夜ふかし閑談

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『小説王』 ドラマの原作本ネタバレ。 読書家ならば必ず共感する”小説”物語!

こんばんは、紫栞です。
今回は早水和真さんの『小説王』をご紹介。

小説王

 

2019年4月に開始される連続ドラマの原作本です。

 

あらすじ
吉田富隆は大学時代に文芸新人賞を受賞して華々しく作家としてデビュー。受賞作「空白のメソッド」は映画化もされ注目を集めるが、二作目以降はヒットに恵まれず、三十三歳になった今でもファミリーレストランのアルバイトで食いつなぐ日々を送っていた。
「空白のメソッド」に感銘を受け、大手出版社の文芸編集者となった富隆の小学校時代の同級生である小柳俊太郎は、富隆の才能を信じ「いつか一緒に仕事を」という約束を実現させようと奮闘するが、富隆はくすぶり続けている状態から中々抜け出せぬままアルバイトをクビになり無収入に。俊太郎も文芸部の出版不況や編集長との衝突などで富隆への連載依頼はいつまでもままならない状態だった。
富隆は一念発起し、「これが最後」という思いで勝負作を書き始める。俊太郎と共に今までにない手応えを感じる作品が出来上がりそうだという矢先、俊太郎の文芸編集部は存続の危機にたたされてしまい・・・。
いくつもの苦難が立ちふさがるなか、富隆と俊太郎は“すごい小説”を世に出すことが出来るのか。
何を目指して本を作るのか?小説とは、物語とは何のために存在するのか?
“小説の力”を信じ、思いの全てを捧げる小説家と編集者。二人の友情と小説を愛する人達の物語。

 

 

 

 

 

 


小説家と編集者
早水和真さんは近年ですとWOWOWでドラマ化された『イノセント・デイズ』などの作品で知られる作家さん。

 

イノセント・デイズ (新潮文庫)

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連続ドラマW イノセント・デイズ [DVD]

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ちなみに、この『小説王』は著者の早水さん自身が“『イノセント・デイズ』のアンサーストーリーと位置付けている”と明言されていますので、『イノセント・デイズ』を読んだ方、ドラマを観ていた方で読み終わった後、観終わった後に“答え”を欲したならば読むべき小説だともいえます。

 

今作は上記のあらすじの通り、小説家と編集者が主役のエンタメ小説。小説で、小説家と編集者が主役のお話を描くということで、作家や編集、本に携わる人々の世界が大いに保証済みのリアリティでもって読むことが出来ます。
本格推理物のジャンルですと小説家が主役のものは結構見つけることが出来ますが、通常のエンタメ作品でド直球に“小説家”という職業を描いているものは珍しいかもしれないですね。文庫版に掲載されている森絵都さんの解説によると、著者の早水さん自身、インタビューで「正直、小説家の小説なんて、書きたくなかったんです」と語られているとのこと。では何で書いたのかというと、編集者から「小説家と編集者の話を書いてほしい」と依頼を受け、最初は難色を示したものの「今小学生の息子が高校生になった時に、自分はこういう仕事をしているんだ、と読ませたくなる小説を書いてほしい。そういう小説を書いてくれるのは早水さんだから」という言葉に心動かされたからなのだとか。
健全すぎるほど健全な経緯で驚きですが、こんな編集者さんとのお仕事だったからこそ『小説王』が書けたのかなと思います。編集者さんが作品に与える影響の大きさを感じますね。

ドラマ化で気になったのと、本作りの裏側のお話が個人的に好きなので、読んでみたのですが、本好き人間ならば「同感、同感」とうなずいてばかりで同調しっぱなしの作品で大変面白く読むことが出来ました。書店員さんの評価が高いのも納得の小説です(^^)

 

 

 

単行本・文庫
この記事のトップの画像は『小説王』の単行本の表紙画像です。

 

小説王

小説王

 

 

この表紙の装画は、故・土田世紀さんの90年代の漫画作品編集王のカットが使用されています。

 

編集王(1) (ビッグコミックス)

編集王(1) (ビッグコミックス)

 

 

作中でも『編集王』についての話題が出て来ますので、『小説王』というタイトルは『編集王』という作品を受けての部分もあるのかなぁと思います。

私は文庫で読みました。文庫は2019年3月に刊行で比較的出たばかり。

 

