句を言われながらの汚物まみれの毎日でこの先明るい展望もない。

ストレスをため込み、精神的に追い詰められ自殺未遂を繰り返すものの、父親を残して死ぬことも出来ない郁子は「美しい幻想の世界」を造り出し逃避することでこの生活に耐えていたのですね。

 

「現実」や「真実」はもう彼女にとって意味がない


そしてこの頃は多分 彼女にとって一番幸せな日々だった

 

「幻覚」は郁子が“死なずにいるため”に必要不可欠なものだったのです。

 

 

 

 

 

余計なお世話
そんな郁子に職場の同僚たちはにバカにしたり陰口を言ったりしていましたが、ただ1人、山崎正だけは郁子に常に親切で医療や看護等に興味があったこともあり、気にかけて介護の手伝いをしたりと他の誰よりも郁子の事を、将来を心配していました。


そして山崎は「幻想の世界」に住んでいる郁子を「治してやろう」と思い、心療内科医から手に入れた幻覚・妄想の症状を抑える安定剤を飲ませ「現実をちゃんと見て!!」「空想の世界に逃げてばかりじゃダメだ!!」「この先もあなたが何年も働いてお父さんを助けていくんでしょ?」「あなたがしっかりしてお父さんを支えてあげないで」「この先一体どうするんですか」と郁子にとっては耳を塞ぎたい、耐えがたいことを言いつのる訳です。

 

郁子じゃなくとも、40歳でお先真っ暗なときに20歳の大学生にこんなこと言われたら死にたくもなるって感じですが。

 

「幻覚」を薬で抑えられたあげく、こんな絶望的な現実ばかり言われ続けて、「この先はいらない」「こんな現実ならもういらない」と郁子は凶行に走ってしまったというのが事の真相。山崎が郁子に渡した安定剤は試薬段階の強い成分も入っていたらしく攻撃性が増してしまったというのもあるのだとか。

 

 

山崎正は真実”いい人”なのだろうし、郁子にしたことも100%の善意なのでしょうが・・・個人的には読んでいると郁子にばかり同情してしまいますね。


お話の導入部分で郁子が「誰にも迷惑はかけてなかったのに・・・ちゃんとしてきたのに・・・」と言っているように、郁子は「幻覚」をみつつもコンビニの仕事も父親の介護もしっかりこなして社会に適応していました。“空想の世界に逃げちゃだめだ”というが、そもそも目を覚まさなくてはいけないのか。郁子と“趣味が日々の息抜きになっている人”との間にどれほどの差があるというのか。
すべきことはしてキチンとして生活出来ているのだし、山崎がやったことは要らぬお節介、余計なお世話と捉えてしまいますよね。
山崎が何もしなかったにしても郁子の「幻覚」はどこかで限界がくるのかもなぁという気もしますが。いずれにせよ、治してやろうとするならするで、もっとちゃんとした治療の段階を踏んでいかないとダメですよね。素人が薬渡して説教して~・・・なんて、やっぱり浅はかですよ。

 

 

と、郁子への同情ばっかりになりそうなところを「気の毒なのは何の関係もないのに殺された3人だ」と薪さんがしっかり言及しているところがこの漫画だなぁと思う。確かにそりゃそうだ。


MRI捜査』されなければ「虚言癖のある中年女が若い男に入れあげて恋人もろとも惨殺した事件」として片付けられていたということで、状況証拠や物証では絶対にわからない真実をMRIだと明らかに出来ると改めて示される事件ですね。

 

 

 

 


特別編
巻末に「2008 特別編」という短編が収録されています。
こちらは青木が主役で、2年前に鈴木の脳を見たことで※1巻参照↓

 

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青木が自身の気持ちが鈴木の脳映像に感化されてしまっているのではないかと思い悩むお話。捜査員の精神を破壊しまくった貝沼の脳を、鈴木の脳を通して見た割にはかなり平気そうで「たくましいな青木」って感じだったのですが(ラリってたけどね※1巻参照)、やっぱり思わぬ形で弊害が生じている。発端は鈴木の元婚約者である三好先生と付き合い始めたからですね。

それだけでなく、この特別編は実は思わぬ形でシリーズの伏線になっているので読み飛ばし注意です。

 

 


そんな訳で、薄いけれどもいつものように重厚な物語りが描かれているので是非。

 

 

新装版 秘密 THE TOP SECRET 6 (花とゆめCOMICS)

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  • 作者:清水玲子
  • 発売日: 2016/02/05
  • メディア: コミック
 

 

ではではまた~

 

 

 

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『濱地健三郎の幽たる事件簿』7編の感想・あらすじ シリーズ第2弾!

