夜ふかし閑談

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『秘密season0』7巻 〈冬蝉〉あらすじ・感想

こんばんは、紫栞です。
清水玲子さんの『秘密season0 7巻〈冬蝉〉』が発売されました。読み終わったので少し纏めと感想を。

秘密 season 0 7 (花とゆめCOMICSスペシャル)

表紙が綺麗~!・・・って、毎回言っているような気がしますが(^^;)ギムナジウムものみたいに見える表紙だと思うのは私だけでしょうか。しかし、中身は今回も一話完結型近未来警察ミステリなので誤解なさらぬよう。

 


あらすじ
2061年3月。75年ぶりに接近するハレー彗星と、ハレー彗星探査機「すいせい2」打ち上げの話題で持ちきりの日本。
そんな中、病死した遺体から脳ばかりが奪われる奇妙な事件が発生。いずれも衛星探査・宇宙工学・宇宙開発研究に長年関わってきた「偉人」たちの「脳」だった。

一体誰が、何のために「脳」を集めているのか?一体何に「利用」しようとしているのか?そして、この「盗難事件」は「第九」や「MRI捜査」に関わりがあるものなのか?

薪と青木は捜査を開始、やがて犯人を特定して身柄を拘束するが、犯人の語る“脳集め”の目的は驚くべきものだった――。

 

 

 

 

 

2061年
前回の〈増殖〉は2冊使っての事件でしたが、

 

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今回の〈冬蝉〉は1冊で1つの事件です。230ページぐらいで、シリーズの他の事件のものと比べても少し短めですかね。
今作は〈増殖〉では2067年だった時間軸から遡って2061年が舞台。青木が「第九」に配属されてから1年2ヶ月後。【秘密シリーズ】

 

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の2巻と3巻の間、

「鎌倉一家惨殺事件(露口絹子事件)」

 

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の後、「チャッピー連続殺人事件」

 

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の前ですね。

このころは「第九」が解体されて全国展開される前なので、まだ皆で捜査していた頃ですね~。青木もまだ薪さんのこと怖がって言われる事にホイホイ従っていた頃です。2067年になっても怖がってはいますが・・・。言う事聞かなくなってきていますかね(^^;)
薪さんも鈴木のことについてまだ気持ちの整理が出来ていない段階の頃ですね。

 

もうこの頃のお話は“新章”としてはやってくれないと思っていたので嬉しかったです。(読み切りとかではあるかなとは思っていましたが・・・)と、いっても、薪さんと青木と岡部さん以外でまともに登場してくれたのは曽我さんぐらいでしたので、いつもとさほどメンバーの代り映えはしないですが。

今回はコンパクトな内容でしたし、お話に必要じゃなければ登場させないってことでしょうかね。しかしまぁ、久々に従順な青木が見られて楽しかったです。「肩車しましょうか」とか上司に素で言う神経ってどうなんだ(笑)190の男に肩車されたら高すぎる。おんぶ位で丁度いいんじゃない?(そういう問題じゃないけど)「走ったら危ない」だの「貴方一人じゃ危ない!!」とか、姫扱いか(笑)

 

この時代設定にしたのはハレー彗星の地球への次回接近が2061年夏だと考えられているからですね。今回は宇宙工学・・・毎回毎回、どこからくる着眼点なんだと作者の清水さんには感服いたします。テーマ選びが秀逸・・・!

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辛い
今回のお話はですね、読んでいて非常に辛かったですね~(-_-)


早い段階で犯人が特定されるのですが、大事なのはその後からでして「他の臓器と同じように「脳」も後世の為に役立てるべきだ」つまり、立派な研究の為になるならば故人の同意を得て「脳」をみても良いではないかとの主張と、「いかなる理由があろうと、犯罪捜査以外で情報を得る為に“脳”をみることは許されない」という薪さんの主張とで対立。犯人と薪さんとの真っ向勝負の様子が描かれています。

 

テーマとしては「MRI捜査」という捜査方法自体への正当性の疑念ですね。捜査だからといって個人のもっともプライベートな「領域」を侵す権利があるのかという。このテーマは「鎌倉一家惨殺事件(露口絹子事件)」でも描かれていましたが、今回はまた別視点からの掘り下げ。

 

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薪さんは作中で、大義名分があれば「脳」をみてもいいという「前例」を作ってしまえば、今後歯止めが利かなくなると言って犯人の行いを激しく糾弾します。
確かに、いったん枠組みを広げたらどんどん「線引き」が曖昧になって「脳」をみることが“あたりまえ”の世の中になることは容易に予想出来ることですよね。薪さんはそういった状況になることを恐れている訳で、正しい主張だと思いますが、一方で


「故人」の「領域」を侵す「権利」は無い 誰にも!どんな理由があっても!


