夜ふかし閑談

夜更けの無駄話。おもにミステリー中心に小説、漫画、ドラマ、映画などの紹介・感想をお届けします

木内一裕 『ドッグレース』矢能シリーズ第4弾!今度はヤバい人捜し!

こんばんは、紫栞です。今回は木内一裕さんの『ドッグレース』をご紹介。

 

ドッグレース (講談社文庫)

 

あらすじ

ドラッグ密売人の児島康介は、ある日顧客の一人であるガスからドラッグ料金の代わりとして高級腕時計とネックレスを受け取った。翌日、人気俳優・松村保と歌姫・夏川サラが殺される事件が発生。松村保とドラック密売で悶着を起していた児島は、ニュースを見ていい気味だと溜飲を下げていたが、翌週になって自宅に警察が訪れ、部屋にあった腕時計とネックレスを押収して児島を逮捕した。

腕時計とネックレスは松村保と夏川サラの所持品だった。ガスから貰ったもので、犯人はあいつだと児島は警察に訴えるが、ガスこと西崎貴洋は数日前にドラッグの過剰摂取で数日前に死亡したと知らされる。

進退窮まった児島は弁護士を通じて元ヤクザの探偵・矢能にある人捜しを依頼するが――。

裏世界のヤバすぎる人捜し。ヤクザと警察に完全包囲されるなか、矢能の物騒な調査が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訳あり冤罪事件

『ドッグレース』は元凄腕ヤクザの探偵・矢能が裏社会の厄介事を独自の方法で解決してゆくシリーズ、【矢能シリーズ】の第4作目。

 

このシリーズは作品事に趣向が異なり、1作目の『水の中の犬』は矢能が探偵になる前日譚的物語りでゴリゴリのハードボイルドでノワール的。

 

www.yofukasikanndann.pink

 

2作目の『アウト&アウト』は二つの視点で描かれる一つの事件。

 

www.yofukasikanndann.pink

 

3作目の『バードドッグ』は容疑者が全員ヤクザの犯人当て。

 

 

www.yofukasikanndann.pink

 

で、4作目の『ドッグレース』で描かれるのは最高難度の人捜し。

今まではヤクザや裏社会の人間ばかりを相手にするものが殆どで、警察のあずかり知らぬ所で落とし前をつけるってな感じでしたが、今作では検察と警察が冤罪事件発覚を阻止するべく執拗に矢能の邪魔をしてきます。ヤクザはヤクザで矢能に探られると困る事情があるらしく、こちらもまた全力で阻止してくるので、今回矢能は警察とヤクザの双方を相手にしなければならない大変さです。

 

今まではオマケ程度に事務所に顔を出して意味のない恫喝をしていくだけだった組対四課のキツネ顔マンボウのマル暴刑事コンビも、検察からの要請で矢能にべったりと張り付き、監視して何処に行くにもつけ回してきまして、読んでいるとこれが大層忌々しい。捜査一課の刑事も得手勝手な理由で妨害してくるしでなんともはや。

 

仕事のやり方がいつも怖いもの知らずな矢能ですけども、今作では今までに以上に危ない橋を渡っています。ドンパチや乱闘、逮捕されたりとスリリングな場面が目白押し。前作の『バードドッグ』は犯人当てとあってミステリ要素が強めでしたが、今作はハードボイルド要素が強めですかね。真犯人はすでに死んでしまっているので、人捜しと冤罪事件をどう晴らすかがテーマです。

 

しかし、エンタメとして最高に楽しませてくれるのはやはり相変わらず。お馴染みのメンバーである情報屋、後輩ヤクザの工藤、不良刑事の次三郎、六番町の婆さんと総出演で、前作『バードドッグ』に登場した工藤のところの下っ端組員の篠木は今回も運転手として、佐村組の外崎も電話と少し登場。

矢能独自のアウトローな人脈と経験を駆使し、スリリングに、巧みな仕掛けで事を手打ちにし、二作目から娘となった栞ちゃんとのやり取りでほっこりもさせてくれる、最凶エンタメ小説です。

 

 

 

美容室問題勃発

さて、今回はヤバい人捜しに加えて矢能にとってさらに厄介な問題が発生。なんと、娘の栞ちゃんがたいそう懐いている“美容室のおねえさん”のいる店が閉店することになったというのです。