こんばんは、紫栞です。
今回は有栖川有栖さんの『濱地健三郎の幽たる事件簿』(はまじけんざぶろうのかくれたるじけんぼ)をご紹介。

濱地健三郎の幽【かくれ】たる事件簿


幽霊を視る能力があり、心霊現象を専門に扱う探偵・濱地健三郎とその助手・志摩ユリエが様々な怪異に相対していく連作短編集で、2017年に刊行された『濱地健三郎の霊(くしび)なる事件簿』

 

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 に続くシリーズ第二作。今作は“幽たる”“かくれたる”と読ませるタイトルになっています。


単行本の装丁は前作とはチト違う感じに。文庫版の方のデザインの系統であるような気がするので、

 

 

今後はこんな感じで統一されるのかもしれませんね。前作の単行本の装丁も個人的には好きですけど。文庫や今作の装丁の方が作品雰囲気にはあっている気はします。

 

濱地健三郎は三十歳にも五十歳にもみえる年齢不詳のミステリアスダンディで、幽霊を視る能力や祓う能力の他に鋭い推理力のある探偵さん。霊媒師ではなく“探偵”なのがこのシリーズの特徴ですね。
志摩ユリエは絵が得意ということでボスや依頼人が霊視したモノをスケッチするという助手としての働きをしているのですが、シリーズ一作目からボスの仕事に同行するうちに能力が開花。今作ではもう、ボスほどではないにしても完全に“視える人”になっています。

 

 

 

 

 

 

前作同様、今作も七編収録


目次
●ホームに佇む
●姉は何処
●饒舌な依頼人
●浴槽の花婿
●お家がだんだん遠くなる
●ミステリー研究会の幽霊
●それは叫ぶ

 


一作目の「ホームに佇む」以外は怪談専門誌『幽』(2019年からは妖怪マガジン『怪』と合併して『怪と幽』という雑誌名になっています)に掲載されたもの。
「ホームに佇む」は『小説BOC』に寄稿されたもので、「山手線の駅を舞台にした特集を組むから、好きな駅を選んで書いてくれ」という依頼を受けて書かれたもので、他の作品より短めの20ページ少々。有栖川さんは鉄道ファンということもあり、電車関係の小説執筆をよく依頼される作家さんですね。


出張の度に東海道新幹線を利用するサラリーマンが、新幹線が有楽町駅を通過する際に、有楽町駅ホームに赤い野球帽の少年の幽霊を新幹線の窓から毎回必ず目撃。そのうち、少年の幽霊はサラリーマンに何か訴えかけるような眼差しを向けてくるようになり、悩んだ末にサラリーマンは濱地健三郎の新宿の事務所を訪れる--。


少年がホームに佇んでいる理由におかしみがあるお話で、短編としては「なるほど」というネタなのですが、最後の“幽霊に物品を渡せる”というのが個人的に少し納得出来ない。ま、心霊現象には現実の常識は通用しないのだと言われればそれまでなのですが・・・(^_^;)。

 


「姉は何処(いずこ)」は郊外の実家に住んでいた姉がある日突然行方知れずになり、只一人の肉親である弟が実家に戻って姉を毎夜捜索するなかで、同じ場所、同じ時間に毎日姉の幽霊が現われている事に気が付く。話しかけても応えてくれず、いつも同じところで姿を消してしまう姉の幽霊。弟は一刻も早く姉を見つけてやりたいと濱地健三郎に依頼する――。
てなお話。


この本に収録されている7編のなかでは一番探偵小説的要素があるお話で、心霊現象を扱っているものの、推理して、犯人に罠を仕掛けて・・・と、いつもの有栖川有栖的本格推理小説短編らしさに溢れている作品。慣れているぶん、ファン的には有栖川さんの短編だとこういう展開を期待してしまうところですね。しかし、あくまで怪談話として怪談専門誌『幽』に掲載された作品ですので、油断していると最後でゾッとさせられます。ユリエちゃんに一抹の不安を感じる・・・。

 

 


「饒舌な依頼人は濱地健三郎の事務所にやってきた依頼人がやたらと饒舌に一人でお喋りするという、言ってしまえばそれだけのお話。


怪談話に違いはないのですが、コミカルさがあってクスッと笑えるような“オチ”がついています。そのオチや話に作中でユリエちゃんが駄目だしするのがさらに可笑しい。霊視能力があるとこんな事にも遭遇するよ~っていう濱地探偵日常の一コマってな感じのお話で、濱地先生は流石になれた対応をしています。本の中盤でこのようなお話が入っているのはバランスが良くて短編集の愉しさの一つだと思います。

 

 


「浴槽の花婿」は資産家の男性が浴室で死亡。事件か?事故か?被害者の弟は結婚したばかりだった兄の妻が犯人だと捜査一課刑事である赤波江に訴えるが、その弟には兄の幽霊が恨めしそうな顔で“憑いて”いた。犯人は若い妻か?金に困っていた弟か?
な、お話。


ミステリーとしては「どっちが犯人か」という、フーダニットの二択版。容疑者の一人に被害者の幽霊が憑いているという状況をとっかかりに話しが展開されるのが心霊探偵ならでは。
被害者の幽霊が恨めしそうな顔で憑いているのなら、憑かれているヤツが犯人だろうと単純に思うところですが、もちろんそこには捻りがある。結末は恐くも哀しく憐れで、その後がどうなったか気になります。
シリーズ一冊目でも登場した濱地先生と交流のある刑事・赤波江さんと(赤波江さんはこの本では登場するのは今作のみ)、ユリエちゃんが交際している大学時代の漫画研究会後輩・進藤叡二君が登場。

