こんばんは、紫栞です。
今回は木内一裕さんの『アウト&アウト』をご紹介。
2118年11月16日から全国ロードショーされる映画の原作本です。
あらすじ
矢能政男、46歳、独身。職業は探偵(見習い)。前歴は日本最大の暴力団・菱口組の最高幹部の側近をしていたヤクザ者。訳アリで小学校二年生の女の子・黒木栞の後見人をすることになり、ヤクザから足を洗って探偵を始めて八ヶ月。二人で暮らしているが、言動はヤクザ時代と変わらず粗暴なまま。まともに依頼を受けず、小学生の栞に説教をされる毎日を過ごしていた。
ある日、矢能の元に「ある人間を調べて欲しい」と依頼の電話がかかってくる。しかし、矢能が呼び出された場所に行ってみると、そこには依頼人の死体と「クリントン」の覆面を被って拳銃を持った若い男が。
図らずも目撃者となり、窮地に追い込まれた矢能。だが、覆面男は「しないですむ殺しはしないですませたい」と言い、持っていた拳銃の弾倉に矢能の指紋をつけ、これを“保険”として矢能と死体を置いて立ち去った。
知恵と機転で困難を上手く乗り越えたと達成感と高揚感に満たされる覆面男。これが周到に用意した殺人計画の大誤算になることも知らずに――。
人殺しの若造に嘗められたことに立腹した矢能は、独自のルートを駆使して反撃を開始する。
アウトだらけのエンタメ小説!
作者の木内一裕さんは小説家としては映画化された『藁の楯』
の作者として有名ですかね。漫画家で『BE-BOP-HIGHSCHOOL』
BE-BOP HIGHSCHOOL 高校与太郎大胆不敵編 アンコール刊行 (講談社プラチナコミックス)
- 作者: きうちかずひろ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2018/01/10
- メディア: コミック
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の“きうちかずひろ”と同一人物。
今作は『アウト&アウト』というタイトルの通り、登場するのは裏社会の情報屋、不良刑事、元弟分のヤクザ、死体の掃除屋・・・と、道から外れている者ばかり。そんな中でもひときわ毒っ気があるのが主人公の矢能。口では「もうヤクザじゃない」「カタギになった」と事あるごとに言いますが、見た目も言動も考え方もまんまヤクザの“ソレ”のまま。極道の道を歩いたまま「探偵」と名乗っているだけって感じで、とてもお近づきにはなりたくない人種・・・と、この設定だともうハードボイルド一直線なお話になりそうですが、ここに小学生の女の子・栞や、隠れ家に使いがてら時折様子を見に行っているお婆さんなどが出て来ることで作品雰囲気が中和されています。
お話としては“敵側”になる登場人物達も魅力的ですし、ストーリー展開も先がよめず、スピーディーで一気に引き込まれます。途中切なくさせる部分などがありつつ、決着のつけかたはこの作品ならではの痛快なものでコミカルさもあり「これぞエンタメ!」で、非常に楽しく、面白く読む事が出来ました。
前日譚・続編
この作品、私は映画化されるというので興味を持って読み始めたのですが、矢能と栞にはだいぶ込み入った事情や経緯があったみたいだけど詳しく書かれてないなぁ~と思ったら、ちゃんとこのお話の前日譚が描かれている『水の中の犬』という作品があるらしいと文庫版の野崎六助さんによる「解説」で知りました。
で、「面白かった~!続編ないのかな?」と思って調べてみたら続編も二冊刊行されているとのこと。勝手に単発ものだと思い込んでいたので、シリーズだと知って嬉しかったです(^^)
矢能シリーズ(で、良いのかな?)の順番は
『水の中の犬』
『アウト&アウト』
『バードドッグ』
『ドッグレース』
の、今のところ4作品。
矢能が主役になるのは今作の『アウト&アウト』からで、シリーズ第一作の『水の中の犬』では主役が異なり、矢能は脇で登場とのこと。
シリーズ4作目の『ドッグレース』は今年刊行されたばかりのようです。
私は『アウト&アウト』がだいぶ気に入ってしまったので、もうシリーズ全部読む事に決めて既に二冊買ってしまいました(^^;)落ち着いたら一気読みしようと意気込んでおります。
※読みました!詳しくはこちら↓
映画
映画ですが、監督は「きうちかずひろ」さんです。つまり著者の木内一裕さん本人ですね。
お話を書いた本人が監督されるなら、原作と違うウンヌンとか諸々の文句は言いようもないってな気がしますね。だって御本人が撮っているのだもの。
