夜ふかし閑談

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『変な絵』ネタバレ・解説 絵、ブログ、ユキ・・・その理由とは?夏のオススメ本~⑩

こんばんは、紫栞です。

今回は、雨穴(うけつ)さんの小説『変な絵』をご紹介。

 

変な絵

 

奇妙なブログ

『変な絵』は2022年10月に刊行された長編小説。ウェブライターで、YouTuberで、ホラー作家の雨穴さんによる、二作目の小説作品です。

 

前年の2021年に刊行された作家デビュー作『変な家』は大変な話題作でいまだに大ヒット中。

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一作目であまりにも注目を集めると、次作は前作と比較されたり評価が厳しくなったりで作家さんにとってはプレッシャーでしょうが、前作『変な家』で魅了されたファンの期待を裏切らない二作目となっております。

 

あらすじはこちらの動画で説明されているのですが↓

 


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非常に興味をそそられる上手いPR動画ですよね。

 

主な舞台は2014年~2015年。『七篠レン 心の日記』という奇妙なブログから端を発する物語となっています。

雨穴さんのYouTubeチャンネルではお馴染みの謎解き役、『変な家』でも大活躍だった皆大好き栗原さんが大学生時代の時に多少関わった事件のお話。

動画観て勝手に、栗原さんは30半ばから40くらいかなと思っていたのですが、2015年時点でまだ学生だったってことは意外とお若いですね。

 

佐々木修平という21歳の大学生が、オカルトサークルの後輩・栗原に「不気味なブログを見つけたからぜひ読んでみてくれ」と言われて、『七篠レン 心の日記』という愛妻日記のブログを読み解いていくのが第一章の内容で、第二章からは様々な人物の視点が入り乱れて展開されていきます。

一見無関係に思える出来事や視点が徐々に繋がっていく。見事な伏線回収と謎解きはもちろん、恐ろしい人間ドラマも読ませてくれるホラーミステリ小説となっております。

 

今ですと、購入者全員サービスで雨穴さんが第一章「風に立つ女の絵」を朗読する特典動画を観ることが出来ます。

最初本が届いたときはどうやったらその特典映像が観られるのか分らず戸惑ったのですが、巻末に印刷されているQRコードスマホで読み込むと視聴出来る。

第一章を丸々朗読する62分間の動画で豪華。雨穴さんのしゃべりは優しくて穏やかなので、BGMやリラックスしたいときにも適しています。因みに、私は2回ほど寝落ちしました。雨穴さんの声には安眠効果がある・・・?

 

第一章の内容は、デモンストレーションとしてチャンネルでも動画が上げられている↓

 


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この動画では、雨穴さんが栗原さんから「学生時代に奇妙なブログを見つけて~」と、当時の話を聞いて、小説での佐々木修平と同じように、雨穴さんがブログの謎解きに挑戦する。

 

今作は10年近く前の物語なので、『変な家』のときのように雨穴さんに該当する「私」は小説に登場しません。それがファンとしては少しガッカリしてしまうところなのですが、こうやって“動画版”も作ってくれるとはなんと親切な。

動画はまた小説とは違って雨穴さんと栗原さんのやり取りが面白いので、本読んでもう内容は知っているよって人も是非観て欲しい。

 

 

で、物語の発端である『七篠レン 心の日記』というブログなのですが、なんと、実在しています。検索するとちゃんと出て来るのですよ↓

 

nanashinoren.blog.jp

 

前作同様、「え!じゃあ実話なの!?」と、なってしまうところですが、もちろん違います。本に合わせての周到な“仕込み”なんですね。

小説を読み終わった後に情報を知ってこのブログも全部読んだのですが、140日分以上の記述があり、本や動画では紹介されていなかった部分にも多数伏線が散りばめられているので唯々感服。なんて徹底した作り込みなのでしょうか。

創作なのは頭では分っているのに、順番にレンの日記を読んでいたら感情移入して悲しくなってしまいましたよ・・・。

 

『変な絵』を題材にした曲も作られています↓

 


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小説執筆、動画制作、ブログの作り込み、作曲・・・・・・雨穴さん、恐るべし。ホント、何者なのでしょうか。

 

 

 

 

 