タイトルの「浴槽の花婿」は100年以上前にあった保険金目当ての連続殺人事件に牧逸馬がつけた名「浴槽の花嫁」からとられています。 

浴槽の花嫁 (現代教養文庫)

浴槽の花嫁 (現代教養文庫)

 

 三人の新妻を浴槽での戯れに足を引っぱって溺死させ、入浴中の事故死を装って保険金をせしめていたという事件。そんなに認知度は高くない名称だとは思いますが、私は偶々別の小説作品で紹介されていたのを読んだことがあったので元ネタにすぐ気づくことが出来、なんだか嬉しかった。

 

 


「お家がだんだん遠くなる」は、毎夜寝る度に幽体離脱して(魂が?)どこかに連れて行かれそうになる女性が助けを求めて濱地健三郎の元に訪れるお話。
幽体離脱がテーマで、このシリーズでは珍しくタイムリミットがある切迫したお話。濱地先生とユリエちゃん、おまけで進藤君も駆けずり回って捜査しています。このお話は本当に怪談でミステリー要素は薄いですかね。終わり方が苦々しい。
こちらのタイトルは童謡の『あの町この町』の歌詞の一節から。


童謡 あの町この町 平井英子 野口雨情作詞・中山晋平作曲

この童謡、私は知らなかったですね。世代によるのかな?それとも地域?作中では濱地先生もユリエちゃんも、皆が知っている童謡として紹介されていましたが。

 

 


「ミステリー研究会の幽霊」は、高校のミステリー研究会の部室で前々から起こっていた超常現象が新しい部員を一人迎え入れてからエスカレートして・・・と、いうお話。


このミステリー研究会は推理小説ではなく超常現象を研究する会とのことで、紛らわしい(^_^;)。
学園ものでお話の大半は高校生の視点で語られるので、終盤でやっと濱地健三郎シリーズなんだと分かる仕組み。物理学の先生が顧問で、噂を聞きつけ心霊探偵の濱地健三郎に依頼するのですが、作中でも言及されていますが物理学教師なのにかなり柔軟な考えで驚き。普通は生徒の話を疑うだろうし、“心霊探偵”なんて胡乱なものに頼ろうなんて考えもしないと思う。ネタとしては学園ものホラーでよく出てくるものですね。恩田陸さんの『六番目の小夜子』とか、

 

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綾辻行人さんの『Another』とか。

 

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この手のお話はオカルト好きだとやはりワクワクする。学園ホラーは独特の雰囲気が良いですよね。

 

 


「それは叫ぶ」は夜道で得体の知れないモノに触れられてから発作的な自殺衝動に襲われるようになってしまった男性のお話。


このお話は完全に怪談で、犯人だの隠された真相といったミステリー要素は皆無ですね。今作ではなんと、濱地先生は拝み屋からの紹介で事に介入することになった設定。商売敵かと思いきや、濱地先生は拝み屋界隈でも一目置かれる存在なんだそうな。この拝み屋は凄腕なんだそうですが、拝み屋にも視えなかった“アレ”をユリエちゃんは視ることが出来ていて、あらためて能力の開花が凄まじいのだということが分かる。
意味も理由もない悪意に突如襲われる理不尽さというのは、通り魔事件も模してのもの。許しがたく、ただただ恐ろしい怪異が描かれています。

 

 

 

 

 

 

 

 

幽と解
怪談専門誌に掲載されている作品ですので「怪談」を前提に書かれているのですが、このシリーズのコンセプトは怪談とミステリー「両者の境界線において新鮮な面白さを探すこと」。なので、心霊現象を前提としたなかで謎解きが展開されるのが主で、シリーズ第一冊目『濱地健三郎の霊(くしび)なる事件簿』の方では犯罪を扱っているものが多く、捜査一課の刑事さんも度々登場していた訳ですが、模索中だということもあって全体的にぎこちなさが少しありました。
今作の『濱地健三郎の幽(かくれ)たる事件簿』では心霊現象と謎解きを融合させるという形式に囚われずに自由度が増し、バラエティに富んでいて、短編集として読んでいて面白かったです。

ミステリー要素よりも怪談に重きが置かれている話が多かったですが、無理に謎解きを絡ませようとするよりこの方が良いのではないかと個人的には思いました。推理小説作家で有名な有栖川さんですが、怪談話も十分に上手い作家さんですからね。

 

 

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心配 

やはり、気になるのは助手の志摩ユリエ。

上記したように濱地先生の仕事に同行するうちに霊視能力が向上していっているのですが、ユリエちゃんはその事を嬉しく思っている気持ちの方が強いみたいなんですよね。もっともっと先生のお仕事の役に立ちたいというのと、“未知の世界があるのを知って、自分が広がったみたいに思ってる”と。それを聞いて交際相手の進藤君は「広がらなくてもいいでしょう」と、ごもっともなことを言っている訳ですが(^^;)。


