こんばんは、紫栞です。
今回は、雨穴(うけつ)さんの小説作品『変な家』についての感想を少し。
新時代間取り図ミステリ
『変な家』は2021年7月に刊行された長編小説。今現在も売れに売れていまして、
2023年には漫画化、
2024年春にはこの本を原作とした映画が公開予定です。
作者の雨穴さんは2018年から「オモコロ」というWEBメディアでライター、並行してYouTuberとしても活動しているお方。今作が作家デビュー作です。
全身黒タイツに白いお面をかぶった異様な出で立ち。声も加工されていて、素顔・本名・性別すべて非公開の謎だらけの覆面作家。
テレビ東京系ドラマ『何かおかしい』で原案とストーリーテラーもされていたので、詳しくは知らずともこの異様な姿だけは見たことあるという人も多いかと思います。
この『変な家』は元々2020年10月12日に「オモコロ」に投稿された記事が最初で、同年の10月30日にYouTubeで「【不動産ミステリー】変な家」というタイトルで動画が公開されて評判となり、2021年7月に書き下ろし小説で書籍化されたという経緯の作品。
動画はこちらなんですが↓
なんと、2023年6月の現時点で1300万回という脅威の再生数。
動画の内容は、知人から「一軒家を買う決心をし、理想的な物件を見つけたが、間取りに不可解な点があるので購入を迷っている」と相談を受けた雨穴さんが、設計士の栗原さんと共に間取り図を見て会話を繰り広げるうち、とんでもない話へと発展していくというもの。
動画は若干の謎を残しつつもこれだけで完成したお話として観られるものとなっているのですが、書籍はこの動画の続きのストーリーが知れる“完全版”となっています。
上質な無料動画でプレゼンし、客を掴んでから書籍化。今はこうやって本を売る時代なんですね~。
動画を観て気に入った人は「実は続きがあるよ」と言われればそりゃ知りたくなっちゃいますよ。小説版も現時点で60万部突破の大ヒット中です。
『変な家』という本が話題になっていることは何となく知っていたものの、「単に変な物件の間取り図が紹介されている本かな?」と勘違いしてスルーしていたのですが(事故物件ものとか流行っていましたし)、最近雨穴さんのYouTubeチャンネルを観てハマってしまいまして。
最後にゾッとする、作り込まれた日本的オカルトホラーミステリってのが、私の好みのど真ん中なんですよね。あの怖い見た目に反して、優しい喋り方の雨穴さんも良い。
今更ながら詳細を知り、商法に乗せられるのは少し癪ではあるものの、まんまと購入した次第です。
三枚の間取り図
書籍化しました!と、言われて最初に懸念してしまうのが、「続きと言いつつ、内容は動画にちょっと付け足した程度のものなんじゃないの?」ってことじゃないかと思うのですが(私がひねくれているだけかもしれないですが・・・)。
小説版は四章仕立てで、動画での内容は第一章にあたる部分になっています。本は全240ページほどで、第一章はそのうちの40ページほど。つまり、残り200ページは動画の続き部分となっています。動画内容はこの本ではプロローグ、ホントの入り口部分ですね。
動画での考察に毛が生えた程度のものではなく、ちゃんとホラーミステリとして読み応えのある本ですので、動画観ただけで満足せずに是非この小説版まで読んで欲しいところ。
小説版ではYouTubeや「雨穴」という名前は出て来ず、主人公は「著者」「私」と記載されていて、オカルト専門のフリーライターという設定になっています。
あらすじは、
謎の空間、二重扉、窓のない子供部屋――・・・謎だらけの間取り図から、栗原さんと話した恐ろしい仮説を元に「変な家」の記事を書いたところ、宮江柚希という女性から一通のメールが届く。
宮江は「私の主人があの家の住人に殺されたかもしれない」と言い、新たに一枚の間取り図を持って相談に訪れた。謎を追っていくと、今度は片田舎の古民家の間取り図に行着く。そして、ある人物の証言により、三枚の間取り図の謎が一つに繋がり、恐ろしい事実が判明する――
ってなストーリー。
動画の作り同様、章ごとに驚きの仮説・事実が提示され、謎が謎を呼ぶ展開で読者を飽きさせません。
動画同様に、一貫して間取り図での謎解きに特化しているところも良いですね。
240ページほどとはいえ、字が大きめなのとルポルタージュ風に書かれているので一気に読めます。と、いうか、否が応でも一気に読んでしまうといいますか。
真相を早く知りたいけれども、面白いから早々と読み終わっちゃうのが少し勿体なく感じてしまうほどあっという間の読書体験。
普段本を読み慣れていない人にもオススメです。
※以下、ネタバレ含みますので注意~
実話じゃないよ
最初の仮説では、この家は泊めた客を誰にも知られずに殺害し、処分するための「殺し屋一家が作った殺人屋敷」なのでは?というものでした。