おねえさんはオーナーである先生から店をほぼ任されている状態だったのですが、その先生が体調を崩しがちになり、店を手放すことを決断。前々から居抜きで借りてくれる人を探していて、ようやく見つかったのが若い美容師夫婦。新しい店は夫婦二人でやっていくようなので、おねえさんを雇ってくれるということもない。おねえさんは地元の静岡で先輩から店を手伝って欲しいから帰ってこないかと誘われていて――・・・

 

と、本格的にどうしようもない話なのですが。

今までワガママを一度も言ったことがなかった栞ちゃんがこの現実に激しく抵抗。「イヤです」「美容室のおねえさんのこと、なんとかして下さい」と矢能に頼んでくるのです。

 

栞ちゃんを可愛がっている情報屋に「なんとかしてやれよ。まがりなりにも父親なんだからよ」と言われ、どうすることも出来ないから、「我慢しなきゃならないってことを教える」と応えるも、コレを聞いて情報屋はあんなになにもかも我慢している子にこれ以上我慢させる気かと激昂。確かに栞ちゃんの生い立ちや今現在の健気な振る舞いをみているとねぇ・・・。

 

「シオリンが求めているのは美容室のおねえさんなんかじゃねえんだ」「そのおねえさんそのものだ。美容室なんか関係ねえ」「シオリンが欲しいのは母親なんだよ」と情報屋は言い募り、最終的には「お前の嫁にしちまえってんだよ。それでシオリンはいまよりずっと幸せになる」と矢能に迫る。

言われた矢能が「ど、どうやって」と動揺して応えるのがなんともおかしいですが、情報屋の気迫と栞ちゃんの無言の眼差しに後押しされ、戸惑いながらもおねえさんを食事に誘うのでした。果たして結果はいかに・・・。

 

女性を口説くにが不得手な矢能の様子は読んでいてニマニマしてしまう。ヤクザや警察の前では傍若無人な矢能ですが、栞ちゃんや美容室のおねえさんに対しては誠実なのが読者心をくすぐりますね。

情報屋だけでなく、栞ちゃんも割と本気で矢能とおねえさんをくっつけようとしていたみたいでちょっと驚き。お互い相手に好印象は持っているみたいですけどねぇ・・・どうなのでしょう?

 

 

 

 

 

 

以下若干のネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どんどん続いて欲しい

仮釈放中に「やらなくてはいけない事がある」と姿をくらましていた武装強盗のプロ・河村隆。ガスの唯一の友人であり、細かい事情を知っている可能性が高いだろうと矢能は河村の捜索を依頼される訳ですが、仮釈放中という状況が状況だし、どうやらヤクザに匿われているらしいと、なるほど、普通の探偵じゃ当然手が出せないだろうという厄介で危険な人捜しです。

ドンパチこみのすったもんだでようやく探し当てた河村。この河村、矢能が気に入るタイプの人となりをしているのですよね。武装強盗のプロとはいえ、仕事の引き時を弁えているし、それなりの情も持ち合わせている。河村の“やらなくてはいけない事”の詳細や顛末を知って、矢能は同情的になり、「ムショで残りの弁当を喰わせるのは忍びない」と思い、逃がす。

河村の方も別れ際、矢能に“ささやかな友情の証”を示し、「俺に用があるときには連絡してくれ」と連絡手段を教えて去ります。

 

荒事慣れしていますし、河村は今後また再登場してくれそうな気配がプンプンしますね。あと、今回矢能に仕事を依頼してきた鳥飼弁護士も再登場しそう。

 

『水の中の犬』が2007年、『アウト&アウト』が2009年、『バードドッグ』が2014年、『ドッグレース』が2018年と、刊行が割と飛び飛びの【矢能シリーズ】ですが、回を重ねるごとにシリーズとして確立されていっていますし、今後が楽しみな事柄も増えているので、定期的に刊行されて欲しいなぁと思います。

 

新たな人脈も手に入れたことですし、栞ちゃんを養うためにも、矢能には探偵仕事に邁進していって欲しいですね。

次も楽しみにしています!

 

 

 

ドッグレース (講談社文庫)

ドッグレース (講談社文庫)

 

 

 

 

 

ではではまた~