確かに心霊世界なんて広がる必要はないし、助手をするなかで何度も恐い目に遭っているのに、好奇心ばかりが勝って喜んでいるユリエちゃんは実はかなり危うい状態なのではないかと感じる。せっかくの進藤君の注意も「やきもちかな?」と心中で軽く済ましてしまっていますし、読者としてもこのまま濱地さんの助手やってて大丈夫なのかと心配になってしまうところです。


しかし、能力はユリエちゃん自身が潜在的に持っていたものだし、視えるようになってしまった以上、対処を心得ているプロフェッショナルの濱地さんの元にいるのが一番安全だという結論がこの本に最後に収録されている「それは叫ぶ」で示されていて「なるほどな」という感じ。

 

 

いずれにせよ、シリーズはまだまだ続きそうなので今後も楽しみです。前のブログでも書きましたが、このシリーズで長編も読んでみたいなぁ~ともやっぱり思いますね。勝手に期待しときます(^^)。

 

ではではまた~

 

 

 

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『太陽は動かない』映画 原作小説2作 まとめて紹介!

こんばんは、紫栞です。
今回は吉田修一さんの『太陽は動かない』『森は知っている』の二作品の紹介と感想を少し。

太陽は動かない (幻冬舎文庫)

 

鷹野一彦シリーズ
『太陽は動かない』『森は知っている』は産業スパイの鷹野一彦を主役とした【鷹野一彦シリーズ】のうちの二作。シリーズは2020年5月現在3冊刊行されていて、一作目が『太陽は動かない』、二作目が『森は知っている』、三作目が『ウォーターゲーム』

 

今年『太陽は動かない』のタイトルで映画公開予定なのですが、原作として使われているのが『太陽は動かない』と『森は知っている』の二作らしいので、まずこの二作を読んでみました。

『怒り』『悪人』など重厚な人間ドラマを描くことで有名な吉田修一さんですが、

 

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このシリーズは産業スパイが主役ということで、超直球でド派手な“スパイ大作戦”が展開されるというTHE・エンタメな作品になっています。吉田さんのファンの人ほど新鮮なシリーズになっているようですね。

 


心臓に爆弾!
かつてNHKで計画されていたアジアの情報を日本で集めてネットワークを作り、各世界のニュース局も合わせて24時間のワールドニュースを放送しようという、『GNN構造』
スキャンダルにより頓挫してしまったが、この計画のために使われるべき金がプールされて作られたのが、主役の鷹野や部下で相棒の田岡が所属している「AN 通信」で、表向きネットでアジアの情報を発信する小さな通信会社ですが、実体は機密情報を高値で売ることを目的とする諜報活動をしている組織。
アジア各国から集めた情報を大衆のために使うことから、一部の者たちのために使うことにシフトチェンジされたという設定なのですね。(※NHKはもう関係していない組織とされている)

 

で、この「AN 通信」なんですが、諜報員をどうやって調達しているのかというと、主に親から虐待などを受けている子供を秘密裏に引き取り、徹底的に訓練して諜報員に育て上げるというもの。
そうして「AN 通信」の諜報員になった者には情報の持ち出しを防ぐために心臓に爆弾が埋め込まれる。毎日決まった時間に上司に報告を入れないと遠隔操作でボンっ!とされてしまう訳。


スパイ活動をしているなかで毎日定時連絡入れなくちゃいけないのですよ。仕事内容的に規則正しい生活が出来るハズもないですし、取り込み中で連絡が出来ないような状況下はもちろんですが、単に寝過ごしちゃっただけでも駄目なんでしょうからかなりキツい。
危険なミッションをこなすことの他に、定時連絡をしないと死んでしまうという危機と、自身の命を常に他者の思うままにされている諜報員たちの心情が物語りに緊迫感とドラマを与えています。

 

 

 

 

 


では順番にご紹介。

 

 

 

 

 

 

●『太陽は動かない』

 

太陽は動かない

太陽は動かない

 

次世代エネルギー開発の利権争いを巡ってのゴタゴタが描かれる作品。


鷹野と部下の田岡コンビが中心として展開されますが、他にも鷹野の商売敵で昔からライバル関係にあるハンサムスパイのデイビット・キム、謎のゴージャス美女のAYAKO、色々と複雑な事情がありそうな鷹野の上司・風間など、スパイものではお馴染みで“いかにも”なキャラクターたちが登場しています。

 

スタジアムが爆破され、ヘリが落され、船が沈められて、田岡は捕まって拷問されるし、鷹野も捕まって拷問されるし・・・もう、スパイもので起こりそうな事柄すべてが詰め込みました!な、ストーリー。

読みながら「損害額が・・・」とか要らん心配をしてしまう(^_^;)。映画化されるのですが、原作通りにするなら相当制作費かかるだろうなぁと思う。今まで「映像化不可能!」とか言われていたらしいですが(この謳い文句は結構何にでも付けられていたりしますが・・・)、予算のせいでそう言われていたのですかね。

 