小説王 (小学館文庫)

小説王 (小学館文庫)

 

 

こちらの装画も真っ赤でインパクトが強いですね。文庫版だと作家の森絵都さんの解説が巻末に掲載されています。

 

 

ドラマ
連続ドラマはフジテレビ系列での制作で地上波放送の開始は2019年4月22日。地上波放送の前にFODで先行配信されるらしいです。

 

キャスト
吉田富隆白濱亜嵐
小柳俊太郎小柳友
佐倉晴子桜庭ななみ

もう4月にはいっていますが、どうも調べても詳細がよく分らないですね。放送時間も曖昧です。たぶん深夜帯だと思うんですけど。放送回数は全10回とのこと。ネット記事に掲載されている出演者さんたちのコメントを読んでみると、どうやらもう全話撮り終わっている状態みたいですね。
原作だと上記の主要三人以外にも重要で個性的な登場人物が目白押しなのですが・・・。他キャストがどうなっているのか気になるところですね。

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 


出版不況
今は文芸冬の時代で出版不況な御時世なんだとか。確かに紙の本が売れないとかは聞きかじったことはありますし、雑誌もどんどん廃刊になったり休刊になったりしていますよね。漫画とかもマイナーな雑誌での連載ですと読んでいて気が気じゃなかったり・・・。私自身、読んでいた漫画が掲載誌休刊で続きが読めない事態に陥ったことがあります(-_-)
『小説王』では文芸部の危機的状況が絶滅寸前みたいに描かれており、実際、作中では俊太郎が所属している文芸雑誌が休刊に追い込まれてしまいます。確かに小説って、好きな作家のものを単行本や文庫で読む人がほとんどで、連載の形で雑誌を購入して読む人は少ないだろうなぁとは思います。
で、まぁ現実的に文芸誌は売れてない。
連載媒体がなくっても書き下ろしで本を出せばそれでいいんじゃないの?って考えてしまうし、正直なとこ読者としては読みたいものが読めれば連載でも書き下ろしでも問題はないですよね。じゃあ何で連載の形にこだわるの?と、いうと作家に原稿料を支払うためで――・・・といった出版、文芸に関する内情が『小説王』では次々と明かされていきます。

「掲載媒体はべつに作家を食わせるためにあるわけじゃないんです」

 

「(略)実際いまって短編集が売れる時代じゃないじゃないですか。よっぽど名のある作家のものか、さもなければよほど出来のいいものしか掲載しないっていう方針は、あながち間違っていないと思うんです」

 

向こう数年のうちに多くの文芸誌が消えていくだろうと思っていたし、印税ではなく原稿料を当てにしている作家は全員淘汰されていくこともわかっていた。文学賞も軒並み減らしていくだろうし、映像化のマージンだってどんどん削られていくはずだ。
よほどの売れっ子か、資産家、あるいはパートナーにしっかりとした稼ぎがあるか、パトロンでもない限り、専業作家など成り立たないと気づいていた。

などなど。
専業作家や文芸誌の厳しい実情がこれでもか!と書かれていますね。読んでいると小説好きの一市民として寂しく辛い気持ちになってきます。「小説の役割は終わったのか」という一文まで出て来ます。

 

 

 


小説(物語り)の力
富隆は全力を注いで作品に没頭。「すごい小説」を生み出しますが、俊太郎の所属している文芸誌が休刊になってしまったことで作品を発表する機会を逸してしまいます。
で、どうするのかというと、企業サイトでのウェブ連載で現状を打開していくわけですが。
今作の紹介文に“出版業界にケンカを売る”“出版界の常識を無視した一手を放つ”などと書かれているので、よっぽど奇抜なことでもするのかと思いきや、単に“ウェブ連載”で個人的にちょっと拍子抜けだったんですけども(^^;)


この小説は奇をてらうことなく、純粋に、愚直に、ただただ物語りの力を信じて行動する様が描かれています。編集者である俊太郎は富隆の小説を読み、「すごい小説」だと実感。「とにかく読んでもらえればわかる」と、富隆の小説の面白さ“力”をまるで疑うことなく奮闘。
小説に取り組む富隆も、編集者の俊太郎も、打算や斜に構えたりすることもなく一つの作品の為にひたすら情熱を注ぐ熱いストーリーです。