9枚の絵

前作は3枚の間取り図から謎を追究していく“不動産ミステリ”でしたが、今回は絵の謎をそれぞれに解くと一つの真相に繋がる“スケッチ・ミステリ”。

絵は9枚。

11歳のときに母親を殺害した少女・A子が描画テストで描いた絵、

レンのブログにアップされた5枚の絵、

今野優太という少年が描いた、マンションの一室が灰色で塗りつぶされた絵、

惨殺された美術教師が最期に描いた山並みの絵、

その山並みの絵に似せて描かれた絵

 

これらの絵が“どのような意図で描かれたのか”が解明されると、一人の殺人鬼の犯してきた「罪」が浮かび上がるという物語。

 

 

前作の『変な家』は取材記事風に書かれているものでしたが、今作は小説形式で書かれています。読書慣れてしていない人は前作のようなルポ風の方が読みやすいと感じるかもしれないですが、個人的には小説の文体の方が読みやすい。

 

「絵解き」が取っ掛かりとなって物語が展開されていき、様々な謎が次第に一つに繋がるという表面上の作りは前作を踏襲していますが、小説形式なので人物の心情が分りやすく、前作より読んでいて没入感があります。

 

「前作はルポルタージュ風だったからある種の誤魔化しが出来ただろうが、小説文体だと筆力が露わになるぞ!」なんて、ちょっと意地悪な気持ちと言いますか、「なんだかんだ、普段本読まない人向けでしょ?」など、本好きが満足出来る仕上がりなのか不安を覚える人もいるのではと思いますが(YouTubeで話題になってからの作家デビューでしたからね)、そんな心配はまったく必要ありません。この二作目で作家としての力量が確固として示されたなと。

ホントに、いったい何者なのか。雨穴さんの正体が一番の謎ですね。

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の罪

学生時代の栗原さんが『七篠レン 心の日記』というブログに関心を持ったのは、最新記事として投稿されていた内容があまりに不穏だったから。

 

『一番愛する人へ』 2012・11・28

 

今日で、このブログを更新するのをやめます。

あの3枚の絵の秘密に気づいてしまったからです。

 

あなたがいったいどんな苦しみを背負っていたのか、僕には理解することはできません。

あなたが犯してしまった罪がどれほどのものなのか、僕にはわかりません。

あなたを許すことはできません。それでも、僕はあなたを愛し続けます。

 

レン

 

 

レンの妻・ユキは出産中に命を落してしまったのですが、第一章で栗原さんは「ユキは産婦人科の職員に無理な出産方法を勧められたことで間接的に殺害された。そして、ユキはその企みに気づいていて、ダイイングメッセージとして“だまし絵”を描いた。ユキの死から数年経ち、レンが絵の秘密とユキの死の真相を知った」と、推理しました。

 

しかし、この推理には不可解な点がある。

ユキが企みに気づきながらなおもその産婦人科に通い続け、逃げもせずに“だまし絵”などというまどろっこしい誰に気づいてもらえるかも分らないメッセージを残し、そのまま危険な出産を甘んじて受け入れたのは何故なのか

 

ユキのとった行動はあまりにおかしいですよね。結局、本当に死んでしまった訳ですし。

 

当初、ブログの文面から「罪」を犯したのはユキで、そのせいでこのような事態になったのではと考えられましたが、読み進めていくと、実は罪を犯したのはレン(武司)の母・直美だということが明らかになる。最後に投稿された記事タイトルの『一番愛する人へ』というのは妻ではなく母のことで、この文章は妻を殺害した母へ向けたメッセージなのですね。

 

直美は11歳のときに母親を殺害し、描画テストであの絵を描いた元少女・A子だった。彼女は“弱い生き物を守るためなら、いくらでも外敵を傷つけることのできる人格”であり、母になってからは息子を守る名目で殺人を犯してきた。

 

息子の妻であるユキは外敵ではないが、ユキの妊娠を知って、「ユキのいない世界で、赤ちゃんの母親になりたい」という願望に取り憑かれ、助産師の立場を利用して危険な出産へと導いた。

直美としても気味が悪い願望だと自覚があったので、この計画は失敗する可能性の方が高い、いわば“運試し”的なものでしたが、上手くいってしまったと。

 

