夜ふかし閑談

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『東京二十三区女』続編!”あの女は誰?”感想・考察

こんばんは、紫栞です。
今回は長江俊和さんの東京二十三区女 あの女は誰?』の感想と考察を少し。

東京二十三区女 あの女は誰? (幻冬舎文庫)

WOWOWで連続ドラマ化され、このブログでも紹介した東京二十三区女』の続編でシリーズ第2弾ですね。

第1作について、詳しくはこちら↓

 

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璃子と先輩のその後
今作は新元号始まりの日・5月1日に刊行されました。長江さんが続編を執筆中だということは知っていましたが、こんなに早く書籍化されるとは思っていなかったので少し驚きです。WOWOWのドラマは5月17日に最終話を迎えましたね。最終話はシリーズ第1弾の小説の最後に収録されているものと同じく「品川区の女」で、璃々子が東京の“いわくつき”の地ばかり巡っている理由と、先輩・島野仁の正体が明かされて終了。理由はわかったものの、結局“いわくつき”の地巡りの目的が達成できたのかどうか宙ぶらりんな状態での終了でした。
今作『東京二十三区女 あの女は誰?』ではこのシリーズ第1弾小説の、ドラマの続きである瑠璃子と島野先輩のその後が描かれています。なので、この本は絶対に第1作目を読んでから、またはドラマを観終わってから読むように注意して下さい。

今作は最初から電子書籍と文庫での刊行ですね。

 

 


目次
●豊島区の女
墨田区の女
葛飾区の女
千代田区の女

前作は5編収録でしたが、今作は4編収録。

今作も璃々子が“いわくつき”の地を巡っていく中で東京の怪異に遭遇していく連作短編形式ですが、最後の「千代田区の女」で前作以上の衝撃の展開をしていますので必見。

 

「豊島区の女」はドラマの第3話で放送されたエピソードと同様のもの。ドラマの公式サイトを見たときから「原作にないお話だなぁ」と気になっていたのですが、やっぱり続編で書かれていたものだったんですね。
江戸時代の文献に残されている『池袋の女』がモチーフになっているお話。『池袋の女』という俗信はまったく知らなかったのですが、まさに土地と怪異が強く結びついた俗信で、このシリーズで描くにはぴったりのものだという気がします。「やっぱり女は恐ろしいね」という結末で、怪異とはまた別の恐ろしさがあるお話ですが、語り手である阿久根一郎はこれはこれで幸せだったんじゃないかとも思ってしまいますね。サンシャイン60にまつわる都市伝説のお話が興味深かったです。


墨田区の女」はミステリ的仕掛けが施されたお話。私、まんまと騙されてしまいました(^^;)逆だろうと思っていたらそれがまた逆だったっていう・・・。前作に収録されている「港区の女」と似通った事情が隠されたお話ですね。
“本所七不思議”玉の井バラバラ殺人事件”など聞き覚えのある単語や事件が出て来ます。歌川国芳の浮世絵に描かれたスカイツリーの都市伝説はスカイツリーが建てられたばかりの頃に確かに話題になっていたなぁ~とちょっと懐かしくなりました。
このお話はホラー色が薄く、読後感も穏やかですね。


葛飾区の女」は母親を亡くしたばかりの大家族の元に死んだはずの母親が幽霊となって家に帰ってくるお話。葛飾区は映画や漫画の舞台となっている下町のイメージが強いですよね。このお話も下町っぽいアットホームな雰囲気が漂っています。せつない結末で、これもホラー色は薄い。願いを叶える“立石様”の奇跡物語りって感じですね。子供達の名前が今風なので騙されてしまいますが、前作に収録されている板橋区の女」江東区の女」と同様の仕掛けがある。
“首なしライダー”の都市伝説が出て来ますが、私の世代だと“首なしライダー”ですぐに連想するのは銀狼怪奇ファイルですね。

 

 

※ちなみに、『銀狼怪奇ファイル』がDVD化されない要因の一つには“首なしライダー”が関係しているらしいです。

 


最後に収録されているのは千代田区の女」。やはり最後は東京の中央に位置する千代田区がこの『東京二十三区女』にはふさわしい。そして、祟り・都市伝説界隈の大物で大ボス(?)、日本三大怨霊の1人で、千年を超えて今もなお恐れられる平将門首塚が登場します。「東京の怪異」を扱うならば、やっぱり「将門の首塚はやりますよねって感じ。
はたして島野先輩が研究し、璃々子が探し求めている“東京最大の禁忌”とはこの「将門の首塚」なのか?物語りは思わぬ展開をしていきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

原田璃々子
前作『東京二十三区女』での最終話「品川区の女」で明かされたことは、島野先輩は幽霊で霊感の強い璃々子に取り憑いており、璃々子は先輩が死んだ理由は生前先輩が研究していた東京のどこかに隠された禁忌の封印を解いてしまったためなのではないかと考え、先輩の死の原因を解明し、安らかに成仏してもらおうと東京の“いわくつき”の地を巡っている――・・・
と、いう事情でした。