情報戦のやり取りが割とややこしく、完全には理解出来なくって部分的にフワッと読んでしまったのですが(^^;)。派手な展開をしてくれるのと、各登場人物たちにその都度感情移入出来るので面白く読めます。
こういった産業スパイものだと裏切りや人材の切り捨てが当たり前の殺伐とした世界が描かれがちですが、今作は出て来る人物たちがスパイだったり政治家だったりするものの、弱さがあったり、最終的に良心を棄てきれないような人間味溢れる人物が多く、巻き込まれて拉致された発明家や船員さんたちまで良心的。本来ならもっと悪意にまみれそうな場面なのですけどね。読むと「人間、棄てたもんじゃないな」と。

 

メインの鷹野と田岡もお互いが危機に瀕していると全力で助けようとしていて、これもスパイらしからぬ良さが。上司の風間さんもね。
デイビット・キムやAYAKOは時と場合によって敵にも味方にもなるという、スパイものの醍醐味的なキャラクターで楽しませてくれます。終盤のところとか「デイビット~!」って叫びたくなる箇所が。この二人はシリーズで今後も出続けてくれるのを希望。

 

エピローグの「大草原」で乗馬している様子が平和的でほっこりする。死にいつも晒されている鷹野や田岡にも気を抜くことが出来る時間があることにホッとしますね。

 

 

 

 

●『森は知っている』 

森は知っている (幻冬舎文庫)

森は知っている (幻冬舎文庫)

 

こちらは鷹野が17歳の時のお話。鷹野は虐待していた親の元から離れた後、風間さんの家で家政婦さんに面倒を見てもらいながら過していたのですが、数年前から南蘭島という南の島で普通の高校生活をおくる一方で、諜報機関の訓練を受けているという設定。


ある日、同じく「AN 通信」諜報員として訓練を受けていた親友・柳が鷹野に手紙を残して失踪。逃亡なのか、裏切りなのか、柳の行方を案じながらも鷹野は訓練の最終テストとなる初仕事に挑むが――。
な、お話。

 

収容所みたいな施設での訓練かと思いきや、自然豊かな南の島で普通の高校生をしつつという、「最後に人並みの青春もさせてやる」みたいな訓練生活。
友達とワチャワチャ騒いだり、転校生の女の子・詩織との淡い恋が繰り広げられる裏で、スパイ教育を受けているというギャップが読んでいてやるせない。どんなに楽しい青春を過していても、18歳になって待ち受けているのは心臓に爆弾を埋め込まれてのスパイ活動ですからね。他同級生と同じように卒業後の進路を夢見たり出来ないし、恋をしても組織とは無関係の一般人との将来なんて考えられないし、若き鷹野の心境を思うと悲しくて切ないです(-_-)。


個人的に、この詩織ちゃんと鷹野の何気ないやり取りや恋模様の淡さ具合が好ましかったですね。生々しいところまでいかない匙加減が良い。お互いに“なんてことはないけど大切な思い出”になるのだろうな~と。

 

デイビット・キムとの初対面や、風間さんが足を失った理由なども知る事が出来て、前作を読んでいる読者には嬉しいです。こちらを先に読んでから『太陽は動かない』を読んでも良いと思います。「鷹野・・・立派になって・・・!」って感じになるかな。
風間さんも、家政婦の富美子さんも、鷹野のことを非常に思いやっていて感動します。過酷な環境下に置かれている鷹野ですが、身近にこういう人がいてくれているということに救われますね。
デイビットは昔っから鷹野とこんな感じだったのかと、読んでいるとなにやら愉快な気分になる。
柳やその弟の寛太は今後シリーズで触れられることはあるのですかね?気になるところです。

 

一作目の『太陽は動かない』や三作目の『ウォーターゲーム』から考えると番外編的位置付けのお話なんでしょうが、本編とはまた違った面白さがあってグイグイ読ませてくれます。田岡が登場しないのは少し寂しいですけどね。

 

 

 

 

 

 

 

映画・ドラマ
映画は2020年5月公開予定でしたが、感染症の騒動により公開延期となっています。


藤原竜也主演!映画『太陽は動かない』超特報


キャスト
鷹野一彦藤原竜也
田岡亮一竹内涼真
風間武佐藤浩市
デイビット・キムピョン・ヨハン
AYAKOハン・ヒョジュ
柳勇次加藤清史郎
菊池詩織南沙良

 

タイトルは『太陽は動かない』ですが、柳や詩織ちゃんがキャストに組み込まれているので、回想という形で『森は知っている』の内容も映画で描かれるのかなぁと思います。

鷹野の同僚で田岡の指導をした「AN 通信」エージェントとして原作には登場しない山下竜二(市川隼人)たる人物がいることと、原作では重要人物の一人だった青木優の名前が映画紹介に書かれていないので結構オリジナル要素が入るストーリーなのかも知れないですね。


映画と連動しての企画だったWOWOWドラマ『太陽は動かない-THE ECLPSE-』は予定通りに放送開始されています。全6話。


連続ドラマW「太陽は動かない -THE ECLIPSE-」特報

ドラマ版は原作者・吉田修一さん原案によるオリジナルストーリーになっているようです。無料配信されている一話目を観たのですが、鷹野と田岡が組まされることになっての初事件になっていました。原作ではこの二人の初対面は描かれていないので、原作ファンにとっても興味深いお話ですね。

