夜ふかし閑談

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マスカレード・イブ 各話 あらすじ・感想 『マスカレード・ホテル』の前日譚4編~

 

こんばんは、紫栞です。
今回は東野圭吾さんの『マスカレード・イブ』をご紹介。

マスカレード・イブ (集英社文庫)

 

 

 

前回、こちらの↓記事でまとめた『マスカレード・ホテル』のシリーズ2作目。

 

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時間軸は『マスカレード・ホテル』での事件が起こる前、新田浩介と山岸尚美が出会う前のそれぞれの物語が四話収録された短編集。
この『マスカレード・イブ』は1作目の『マスカレード・ホテル』、3作目の『マスカレード・ナイト』

 

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とは異なり、単行本を経ずに最初から文庫で刊行されています。

 

目次
●それぞれの仮面
●ルーキー登場
●仮面と覆面
●マスカレード・イブ

の4話。

三話までは【小説すばる】に掲載されたもので、どのお話も60ページほど。表題作の4話目「マスカレード・イブ」は書き下ろしで少し長めの140ページ。

 

 

 

 

 

では順番に紹介

 

 

 

 

 

 

 


●それぞれの仮面
あらすじ
「ホテル・コルテシア東京」に入社して四年目、フロントクラークとしては新米の山岸尚美の前にかつての交際相手である宮原隆司が客としてやって来る。元野球選手のタレントのマネージャーとしてタレントと共にチェックインした宮原は、その日の夜になって「大変なことになったんだ」「君の助けがほしい」と、尚美を部屋に呼びつける。宮原の愛人がホテルの部屋で密会している最中に自殺を仄めかして姿を消したというのだ。半ば呆れつつも、事を内密に済ませたいという宮原の意向を受けて尚美は愛人の捜索を開始する。
そんな中、高価なルームサービスを次々と注文する客の存在から尚美はある推測をするのだが――。

 


前作『マスカレード・ホテル』で尚美が特殊なお客様の一例として話していた小話の詳細が語られるお話。
前作ではフロントクラークの鏡といわんばかりに完璧な接客・職業倫理を持つ生真面目な人物として描かれていた尚美ですが、このお話ではまだ新米ということで腹の中ではお客様に対して悪態をついている場面などもあり、接客業をしている人間的には親近感が湧きます(^^;)
しかし、「馴れ馴れしく呼ぶんじゃねぇよ」と心中で毒づいているのには驚きましたね。前作では表でも裏でも粗野な言葉遣いのない人物だったぶんギャップがありました。
最後の部分なのですが、散々振り回されたとはいえ、チャックアウト後にお客様に見抜いた真相を披露して事実を確認する行為はホテルの従業員としてどうかな?と思いました。お客様の人間性がどうであれ、従業員としては口出しすることじゃないし、差し出がましいよなぁと。結局糾弾するような形になって、不愉快な気分にさせてサヨナラ・・・。
まぁこのラストの方が読んでいてスカッとはするんですけどね。

 

 

●ルーキー登場
あらすじ
捜査一課に配属されたばかりの刑事・新田浩介は、ホワイトデーの夜に発生した実業家殺害事件の捜査に参加する。被害者は習慣にしていた夜中のジョギング中に殺害されており、現場には犯人が被害者を待ち伏せている間に吸ったと思われる5本の煙草の吸い殻が残されていた。部下からの受けがよく、取引先から恨まれている気配もなく、家庭を大事にしていた被害者には怨恨や痴情のもつれによる動機の線が浮上せずに捜査は行き詰まるが、新田は不意な思いつきから現場の偽装を見抜き、やがて犯人逮捕に辿り着いた。
しかし、新田は犯人の供述から“ある人物”の事件への関与を疑い始める――。


今度は新田が新米刑事だったころのお話。『マスカレード・ホテル』での新田も若さ溢れる感じでしたが、今作ではさらに若いですね。色々と。
お話の導入部分で、前作で語っていた元カノとのホテルでの朝支度の攻防が詳しく描かれています。しかし、言っちゃ悪いが馬鹿そうな女性と付き合っていたもんだ(笑)
お話としては普通の事件捜査でホテルも関係ないので、このシリーズでの特色は感じられません。新田が主役として活躍するだけ。新田のエリートっぷりが良くわかるお話ですね。
“素顔”と“仮面”ということでシリーズにこじつけているのですが、この真相はミステリとしては結構定番で新鮮味はあまりないですね。一話目とは違い、ラストはモヤモヤします。

