こんばんは、紫栞です。
今回は奥田英朗さんの『噂の女』をご紹介。
今BS JAPANで放送中の連続ドラマ「噂の女」の原作本ですね。
あらすじ
「あくまでも噂やでね」
高校までは成績も容姿も平凡、男子とはほとんど口を利かないような印象に残らない女子生徒だった糸井美幸。短大時代に人が変わったように垢抜け、色気を振りまく“男好きする女”へと変貌した彼女は、手練手管と肉体を武器に男を手玉に取ってのし上がっていく。そんな彼女の周りでは不審な男の死が後を絶たず・・・・・・。
本心がわからない謎の女と、そんな「噂の女」に翻弄される人々。小さな地方都市で彼女の黒い噂は加速していく。噂を聞きつけ、ついに警察が内偵に乗り出すが・・・。
はたして彼女の行く末は?
この街ではいつもどこかで糸井美幸の噂話に花が咲く。
短編?長編?
奥田さんは人気作家で著作もかなりの数が映像化されていますね。非常に人間くさい人物描写や、スピード感溢れるストーリー展開でとにかくグイグイ読ませてくれる作品が多いです。このブログでも前に『ナオミとカナコ』の記事を書きましたが、
他に『邪魔』や『最悪』などもオススメ。
人物描写がとにかく巧みなので、群像劇が凄く面白いんですね~。
さて、この『噂の女』。各目次で語り手が変わる短編集という形態を取っていますが、一話一話で作中の事態に決着やオチがつく事もなく、各語り手達の“どん詰まり感”が示されて終わる形がほとんどなので、読み始めは作者の意図がわからずに困惑します。読み進めていくと段々とつかめてきて全体像が露わに。なので、短編集や連作短編などというよりは、1冊で一つの作品の長編小説だと思った方が良いかと思います。短編集だと思って各話でのオチを求めて読むとダメかな~と(^^;)出版社や商品サイトでの紹介文も「長編小説」、「短編集」、「連作長編」とまちまちですね。
目次
●中古車販売店の女
●麻雀荘の女
●料理教室の女
●マンションの女
●パチンコの女
●柳ヶ瀬の女
●和服の女
●檀家の女
●内偵の女
●スカイツリーの女
以上の10話構成。糸井美幸の20代前半から後半までの経過が描かれます。
各話すべて語り手は異なりますが、共通するのは糸井美幸が大なり小なり関わってくるところ。全話、“糸井美幸の噂”が主軸となっておりますが、肝心の糸井美幸自体の語りは皆無。ですので、糸井美幸がホントの処どういった女で、何を考えているのか、何をしたのかは最後まで読者にはわからずじまい。
人々の数々の“噂”によって、実態は明かされぬままに糸井美幸という女の人物像が浮かび上がっていくという作りになっております。まさにタイトル通りの「噂の女」。
私は未読ですが、こういった構成や悪女を扱っている点など、有吉佐和子さんの『悪女について』
を連想される方が多いみたいです。こちらは二十七人のインタビューからなるお話なんだとか。“悪女もの”ではかなりの有名作。
最近では2012年に沢尻エリカ主演でドラマ化もされています↓
ドラマとの違い
ドラマで肝心要の糸井美幸を演じるのは、ゴールデンタイムでの連続ドラマ初主演の足立梨花さん。
原作の糸井美幸は美人ではないが、唇が厚くて肉感的な体型の“妙にそそる”男好きする女。作中ではやたら胸とお尻が強調されていました。足立梨花さんはどちらかというとスレンダーなモデル体型って感じなので、そこら辺は原作と違いますね。
しかし、何となく“男ウケが良さそう”という雰囲気はあるので(個人的な見解ですが)、その面では役にあっているのかも知れません。ドラマ第一話観ましたが、お尻と足が強調されていましたね(^^;)
このお話は糸井美幸以外に主要人物というのがいないので、ドラマは各話ゲストが大方の割合を占めることになると思います。
それでもドラマの公式サイトには主要キャストのところに
●鹿島尚之(刑事)―中村俊介
●松崎健吾(市長)―石丸謙二郎
●村井浩二(刑事)―田山涼成
と、ある。
鹿島と村井の二人の刑事は、原作の終盤「内偵の女」でやっと出て来る人物です。「内偵の女」は鹿島が語り手をしているお話で、村井から頼まれた事件を調べるうちに噂を聞きつけ、糸井美幸への内偵調査を始めるストーリーです。
原作では終盤のみ登場の刑事さん達を、ドラマでは糸井美幸とニアミスを繰り返しつつ、毎週登場させるみたいですね。田舎で滅多に事件が起きない署の刑事さんという事で、原作よりも大分のんびり・のほほんとした人物設定になっていました。原作ではもっとしっかり“刑事”していますよ。
市長の松崎健吾というのは原作には登場しない(と、思うのですが。名前だけどこかに出ていたらすみません^^;)のでドラマオリジナルですかね。
また、ドラマでは糸井美幸(足立梨花)が赤ん坊を抱えながら男達に追われているシーンが導入部分になっていましたが、原作にはこのようなシーンはないのでこれもオリジナルですね。原作にも赤ん坊は出て来るのですが、本の終盤で何故か(ホント何故か)存在がかき消えてしまうので、ドラマでは赤ん坊関連を掘り下げて描くのかなぁ~?
