こんばんは、紫栞です。
今回は東野圭吾さんの『透明な螺旋』について感想を少し。
あらすじ
房州沖で男性の銃殺遺体が発見され、警視庁捜査一課の草薙俊平の班は捜査を開始する。数日後、銃殺遺体の身元が行方不明者届けを出されていた上辻亮太だということが判明。捜査員は行方不明者届けを提出した上辻の交際相手で同居女性の花屋店員・島内園香に連絡を取ろうとするが電話は繋がらず、自宅アパートは留守。勤務先に聞いてみると、上辻の行方不明者届けを提出した三日後に突然休職を願い出て来たとのことだった。
事件直後の謎の失踪。警察は島内園香と、園香と行動を共にしているらしき年配女性の絵本作家の行方を追うがいっこうに手掛かりはつかめず。手をこまねいていた草薙は、失踪している絵本作家の作品に「さんこうにした本」として友人の物理学者・湯川学の著作を発見する。
細すぎる糸だとは思いつつも、ダメもとで横須賀の両親のマンションに滞在している湯川のもとを訪ねた草薙だったが、事件の話を聞いた湯川はその後意外な行動に出て――。
“ガリレオの真実”とな
『透明な螺旋』はドラマや映画でお馴染み、物理学者の湯川学が探偵役を務めるミステリシリーズ【ガリレオシリーズ】の第10弾。
このシリーズも何だかんだでもう十冊目なのですね。いつの間に・・・って感じが不思議とちょっとあるのですが、前作の『沈黙のパレード』がシリーズ6年ぶりの新作で再始動だったのでそう感じるのかもですが。
シリーズ8作目の『禁断の魔術』の最後でニューヨークへと旅立った湯川。9作目の『沈黙のパレード』では4年ぶりに准教授から教授となった湯川が日本に帰ってきて、草薙も捜査一課の係長になっているなど、登場人物の年齢が高まり、それぞれ社会的立場も変わってのシリーズ再スタートでした。
今作は300ページほどの長編で、前作から引き続き、大学教授の湯川、係長の草薙、その部下である内海薫の三人が主要メンバーとしてお話が展開されています。
私は本を買うときはいつも紙媒体で買うので気にしたことがなかったのですが、東野圭吾さんは電子書籍化には消極的な作家さんらしいですね。少し前に友達から聞いて意外な印象を受けたのですが、確かにこの本の末尾にも「著者は本書の自炊代行業者によるデジタル化を認めておりません」と書いてある。コロナ禍での外出自粛が続く中、読書を楽しんでもらおうと2020年に代表作7作品のみ特別解禁されたようですが、
基本的には本屋で紙の本を買って欲しいというのが東野さんのお考えのようです。
また、作中で何年の出来事なのか明確には記されていないのですが、どうやら今作は感染症の騒動が過ぎ去っての設定になっているようなので、ちょっとした近未来を描いているのだと思われます。作中のように、早くマスクが必須でない世の中になって欲しいものですねぇ。
「ガリレオの真実」「シリーズ最大の秘密が明かされる」と、単行本の帯には煽りまくった文句が躍っているのですが(本の帯というのは大抵誇張した文句が書かれるものですけど)、今作ではこれまであまり語られてこなかった湯川先生の生い立ちや親御さんのことが描かれていて、今回、湯川は認知症が進行した母親の介護をする父親の手助けをするため、横須賀の両親のマンションに滞在しているという設定になっています。
探偵役のバックボーン
このシリーズの探偵役である湯川学は今まで、私生活の見えない、何を考えているかもよく分らない、とにかく頭の切れる人物として描かれてきたので、「母親の介護」という現実感ありすぎる事柄がぶっ込まれてちょっと当惑しますね。作中の草薙と内海も驚いていますが。
推理小説の探偵役というのは、自分のことは多くを語らず、過去も私生活も謎めいていて・・・という設定が多い。以前の湯川もこのタイプの探偵役でしたが、シリーズの中で三十代から五十代と年を重ねたことで変化しているということでしょうか。確かに前作『沈黙のパレード』での湯川は人としてだいぶ丸くなっていて、シリーズ初期の頃のような変人奇人感はほぼ皆無になっていましたけど。当初は短編が中心でしたが、長編が多くなったというのも影響しているのでしょうかね。
長年やっているミステリシリーズで登場人物にリアルタイムで歳をとらせる設定ですと、人物がどんどん丸くなったり、我を通すことがなくなったりするものは多かったりしますが、
初期から読んでいる読者としては、こういう変化ってキャラクターにとっては良いことなんでしょうけど、淋しくもあるのですよね。湯川も草薙も「だいぶ昔のことだ」「懐かしいな」みたいな事ばかり作中で発言するし・・・読んでいると若干もの悲しくなってくる(^_^;)。
最初がミステリアスな探偵役だったぶん、【ガリレオシリーズ】の読者は湯川の生い立ちだとか、親御さんがとか、別に知りたくないというか、求めてない人が多いのではとも思いますね。
以下、ネタバレ注意~
最大の仕掛けは他作に?
長編といっても300ページほどのボリュームですぐに読めてしまう今作ですが、殺人事件に関してトリックらしいトリックはないし、犯人当ての愉しみもないし、推理小説的な面白さは殆どないです。このシリーズならではの物理学・科学を利用したトリックも登場しないので、【ガリレオシリーズ】らしからぬ、異色の作品になっていますね。
じゃあ何がメインなのかというと、人間関係と犯人の動機になるのでしょうが、この「夢を見続けるために殺した」という真の動機も、色々な作品で扱われているもので描写も浅いので、特に目新しさも感慨もない。
園香が失踪するのはやっぱり行動として不自然さを感じるし、その提案をした奈江さんもまた然り。
湯川が養子で、生みの母親がこの絵本作家の松永奈江だったという事実も、正直「へー」という感想しか抱けなくって、「ちょっと・・・どうなんだろう今回のは・・・」な読後感だったのですが、ネットで検索したところによると、実はこの作品、1994年に刊行された東野さんの単発長編『むかし僕が死んだ家』とリンクするようになっているのだとか。
「ガリレオファンは驚くはず 東野ファンはもっと驚くはず」
と、今作について著者の東野さんは仰っているのですが、20年以上前の作品と繋がるという、初期からの東野圭吾ファンをマニアックに喜ばせる仕掛けが隠されていたという訳ですね。今作の最大の仕掛け、帯にある「ガリレオ最大の秘密が明かされる」とはきっとこのことなのですよ。
終盤、湯川が昔両親と一緒に暮らしていた家についてやたらと詩的な表現をしていて「急にどうした先生?」と、なったのですが、これもきっと『むかし僕が死んだ家』と関係しているのですね。私は東野圭吾作品については【ガリレオシリーズ】と【マスカレード・ホテルシリーズ】、
他単発長編を何冊か読んでいる程度なので『むかし僕が死んだ家』についてはまったくの無知。こればかりは長年のファンが羨ましいかぎりですね。自力で気づけたときの驚きと感動は相当だと思いますよ。しかし、私もガリレオ先生と密接な関わりがあると聞いては読むしかありません。近日中に読んで、またこのブログで感想を書きたいと思います!
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ではではまた~