その後、同じ一家が建てたものではないかと思われる殺人屋敷の間取り図が出され、そもそもの殺人屋敷のルーツを探っていくうちに2006年に古民家で起こった事件へと繋がり、とある一族の『左手供養』たる儀式殺人へと物語は帰結する。
“殺しを仕事として請け負う”という裏社会的で殺伐とした話から、“古くからの因習による儀式殺人”という、なんともねっとりとしたオドロオドロシイ「家」の話へと繋がっていくのは意外な展開で、予想を裏切られます。
でも、雨穴さんの他のミステリ動画を観ると、こういった因習やら儀式を盛込んだものが多いので、斬新な切り口でありながら実は古典的日本ホラーってのが、作者である雨穴さんの根っからの好みなのかもしれません。私も好み。
間取り図始め、『左手供養』の儀式内容、家系図など、非常に詳細に書かれていてリアリティがあるので、実話なのではないかと思う人が結構いるようですが、この物語は当然ながらフィクションです。
上記したようにルポルタージュ風に書かれていて、実際の取材記事かのようですが、これはあくまで創作の小説。実話ではありません。
“まるで実話”風に描かれている、いわゆる「モキュメンタリー」ってやつですね。小野不由美さんの『残穢』などもこの手法で書かれていました。
やはりホラーは「実話なんじゃない?」と思わせるのが演出としては効果的なんですよね。
『変な家』の場合は幽霊などが登場しない、あくまで人が起す事件の謎解きものなのですけど、心霊現象が関わっていないぶん、底知れない人間の恐ろしさにゾッとするホラーとなっている。
冷静に考えると、いくら資金があるとはいえ、たかが数年、年に一回殺人をするためだけに一軒家を建てるなんてかなり荒唐無稽なんですけど。しかも二軒も。(ま、いずれも見せかけなんだけど・・・)
どこぞで遺体を調達してくるってサラッと説明されているけど、実際はかなり大変よね。最初はバラバラにしないといけなかったし。
ま、このあまりにも手が込んでいるところがまた怖さに繋がっているのですがね。
しかしながら、一族の因縁話や儀式の『左手供養』などは、元にしているものがあるのではないかと思いますね。各地方で伝わる因習・儀式の要素を色々ミックスしているんじゃないかなと。
『左手供養』って、如何にも“ありそう”ですよねぇ。民俗学に詳しい人は元ネタがわかるのかも。
後日談・憶測
雨穴さんのYouTubeチャンネルのファンなら皆が好きであろう、知人の設計士・栗原さんはこの本でも謎解き役として期待通りの大活躍をしてくれています。栗原宅も出て来るし、容姿の説明もあるし、栗原さんファンは必見です。
漫画版のキャラクター像とはまたちょっと違う感じなんですよね~。
雨穴さんが性別非公開なので、漫画版の「私」は中性的に描かれています。「私」も、実際の雨穴さんも、おそらく性別は男だろうと思うのですが。
小説版ですと、栗原さんは女性を家に招くのを躊躇していますけど、「私」のことは普通に招いていますし。
はて、やはり栗原さん、小説でも最後にダメ押しの恐ろしい「憶測」を披露しています。いつもながら飛躍した妄想ではあるのですが、綺麗に辻褄が合ってしまうのですよねぇ。
最後の三人の死亡について、黒幕とみられる人物が殺害したのかとの意見もあるようですが、個人的にはあれは報道された内容の通りなんじゃないかと思いますね。黒幕が今までしてきた手口からして、直接手を下すのではなく、そうなるよう誘導したって方が自然な気がする。
動画にあった浴室が奥にある理由、「ハンターの心理云々~」に関しては、小説版だと省かれていましたね。確かに、あの部分の説明は釈然としない感があった。
動画の最後で言及されていた「寝室の窓」は、小説版でもハッキリとした理由は書かれていないのですが、多分侵入者が来たらすぐ分るように見張るためについていたのだと思います。
あの寝室は夫の寝室として設けていたと作中で説明されていました。あの寝室の窓からなら一階をすべて見渡すことが出来るので、そうやって見張ることで二階にいる家族達を夫が守っていたのですね。
このような疑問に加え、話はかなり入り組んでいて、途中語られる家系図もややこしくこんがらがるので、繰り返し読むとその度に発見があって良いのかも。
漫画や映画で映像化されれば分りやすさが増すのかも知れないですね。しかし映画、どんなキャスティングするのか予想つかなくって楽しみ・・・。
※詳細発表されました!こちら↓
観てきました!詳しくはこちら↓
この本と同時に、二作目の『変な絵』も購入して読んだので、こちらもまた感想を書きたいと思います。
※書きました!こちら↓
※2023年に『変な家2 11の間取り図』も刊行されました!
書籍だけでなく、雨穴さんのYouTubeもオススメなので是非。ホラーミステリ好きで観ていない人は損してると思いますよ。なんせ無料なんですから。
ではではまた~