 

 

 

 

 

 

●仮面と覆面
あらすじ
「ホテル・コルテシア東京」に男性五人組がチェックインする。どうやら彼らの目的は覆面女流作家・タチバナサクラであるらしい。タチバナサクラが「ホテル・コルテシア東京」に缶詰になるという情報を聞きつけ、熱狂的なファンである彼らは同じホテルに宿泊して張り込み、タチバナサクラに遭遇して素顔を見ようと目論んでいたのだ。
事情を察した尚美はタチバナサクラの担当編集者・望月に事態を知らせ、トラブルが起きないよう目を光らせるが、タチバナサクラとしてチェックインしたのは玉村薫という中年男性だった。望月からタチバナサクラは本当は中年の男性作家であり、この秘密は絶対に世間に知られるわけにはいかないといった諸事情を知らされた尚美は、どんな方法も辞さないファン五人組からタチバナサクラの秘密を守るべく奮闘するが、その一方で部屋に缶詰状態で小説を執筆しているはずの玉村が度々外出していることに引っ掛かりを覚えていた。

 

こちらは非常にホテルならではのお話。“覆面”“仮面”と、ホテルのシステムを利用している点など、このシリーズならでは感が強いですね。
オタク五人組の行動が怖いし本当に迷惑。でも実際このくらいのことするファンっているんでしょうね・・・。
最後まで読むとこの出来事も『マスカレード・ホテル』で小話として出て来ていたものだと気づく仕掛けになっています。

 

 

●マスカレード・イブ
あらすじ
開業したばかりの「ホテル・コルテシア大阪」に応援・教育係として数ヶ月勤務することになった尚美。フロントクラークの業務をこなす中、ある客たちの行動に興味を持ち、想像を巡らせる。
東京では大学教授の岡島孝雄が大学内で殺害される事件が発生。所轄の女性警官・穂積と共に捜査にあたった新田は、同じ学部の准教授・南原に目をつけ、南原のアリバイについての供述についての嘘を暴くが、南原は大阪のホテルに宿泊したことは認めるものの、なぜかホテル名や一緒に宿泊した女性については頑なに口を閉ざす。殺人の容疑をかけられているにもかかわらず、あくまで証言しない南原に新田は不審を抱く。
取調室での度重なる追求の末、南原はようやく宿泊先を白状する。その宿泊先とは「ホテル・コルテシア大阪」だった。


“イブ”とついているだけあって、トリックなど色々と『マスカレード・ホテル』の前段になっているお話。
新田と尚美が知らないうちに別事件で既に交差していたというのが良いですね。前作でも触れられていた新田の嗅覚の良さがこの作品でも生かされているのが上手くて唸りどころ。
エピローグで『マスカレード・ホテル』の事件の発端となる出来事が描かれていますので必見。

 

 

 補足の1冊

読んでみての全体の感想としては、シリーズ前作の長編『マスカレード・ホテル』の補足説明の短編集って感じですね。エピソードもそうですが、新田と尚美の人物設定も補足されて深まっています。
あと、何だか全編、騙されていることに気付かない愚かな男性が多く描かれていた印象。“仮面”をかぶるのは女性の方が上手だって事なんですかね(^^;)

どのお話も映像化しやすそうです。映画化はともかく、配信ドラマとかに向いてますかね。『マスカレード・ホテル』の映画公開の前後で何らかの形でこちらの短編集を映像化するかもなぁという気がするのですがどうでしょう?

 

前日譚なので時系列としては『マスカレード・ホテル』より先に読んでみた方が良いのか?と思ったりする人もいるかと思いますが、前作を読んでいないと分からない部分や面白さに気がつけない箇所もありますので、最初はやっぱり刊行順に読むのがオススメです。

 

 

『マスカレード・ホテル』を読んだら続けてこちらの短編集を是非。

 

 

 

 そして続編長編の『マスカレード・ナイト』へ!

 

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※2022年に4作目も出ました!

 

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ではではまた~