と、言うならば、犯罪捜査でだって利用するべきでは無いのでは?とも思いますね。思っちゃうだけに、かつての恩師に薪さんが糾弾される場面は読んでいて辛かったです。

 

終盤で青木が“必要枠だから”みたいな事を言いますが、わかりはするけど、素直に納得は出来ないのが正直なところ。
しかし、単純に、目の前に問題を解決させる事が出来る「技術」があるならば、使いたくなってしまうのは人として当然かなとも思います。
本能や倫理との板挟みで難しい問題ですね。私はどんなご立派な理由があっても、自分の「脳」なんて他人様に絶対見られたくないですが(^^;)

 


犯人
今回の犯人の“冴子さん”ですけど、この人も色々と痛々しくて辛い(-_-)
昔は天才美少女と周りに将来を嘱望されていて、夫の住田にも崇拝に近い愛情を向けられていた冴子さん。しかし、様々な出来事で研究者として上手くいかず、「こんなはずじゃなかった」と薪さんに嫉妬心を剥き出しにしたり、「住田と結婚していなければ」と後悔の念を口にしてしまったりする始末。ですが、人殺しまでして論文を完成させようとしたのは夫にまた「やっぱり君は凄い、天才だ」と認めてもらいたかったから。愛憎が複雑に絡み合っている状態ですね。

作画も“老い”が残酷に描かれている感じで痛々しさに拍車をかけています。ここら辺また計算し尽くされている漫画だなぁと感服しますね。


夫の住田先生ですが、別に冴子さんに愛想を尽かしている訳では決してなく、今でも大学時代と同じように、妻が年老いても、研究者として成功していなくっても、純粋に妻のことを想っています。
う~ん、しかし、純粋に想われ続けるというのも、それはそれで辛いのかもしれないですね。相手が愛情を向けている自分は偶像だと思ってしまうというか。“崇拝”は励みにもなるが、重荷にもなるってことなんですかねぇ・・・。うーむ。

 

終盤、薪さんは住田夫婦に何故こんなにも非道な仕打ちを・・・と、思ってしまったのですが、青木が


「あの時 薪さんがああまでして冴子先生から生前自供をとったからこそ 死後冴子先生の遺体を傷つけるMRI捜査をせずに済んだ」


という部分を読んで「そ、そうか!私の理解が足りなかった!ごめんね薪さん!」と申し訳ない気持ちに(笑)
この真相がわかるとより辛いですね。住田先生も奥さんが「脳」見るために人殺ししたこと棚に上げて薪さんのことを糾弾していましたけど、気持ちが落ち着いたら薪さんの秘めた想いに気が付いてほしいなぁ~と切に願いますね(T_T)

 

 

鈴木
さて、また辛さに拍車をかけるのが鈴木との思い出なのですが・・・。鈴木はアレ、薪さんに声かけて、来てくれる望み薄だと感じたからダメ元でやっぱり雪子さん誘ってみたって事なんですかね。「雪子はダメだ」って拳握って力説していたのに。鈴木・・・罪深い男だなまったく。


薪さんって、やっぱり鈴木のこと“そういう意味”で好きだったのかなぁ~(いまさらですが)。


“鈴木以外はみんなかえってくる”
っていうのが今回のお話の辛さにトドメを刺す感じでした。

 

 


そんなわけで、色々と辛いお話でしたが、非常に感慨深くて今回も上質のミステリ漫画を楽しませてもらいました。感謝感謝。


次巻ではまた時間軸が元に戻るんですかね。〈増殖〉の後、山城などどうしているのか気になるところですが。コミックス派として気長にまた待ちます(^^)

 

※出ました!詳細はこちら↓

 

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ではではまた~