こんばんは、紫栞です。
今回は、雨穴さんの『変な家2 11の間取り図』の感想を少し。
間取り図ミステリー第2弾
『変な家2 11の間取り図』は2023年12月に刊行された長編小説。
タイトルの通り、ウェブライターでYouTuberである雨穴(うけつ)さんが2021年に刊行した作家デビュー作『変な家』の第2弾。
※第1弾の『変な家』について、詳しくはこちら↓
“フリーライターの「筆者」と設計士・栗原のコンビが、新たな謎に挑む間取り図ミステリー第2弾”
です。
“間取り図ミステリー”は第2弾ですが、2022年に『変な絵』を刊行しているので、雨穴さんの長編小説作としては三作目。
二作目の『変な絵』は若かりし頃の栗原さんが出て来るものの「著者」が出て来ない小説作品でしたが、
今作は上記した謳い文句にあるように、「著者」が取材したものですという“テイ”で書かれているルポルタージュ風。「実話ですよ」と装ったモキュメンタリーもの。雨穴さんにあたる「著者」と栗原さんのコンビをまた堪能出来る御本という訳です。
二作目でルポ風ではない小説を出したので、一作目のような本をまた書くのかどうかは微妙なところかなと思っていたのですが、『変な絵』は本の刊行前に出されたYouTube動画が再生回数1500万回突破(※2023年12月時点)、書籍と漫画がヒットし、世界9カ国での翻訳決定、2024年3月に映画が劇場公開・・・・・・と、華々しい旋風を巻き起こしておりますので、続編が出るのは必然でしょうかね。
雨穴さんにハマったものの動画は全部観ちゃったし、書籍も二冊すぐ読んじゃったしで飢餓状態だったので、新刊の通知が来た瞬間にすぐ予約してしまいました。
続編が出たとなると、シリーズ名がちょっと気になるところですね。【間取り図ミステリーシリーズ】とでもするのか?でもそれだと間取り図縛りになってしまうし・・・。二作目の『変な絵』もひっくるめて【“変”シリーズ】とでもするのか。
個人的にはルポ風より小説文体の方がやはり読み応えを感じるので、『変な絵』風味の作品もまた出して欲しいですけど。
11枚もある!
今回のタイトル見てまず驚くのは間取り図が11枚もあるってところですよね。
設定・あらすじは、
『変な家』の刊行から二年。本は反響を呼び、著者のもとには「家」に関する数々の情報が寄せられるようになった。この本では数あるものの中から11軒に関する調査資料を収録。一見、無関係に思えるこれらの資料には“ある共通点”がある。その先にあるとんでもない真相とは?
と、いったもの。
前半で11の資料、
①行先のない廊下
②闇をはぐくむ家
③林の中の水車小屋
④ネズミ捕りの家
⑤そこにあった事故物件
⑥再生の館
⑦おじさんの家
⑧部屋をつなぐ糸電話
⑨殺人現場へ向かう足音
⑩逃げられないアパート
⑪一度だけ現われた部屋
が、紹介された後、「著者」がこの資料を持って設計士・栗原さんのもとへ相談に行き、栗原さんが11の資料から導き出した推理が展開されるといった構成。
資料・間取り図が11もあるのでページ数は今までで最長の400ページ以上。栗原さんは140ページほどお喋りしてくれています。
第一弾の『変な家』より200ページほど違うし、本を見るとかなりのボリュームに感じる方もいらっしゃるでしょうが、ルポ風で図解がとにかく一杯出て来るので、本来の400ページ越え小説とは読書感覚は全く違います。あっという間に読めますよ。
と、いうか、一気に読んだ方が良いのですよね。資料が11もあるので、各資料内容を忘れないうちに読み進めないと栗原さんの推理を読んでいても「えーと、何だっけ?」ってなる。
ま、推理中も図やまとめレポートで解りやすく示してくれる親切さなので大丈夫は大丈夫なのですけど。
数日かけてコツコツ読むよりは、その日のうちに読み切ってしまうことがオススメの一気読み推奨本です。