しかし、漫画家で、小説家で、映画監督でって多彩な方ですね~。
キャストは以下の通り
矢能政男-遠藤憲一
黒木栞-白鳥玉季
情報屋-竹中直人
婆さん-高畑淳子
池上数馬-岩井拳士朗
北川理恵-小宮有紗
鶴丸清彦-要潤
公式サイトで写真つきで紹介されているのは上記の方々。
原作に出て来るヤクザの工藤や篠木、警官の次三郎、池上数馬の師である堂島哲士なども小説では重要な登場人物達です。映画ではどうなっているのか気になるところ。
矢能は原作だと
ハンサムにはほど遠い顔立ちだが醜男とも懸け離れている。甘さのない顔だが男臭い顔というわけでもない。歳は四十代半ばだろう。アメリカの映画俳優ウィレム・デフォーに少し似ているように思った。マッチョではないがタフな男の顔だった。
と、ある。
イメージぴったり!と、いうか・・・私は読む前に主演キャストをすでに知っている状態だったので最初から遠藤さんのイメージで読んでしまったのですが・・・(^^;)いや、でもぴったりだと思う・・・。
原作の矢能は四十代半ばの設定なので、現在五十代後半の遠藤さんとは年齢がだいぶ異なる。うーん、でも強面は年齢不詳になりがちなので別に問題ないんですかね。
年齢で言うと、原作の婆さんは八十近い設定なので、こちらは逆に高畑さんだとだいぶ若いですね。
映画の公式サイトでの予告を見ると、かなりシリアスというかハードボイルドが強めの感じですね。小説の方は個人的主観としてはもうちょっとコミカルさがあるように思うのですが。まぁ観てみないことには何とも言えないですけど、コミカルさはなくさないで欲しいなぁ~と思います。
以下若干のネタバレ~
“どっちつかず”の魅力
この小説は
第一章 発端
第二章 もう一つの発端
第三章 追撃
第四章 さらに追撃
の、四つの章で成り立っています。
第一章の「発端」で矢能が事件を追うことになる発端が矢能視点で描かれ、第二章の「もう一つの発端」では矢能が殺人現場で鉢合わせた犯人の覆面男・池上数馬の殺人を起こす経緯が池上数馬視点で描かれます。
読者としては「あ、じゃあ三章と四章も矢能視点と数馬視点で交互なのかな?」と思ってしまうところですが、この予想はあっさりと良い意味で裏切られます。どのように展開するかは是非読んでお確かめ頂きたい(^^)
覆面男の数馬ですが、犯人なんですけども格好良くっていい男なんですよね。バックボーンも主人公かってくらいに確り描かれていて、第二章の前半を読んでいる間は本来の主役である矢能を失念してしまいそうな勢い。まぁ第二章の後半で矢能の圧倒的存在感を思い出すんですけども・・・。
矢能や数馬もそうですが、この小説では主要人物たちが悪人・善人と綺麗にわかれて描かれてはいません。お話としては敵側の堂島や鶴丸も、根っからの悪人という訳ではなく、様々な経緯の末の結果がこうなってしまったという感じ。諸悪の根源である鶴丸清彦も3年前の事件直前は改心の兆候を見せていたし、一応、罪悪感も持ち合わせていたようですし。弱いから流され捲くって駄目駄目でしょうもない男になっちゃって(-_-)この人間くささが登場人物達の魅力になっていますね。
唯一例外的な存在として描かれているのは栞ですね。子供だからというのもありますが、数馬が堂島との電話で「絶対に、私を騙さない相手」と言ったのが印象的でした。ここら辺の数馬の終盤シーンは切なくて哀しかったですね・・・。エピローグで少し救われましたが。
他、イチオシ!ポイント
栞ちゃんがカワイイ。小学二年生ですが、やたら聡明で大人びていて口が達者。それでいて、ちゃんと可愛げもある。
血も涙もないような危険人物の矢能ですが、栞のことを大事にしているのだけはどうやら本当らしく、強気に出られなっくって頭が上がりません。矢能と栞との会話は読んでいる分には完全に夫と女房の会話にしか思えなくって可笑しいです(^^)シリアスなシーンでのやり取りまで夫婦のようでさらに可笑しい。
個人的に無愛想男と子供のコンビが好きなので(ブラックジャックとか)、ここら辺のやりとりはドンピシャでした。私と同じく、こういったコンビが好きな方は是非。
ハードボイルド小説に苦手意識がある人も多いかと思いますが、栞ちゃんとのやり取りもあるせいか、ハードボイルドの主人公特有の男性作家的「こいつカッコイイだろ」感(好き勝手しているだけなのに女に言い寄られる・・・など^^;)が薄く、ヤクザなど裏世界とのやり取りもノワール小説程の暗さや重さが無く、娯楽小説としての側面が強めなので読みやすいと思います。
とにかくオススメ!ですので是非是非。
ではではまた~