こんばんは、紫栞です。
今回は、貴志祐介さんの『天使の囀り』をご紹介。
あらすじ
終末期医療棟に勤務している精神科医である北島早苗。恋人で作家の高梨光弘は紀行文を書くためにアマゾン探索隊に参加していたのだが、帰国した高梨はすっかり人格が変わっていた。酷い死恐怖症だったにもかかわらず早苗に終末期医療棟での患者の様子をしつこく聞き、「死」について話す様子は嬉々としていて異常そのもの。「頭の中で天使の囀りが聞こえる」と、おかしなことを繰り返し言うようになり、ついには自殺してしまう。
アマゾンで高梨にいったい何があったのか?気になった早苗が調べてみると、調査隊の他メンバーも信じがたい方法で次々と自殺をしていることが分かった。
「死」、「蛇」、「猿」、そして、「天使の囀り」・・・・・・やがて、早苗はおぞましい真相にたどり着くが——。
貴志祐介の”怖すぎ!”ホラー小説
『天使の囀り』は1998年に刊行された長編ホラー小説。貴志祐介さんはホラー、ミステリ、SFと、ジャンルを問わずにヒット作を数多く生み出している凄い作家さん。
私は今までに『青の炎』『黒い家』『悪の教典』『クリムゾンの迷宮』と読んできたのですが。夏なのでホラー小説読みたいなぁと思い、前々から気になっていたものの、前評判で怖気づいて手に取れないでいた『天使の囀り』をこの度やっと読んでみた次第。
当ブログで毎年やっている「夏のオススメ本」として紹介しようと思ってなんですけど・・・・・・えらく遅くなってしまい、九月に。もう夏もいいかげん終わりで涼しくなってきちゃったのですけども(^_^;)、無理やり夏のオススメとして紹介しちゃいます。ご了承下さい。
貴志祐介さんのホラー小説といえば『黒い家』が最も有名かと思うのですが、
『天使の囀り』も『黒い家』と並び評される最強ホラー小説として界隈では有名で、ホラー小説ランキングなどでよく挙げられている作品です。
口コミなどを見るとですね、「日常生活に支障をきたした」「頭がおかしくなりそう」「生理的嫌悪感で吐き気がする」等々、読むのを躊躇させるような怖い感想がズラリと載っていまして。どんだけだよって長年怖気づいて手を出せないでいた訳ですが。
好奇心が勝ってやっとこさ読んでみた結果、口コミで語られていることは誇張ではなく本当だったのだなと。納得、納得の、怖すぎホラー小説でした。
漫画も出ています↓
以下、ネタバレ~
バイオホラー
『黒い家』は保険金がらみの人怖ホラーでしたが(狂いすぎていてもはや化物ホラーみたいになってましたけど)、今作は寄生虫による恐怖を描いたバイオホラーとなっております。
アマゾンで調査隊メンバーは飢えに苦しんでいた際に猿を捕食するのですが、それによって「ブラジル脳線虫」という脳に寄生する線虫に感染してしまう。この「ブラジル脳線虫」ってのが、脳の神経系に干渉することで恐怖を快楽に変え、人間を操作するという恐ろしい寄生虫なんですね。一度この寄生虫を体内に入れてしまうと対処法は一切なし。人格が変わり、「快楽」によって操作されて自ら死ぬように行動させられる。
「天使の囀り」の正体は、寄生した線虫が脳の中で動いている音なんですね。
この「ブラジル脳線虫」というのはもちろん架空の虫ですし、寄生虫が宿主を操るというのもただ聞いただけではSFちっくといいますか、いかにも作り話的に感じてしまうところでしょうが、これが膨大な量の専門知識の羅列と丁寧な学術的説明があることによって現実に起こりえるのではないかと思わせられる。
こういう、確りした資料の読み込みや取材が作品にリアリティを与えるのだなと今作を読んで改めて思いましたね。