母親でいつづけたいがための犯行ですが、普通に考えれば、孫が生まれたって息子を持つ母親なのに変りはないのに何故?って感じですよね。

 

直美にとって、“子供を持った息子”はもう“自分が守るべき弱い生き物”ではないということなのでしょうか。「母親」でいたいというのではなく、弱い生き物を守ることで「愛情と正義感を持っている自分」に酔いしれたいということか。

母親の無償の愛とはほど遠い感情ですね。

 

 

 

 

 

 

 

疑問点・それぞれの理由

本を読み終わっても「ユキが逃げなかった理由」が納得出来ないという人が多いようですが、ユキが逃げなかったのは作中に書かれている説明で十分納得出来ると個人的には思います。

 

直美の計画はあまりに不確定要素が高いものでしたし、ユキとしても「いや、まさかね」程度の不安だったでしょう。口に出して訴えたところで、「頭のおかしい嫁だ」と思われ周りから孤立するのは明白ですし、他に頼れる人もいない。

ユキの立場なら、不安を抱えつつも「これは自分の妄想でしかないはず」と見て見ぬフリをするのは自然なことなのでは。塩のカプセルも直美に疑惑を持ってからは飲むのを止めたでしょうし、まさか死ぬことはないと思っていたのでしょう。

赤ちゃんも殺されそうだってんなら、狂人認定されるのも厭わずに必死で訴え、あてもなく逃げるといった無茶な行動もしたかもしれないですが。

 

 

レンがブログ内で直美の存在を隠していた理由アップした一部を消した理由はハッキリとは分らないんですけど、最期のメッセージにもあったように、母・直美への複雑な感情があったのだと思います。

ひょっとしたら、最初は母親が同居している事実も普通にブログに書いていたのかもしれないですが、真相に気づいて後から母親の存在を一見して分らないように書き直したのかもしれないですね。妻を殺害した人物を、愛妻日記に登場させたくないでしょう。

 

ブログの全部を消さなかった理由については、上記した“実在するブログ”を読めば理由が書いてありますよ。

nanashinoren.blog.jp

 

終盤に登場する栗原さんが足を怪我した理由ですが、これは事件には直接関係ないでしょう。

事件を独自調査していて直美に襲われたのではという面白い考察もあるようですが、考えすぎかなと。直美がそんなことをした記述はないですし。調査中に不注意で怪我したってのがせいぜいで、襲われたってことはないと思いますよ。

 

しかし、あくまで最初の導入部分での役割のみでの登場かと思っていたら、終盤に登場してブログタイトルの謎を解いてくれた栗原さんには痺れました。「栗原さん、キター!!」ってなる。前作より登場シーンは少ないながらも、効果的な演出ですね。

熊井さんに「あんた・・・よくわからんが、すごいな」と言われていたのが“まさに”って感じ。学生時代の栗原さんは今とは雰囲気がちょっと違いまして、青年み溢れていて新鮮。

 

サークルの先輩・佐々木修平は本当に導入部分での役割のみでしたね。

 

 

最期の、「そんな二人の様子を、妻は少し離れた場所から、椅子に座って見守る」という記述に怖い連想をする人もいるようですが、米沢さんの奥さんは末期癌なので、単純に無理せず旦那と子供たちを見守っているだけだと思います。

 

・・・なんか、皆さん、色々疑いすぎぃ!ですね。ミステリとはいえ、もっと素直に読みましょうよ。ここは純粋に子供のことを慮っている描写さ。読み終わってみると「子供」がテーマの作品なんだと分るでしょうに。

 

ま、それだけこの本が読者に思考させる魅力的なホラーミステリだということですかね。

ホラーとしては、岩田さんが殺害されるところがメチャ恐。

美術教師の三浦は、良くも悪くも周りの人々の感情を強く揺さぶる人物だったのだなぁと。最期に山並みの絵を描いた理由が切ないですね。

 

 

動画観て、書籍も二冊買って、私はもうすっかり雨穴さんのファン。小説第三弾も期待しちゃいますね。出たらすぐ、すぐに買いますよ!

 

YouTubeチャンネル含め、雨穴さんオススメですので是非。

 

 

 

ではではまた~

 

 

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