まだ第一話観ただけですが、オリジナル要素が強いドラマになりそうな予感がしますね。
以下ネタバレ~
田舎あるある
『噂の女』は地方都市が舞台。田舎だからこそ“噂”がすぐに蔓延する様が描かれているのですが、地方都市特有のしがらみ・決まり・面倒くささが「これでもかっ!」と書かれていて読んでいると大変嫌気がさしてくる(笑)
しかも、この「田舎の嫌なところ」、リアリティが凄くある。私自身、田舎に住んでいるので聞き覚えがあるような話が目白押しで、普段耳にしている“噂”の中身を見ているような妙な感覚に襲われました。そうです・・・田舎ってね、良いところばかりじゃないんですよ・・・(-_-)
しかし、最終話「スカイツリーの女」に出て来る〈刺身の女体盛り〉にはさすがに私もドン引きしましたが(笑)セクハラ無礼講も。今のご時世、さすがにコレは・・・。うーん。でもやっているとこはやっているのですかねぇ~・・・どうなんだろう(^_^;)
それともコレは作者のユーモアなのでしょうか?男達の過剰に下品な物言いとかも。全然笑えないけど。
痛快?
糸井美幸は中古車販売店の親会社社長、土建会社社長、不動産会社経営の資産家、県会議員と愛人を渡り歩き、事務員から高級クラブのママにまでのし上がっていきます。
「そうです。糸井って女は、これという男には色目を使って近づいて、男女の関係になって、パトロンにして、金品を引っ張り出して、用がなくなったら捨てるっていう、そういう女なんです」
と、まぁ、酷い女なんですけど。
田舎町の平凡な女が、いけ好かない男どもを食い物にしてのし上がってゆくというのは、女性としては痛快で爽快な思いを抱いてしまったりもします。最終話「スカイツリーの女」での語り手・星野美里も、糸井美幸に尊敬の念を抱いていて愉快な気分にひたるのですが。
しかし、上記の“用がなくなったら捨てる”コレ、殺しているんですよね。保険金殺人なんですよ。
「田舎の普通の女がやれることで一番デカイことって保険金殺人」
「金持ちの愛人を殺すぐらい、女には正当防衛」
「世界中どの国でも、女に殺される男の数より、男に殺される女の数の方がはるかに多いやん。やったら法律もバランスを取るべきやと思う。女が男の百倍殺されとるなら、女が男を殺しても、罪の重さは百分の一やて」
上記はいずれも作中の言葉ですが。
これはまぁ極論というか暴論ですよね。善良に生きている男の人にはとんでもない意見だと思います。
しかして、女性が常に虐げられてきたというのは歴史的事実なので、この暴論にも一理あるなぁとは思っちゃいますが。
ですけど・・・やっぱり殺しちゃうのは「やりすぎ」かなぁと。男たちからお金をふんだくっていくまでは痛快に楽しめますが殺人となると・・・。痛快だとかそういう雰囲気じゃなくなっちゃいますね。個人的には「スカイツリーの女」の美里のように糸井美幸を応援しようなんて気にはなれません。
作中では、最終的に糸井美幸が同性の支持を集めるように書かれていますが、保険金殺人や愛人の斡旋などをしていたような女が同性の支持を集められるのか疑問です。そもそも“美人ではないが男ウケする女”って、女が嫌いな女の典型的要素の一つですし。実際には“ただの卑しい女”って思われて終わりなような気がする。
噂の女
この小説ですが、噂の女・糸井美幸の心中が明かされないのもそうですが、素性も最後までほとんどわからないままです。
途中でヤクザの弟が出て来ますが、これがホント出て来るだけというか、なんもない。もうちょっと素性に関しての噂話があってもいいんじゃないかなぁ~と感じますが、これくらいぼかした情報量の方が噂話としてのリアリティ(?)があって良いのかも知れませんね。
ドラマチックなことがまるでない人生だから、せめて他人のドラマを楽しみたい。
下品で不愉快な場面の連続だけれど、それでもページをめくってしまう。下世話な好奇心を刺激されたい方にオススメの小説です。是非是非。
ではではまた~