 

 

 

 

 

 

 

一日を生きる
設定からして、鷹野たちが所属する「AN 通信」は非人道的組織に違いはないのですが、作中では「AN 通信」の本部に対しての批判だとか怒りだとかは描かれていません。“本部”自体が存在感を持っていない作品なのですよね。いまのところ・・・と、いうだけかも知れませんが。


心臓に爆弾が埋め込まれているという特殊設定を使ってこのシリーズが描きたいのは「一日を生きる」ということだと思います。

 

「生きるのが苦しいんなら、いつ死んだっていい!でも考えてくれ!今日死のうが、明日死のうがそう変りはないだろ!だったら、一日だけでいい・・・・・・、ただ一日だけ生きてみろ!そしてその日を生きられたなら、また一日だけ試してみるんだ。お前が恐くて仕方ないものからは、お前は一生逃げられない。でも一日だけなら、たったの一日だけなら、お前にだって耐えられる。お前はこれまでだって、それに耐えてきたんだ。一日だ。たった一日でいいから生きてみろ!(略)」

 

作中で風間さんが幼い頃の鷹野に言う台詞なのですが、まるで今生きるのが辛いと苦しんでいる人すべてへのメッセージのように思えますね。

 

「AN 通信」では35歳まで任務を無事遂行できれば爆弾を外されて自由の身となり、望みを何でも一つかなえてもらえるという約束があります。信憑性は定かでなく、そんな約束が果たされるのを夢見るのは馬鹿馬鹿しいとされていますが、シリーズの最後に鷹野がどうなるのか見届けたいものです。


とりあえず、私は三作目の『ウォーターゲーム』を読まないとですが(^_^;)。

 

 

 


ではではまた~

 

 

太陽は動かない

太陽は動かない

 

 

 

森は知っている (幻冬舎文庫)

森は知っている (幻冬舎文庫)

 

 

 

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七瀬ふたたび シリーズ三作品 小説・ドラマ・映画・・・諸々まとめ

こんばんは、紫栞です。
今回は筒井康隆さんの七瀬シリーズを紹介したいと思います。

七瀬ふたたび (新潮文庫)


七瀬シリーズ】(「七瀬三部作」「七瀬もの」)は1972年から1977年の間に刊行された筒井康隆さんの初期の代表的シリーズ。
生まれながらに人の心を読むことが出来る精神感応能力者(テレパス)である火田七瀬(ひた ななせ)という、うら若き美女が主役として活躍するシリーズで、家族八景』『七瀬ふたたび』『エディプスの恋人』の三作品が合わせてそう呼ばれます。


しかし、主役が同じ七瀬で時系列も順番であるものの、三作品とも趣はまったく異なりますので、通常思い浮かべるような“シリーズもの”とは違うアクロバティックな発展をしているのが特徴ですね。

 

 

 

三作品・概要

 

家族八景は18歳~20歳手前までの、住み込みのお手伝いさん時代が描かれています。第67回直木賞候補作。

家族八景 (新潮文庫)

家族八景 (新潮文庫)

 

 目次
●無風地帯
●澱の呪縛
●青春賛歌
水蜜桃
●紅蓮菩薩
●芝生は緑
●日曜画家
●亡母渇仰

連作短編で、タイトルの通り8編収録されています。


“お手伝いさん”として転々と移り住む七瀬が、八軒の家人たちの虚偽を抉り出すというもの。
簡単にいうと、ドラマ『家政婦は見た』のテレパス版で、「家庭」という小さなハコの異様さや危うい均衡が「家政婦」という家人以外の外側からの視点が入ることで崩壊する様などが描かれています。
テレパス云々の前に、年頃の美人がお手伝いさんとして家に住み込めばトラブルが起きるのは必至だろうとは思いますけどね(^_^;)。七瀬が読み取る男たちの心の声がえげつない。一体男性というのは、そんなに美女を前にすると即スケベなことを考えるものなのか・・・。作品と作者自身を同一視するなといいますが、少なくとも作者はそうなのかなぁ~とかどうしても思っちゃいますね・・・。朴念仁というか、色欲が薄い男性もいそうなものですが。
成長と共にグラマーになり、性的な関心ばかり向けられるようになった七瀬は限界を感じ、最終話の「亡母渇仰」でお手伝いさんを辞めることを決意します。

 


二作目の『七瀬ふたたび』は 

七瀬ふたたび (新潮文庫)

七瀬ふたたび (新潮文庫)

 

 

20歳になり、お手伝いさんを辞めた七瀬は、母の実家に向かうために乗った夜行列車内で七瀬と同じくテレパスである幼い少年・ノリオと、予知能力を持つ青年・恒夫と出会う。恒夫は列車が事故に遭うことを予知し、七瀬ら三人は途中の駅で降りて難を逃れる。
その後、七瀬はさらに念動力(テレキネシス)を持つ黒人・ヘンリー、透視能力を持つ西尾、時間遡行が出来るタイム・トラベラー・藤子と、次々と超能力者と出会い、協力し合ったり時には対決したりする。
能力者であることを隠すためにノリオ、ヘンリーとの静かな生活を求め、北海道にホステスで貯めた金で家を買った七瀬は、カジノでテレパス能力を使って生活費を稼いだことから謎の超能力者抹殺集団に存在を知られてしまい・・・。

