こんばんは、紫栞です。
今回は京極夏彦さんの『虚談』をご紹介。
角川から比較的定期的に刊行されている【現代怪談シリーズ】の新刊。主に怪談専門誌「幽」にて掲載されたお話を集めた怪談短編集です。
今までに
『幽談』
『冥談』
『眩談』
『鬼談』
の4冊が刊行されています。
個人的には『幽談』と『鬼談』がお気に入り。どの本も短編集で1冊300ページちょいなので、京極夏彦初心者でもとっつきやすいシリーズかと思います。ぶ厚くない京極作品(笑)各本、テーマに沿ったお話が収録されている作品集なので、順番とか気にせずにどの本から読んでもOK。
只今「三社横断 京極夏彦新刊祭」開催中。この角川の『虚談』と
講談社の『鉄鼠の檻 愛蔵版』
新潮社の『ヒトごろし』
の、各単行本の帯についているパスワードを全て集めると2018年11月30日までの期間限定サイトで【百鬼夜行シリーズ】の書き下ろし新作短編が読めます。しかもその短編作品の内容は『ヒトごろし』『虚談』の二作品ともリンクする内容なんですと。まったく、ファンの心を揺さぶるキャンペーンですよね・・・(-_-)
『鉄鼠の檻』や『ヒトごろし』は1000ページ越えの大作なので、比べると『虚談』はだいぶ薄く感じますね(本の厚さが)。
目次
収録作品は
●レシピ
●ちくら
●ベンチ
●クラス
●キイロ
●シノビ
●ムエン
●ハウス
●リアル
の9編。全部三文字。「ちくら」だけ平仮名。
各話だいたい30ページほどですので非常に読みやすい。「怪談の短編小説読んだぐらいでビビったりしないさ」とか侮ってかかると結構怖い(笑)
今までの【現代怪談シリーズ】は怖い話以外にもノスタルジーちっくなものや不思議系話、講談的なものなどバラエティーに富んだラインナップの短編集って感じでしたが、今回の『虚談』は全編正統派(?)な“怪談”だった印象ですね。どのお話も読後がゾッとします。
現実と虚構
『虚談』はこれまで単体の短編が収録されていた【現代怪談シリーズ】とは違い、9編すべてに共通する点があります。お話の語り手が一貫して同じ人物なのです。短編は短編でも今回は“連作集”ですね。
さて、この語り手の「僕」ですが、これが明らかに作者の京極夏彦自身を模した人物でして。
「元デザイナーで小説家」
「将来の職業として僧侶を志望していた」
「結婚が早い」
「酒を飲まない」
等々・・・。
ファンならすぐに気が付き、引っかかる箇所がチラホラリ。「僕」の名前は最後まで明かされないままですが、作中で“ナッちゃん”と呼ばれているところもあります。
この本の9編すべて、作者が自身の体験談や周りから持ち掛けられた相談を語っているように書かれているのですが。まぁ“嘘”なんですよね。虚構。作り話。
・・・・・・・・と、思うんですけど。ひょっとしたら本当に体験したことが書いてあるのかも知れないし、すべてじゃなくっても9編の内の何話かとか、またはお話の一部分がとか、現実にあった事なのかも。何だか凄くリアリティのある箇所もあるし。
・・・・・・いやいや、そのリアリティもすべて含めて作者の技巧で、やっぱりこの連作集は一から十まで正真正銘作り話なのかも・・・・・・う~んう~ん。
と、はい。え~何が言いたいのかというと(^^;)
語り手の「僕」が作者自身だという風に書かれている、この設定自体が読者に現実と虚構の境界が曖昧になる混乱を与えているという事ですね。
『虚談』は虚構・嘘がテーマの連作集。お話の内容も9編すべて、現実と虚構の境界線が曖昧になってしまう怖さを描いています。自分の認識を疑ってしまうことへの恐怖といいますか。当たり前だと思っている価値観が揺らいでしまう不安感・恐怖ですね。
今のこの世界、自分もなにも、何から何まで嘘なのかも知れない。
そんなような浮遊感、疑問は頭を掠めはするけれども、深く考えることはせずに皆蓋をして見て見ぬ振りをしている。“現実”を信じなければまともに生活など出来ないのだから。
この『虚談』では、その皆が見て見ぬ振りをしている部分が示され、言いようのない不安・恐怖を読者に与えます。
夢も、現実もない。何もないんだ。
そこのところに気付いてしまったら、もう取り返しはつかないぜ。
通常の怪談話とはまた違った恐怖が味わえる連作集となっておりますね。怖いですよ~。
私は初っぱなの「レシピ」からもう怖かったです。ゾッとしましたね(侮っていたというのもありますが^^;)。全体にいえることですが、「クラス」や「キイロ」など、“どんでん返し怪談”って感じで予測がつかない面白さがあります。
「ちくら」や「ハウス」はドラマ化出来そうな正統派怪談。
9編の中で一番リアリティを感じるというか、実体験なのでは?と思ってしまうのは「ベンチ」ですね。幼少期の思い出として語られているお話です。「ムエン」も読んでいて「ありそ~」と感じちゃいました。
作者自身を模した語り手ということで、会話部分はコミカルで笑っちゃうというか、呆れちゃうようなところもあります。特に「シノビ」は「何だ、その、ひたすらマニアックな蘊蓄は」と可笑しかったです。このお話読むと忍者に詳しくなれますぞ(笑)
最後の「リアル」で、この本は綺麗に結ばれています。京極作品らしい完成された結末ですね。
『虚談』以外の【現代怪談シリーズ】の短編集もバラエティーに富んでいて面白いですが、連作集は“まとまり感”があって9編すべてで一つの作品というのが良いですね。
是非、夜、寝る前に読んでこの本ならではの独特の恐怖を味わって下さい。
ではではまた~