 

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しかし、今作『東京二十三区女 あの女は誰?』の最終話千代田区の女」で語られる事柄は前作で明かされた真相がすべて覆される“別の真相”です。


千代田区の女」での語り手は幽霊とされている島野仁。千代田区を彷徨っていたところに霊媒師だという女が「転落死事件の真相を調べている」と言ってちょっかいを出してくるという展開です。

お話を読み進めると、霊媒師の女が調べている転落死事件の死亡者はフリーライターの原田璃々子だということが明らかになります。

本当の原田璃々子は死亡しており、この原田璃々子は島野先輩の恋人でした。今まで作中で璃々子として登場していた女は、本来の原田璃々子を突き落として殺害した人物。

 

「きっとあなたの後輩は、璃々子さんになりたかったのね。だから、彼女の存在を亡きものにしようと思った。璃々子さんを突き落とした後、あなたの後輩は“原田璃々子”のペンネームで、記事を書き始めた。そしてまるで取り憑かれたように、東京二十三区の曰く付きの場所や心霊スポットを巡り始めた。自分が殺した原田璃々子さんと同じように」

 

“原田璃々子”に成りすましている後輩を目にし、島野仁は疑いの目を向けるようになった。島野先輩は恋人の死の真相を探ろうと、原田璃々子に成りすましている後輩の前に度々現われるようになった。自分が“原田璃々子”だと思い込んでいる後輩は、妄想の中でストーリーを作り上げ、島野先輩が東京の禁忌に触れて取り殺されたと思うようになった――・・・
と、いうのが、今作で明らかになる真相です。

 

これによると、原田璃々子は原田璃々子ではなく、幽霊だと思っていた島野先輩も実はちゃんと生きた人間なのだということで、前作で明らかになったと思われていた事情は、すべて事実とは異なる後輩の妄想だったという結論になります。
前作を最後まで読んで、やっと明らかにされたと思っていた真相がすべて否定される形ですね。

 

 

 

 


生きているのか死んでいるのか
しかしながら、これはあくまで“島野先輩からの視点”での話です。
霊媒師の女と島野先輩の会話には色々と腑に落ちない点があり、含みを持たせている部分もあるので、後輩の一視点からの話同様、島野先輩の一視点もまたすべて鵜呑みにするのは間違いなのではないかという気がするのです。

島野先輩は最後に、「後輩が何故“原田璃々子”を殺して成りすましたのか、何故自分のことを怪異に触れて死んだなどと妄想のストーリーを作ったのかが解らない」と言っています。

葛飾区の女」で、“原田璃々子”に成りすましていた後輩は


「どうしても、突き止めなければならないんです。私の大切な人を殺めた、東京の闇の正体を・・・・・・」


と言っています。


この発言から、後輩は島野先輩に好意を抱いていたのではないかと思われます。“原田璃々子”になりたかった理由というのは、彼女が島野先輩の恋人だったからなのではないかと。

そして島野先輩ですが、やはり死んでいるのではないかと思います。
霊媒師の女は作中で「あなたは生きている。間違いないわ。私が証明してあげる」と言っていますが、最後には「あなたは何者なんですか」と訊かれて「嘘つきの霊媒師」だと答えていて、島野先輩が生きていると言ったのは嘘だったのでは?と、読み取れる返答になっています。

 

コーポで民俗学の講師である男性の死体が見付かったのは前作「品川区の女」での警官の証言から間違いのない事実なはずですし、今作葛飾区の女」の語り手・桃も、璃々子(本当は後輩)が島野先輩と一緒だったはずの場面で“女性一人の姿”しか目撃していません。居酒屋に入って何も注文しないのも実在している人間としては不自然ですし、それにやっぱり毎回の登場の仕方が可笑しいし・・・・・・・
総合すると、やっぱり島野先輩は死んでいる!と、思う・・・(^^;)

 

後輩は嫉妬と羨望から“原田璃々子”を殺害したものの、想いを寄せていた島野先輩は“原田璃々子”の後を追うように死んでしまい、そして霊となって自分に取り憑いた。この最悪の結末を迎えた事実から逃れるため、「東京の怪異」を持ち出した妄想のストーリーを作った。

こう考えると色々と辻褄が合うと思うのですが・・・どうでしょう。

 

 

後輩と島野先輩が最終的にどうなったのか、今作でもハッキリと結末がつかずじまいですが、このシリーズはやっぱり今作で終了でしょうかね?続けようがないですしねぇ・・・ひょっとしたらまた驚きの展開をするかもわからないですが。そしたらまたすぐ読みたいと思います!

 

 

 

ではではまた~