夜ふかし閑談

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『スイート・マイホーム』ネタバレ・考察 オゾミス?映画のラストはどうなる?

こんばんは、紫栞です。

今回は神津凛子さんの『スイート・マイホーム』をご紹介。

スイート・マイホーム (講談社文庫)

 

あらすじ

三年前に結婚し、長野で妻と幼い娘と共にアパート暮らしをしていた清沢賢二は、ある日ポストに投函されていた“まほうの家”というキャッチコピーに「冬でも半袖一枚で過ごせる暖かさ」と書かれたチラシに心奪われる。

長野の冬は厳しく、東京生まれの賢二は毎年閉口していた。住宅展示場に行き、地下のエアコン一つで予想以上の暖かさを保つ家に感動した賢二は、寒がりの妻と娘のためにもと“まほうの家”を建てる決心をする。

完成した新居は快適だった。二人目の娘も産まれて日々幸せを噛み締めていた清沢一家だったが、周辺で立て続けに異変が起こり、家の中では得体の知れぬ気配が常につきまとうように。さらには一家に関わる人物が不審な死を遂げて――。

 

一体この家では何が起きているのか?家に漂う“それ”の正体とは?

 

 

 

 

 

 

 

オゾミス?

『スイート・マイホーム』は2019年に刊行された長編小説。第13回小説現代長編新人賞受賞作で、神津凛子さんのデビュー作。

監督を斎藤工さん、主演を窪田正孝さんで、この作品を原作とする映画が2023年に公開予定です。

 

私が買った文庫版ですと、とにかく帯での広告文の数やレイアウトが凄まじくって、裏には数人の著名人による怖さとおぞましさを賞賛するコメント、表は「恐怖の声、続々!」「怖い!怖すぎる!!」「まさにオゾミス!」と、でかでかと煽り文句が躍っていました。

週刊誌の表紙ばりで、もう見た目から凄そうな本だなと手を取ってしまう感じ。恐いもの見たさが刺激されるといいますか。

 

“オゾミス”ってなんぞ?ですが、「おぞましいミステリ」の略称ということらしい。

 

後味が悪い、いやぁ~な読後感のミステリの略称“イヤミス”はもうミステリ界隈では知れ渡っているといいますか、もはやミステリの一つのジャンルとして確立されているかなぁといったところですが、“オゾミス”というのはそのイヤミスの後味の悪さの上位版?進化版?で、“嫌”を通り越して“おぞましい”ミステリだよと。

 

本の解説をホラー漫画家の伊藤潤二さんがされているので、「怖い!」のデカ字の売り文句と相まってホラー小説の印象が強くなりがちですが、“オゾミス”というからにはちゃんとミステリです。

殺人事件が起こって、犯人がいて、最後には犯人が判明する。

 

 

読んでみての率直な感想としては、ホラーとミステリが絶妙な匙加減で融合している作品だなと。ホラーもミステリも上手い具合に愉しめる。サスペンスの要素も強いので、ジャンル分けが難しいですかね。

若干わざとらしさはありますが、先が気になる描き方とデビュー作とは思えない巧みな文章でグイグイ読ませてくれます。

 

 

“オゾミス”と銘打たれてはいますが、イヤミス系のものを読み慣れている人にとっては許容範囲なのではないかと。「怖い!」「おぞましい!」の謳い文句に必要以上にビビる必要はなく、かえってホラーやミステリ小説を読み慣れていない人にこそオススメしたい一冊。

 

とはいえ、普通の感覚からすれば十分すぎるほどおぞましいのは間違いないのですけども。実生活でこんな事が起こったら絶対に嫌ですよ。

特にラストは耐えられない人も多いですかね。映画化されるってことですが、原作通りのラストにするのだとしたら私もラストシーンは観たくないなぁと思う。

 

 

 

 

 

マイホーム

言うまでもなく、「家」というのは人生を左右する大きな買い物。住居環境は精神状況・家族関係に直接的に作用するものですが、いざ住んでみて嫌だと思っても大枚叩いて買った家はそうそう手放すことは出来ない。嫌でも「マイホーム」として受け入れ、そこに帰るしかない。

 

この物語は、そんな取り返しのつかない買い物、「家」を購入するところから始まります。

清沢一家が購入を決めたこの“まほうの家”、地下にあるエアコン一つから出る温風が循環パイプを通って家全体が暖まるというセントラルヒーティング方式の家で、年中暖かく快適に過ごせるのだとか。

 

エアコンはずっとつけっぱなしにするのが基本とのことで、それだと電気代が相当いくんじゃ・・・ってなりますが、年中つけておくことで保温状態を保つことになるからそんなにかからないということらしい。

しかし、作中の「毎月二万円程度の電気代ですむ」という説明には「ホントに?」となってしまいますが。

 

