夜ふかし閑談

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『一ノ瀬ユウナが浮いている』感想 乙一による純愛小説!

こんばんは、紫栞です。

今回は、乙一さんの『一ノ瀬ユウナが浮いている』を読んだので感想を少し。

一ノ瀬ユウナが浮いている (ジャンプジェイブックスDIGITAL)

 

あらすじ

線香花火だ。

闇の中に散る、光の残像。

俺の横に、彼女はいて、線香花火を見つめていた。

その記憶が蘇る。

火球が落ちると、暗闇になった。

 

一ノ瀬ユウナが浮いていた。

 

一七歳の夏、一ノ瀬ユウナは水難事故でこの世を去った。彼女と幼馴染みで想いを寄せていた遠藤大地は、大きな喪失感と気持ちを打ち明けられなかった後悔で、廃人同然の精神状態で日々を過していたが、年末に一念発起して部屋の掃除をしていた際に、手持ち花火を発見する。それは、ユウナと「今年も花火をしよう」と約束して夏に買い込んでおいた花火だった。

晦日の夜、大地は一人弔いをしようとユウナのお気に入りだった線香花火を灯す。すると、死んだはずのユウナが水難事故にあった当時の様子のまま、水中に浮いているような常態で大地の前に現われた。

どうやら、ユウナの姿が見えるのは大地だけで、彼女を呼ぶ出すことが出来るのは同じ線香花火を灯したときだけらしい。大地はユウナに会うため、何度も線香花火に火をつける。しかし、ユウナを呼び出せる線香花火はもう製造中止になったもの。彼女に会える回数は限られていた――。

 

 

 

 

 

 

『サマーゴースト』の姉妹作

『一ノ瀬ユウナが浮いている』は2021年11月に発売された乙一さん書き下ろしの長編小説。10月に発売された映画のノベライズ『サマーゴースト』に続いての、乙一小説二ヶ月連続刊行です。

www.yofukasikanndann.pink

 

“『サマーゴースト』の姉妹作”と謳われている今作。単行本の装画も『サマーゴースト』の監督でイラストレーターのloundrawさんによるもので関連性を感じさせますが、物語として共通しているのは「花火と幽霊」がモチーフで、線香花火を灯すと簡単に降霊術(?)が出来るというところのみ。ストーリー上の繋がりはまったくない、独立したものとなっています。

 

『サマーゴースト』は「死」を巡る青春小説となっていましたが、こちらの作品は幽霊がらみの恋愛青春小説。ページ数は200ページほどで『サマーゴースト』より若干ボリュームがありで、『サマーゴースト』は原案がloundrawさんでしたが、こちらは乙一による完全書き下ろし小説ということもあり、『サマーゴースト』よりもより“乙一感”は強くなっている印象。乙一というより、中田永一名義の時の作品感に近いかもですが。

 

 

始めから終わりまで、すべてがせつなく哀しい純度100%の初恋物語となっています。

 

 

 

 

 

 

以下、少しネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

「死」によって分かたれた二人 

まだ恋人関係ではなかったものの、お互いに好意を寄せていて、一緒に東京の大学に行こうと約束もしていた友也とユウナ。

告白するぞ!と、思っていた矢先にユウナが突然死んでしまったとあって、友也は悲しみに暮れて茫然自失の状態となる訳ですが、線香花火を灯すと自分にだけ見えるユウナと会えると分かり、生前に読んでいた漫画の続きが出たとか、何かと口実を見つけては線香花火を灯してユウナを呼び出すことを繰り返していく。これによって表面上の情緒が安定し、親や友人からは「ユウナの死を乗り越えられたんだ」と安心されるのですが、幽霊と会い続けるのがまともな状態であるはずもない。

 

(略)俺は前になど進んでいない。彼女の死を乗り越えてもいないし、日常にも戻っていない。定期的に死者を呼び出して語らうことが心の拠り所となっている。そうやって精神を安定させている。しかしその状態が健全であるはずがない。俺はそのことを理解している。

 

しかし、この非日常で非生産的かと思われた友也の行為ですが、高校時代には特にやりたいこともなかった友也は、この経験をしたことでやりがいのある仕事に就きます。そして、様々なところで周りにプラスの作用をもたらしていたりもする。

どんな状態であれ、生きている限りは少なからず周りに影響を与えていくことになるというのが、不毛なだけの恋ではないのだと思えて嬉しいような、生者と死者の違いが明確化されていて一層せつなくなるような・・・。

 

最後はやはり、ユウナとの確りとした別れが描かれてこの物語は終わっています。

乙一作品ですと何かしら仕掛けを期待してしまう読者が多いと思いますが、この物語はそのような細工もなく、直球で悲恋を描いていますね。幽霊との逢瀬ということで性的な部分はなく、本当に「想い」だけが描かれた純愛小説といった仕上がり。

 

とはいえ、不思議な現象でもルールがきちんと決められていたり、会話に少し独特の可笑しさがあるのは乙一ならでは。ユウナは漫画家志望だったということで、集英社、特にジャンプネタが多いのが楽しかったですね。死んだら漫画や小説の続きが読めなくなってしまうって、人によってはくだらなく思えるかもしれないけど当人にとっては切実なのよね・・・(-_-)。

 

『サマーゴースト』もそうですが、冬に発売されたのはちょっと季節はずれな感じで、夏にまた読みたい作品ですね。

気になった方は『サマーゴースト』と合わせて是非。

 

 

 

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ではではまた~