 

作中で描かれているように、文芸誌を始め出版業界全体が不況だし、本だけでなく音楽業界もCDが全く売れない時代で、芸術・娯楽作品を扱う業界自体が勢いを失っているのは事実なのでしょう。しかし、だからといって物語りや音楽が必要なくなり皆が求めなくなるのか、無くなるのかといったら決してそんな事はないし、そんな心配はするだけ無駄だと思います。そんなことはこの『小説王』を読まずとも、創作物を好む人間ならば分かりきっていることです。


芸術や娯楽の為の創作物というのは、生き物として生活する上では全て必要のないもの。それでも、歴史の中で検閲や弾圧を受けても創作物が完全に消えることはなく作られ続け、人々はそれを鑑賞してきた。だから、たとえ“商品”として売れなくなろうと創作物の役割が終わることはない。

『とりあえず今日だけ生きてみようと思いました。明日もそう思える気がします。吉田先生の次の作品が楽しみだから』

これは作中、生きづらい毎日を過ごしている中学生の女の子からのファンレターの一文。
この心境は深刻さの度合いはどうあれ、創作物に一喜一憂する全ての人達の総意だと思います。辛くっても、つまらない毎日でも、作品を楽しみに日々を過ごそうと思える。創作物を愛する人というのは、皆が創作物に救われた体験をしているものなんだと。
だからこそ、『小説王』は読書家ならば必ず共感すること請け合いな小説なのです。

 

 

 

小説を読んで欲しい。
お話は終盤“某文学賞を受賞出来るか否かといった展開になります。“某文学賞”が何という文学賞なのか、作中では最後まで明記されていませんが、日本中が注目する文学賞直木賞であることは明白です。

さて、富隆は直木賞を取れるのか――!で、結果はまぁ読者の予想外のものなんですが。
私はこの展開で良かったと思います。それまでの流れが「ちょっとうまくいきすぎだなぁ」とか、「結末がまだ分からない段階の小説をそんなに皆が皆賞賛するのかな?」とか、作中作である富隆の小説『エピローグ』の中身は読者には知りようがないぶん、現実味が乏しかったので、これで全部が全部上手くいっていたら「絵空事だ」という印象が強くなっちゃいそうでしたので。

作品作りが主軸の物語ですが、富隆の恋人の晴子や、俊太郎の奥さんである美咲など、女性二人の逞しさも読んでいて愉快でした。この小説は主要登場人物が皆いい人で爽やかに読めますね。編集長も最初は俊太郎が不満をぶつけていましたが、個人的には「ちゃんと正論言ってくれていると思うけど」って感じでした。個人的にはベテラン作家の内山先生が好きです。男性の登場人物が怒ると皆チンピラ口調になるのが少し引っかかりましたが(^^;)

『小説王』は大沢形画さんの作画で漫画化されています↓

 

小説王 (1) (角川コミックス・エース)

小説王 (1) (角川コミックス・エース)

 

 

小説が苦手な人はまずは漫画を読むのも手かと。


個人的にいつも感じる事ですが、小説って読まないひとは本当に読まなくって、どんなにオススメしても読んでくれませんよね!
活字を読むことをハードルが高いと思っている人は結構いて、完全に娯楽で読んでいるにも関わらず「偉いね」なんて的外れな褒め言葉を頂くこともしばしばです。教養本を読んでいるならともかく、娯楽小説を読んで遊んでいるだけなのに・・・。それだけ活字と娯楽を結びつける人が少ないということでしょうか。

映像化作品や漫画の方が楽だし、私だって漫画もドラマも映画も大好きですが、活字には活字でしか味わえない感動というものがありますからね。苦手な人も一歩足を踏み出して欲しいです。私自身、学生時代は全く小説を読まない人間でしたが、読書で感動体験をしてからもう虜ですから(^^)。


『小説王』は読書家にオススメなのは勿論、“小説”に不慣れな人にも、小説を読むことの面白さを与えてくれる1冊だと思います。コレを読んで、読書の深みに嵌まってみてはどうでしょうか。

 

小説王 (小学館文庫)

小説王 (小学館文庫)

 

 

 

小説王

小説王

 

 

 

ではではまた~