舞台が長野で寒さが厳しいので、扉が凍り付くのにも結露にも悩まされないなんて夢のようだなってな感じで“まほうの家”として描かれる。作者の神津凛子さんは長野県生まれの長野県在住で、実際にこの方式の家を建てたんだそうな。

 

寒冷地の人間にとっては夢のような“まほうの家”。しかし、この家の設定がホラーとして、ミステリの仕掛けとして、物語に存分に活かされている。“まほうの家”によって清沢一家は恐怖のどん底にたたきつけられるのです。 

 

「家」が舞台のホラーでは定石。物音がする、変なものが見えた、子供が何もないところを見つめて笑っている…等々、「この家には私たち以外の“なにか”がいる!」現象がはじまる訳ですね。

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理想の家族

なにかいる!・・・気配がする訳ですが、その通り、“いる”んですよ。幽霊だなんだではなく、確実に存在していて“モロ”なものが家にいるのです。

 

よくある、もっとも怖いのは生きている人間だよ~なホラーですね。

 

作中では心霊現象だと最初とらえられているんですけど、現実でも心霊現象の中身やカラクリって実はこんな事が多いのではないかという気がする。常軌を逸した行動をとる者がいて、それによって起こった出来事を怪異と結び付けてしまう。

これは深く考えることを無意識に拒否しているってことなのですかね。幽霊の仕業だと思うよりも、人間の仕業だと認める方がずっと怖いしおぞましいという状況はありますよ。

 

印象としては貴志祐介さんの『黒い家』ぽい怖さですけど、

 

 

 

全然、あの、あそこまでではないというか、大丈夫です。(『黒い家』がとにかく怖すぎるのですよね・・・)

 

 

主人公の清沢賢二はイケメンのスポーツインストラクターで、可愛らしい妻と娘と共に過している。

犯人は外見の良さと家族の形に強いこだわりがあり、容姿が優れている夫婦と一人娘という三人家族の清沢一家を「理想の家族」として自己投影し、執着する。(何故一人娘じゃないとダメなのかは不明)

 

しかし、主人公の賢二は事が起こる前から職場の同僚と浮気をしていまして、この時点でもう犯人の思う「理想の家族」とは違う。そもそも他人の家族で自分の理想をかなえようというのが無理なことですが、犯人は「浮気相手」「二人目の娘」と、自分の理想とは違うものを過激なやりかたで排除しようとして怖い事になる訳です。

 

 

『スイート・マイホーム』というタイトルなだけあって、この物語は「家族」がテーマ。

「理想の家族」を狂気的に追求する犯人に遭遇することによって、主人公である賢二の妻子に対する想いだけでなく、実家に関しての隠された真相も明らかになる。

 

読み始めは「イケメンインストラクターの浮気男ムカツクぜ」って感じですが、賢二の実家関連の話が進行している事件同様に物語を引っ張ってくれます。

夫婦、母と子、父と子、兄弟と、家族の関係性が諸々一冊に詰め込まれている家族小説で、それが主なのかなと。欲張りすぎたためか、各要素突き詰めきれていない感は少しありますけどね。

 

犯人も、賢二の実家の事に関しての真相も、読者には中盤で察しがつくように書かれていてその予想のまま結末を迎えるので、ミステリとしてはもう一捻り欲しいと思ってしまうところですが、あえてホラーやミステリ要素がいきすぎないようにバランスをとっているのかとも思います。

 

最後のショッキングな結末も、序文でほぼ明かされていますので驚きはないんですよね。個人的にはこの結末はとってつけたような“やりすぎ感”で「ちょっとなぁ・・・」でしたけど。アレをやるなら、もっと人物の感情の揺れ動きを描いてくれないと説得力に欠けてしまう。

 

櫛木理宇さんの『死刑にいたる病』とかもそうでしたが、この手の話は最後のダメ押しをしたくなるものなのですかね。

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“許せない。私の家族に手を出す者、壊そうとする者を許せない。”

と、犯人と対峙している賢二が、実際のところは自分の身勝手さで妻子と実家、自分の二つの家族を壊してしまっているというのが皮肉。そもそも、浮気していたくせに何言ってんだではありますがね。

 

これもまたホラーでの“オキマリ”ではありますが、善人である甘利さんや賢二の兄・聡、無垢なユキが酷い目に遭ってしまうのは読んでいて辛い。特に賢二のお兄さん、あんな部屋で長年住み続ければそりゃ病気にもなるよなぁ・・・。

 

 

この物語をどう映画化するのか気になるところです。ホラー、ミステリ、サスペンス、家族・・・どの要素を強くするかで作品の印象が大きく左右されそうですね。統合失調症など、デリケートな部分もありますし。

個人的に、主人公と役者さんのイメージが違うので、ストーリーや設定を変えるのかもなぁという気も。やっぱり一番気になるのはラストですけどね。

 

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ホラーやミステリに慣れてない人でも読みやすい作品ですので、映画化などで気になった方は是非。

 

 

 

 

 

ではではまた~