 

という、『家族八景』とはうって変わっての超能力バトルサスペンスもの。
シリーズのなかでは一番エンタメに特化していて、映像化を何度もされていて知名度が高いのが『七瀬ふたたび』だと思います。
“七瀬ふたたび”という、タイトルが印象的で良いですよね。一作目を知らない人にとっては何で“ふたたび”なのか分からないとは思いますが。
次々に新たな能力者と知り合っていく過程や対決などが面白いです。スピード感のあるストーリーで、特にラストの超能力者抹殺集団(おそらく国が直接関わる集団)との戦は展開があまりにも早くてビックリする。「あと何ページもないけど収拾つくのこれ?」と、ハラハラして・・・ハラハラしたまま終わる

 

 


三作目の『エディプスの恋人』 

エディプスの恋人

エディプスの恋人

 

 はシリーズ最終作。前作のラストからは想像も出来ない続編となっていて、なんと言ったら良いのか分からない代物になっています。SFではあるとは思いますが。とりあえず、とんでもなくぶっ飛んでいる作品
詳細は後述しますが、ストーリーの都合上か、シリーズのなかで今作だけは一度も映像化されていません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラマ・映画・漫画

 

家族八景は今までに単発ドラマが2本、連続ドラマが1作制作されています。

 

1978年版はTBS系列の『東芝日曜劇場』にて「芝生は緑」というタイトルで単発ドラマとして放送。多岐川裕美さんが火田七瀬を演じました。

 

1986年版はフジテレビ系列の木曜ドラマストリート枠で家族八景 18歳の家政婦は見た!!すべての秘密は今暴かれる?』と、なんとも時代を感じさせる長いタイトルで単発ドラマとして放送。火田七瀬役は堀ちえみさん。

 

2012年版はTBS系列の深夜ドラマ枠で家族八景 Nanase,Telepathy Girl’s Ballad』のタイトルで連続ドラマ化。火田七瀬役は木南晴夏さん。

 

 原作のお話はすべてやっていて、七話目の「知と欲」はドラマオリジナルエピソードらしい。
地方では放送されなかったらしく、私はこの連ドラをまったく知りませんでした。『家族八景』を堤幸彦監督が映像化しているなんて、観られていたら絶対に観たのですが・・・残念(^_^;)。

 


漫画
家族八景』は漫画化もされています。

  

 

 

 

 

 

『七瀬ふたたび』テレビドラマ・映画と全部で5回映像化されています。

 

●1979年「NHK少年ドラマシリーズ」版 

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キャスト
火田七瀬多岐川裕美
ノリオ新垣嘉啓
岩淵恒夫堀内正美
漁藤子村地弘美
ヘンリーアレクサンダー・イーズリー 

 

全13話。上記した「芝生は緑」で七瀬役を演じた多岐川裕美さんがこちらでも兼任。放送は「芝生は緑」より後になったものの、制作はこの「NHK少年ドラマシリーズ」の方が先に終わっていたようで、この作品での多岐川裕美さんの七瀬が気に入って、原作者である筒井康隆さんが「芝生は緑」の方でも多岐川裕美さんを七瀬役に推薦したのだとか。

 

 


●1995年「木曜の怪談」版
キャスト
七瀬水野真紀
恒夫袴田吉彦
藤子秋本祐希
西尾筒井康隆

全6回。「木曜の怪談」は1995年~1997年にフジテレビで放送されたテレビドラマ。オカルトチックなドラマを続けて放送するドラマ枠といったもので、その中の1作として放送されました。西尾役を原作者の筒井康隆さんが演じていますね。

 


●1998年「テレビ東京ドラマシリーズ」版

七瀬ふたたび 涅槃原則 [DVD]

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  • 発売日: 2010/01/29
  • メディア: DVD
 

キャスト
火田七瀬渡辺由紀
ノリオ安達哲
岩淵恒夫谷原章介
漁藤子篠原直美
ヘンリーSLY・ATAGA

全13話。『七瀬ふたたび 超能力者・完全抹殺』のタイトルで放送。こちらにも藤子の父・漁連平役で筒井康隆さんが登場しています。

 

 


●2008年「NHKドラマ8」版

キャスト
七瀬蓮佛美沙子
岩淵恒介塩谷瞬
漁藤子水野美紀
真弓瑠璃柳原可奈子
ヘンリー郭智博

全10回。登場人物の名前が一部変更されていたり、七瀬が介護ヘルパーでテレパス能力に目覚めたのが途中からだったり、岩淵がマジシャンだったり、物語りに七瀬の父親(小日向文世)が深く関わっていたり・・・と、原作とはかなり異なるものになっています。
また、このドラマでは七瀬が“アクティブ・テレパスたる、原作にはない、他者の潜在意識に働きかけることが出来る能力も開花させていたらしいです。おそらく“アクティブ・テレパス”という言葉はこのドラマでのみの造語だと思うのですが・・・どうなのでしょう?