前二作では物語のプロローグにあたる内容の動画を雨穴さんのYouTubeで出してくれていたので、今回も動画出してくれるかな~と思っていたら、期待を裏切らずに出してくださいました。流石雨穴さん。
『変な家2』YouTubeバージョン↓
本とは結構違いがありますね。
新聞記事の内容が変更されていて「おや?」となりました。YouTubeバージョンの方がお話としては自然になっているかと。本ですとあくまでアクシデントってな内容なので、建設会社の評判が落ちて持ち直すのに苦労したとか違和感があった。
動画での雨穴さんと栗原さんのやり取りはやはり面白いですね。本を既に読んだ人も、これから読む人にもオススメの動画です。
家の話
「家」にまつわる物語ということで、今作もやはり「家」という建造物から明らかになる「家族」の物語となっています。
心霊現象はありませんが、11の資料・間取り図から導き出される真相はおぞましく、間違いなくホラーな内容。
上記した11の資料が作中では順番に紹介されていくのですけれども、ただの資料の羅列でなく、資料ごとに前段階の“オチ”が用意されているので読み飽きないです。「ひょっとしてこういうことだったのではないか?」という、空恐ろしくなるような、悪意が見え隠れする「憶測」が各資料の最後で提示されるのですが、どうも腑に落ちない。
“この11個、どこかしらにつながりを感じるんですけど、それが具体的にどういうつながりなのか推理できなくて。それでまた、栗原さんの力を借りようと思ったんです。”
11の「腑に落ちない憶測」が、終盤の「栗原の推理」で一つ一つ吟味されて、繋がっていき、当初の憶測以上のおぞましい事実が明らかにされていく。
11の資料・間取り図・憶測ですからね。そりゃあ栗原さんも140ページしゃべり続けることになりますわって感じ。
「著者」が言うように、繋がりに関しては資料を読んでいるとボンヤリと察することが出来るようになっています。でも詰め切れてなくってモヤモヤする。
そのモヤモヤを終盤で綺麗にしてくれるといった印象で、予想もつかないところからバーン!と来る衝撃の真相!!ってよりは、「あ~そういうことか~!」と、パズルをはめてくような、頭の中が整理されていく感覚のミステリーですね。
不自然さ
第1弾の『変な家』は面白いものの荒唐無稽なのは否めないものでした。そこらへんが受け入れられなくって「つまらない」となる人もいたかと思いますが、今作は第1弾と比べると荒唐無稽さは薄いので受け入れやすい推理と真相になっているかと。
しかし、資料の集まり方に関しては無理矢理感がやっぱりありますね。
虐待されていた男の子の手記とか、1940年出版の紀行文集とか、読んでみるまで分らないのにどう関連付けて入手したんだよってなりますし、「ネズミ捕りの家」や「逃げられないアパート」は、もはや建造物の問題とは違うだろうって思う。相談の過程もなんだか納得出来ない。「80年前に私の家の建っている土地に死体があったらしい」とか、「そりゃどの土地だって大昔まで遡りゃあ人死んでるわいな」ってなる。
最も不自然なのが、「著者」がある人物の伴侶の名前を調べないところですね。普通、すぐ調べるだろうに・・・。
しかし気になる点はあれど、11の間取り図を使い、確りとすべてに意味を持たせてホラーミステリーとして仕上げる手腕はやはりお見事。
雨穴さんらしいどんでん返しもあり、最後の1ページ目まで飽きることなく楽しませてくれます。やるせないラストも良い。
途中語られる真相は本当におぞましかった・・・。特に、“糸電話”の真相はドン引きしました。私が当事者だったら死ぬまで知りたくない。ホントに、ホントに最低な男だ。
後、367ページに誤植がありますね。重要な箇所なので出版社の方に指摘が多数いっているのではないかと。推理に関わる箇所なのでこの間違いは読んでいて残念。次の版から直されますかね。
今後も、動画・書籍ともに、雨穴さんの作品に注目していきたいと思います。
ではではまた~