こんばんは、紫栞です。
先月、AIを活用して制作した『ブラック・ジャック』の新作を今秋に公開するというニュースが舞い込んで参りました。
超名作漫画作品『ブラック・ジャック』をAIに学習させ、亡き手塚治虫の代わりに新作を作ろうという訳です。
何とも今どきな企画ですが、この企画には前身となるものがあります。2019年に立ち上げられたキオクシアによる“人工知能を使って手塚治虫の新作漫画を制作する”「TEZUKA2020」プロジェクトですね。実際にこのプロジェクトによって2020年に『ぱいどん』という漫画が完成して発表されました。
3年の時を経て、そのプロジェクトの第二弾が始動したってことです。
正直なところ、「プロジェクトまだ続ける気があったのか」というのがニュースを聞いた時の率直な感想。2019年にプロジェクトが発表されたときも、最初こそ各メディアで騒がれましたが、肝心の漫画が雑誌に掲載されるころにはまったく話題になってなかった気が。
プロジェクトに協力した手塚治虫の息子さんで映画監督の手塚眞さんは「好意的に受け入れられた」と仰っているので、話題になっているところではなっていたのかも知れないですが。私が知らないだけで。
そんなわけで、今回のニュースを見るまで前回のプロジェクトのことすっかり忘れていたんですけど、「結局『ぱいどん』ってどんな仕上がりの漫画だったのかな~」と、気になって調べてみたら、今は公式サイトで無料観覧出来るとのことで読んでみました。↓
漫画の舞台は2030年の東京。デジタル化が進んだ近未来で、「ぱいどん」という謎のホームレスの青年が、失踪した学者の父を探して欲しいという姉妹の依頼を受けて事件解決に乗り出すというストーリー。
全43ページで、前後編に分けて講談社の漫画雑誌「モーニング」に掲載されました。
で、読んだ感想ですが・・・・・・面白くない。
確かに“手塚治虫っぽさ”はあるのですが、言ってみれば“それだけ”。
AI手塚ってことで読む前から比べてしまうというので、まっさらな気持ちでこの作品に向きあうのは土台無理なのでしょうが(手塚治虫作品をまったく読んだことがない人なら真摯に向き合えるでしょうけど)、それを踏まえてみても単純に作品として面白くない。
なんというか、全体的にのっぺりしていて強弱がないといいますか。ちゃんと起承転結はありますが、どうも「ふーん」って感じにサラッと読んでしまって印象に残らない。絵は綺麗ですが、線がお上品なせいなのか、画面から読ませようという気概が伝わってこず、演出が乏しいため、キャラクターの心情も作品のテーマもよく分らない。
思わせぶりな設定や描写は投げっぱなしで、唐突なギャグやヒョウタンツギもとってつけたような違和感がある。
“手塚漫画らしい”ものを散りばめているだけに見えるんですね。
シリーズものの第一話なら良いですが、読み切り作品でこれではダメだろうと思う。あくまで短編として単体で完成しているものでないと。
手塚作品は連載期間の都合や、実験的な試みのものも多くて、完成度が低い作品も多々あるのですが、作品のテーマは明確で、破綻していたとしても「なにを描きたいのか」作者の意図は読んでいて伝わる。
キャラクター漫画よりもストーリー漫画に重きを置いている作家で、特に短編だと省略の上手さ、抜群の構成力が発揮されていました。
手塚治虫なら単発読み切りでこんな無駄で思わせぶりな設定や描写は描かなかっただろうし、これぐらいの内容なら半分の20ページで仕上げることが出来ていたでしょう。
・・・・・・なんて、既に故人の手塚治虫と比べたってしょうがないのですが。
しかしながら、この『ぱいどん』制作の内情はとてもAI手塚が制作したといえるものではなかったようです。
実際のところ、AIがしたのはプロット制作とキャラクターデザインのみで、他は手塚眞さんや手塚プロの方々、人間の手で行なわれている。しかも、そのプロットも手塚眞さんが「面白くない」と、ことごとく却下したらしいですし。これも面白くないけど・・・。
面白くないのはAIのせいではなくって、チョイスした人間のセンスってことでしょうか。おそらく手塚治虫オタクの漫画家に描かせた方がずっと手間がかからないし、再現度も完成度も高められるのでしょうが、AI研究としてあえてずっと時間と手間がかかることに取り組んでいるのでしょう。
発売されている書籍の方では制作過程の詳細と、40年前に手塚治虫が描いたAI関連作品「サスピンション」の「ハエたたき」が収録されています。レビュー見ると、この巻末漫画の方が読めて喜んでいる人の方が多そう。
はて、そんな『ぱいどん』から3年。デジタル技術は猛烈なスピードで発展しました。
なので、プロジェクト第二弾ではもっとAIを大幅に活用させた制作が可能になるのではないかと思いますが・・・どうなのでしょうね?
今回も漫画『ブラック・ジャック』をAIに学習させてってことのようですが、漫画を学習させるだけじゃ手塚治虫の作家性には迫れないのではないかって気がするんですけど。あの作家性はやっぱり戦争体験が根底にあるだろうし、手塚治虫自身が常に他の創作物や最新ニュースを取り込んで作品制作をしていましたからね。漫画だけではなくって、人物自体、人格の再現をAIにさせないとダメなんじゃ。
個人的には、『ブラック・ジャック』の新作と銘打ってAIに制作させるのはあまり好意的には受け取れないですね。
どうしても「手間がかかっているモノマネ」感が拭えないだろうし、そもそも手塚治虫が描いてるんじゃないから“新作”じゃないし。“『ブラック・ジャック』の新作!”って触れ込みはやめて欲しいところ。
『ブラック・ジャック』の連載50周年記念でってことですが、ファン的にはもっと別の企画の方が嬉しかったなぁ。未収録作品が読めるとかの方がずっと嬉しい。
ま、色々思うところはありますが、今後の推移を見守りたいと思います。
ではではまた~