劇場版(2010年)

七瀬ふたたび [DVD]

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  • 発売日: 2011/04/07
  • メディア: DVD
 

キャスト
火田七瀬芦名星
漁藤子佐藤江梨子
岩淵了田中圭
真弓瑠璃前田愛
ヘンリー・フリーマンダンテ・カーヴァー
山沢ノリオ今井悠貴

 

筒井康隆作家生活50周年記念映画」として上映された初の劇場版。

原作に忠実に~ということで作られたらしいですが、登場人物の名前から割と変更されていますね・・・。原作との時代背景の違いからラストも違うものになっています。原作のラストはどの時代でも救いがなさ過ぎるものだと思いますけども。この映画だとまだ希望が持てる結末になっている。
制作が難航したらしく、七瀬役もなかなか決まらなかったようですが、クールな美貌が原作に近いと芦名星さんが抜擢されたのだとか。原作者の筒井さんは「もっとも七瀬らしい七瀬」と評されています。

また、この映画の本編前に『七瀬ふたたび プロローグ』という10分間の短編映画が上映されたのですが、七瀬の母親役で初代七瀬役を演じられた多岐川裕美さんが出演しています。監督は中川翔子さんで、これが初の監督作品。中川さんは筒井康隆さんの大ファンでそういうことになったらしい。色々と凄いですね。

 

 


漫画
『七瀬ふたたび』も『NANASE』というタイトルで漫画化されています↓

NANASE(1) (ヤンマガKCスペシャル)

NANASE(1) (ヤンマガKCスペシャル)

 

 

 

 

 

 

 

 


以下、原作小説のネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 


宇宙へ
シリーズ二作目の『七瀬ふたたび』は、七瀬とその仲間たちが超能力者抹殺集団に全員殺害されてしまうところで終わっています。

超能力者抹殺集団は国の組織であるらしいというだけで詳細は明かされぬままに、七瀬たちは訳のわからぬ集団に殺されて終わるとあって、読後はポカーンとしてしまいます。


で、「じゃあ三作目の『エディプスの恋人』はどうなっているのだ!」と、慌てて読んでみたらば、前作で死んだはずの七瀬が何故か私立高校の事務職員として登場して益々ポカーンとすることに。

 

ノリオ達のことも抹殺集団のことも触れられぬままに物語りは進み、七瀬は特別な力で守られているらしき男子高校生・智広の謎を追ううちに、その少年と恋に落ちていく。初恋に夢中になる七瀬だが、智広を守っている「意思」の正体に気づく。
少年を守っていたのは亡くなった彼の母親・珠子の「意思」。珠子は死んだあと生前の奉仕精神が見込まれ、「宇宙意思」として選ばれた超絶対者、我々がいうところの「神」となっていた。
「彼女」は息子を溺愛しており、死んで神となった後も息子をその超絶対者的力で守り続け、息子の恋人にもっともふさわしい者として七瀬を選び蘇らせる。

二人が恋人になるようにとりはからった「彼女」の目的は、息子の将来をおもんばかってという他に自身の近親相姦的願望を成就させようというものがあり、息子の“初めて”を七瀬の身体を通して“いただく”ことだった。

かくして、七瀬は破瓜の瞬間に「彼女」に身体を盗られ、「彼」と睦み合っている自分の姿を宇宙視点で傍観させられることとなる・・・・・・。

 

 

 

わけがわからないよ!

と、叫びたい衝動に駆られますね(^^;)。


一応、前作の『七瀬ふたたび』の終盤で多元宇宙の話をしていたりするのが前振りになっているのかとは思われますが、まさか息子を溺愛する全知全能の神を出してくるとは恐れ入りましたといった感じ。こんな神様いやだ・・・。

 

家族八景』で「家庭」という普遍的なハコを描き、『七瀬ふたたび』で秩序を守ろうとする国との戦を描き、『エディプスの恋人』で「神」との接触を描く。
シリーズは段々スケールアップしているという訳ですね。

 

意思の操作も、存在させることも非存在にさせることも思いのままに出来る「神」が相手では、テレパスの七瀬も太刀打ちしようがありません。
すべてが「彼女」の思うままになる世界で、七瀬は自己の非現実感を強めつつも「彼女」の望む“エディプスの恋人”(※エディプスはギリシャ悲劇の最高傑作といわれる『オイディプス王』から。父と知らずに父を殺し、母と知らずに母と交わってしまったオイディプスの悲劇が描かれている戯曲)の役割を果たすしかないという事実を確信したところで物語りは終わっています。

 

 

能力を持ったが故に世間に溶け込めず、国には脅威として抹殺され、遂には「神」に理不尽に存在を弄ばれる。
三作とも趣が異なる作品ですが、七瀬という女性の悲劇の顛末を描いているのがこのシリーズなのだといえるのかもしれません。


火田七瀬の悲劇三部作。気になった方は是非。

 

 

家族八景 (新潮文庫)

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七瀬ふたたび (新潮文庫)

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エディプスの恋人

エディプスの恋人

 

 


ではではまた~

 

 

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