これ、序盤では猿を食べたことが原因なのは明らかながらも、死に方があまりにも異常で何かに憑りつかれたようなので、呪いとか心霊系のホラー小説なのかなって気配を漂わせてるんですよ。それが脳に寄生した虫のせいですよって科学的証明がされることによって、より絶望的な恐怖となる。
心霊系ホラーは分からない部分があるからこそ怖いものですが、これは原因も何もかもが解明されているからこそ怖いっていう。この段階を踏んでの恐怖の描き方は巧ですね。
グロい
他、今作の突出している点は、グロいところですね。色々とグロい。
直接的なグロさで特に目立つのは大浴場のところのシーンですかね。「ブラジル脳線虫」に寄生されていきすぎると第四形態ってのが訪れるのですが・・・これがもう、本当に酷い・・・・・・酷いことになるんですよ。
それまで作中に出てきていた人たちが文字通り、見る影もなくなるってのが精神的にキツイ。真一が歌ってるのとかがもう究極にグロテスク。「うわぁ、作者、ここまでやっちゃうの・・・・・・」っていう。読んでいて引いてしまった。
あとグロさとは別に、大浴場のところはハラハラしましたね。「なんで防護服とか着ないで作業してんのーー!!」
で、やっぱ案の定な事になりますし。感染対策は完璧にしていこうよ。
上記した真一ってのはこの本のいわばもう一人の主人公。基本的には精神科医の早苗の視点で描かれているのですが、合間合間に不幸にも「ブラジル脳線虫」の被害にあってしまう28歳フリーター男性・萩野真一の視点が入っています。
この萩野真一、とあるアダルトゲームが大好きで、四六時中そのゲームの事を考えて生きているというイッちまっているオタクなのですが。この真一に関しての描写が巷ではオタクの解像度が高いと話題らしい。確かに、凄くリアリティは感じる。私はアダルトゲームオタクの実態は分からないですけども。
この小説は1998年の作品でおよそ30年ほど前に書かれたものですが、オタクの描写に関しては全く時代を感じさせない。時代が移り行き、あらゆるものが進化しようとも、オタク心理は変わらない。そのことを痛感させられる一冊ですね。そこもまたグロいと言える。
早苗は謎を追う”外側からの視点”ですが、真一は虫に寄生されて人格が変容していく様が描かれる当事者、”内側からの視点”ですからね。真一の語り部分は読みごたえがありました。だからこそあの大浴場シーンがキツイのですが。
個人的には、真一と「蜘蛛」とのところが一番グロかったですね。あそこ、ほんとにヤバいですよ。
コーラとラスト
物語の最後、早苗は痛みに苦しむ末期患者の少年に「ブラジル脳線虫」を寄生させる。「ブラジル脳線虫」が持つ「苦しみ」を「喜び」に変換させる作用で少年を死の恐怖から救おうとしたんですね。
そのおかげで、少年は希望に溢れた心持で穏やかに死んでいく。線虫がもたらす幸福は偽りだが、たとえ偽りでもそれは救いになりえる。ここまでの恐怖を経て、胸が締め付けられる結末です。
このシーンの前に、早苗が感染してしまった依田に渡されたコーラを飲むシーンがありまして、このコーラで早苗も実は感染してしまったのでは?という考察があるようです。
確かに、私も「おいおい、コーラ飲んで大丈夫だったんかよ」と思いましたが、飲ませた後も依田はグラス入りの牛乳を飲ませようとしてきたし、缶のコーラには虫を混入させていなかったのではないかと思う。最終章での早苗には快楽におぼれている描写はまったくないし、警察に出頭すると言っているし。
変に考えず、書かれているままのラストを受け入れていいと思う。個人的にはそう思っておきたい。
グロくておぞましいホラーでだいぶ人を選ぶ作品ではありますが、単純なホラーというだけでなく、色々と考えさせられる深みのある一冊となっていますので、夏の終わりに是非。
ではではまた~
